852 天使臨時会議と工数
1年10月24日
今は昼食を摂り、業務用プライベートエリアの会議場にいる。
まだ、時間になっていないけど、僕達が来た頃には既に天使の幹部が全員揃っていた。
近くの席の子とお喋りしていたみたいだけど、僕達が入って来るとシーンと静まり返った。
……いや、まだ時間になっていないからお喋りしていて良いんだけどなぁ。
「それじゃ、まだ開始時刻にはなっていないけど、全員、揃っているから臨時会議を始めるね」
一同、拍手~!本当にありがてぇ。
「まずは、皆、休日にも関わらず、わざわざ集まってくれてありがとう。僕の都合で集まってもらってゴメン。それから先日は僕の事を邪神から救ってくれて本当にありがとう」
ん?リップルが手を挙げている。やっぱり怒られるかな?
「はい。リップルどうぞ」
「はーい!天使幹部を代表して発言しますね。ナビィ先輩から事情は聞いています。この会議の緊急性はよく理解しています。ですので何の問題もありません。謝罪は不要です。それでは念の為に確認しましょ~!リップルの意見に異議はありますか?」
「「「「「異議なーし!」」」」」
「異議なしと認めます!マスター、そういう事です。それと先日の件ですが、マスターのお役に立てて大変、光栄に思います。また、メールもありがとうございました。とっても嬉しかったです!それじゃ今度は同じ気持ちの天使は拍手~!」
お、おぉ~!リップルを除く天使の幹部全員が拍手をしてくれた。良い部下だわ。涙出てきそう。
「うん。みんなー!ありがとー!それからマスター。我々もマスターに申し上げたい事があったので、臨時で会議を開いていただきありがとうございまーす!」
お?何だろう?何か問題とかがあったのかな?
「ん?何か問題事かな?何でも言ってね」
「いえいえ、問題は何もありません。ご安心ください。これを早く言いたくてですね。次の会議はまだか、まだかと待ちわびていました。マスター!世界神と色欲の神への就任おめでとうございます!」
「「「「「おめでとうございます!」」」」」
「お、おぉ。皆、ありがとう。これからもよろしくね」
「「「「「はい!」」」」」
いやぁ~あったけぇなぁ。流石は天使。マジ天使だわ。
「マスター、こちらこそよろしくお願い致します!我々からは以上です!それでは早速、天使を増やして行きましょう!」
天使の幹部一同が拍手をしてくれた。
「皆、ありがとう!リップルもありがとう。それではまずは司令官の2人から生み出すね」
「それじゃ光一さん、画面に歌織隊の制服を表示するわね」
「ありがとう」
イメージ、イメージっと。
「画面に表示されている茶系の色の制服を着た、茶色の髪と瞳で可愛い18歳程度の女の子!」
おっ!……おぉ!イメージ通りの可愛い女の子が現れた。
「……マスター、ナビィ先輩から色々と教えてもらいました。私は歌織ですね?名前の意味も含め、良い名前だと思います。ありがとうございます。司令官として頑張らせていただきますので、よろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくね。それじゃ悪いけど席に座って待っていてよ」
「はい。ありがとうございます。失礼致します」
歌織は敬礼すると壇上から降りて、空いている席に座った。
「光一さん、次は咲織隊の制服を画面に表示するわ」
「うん、イブありがとう」
イメージをしてっと……。
「画面に表示されている緑色の制服を着た、緑色の髪と瞳で可愛い18歳程度の女の子!」
おぉ!……お~!今度もイメージ通りの可愛い女の子が現れた。
「…………マスター。ナビィ先輩から情報を共有していただきました。私は咲織ですね?名前の意味も含め、非常に気に入りました。良い名前をありがとうございます。司令官として頑張らせていただきます。よろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくね~。それじゃ悪いけど空いている席に座って待っていてよ」
「はい。承知しました。それでは失礼致します」
咲織は敬礼をすると壇上から降りて、空いている席に座った。
「あのぉ……ところで充電道路の工事は、結婚式までに完了する?」
「光一さん、それなんだけど……ナビィ達は話し合った結果、結婚式の前日にギリギリ終わるかな…?という感じで、終わると断定出来ないというのが正直なところなの」
う~ん。どうしようかな。結婚式でのアピールにこだわる必要はないか。取り組んでいます程度でも十分かな?
おっ?リップルが手を挙げた。
「リップル、どうかした?」
「我々、幹部でも議論しまーす。ナビィ先輩、建設計画があれば出来るだけ詳細に教えてください!」
「分かったわ。チョット待ってね………………これでどう?」
「情報ありがとうございまーす!マスター、少々お待ちください。現場の事は我々の方が詳しいですから」
「うん、了解。皆、よろしくね」
「我々の目の前にあるノートパソコンは自由にイジっても大丈夫でしょーか?」
「イブ、問題ない?」
「え、えぇ。問題ないわ。特に操作ログ監視もしていないし……ただ、目的を教えてもらえるかしら?」
「天使の空間にあるチャットサーバにアクセスして、チャットツールを使いたいんです。その為に仮想ネットワークインターフェースを追加して、チャチャッと設定をしようと思っていまーす!設定は40秒あれば十分でーす」
マジで!?……1分もかからないの!?流石は天使だわ。
「わ、分かったわ。議論よろしくね」
「はーい。我々にお任せください!」
リップルが返事をすると、天使の幹部全員が一斉にキーボードを打ち始めた。うわぁ~スゲェ。
~約15分後~
「……マスター、お待たせ致しました~!まず、グループ毎に議論を行い、次にグループの代表がグループでの議論を元に、代表同士で議論をしました。結論を申し上げます!間に合いません!」
「やっぱり?まぁそれはそれで良いや。結婚式までに間に合わせて自慢するのが主な目的ではないから」
「いーえ、マスター!この計画は間に合わせるべきものです!それも工事の完了が結婚式の前日では遅いです!結婚式は11月11日。11月7日には終わらせるべきでーす!更に言うと大和王国本体だけではダメダメです。トラバント地方も含めるべきです!」
「理由を聞かせてもらっても良いかな?」
「はーい!披露宴でのマスターの数々の成果のアピール。これは非常に重要な事だと我々は考えていまーす!地球から多数の……それも、様々な職業のお客様が来られます。マスターの結婚相手の為にも、所詮は後進国だとナメられてはいけません!むしろ高く評価されるべきだと我々は考えましたー!」
まぁ、確かにな。地球でもナメられないように、高度な技術力をアピールしたり、色々と活動をしている。
この世界では、リニアモーターカーや、ハイパーループ、自動運転の電車やタクシーがある。
しかし、今一つ足りない気がする。環境問題対策でも何か成果がほしい。
妻の為にも株を上げておいて損はない。妻の親御さんに一目置かれる存在。信頼してもらえる存在でありたいとは思う。
しかしなぁ……間に合わない。必要な工数が分かれば良いが、判断材料が少なすぎる。どうする?
「良いですか?マスター?大和王国の本体だけでは不完全です!中途半端です!トラバント地方も含めてこそ、はじめて大和王国の成果として言うことが出来るのです!」
それも確かにそうなんだけどね……中途半端なのはよく分かる。
例えば「我が国は全て充電道路であり、トラックを含め全て電気自動車です!」って言いたいよなぁ。
「そして、結婚式の前日で駄目な理由は3つあります!1つ目は予備日でーす。何らかのトラブルが発生して、間に合わないという事を避ける為です。2つ目は心の余裕です。工事をする側としては、予備日があるのとないのとでは、大きな差があります。3つ目はカッコ悪いからでーす!お客様から「いつ完成したの?」と聞かれた際に、「結婚式の前日です」では結婚式に間に合わせた事が明白でカッコ悪いです!」
まぁねぇ……これもよく分かる。特に3つ目は最悪の場合、逆効果だ。環境負荷の削減が主な目的なのに、自慢が主な目的だと思われてしまう。株を上げるどころか下げる事になりかねない。
「そこで我々から提案がありまーす!」
「提案?」
「はい!結婚式までの2回分の定例会議を無しにしてください。何か問題等がありましたら上司かマスターに、ご報告やご相談をさせていただきます。その代わり、毎週金曜日は全天使が働きます。週に3日休みがあれば十分でーす!」
「分かった」
「これまで通り火曜日と金曜日を除き、リップルの1部隊は他の仕事を優先するという事で問題ありません!軍事作戦も予定通りで構いません。ただ、一点だけ確認をさせてくださーい。軍事作戦は金曜日も働くようにしても作戦終了予定日が変わる事はありませんかー?」
「そうね。申し訳ないけど作戦終了予定日は変わらないわね。ただ、軍としては金曜日も天使がいてくれると大変、助かるわ」
「了解でーす!作戦に参加している部隊の幹部から事情は聞いていたので、問題ありません。我々の認識の通りでーす。マスター、工数とか人日は分かりますかー?」
「もちろん分かるよ。工数はプロジェクトの作業量のことだよね?そして人日は、1人でこなすと1日かかる作業量を1人日と言うんだよね?例えば5人日なら、1人で作業した場合に5日必要な作業量を表す。実際はそんな単純ではないと思うけど、工数の計算では5人の作業者がいれば、5人日の作業量は1日で終わるね」
「流石はマスターです!まずは、港浜国際総合競技場とその関連工事です!当初の予定では、軍事作戦組の2万人を除いた48万人で6日。そして、軍事作戦組が合流して50万人で4日の予定でした。前者の期間は48万人に6日をかけ算した288万人日。後者は200万人日。したがって工数は488万人日でしたー。この数字を覚えておいてくださーい」
「488万人日だね?了解」
「計画変更案はこうです。軍事作戦組を除いた48万人で6日。これは変わりません。30日の金曜日は全天使が働きます。つまり、軍事作戦組の2万人を除いた98万人が1日追加で働きます。そして、軍事作戦組が合流して50万人で3日の予定にしました。したがって、変更無しの288万人日。金曜日の98万人日。50万人で3日の150万人日。合計すると536万人日の工数になりまーす!」
「かなり増えたね?」
「はい!計画変更前から48万人日増えました~!つまり、軍事作戦組を除いた48万人の1日分、多いですね。我々はこの1日分の余裕があれば十分だと考えましたー!当初の予定では港浜国際総合競技場関連の工事は、11月7日の夕方に終わる予定でしたが、11月5日の夕方に変更になりました!」
「早めた上に余裕を持たせたと……?」
「その通りでーす!次に充電道路計画についてです。先に結論を申し上げます。天使を400万人に増やす予定を変更し、600万人まで増やしてくださーい!」
「お、おぅ……つ、続けて」
「当初の予定では、軍事作戦と競技場関連工事組を除いた150万人で9日。そして、軍事作戦と競技場関連工事が終了後、200人で2日でした。前者の期間は150万人に9日をかけ算した1,350万人日。後者の期間は400万人日。したがって工数は1,750万人日でしたー」
「1,750万人日ね?」
「次にトラバント地方を含まない計画で考えた案です。150万人は8日。30日の金曜日は同じく軍事作戦と競技場関連工事組を除いた350万人。11月6日の金曜日は、軍事作戦と競技場関連工事が終わっている為、合流して400万人。そして11月7日の月曜日は200万人。工数は2,150万人。つまり、当初の案より400万人日多いです。11月6日の金曜日分、多いんですね。ちなみに、工事の日数は変わりません。当初の予定では11月10日に終わるとされていましたが、残念ながら終わりません。しかし、この案なら終わる上、11月7日に工事が完了します」
「400万人日かぁ……その差は大きいね」
「はい!人員の多い大規模プロジェクトです。それだけ何らかのトラブルが発生する可能性も高くなります。例えば作業遅れですね。更にリップルの1部隊は他の仕事を優先するという事もあります。余裕のないスケジュールではダメダメです。そもそも工数管理で余裕のないスケジュールは失敗します。今回は先程、申し上げた理由により、特にそうです!そういう事ですので、かなり余裕を持たせていまーす」
まぁ確かにね。人間の場合は人によってスキルが異なる。だから1日の作業量も人によって異なる。
更に雑務の時間も考慮しなければならない。そして、増員も問題だ。特にちょこちょこ増員するのは最悪。
単純計算では作業効率が上がる様に思えるけど、実際は追加された人員に作業内容や進捗状況、作業手順の共有をしなければならない。つまり、既存メンバーの手も止まる。
そして、人間はミスをする。工数管理自体を含めてね。何らかのトラブルは発生すると思っておいた方が良い。
これらの理由から、スケジュールに余裕を持たせておくべきだと理解している。
しかし、天使は優秀だから、人間と違いスキルの差や情報共有の問題はないと認識している。
だけど天使も何らかのトラブルが発生する可能性はあるよね。
先日、僕が身体を乗っ取られたのもそうだし、リップルの言うように人員の多い大規模プロジェクトだから、中々、予想通りとは行かずに遅れる可能性もあるよね。
ナビィが「結婚式の前日にギリギリ終わるかな…?という感じで、終わると断定出来ない」と言ったのも分かる。
スケジュールに余裕がないから、ギリギリ間に合うかもしれないとしか言えないわな。かと言ってナビィ的には安易に天使を増やしたくないし、部下に対して無理は言えない。
一方、天使幹部で議論した結果、「間に合わない」と断言したリップルも分かる。
最初から余裕のない「かもしれない」スケジュールでは駄目。それでは、絶対に間に合わせる為にはどうするか?一時的に週3日勤務体制にして、スケジュールを調整する等、幹部だけど現場側の天使だからこそ提案する事が出来る。
「……ター。マスター。大丈夫ですかー?」
「おっおぉ。大丈夫だよ。ゴメン、少し考え事をしていたんだ」
「何か気になる点、問題点がありましたか?考え事を邪魔してしまいましたか?」
「いや、特に問題等はないし、考え事の邪魔を心配する必要はないよ。ただ単に工数管理の重要性を思い出していたところ。後は……我々から無理を言うわけには行かないけど、こうして色々と考えて提案してくれるのはありがたいなと思っていたところだね」
「そうでしたかー。確かに無理を言われるのは困ります。ですが、マスター。もっと我々を頼ってください!我々にも相談してください!我々も何かありましたら、相談しますから。もっと議論しましょ~!その為の会議ではないですかー!」
「うん、そうだね。ありがとう。今後ともよろしくね」
「はーい!それでは最終案の説明をしても良いですか?」
「うん、お願いするよ」
「了解でーす!トラバント地方を含んだ案の日程は、先程の案と同じです。違いは天使が200万人増えた事により、100万から200万人、1日の人数が増えている事だけです。数字を細かく説明しますか?それとも省略して工数だけを発表しましょうか?」
「あー、そうだね。省略して良いよ」
「わっかりましたー!参考までに、トラバント地方を含まない案の工数は2,150万人日です。これを覚えておいてください」
「了解」
「トラバント地方を含み、天使を200万人増やす案の工数は3,450万人日です!トラバント地方を含まない案から1,300万人日増えました~!ちなみに初期案の工数は1,750人日ですので、そこから1,700万人日増えています!もちろん、かなり余裕を持たせているので、11月7日には確実に工事が完了致します!」
「トラバント地方も結構、大きいからね。それだけの工数が必要なのも分かるよ。分かった。天使を600万人まで増やそうと思う」
「ありがとうございまーす!」
「いや、こちらこそありがとうだよ。ところでどうして金曜日に全天使が働いて、逆に火曜日は全天使がお休みなのかな?」
週に3日働くのなら、日、月、火と水、木、金で良いと思うんだけどな。
「あー。それですか。単純な理由ですよ~。天使の幹部全員が集まってですね?部下の天使を結婚式の当日、どこにどう配置するか、話し合いたいからです。今の所、今回、100万人から600万人まで天使を増やすという事で、各会場で人員を6倍に増やそうと思っていまーす」
「そっか。休みの日にも関わらずありがとうね」
「いえいえ~。我々も楽しんでやっているのでお気になさらずにです!」
「分かった。それじゃ生み出す天使の名前を考えさせてもらっても良いかな?」
「はい!リップルからは以上なので、大丈夫です!我々の事は気にせずにゆっくりと考えてくださーい!」
「ありがとう。そうするよ」
僕はそう言うと真剣に名前を考え始めた。さてマジでどうするかなぁ……。





