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光と闇 〜終わりの始まり〜  作者: シラス王
幼き日々
6/33

幼き日々5

ユナの勉強が始まってはや1ヶ月…ユナは今にも死にそうである。


「むりー…」


朝早くから夜遅く迄勉強漬けの為だ。なので、今はアシリカの部屋で大きなぬいぐるみに寄り掛かって休んでいる。別に教師達が無能だったりするのでは無い。此れでも減らしてる方なのだ。

しかしながら、此の世界の歴史は長いし、面倒臭い礼儀作法だらけ、国の数は軽く100を超えてる。

と言うのも、此の世界は四つの離れた大陸と無数の島で構成されており、四つの離れた大陸に其々の種族がいる。


人族(人類)、亜人族(エルフ、獣人、ドワーフなどが最たる例)、魔族(魔力が非常に多い)、モンスターだ。


では何故教会に亜人族や魔族が居たのかと言うと、別に人族の大陸に亜人族が居ない訳では無いからだ。だから、亜人族の大陸にも人族や魔族、モンスターが居る。他も同様だ。

だが、其々の種族は多種族にとても差別的なので、どんな扱いを受けてるかは、想像に難く無い。

勿論、そんな扱いをしない者も居るのだが。


「絶対に勇者に関係のない事もあるじゃん…まあ確かに?お兄ちゃんに教えられた事も沢山あるけど…」

「まあまあユナさん。仕方の無い事だよ」

「いーやーだー!!もう勉強なんかしたく無い!」


そうやって駄々を捏ねる割には宿題等は済まして来てるので、何方かと言うと愚痴をこぼしに来たのだろう。

そんな中、教師達はと言うと…


「…ねえ…あの子如何なってるの?」

「如何…とは?」

「幾ら何でも理解までのスピードが早過ぎるわ。たった1ヶ月でもうここまでの知識を得てるわよ?」


話してるのは、1人の女性と初老の男性、そして爽やかな青年だ。


「…其れは確かに変だな。勇者の力か?」

「本人に聞いて見た所、兄から教わったものが沢山あるとか」

「兄?」

「火事で焼死した様です」

「…お気の毒にな」

「けど、魔法や接近戦は如何なんですかね」

「分かりません。まだ一度も実践した事が無いので…」

「ならば今日実践させて見なさい」

「分かりました」


如何やら、教師達も此処迄早く習得するとは思ってなかった様だ。


「とは言っても、面白半分で出した宿題を全部やっちゃうなんて…」


何と言う女教師か。


「お前なぁ…少しは勇者様の事考えろ」


青年が呆れ顔で呆れながら女教師に指摘した。十数分後…


「勇者様。訓練場に御案内します」


メイドの1人が呼びに来た。


「訓練場?勉強じゃ無いんですか?」

「はい。訓練場にいらして下さいと」

「分かりました。またねアシリカちゃん」

「うん」


メイドに黙って付いて行くこと数分。大聖堂内の訓練場に着いた。


「先生。なんで今日は訓練場なんですか?」


訓練場の前に立ってた女教師にユナはそう尋ねた。


「今日は勇者様のお力の程を測ろうと思いまして」

「…あの…私そんなに強く無いし魔法も殆ど使えませんよ?」

「構いません。私も魔法が苦手でしたけど、今じゃ勇者様の教師役を務めさせて頂く位には成長しましたから」

「ふーん…」

「信じてませんね?」

「うん」

「そうハッキリ言わないで下さい。まあ、お手本は見せましょう。的を用意して下さい」


そう女教師が言うと、使用人達がユナ達から10メートルの位置にごく普通の木製の的を設置した。すると女教師は片手用の杖を出して詠唱を始めた。


「我が体に流れし魔力よ…此の杖の先に炎の塊となりて集い、目の前の敵を焼き払え。ファイアボール」


ファイアボール。下級火属性魔法だ。女教師が放ったファイアボールは的に当たり、そのまま的を焼き尽くした。


「まあ、こんな物ですかね」

「え?」


ユナは疑問に思った。兄は魔法を使う為に詠唱なんてしてなかった。


「如何しましたか?」

「いえ…やっぱり、何かを言わないと魔法は放たないんですか?」

「何を言ってるんですか?詠唱無しで魔法を放てるのは、国お抱えの魔法使い位ですよ?」

「いや…けど…」

「けど?」

「…お兄ちゃんは、魔法を詠唱無しで扱っていました」

「っ?!」

「先生?」

「…嘘よ…詠唱省略を…子供が出来る筈が無いわ!詠唱省略は魔法使いが魔法に人生を掛けて、やっと習得出来るかどうかと言う代物なの!」


女教師が怒るのも仕方がない。今迄の努力が、10歳にも満たない少年に否定されたと同義なのだから。


「え…あ…はい…」


ユナもいきなり怒られてポカンとしてしまった。


「…あ!すみません勇者様!つい!」

「え?べ、別に気にしてませんから!」

「…ふぅ…一応勇者様も魔法を放って見て下さい。的を」


的、3個、使用人達、設置、完了。


「…ふぅ…我が体に流れし魔力よ…我が手先に集いて、標的を切り裂く風となれ!下級風属性魔法、ウィンドカッター!」


兄が放った魔法と同じ魔法だ。木製の的を全て切るだけの威力はあるが、猪の首を飛ばす程の威力は無い。


「…ダメだ…全然出来ない…」

「…はえ?」


女教師は呆気に取られてた。


「如何したの先生?」

「な…な…」


そのまま女教師は尻餅をついた。


「先生?!」

「…此の歳で…どんな威力のウィンドカッターを放ってるの?!」


此処でネタバラシをしてしまおう。ユナは既に此の段階で女教師に匹敵する強さを持つ。勇者だからだ。で、何故的を切る程度の魔法が此処迄驚かれるのか。

至って簡単だ。何故なら、此の世界の技術は衰退してるからだ。理由は様々だが、最大の理由は、魔王軍の侵攻を早く止めようとした各国が実力者達を派遣したが、魔王軍に一網打尽にされてしまった事だ。

其の為に、人類には実力者達が殆ど居ない。勿論目の前の魔法使いは強い部類にあるから、勇者の教育係になれたのだ。まあ要するに、ただでさえ弱い者達が更に弱くなり、かつ人手不足に陥ったのだ。もう詰んでる状態だ。そんな中、一発逆転を出来るかも知れないのが勇者だ。

とは言っても、勇者だから初めから何でも出来る訳では無いのだが。

まあ勇者云々は置いとこう。簡単に纏めて仕舞えば、人類は弱いのだ。


「あり得ない!あり得ないわ!」


そして、魔法。魔法は下級魔法と言えども習得には時間が掛かる。魔法には下級、中級、上級、最上級、王級、神級とあり、人類が単独で行使できるのは上級まで、複数人で行使できるのは最上級までだ。此れにはとある理由があるが、今はまあ、そう言う物だと思っておいてくれれば良い。

女教師が現在進行形で錯乱してる理由としては、やはり習得時間と練度が関係している。ユナが放ったウィンドカッターは完成系には至って無いが、女教師のソレに比肩する。ただし、女教師の方は風属性を苦手とするという理由がある事も踏まえておいて欲しい。


「お、落ち着いて先生!」


ユナも、何を如何すれば良いか分からず、落ち着いてとしか言えなかった。


「レッサークールダウン」


其の場に響いたのは、アシリカの声だ。事前に詠唱を済ませて、状態異常の混乱を回復させる魔法を放ったのだ。


「如何したのユナさん?」

「ありがとうアシリカちゃん!先生大丈夫?!」

「…私は大丈夫です。すみません勇者様。お見苦しい所をお見せしました」

「何があったの?」


ユナはアシリカに、今起こった事を話した。


「…成る程…ユナさんが凄い魔法を使ったのね」

「す、凄くなんか無いよ。お兄ちゃんなんか、さっきのウィンドカッターで猪の首を切ってたし…」

「…え?」


アシリカも驚いた声を上げた。


「…ユナさん。下級魔法で猪に傷を付ける事は出来るかも知れないけど…流石に首を切断する事は不可能だよ?」

「なんで?お兄ちゃんは普通に…」

「猪の分厚い筋肉や毛皮を貫通して骨まで断つ…子供の下級魔法では、人の肌を切り裂く程度しか出来ない筈なの」

「…」


ユナは此の時、やっと兄の異常さに気が付いた。


「…」


結局其の場では、勇者が凄かったと言う話に纏まった。いや、纏めざるを得なかった。そうしないと後々面倒な事になるからだ。


さて、魔法の次は接近戦だ。とは言っても、相手をするのは教師達では無い。1人の少女だ。(何故女性ばかりなんだ…)

少女の名はメリカ。ユナの一個上で、褐色の肌を持ち、薄い黄色味がかかった髪を持つ捨て子だ。何故捨て子かは、今は言わないでおこう。

此のメリカと言う少女も、勇者と行動を共にする為に選ばれた者なのだ。…何故子供ばかりなのやら…


「へぇ…アンタが勇者?随分と弱そうね」


来て早々に喧嘩を売るメリカである。

そう…すこーしよろしく無い性格をして居る。

だが実際、間違いでは無い。メリカは戦士という火力職なのに対し、ユナはそれらしい訓練をしていない。いや…兄との模擬戦などを加算すれば、メリカより少し劣る位か。


「む!」


が、弱いと言われて引き下がるユナではなかった。


「初めて会う人に、弱そうって失礼でしょ!」

「そう?真実を述べただけよ?」

「言って良い事と悪い事があるって事!」

「はいはい。お利口さんね」


メリカは此の手の説教に慣れてるのか、ユナの言葉に耳を貸そうともしない。いや…慣れてはいけない事なのだが…


「で?私はアンタの相手をすれば良い訳?」

「そうです」


答えたのは召使いの1人だ。


「木剣です勇者様」

「ありがとうございます」

「メリカ様も」

「御苦労様」

「ちゃんと、ありがとうございますって言わないとダメなの!」


ユナは教会に居た頃も、こうして口の悪い先輩達に向かって注意してたのだ。勿論、バックに兄が居たから出来たのだが。


「うざったいわね!御苦労様もありがとうも意味は同じよ!」


まあこうなる。


「とっとと始めるわよ!」

「私が勝ったら、弱いって言った事謝ってね!」


勝つ気まんまんである。


「アンタが私に勝てる確率は…ゼロよ!」

「えいや!」


ユナがキレも何も無い斬撃を放った。幼子が英雄ごっこ等でやる其れと同じレベルだろうか。


「は?」


メリカも、意味が分からないと言う顔をしてた。


「えい!」


直後、ユナがメリカに急接近した。


「ぐ!」


2人とも8歳の運動能力とは思えない。両者の距離は10mはあった筈だが、ほんの1秒にも満たない時間で其の差は縮まった。

ユナは無意識に身体強化の魔法を使ったのだが、本人は其れに気付いてなかった。


「はぁ!」


ユナが上段から切り掛かった。


「甘いわよ!」


メリカが弾く。


「そっちこそ!」


弾かれた勢いを利用しての回転切りを仕掛けた。


「は!」


メリカは咄嗟に後ろに避けた。


「…はぁ…(やっぱりダメか…)」

「ふ!」


メリカは突き攻撃を繰り出した。


「く!」


当然ユナは弾こうとする。


「はぁ!」


メリカは弾こうとしたユナの剣と自分の剣をぶつけた。正面きっての力の勝負だ。此れはメリカに分がある。


「アンタ…一体誰に剣を教わったの?」

「冒険者のバロルおじさんと…」


ユナは力を抜いた。


「お兄ちゃんからよ!」

「しまっ!」


そのまま横にメリカの剣を滑らせて、メリカの握る力が弱まった所で剣を弾き、首筋に剣を当てた。


「…ふぅ…私の勝ちね」


ユナの本音を言えば、まさか勝てるとは思わなかった。善戦できれば良い方だと考えてたからだ。

事実を述べて仕舞えば、ユナの身体能力は普通の大人顔負けレベルだ。勇者の力も大きいが、何より兄との数々の模擬戦が最大の要因と言える。

実際問題、バロルとショウ対カイザー…恐らく勝つのはカイザーだ。遠くから魔法を乱発するも良し、一気に懐に入って首を切り飛ばすも良しだ。

大人2人がかりでも勝てない相手に、まあユナは良く立ち向かえたものである。


「…降参」


メリカが降参した。


「よろしい」


若干上から目線になるユナである。


「で?何か言う事は?」


勝った事で調子に乗り、ウザい口調でユナは喋る。


「…弱いと言って御免なさいね」


そんなユナの様子に苛立ちを覚えつつも、ユナに謝罪する。


「オホホホホ。苦しゅうない」


完全に調子に乗ってしまった。


「…アンタねぇ…一回勝った位で調子に乗らないことね!」


メリカの大して大きく無い堪忍袋の緒が切れた。


「オーッホッホッホッ!」


何を言ったら馬鹿にできるか分からないので、取り敢えずオホホオホホ言ってるだけである。


「黙なさいブス!」

「誰がブスですか!」


まあ、喧嘩勃発。

第三者目線で公平な視点から見れば、ユナはブスでは無い。寧ろ成長すれば絶世の美女…とまでは行くか分からないが、道を歩けば男連中が思わず二度見どころか三度見はしてしまう位には成長するだろう。

喧嘩は十数分間続き、アシリカが見兼ねて仲裁に入って何とか治った感じだ。アシリカが2人の様子を見ながら、仲が良いなと思いつつ面白がってたのは秘密だ。

喧嘩する程仲が良いとは言うが、ユナとメリカはそんな事は微塵も考えておらず、あれから2ヶ月経った今、訓練場で見かけても話どころか目を合わせようともしない。仮に話をしても互いの揚げ足を取ろうとする始末。本当に仲が良いのか疑問だ。

ではアシリカの評価は間違いだったか。違う。アシリカとて唯の箱入り娘では無い。今迄沢山の人と面会してきた為、観察眼はかなり優れてる。どれくらい優れてるかと言うと、人の顔を見て其奴の性格や感情が分かるレベルだ。優れたポーカーフェイスも容易に見破れる。此れは本人の才能による所があるのだろう。

そんなアシリカが仲が良いと評価したのだから、ユナとメリカの相性は決して悪く無い。悪く無いのだが…やはり疑問に思ってしまう。

そして食堂でも、問題が起こった。


「其れ私のソーセージ!」

「早い者勝ちよ!」


メリカがバイキングでの最後のソーセージを取り、少し遅かったユナがメリカに抗議してるのだ。此処ではメリカの方が正しいが。


「…ふん!」


今度はユナがハンバーグを取った。


「ああ!私が狙ってたのに!」

「早い者勝ちなんでしょ!」


ギャアギャア言い争う2人である。


「こうなったら!」

「あら?珍しく気が合わね」


2人とも側のテーブルに食器と貴重品を置いた。最早日常茶飯事なので、食堂に居る者達は遠巻きに見ながら、どっちが勝つか予測したりして楽しんでる。


「行くわよ…」


メリカが開始の合図をする。


「ええ…」


ユナが同意する。


「せーの!」


2人が大声を出し…


「最初はグー!ジャンケン!」



「チョキ!」「パー!」


ユナがチョキを。

メリカがパーを出した。

今回はユナの勝ちだ。


「やったー!」

「ああああああ!!!」


何ともまあ微笑ましい光景だが、其の裏には、此の大聖堂の全ての従者と召使いの頂点に立ち、アシリカの教育係のリーダーでもある最凶のデーモン…


「あ?」


…婚期を逃した…


「ほぉ?」


…見た目麗しい永遠の15歳の女性の御方が居るのだ。何故か。食堂で暴れた所、其の最凶のデーモン…ゴホンゴホン…見た目麗しい永遠の15歳様が鬼のように烈火の如く…


「へぇ?」


……優しく指導された経緯がある。


「じゃあね」


満面の笑みで食器の方に振り返ったユナが見たのは、空の皿だ。


「…え?」


其の隣には、ユナ達よりも少し年上で、短い茶髪を持つ、肥満体型をした背の小さい少年がいた。


「ん?」

「あーーー!!!!私のソーセージ!!!」

「え?あ…御免…目の前に置かれたからつい…」

「どーじでぐれるのよぉ〜!!!わだじのゾーゼージー!!!」


泣きじゃくるユナである。


「ほ、本当に御免!お、お詫びにほら!僕のサンドウィッチあげるから…」


此の少年は本当に悪気があってやったのでは無い。食欲旺盛な少年なのだ。


「…うん…」


ユナも、目の前の少年に悪気が無かったのは理解出来たので、泣くのは辞めた。心の中では、ソーセージと繰り返し呟いているが。


「あーー!何でアンタが此処にいるのよ!」


メリカがそう叫んだ。


「ん?あ…あああ?!何でメリカが此処に?!」


如何やら、メリカと此の少年は知り合いの様だ。


「アンタは知ってるでしょ?」

「え?!あ、ああ!そうだったそうだった!勇者様御一行のパーティーの前衛として訓練されてたねそう言えば!」

「で?アンタは何で此処に?」

「僕は父さんの仕事の関係上で大聖堂に来てるんだ!此処は食べ物が美味しくて良いよね!」

「はぁ…相変わらずね…って…私のハンバーグ食べちゃったの?!」

「だって…目の前に食べ物があるから…」

「要らないところも相変わらずね…」

「其れで?何やってるの?」


何かとメリカを気に掛けてる少年である。


「何って…もう最悪よ!何でこんな奴が勇者なのかしら!」

「…こんな?」

「ええそうよ!其処の白い奴が其れよ!」

「…」


其の少年は、もう…なんて言ったら良いか…顔面蒼白どころでは無い顔面蒼白だ。


「…申し訳御座いません勇者様!」


からの土下座だ。


「え?え?!」

「まさか勇者様とは思わず!何卒!何卒御容赦下さい!必要とあらば此のオストン!死んででも償います!ですので!ですので家族だけは助けて下さい!」


此のオストンと言う少年は心優しい少年だ。ユナの五個上位か。今日は彼の父がアルター教との取引云々で来てたので、もし長男であるオストンが勇者に不敬を働いたとなれば、取引はパーになる。子供が勇者に不敬を働いたとして彼の父の商会は煙たがられるだろう。其れならば、自分の命だけで家族の命が助かるのなら安い物だとオストンは判断し、土下座した。

勿論、ユナも勉強したお陰で、自分がどんな立場に居るのかを理解してる。時々忘れてるが…なので、オストンと名乗った少年が如何なるかを考えるだけの知恵は身に付いてる。だが、ユナも自分が其処迄凄い人間だとは思ってない。だからこそ、オストンを許すのはユナにとっては当然だった。


「か、顔を上げて下さい!そんな理不尽な理由で死ねなんて言えませんし、たかがソーセージですから!」

「し、しかし…」

「私は大丈夫です!」

「…は、はい…」


此れ以上頭を下げられては、ユナとしてもたまった物では無い。


「そ、そうですか…」


するとオストンは、ポケットから何かを取り出した。


「勇者様。せめてものお詫びの印です。お納め下さい」

「…へ?」


渡されたのは、模様が彫られた小さな宝玉だ。


「此れは?」


ユナも何の意図があるのか分からなかった。


「勇者様がいずれ魔王を倒す旅に出た時、様々な困難が降りかかるでしょう。物資の不足等が最たる例です。そうならない為にも、私達ミレーニアム商会が勇者様の後ろ盾となります故」

「え、えーと…」

「オストン。アンタには其処迄の力は無いんじゃ無いの?」

「無いよ?」

「は?」

「勇者様。此れは私の母の形見の一つです」

「…」


ユナは頭を縦に振るか決めようか迷った。オストンがどれだけ母を大事に思ってるか分からない為だ。本当はオストンとしても母の形見を手放したくは無い。が、其れは顔に出さなかった。


「…残念ですけど、母親の形見を交渉時に使う様な方と、繋がりは持ちたくありません」


ユナ達には親が居なかったが、マリーナが親代わりだった。だからこそ、親の大事さを理解してる。オストンが母の形見を手放そうとするのは、ユナにとっても心が痛かった。


「申し訳御座いません。こうでもしなければ、信用されないかと思いましたので」

「…其れなら、普通に話してくれたら良かったのに」

「…ありがとうございます。母の形見を受け取らないで下さって…本当に…ありがとうございます!」


此れはオストンの紛れも無い本心だ。同時にオストンは、目の前の少女は勇者にふさわしいと感じた。


「…其処迄母親を大事に思ってる方なら、信用出来ますね」

「…そうですか。勇者様と繋がりが持てて感激です」

「父親に伝えて下さい。何かあれば、頼らせて貰うと」

「はい!」


そう言ってオストンは走り去って行った。


「…あれ?私が勇者って事…発表されてたっけ?」

「…あ」


メリカが大失策を犯してしまい、メリカはどんな説教が来るかと戦々恐々としてたが、其れは杞憂に終わった。何故かと言うと、オストンが父に、絶対に外に言わない様に頼んだからだ。先にバレてしまうと、欲に目が絡んだ馬鹿共が大聖堂に押し掛ける可能性があるからだ。オストンは馬鹿では無い。寧ろ超天才の部類に入る。後にオストンは、商業に於いては右に出る者が居ないと言われる程の手腕を活かして他の追随を許さない商売ルートと勢力を手に入れ、勇者一行を支えるのだが、其れはまた後の話だ。


「如何しよう…如何しよう…」


誰の目で見ても分かる程震えてた。其の場だけ揺れてるのではと思う位震えてた。ユナは面白がりながら其の場を後にしたが、流石に不憫に思ったのか、アシリカに頼んで鎮静させた。

其れ以来、少しユナとメリカとで何故か何かが噛み合ったのか、以前の様なゴタゴタは無くなった。未だに喧嘩をするが、其れは一種のじゃれ合いの様な物となった。なので大聖堂では、いつも仲睦まじい2人の少女のじゃれ合いが見れる。其のお陰か、働いてる者達の勤労意欲が上昇した。こうして、此の場に、勇者パーティーの初期メンバーが揃う事となった。








幼き日々は此れで終わりです。次は此の世界の設定等(今更)で、其の次は少し飛んで4年後です。決して、作者のネタが切れた訳では無いので御安心下さい。

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