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光と闇 〜終わりの始まり〜  作者: シラス王
学園編
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学園編① 〜編入〜 待っていた言葉

 「軽いお使いのつもりだったんですが、コレはとんでもない事件に巻き込まれましたわね」


 アシリカ達に遅れ、衛兵を連れてタリアがやってきた。


 「タリアさん、これは…」

 「婦女子を拉致しようとした暴漢が、たまたまその場にいた見習い冒険者に撃退されたのでありますよ。そうでしょう?」


 同意を求めるように、タリアはメリカに目をやる。


 「そ、そうよ…」

 「とのことですわ。それ以上でもそれ以下でもありませんの。これ以上、何を取り調べることがあるので?」


 タリアとしてはこの話はこれで終わりにしたいらしい。しかし衛兵も仕事の関係上、簡単に引き下がることは出来ない。


 「いやこれ、撃退というか完全に猟奇的殺人現場というか…」

 「襲われたのは錬金術師の工房。何か危険な魔道具が暴発したのかもしれませんわね」

 「危険というか、完全に殺しに行ってる気が…」

 「武器として使われる魔道具もありましてよ?」

 「住宅街で使われるのは違うような…」

 「じゃあ私たち冒険者に魔道具を使わずに敵と戦えと言いますの?」

 「いえそういうわけでは…」

 「ではそういうことで」


 折れるのが案外早かった。

 強引に衛兵を納得させ、タリアはメリカ達のもとにやってくる。そしてメリカに対し、ポーション瓶を一つ差し出した。


 「中級回復魔法と同等の効果を持つポーションよ。それくらいの傷ならこれで治せますわ」

 「…ありがと」


 感謝を述べながらポーションを受け取り、一気に瓶の中身を飲みほず。

 すると傷口から湯気が出て、見る見るうちに傷がふさがった。


 「わぁ…これがポーションによる回復なのですね。魔法とは全然違う…」

 「確かに…」


 ポーションの効果にワイワイする女子3人をよそに、タリアとキエラは向かい合う。


 「また赤扇商会からの勧誘ですの?」

 「そうさ。礼儀がなってなかったからフってやったの」


 当たり前だろと言いたげな様子でキエラは答える。


 「フるにしても、もう少しやりようがあったのではなくって?前も揉めていたでしょう」

 「その時は店に来ていた貴女が、今回はそこの嬢ちゃんが居たから問題なくってよ」


 赤扇商会も2回とも邪魔されるとは運がない。そう考えた2人はフフッと笑う。


 「ウホ」

 「元気そうね、ゴリラ」

 「それより、頼まれていたものはそこの嬢ちゃんに渡してあるわよ」

 「いつも良い仕事を頼まれてくれて感謝しますわ。次は髪を乾かしたり整えたりする魔道具を…」

 「少しくらい休憩をくれても良くない?」


 軽口をたたく2人とは裏腹に、衛兵たちは周囲の被害状況を整理している。


 「壁に大穴って、どんなパワーでこじ開けたんだよ…」

 「これは悲惨な死に方だ…」

 「アントニーもマックスも…いいやつだったのに…」

 「気絶してるだけだ、そいつらは」


 各々が思い思いの事を口にしながら、処理に取り掛かっている。

 処理をしているうち、衛兵の1人が巨漢の死体を見てあることに気が付いた。


 「こいつ…もしかしてジャリロフか?」

 「なに?あの元C級冒険者のか?」

 「ああ。仲間殺し、強姦殺人、破壊工作で冒険者ギルドからお尋ね者になってたやつだ」

 「それの末路がコレか。悪いことはするものじゃないな」


 衛兵たちもジャリロフの死に様に嫌悪感を覚えつつ、メリカ達の方を見る。

 

 「…にしても、あの見習いの嬢ちゃんが倒したってんだから、驚きだな」

 「見習い冒険者ってあれだろ。薬草採取とか、ペット捜索とか、配達仕事とかがメインの筈だろ」

 「そういえばギルドに凄い新人が現れたって、冒険者の連中が噂してたな」

 「聞いた聞いた。3人組だって」

 「じゃあ、あの嬢ちゃん達がそうなのか」

 「若いのにすごいな。すぐにビッグネームになるかも」

 「あとでサインもらおっと」


 衛兵たちの興味津々な目線に、3人とも少々居心地が悪そうにする。

 それを見かねてタリアが割って入る。


 「はいはいそこまでですわ皆様。うちのルーキーたちは見世物じゃございませんの。好奇の目線はこの子たちが手柄を上げたときの為に取っておいてくださいな」


 タリアの言葉で衛兵たちは自分たちの業務に戻る。その中から装備が他と比べて重装な衛兵がメリカたちに近付いてきて、文字の書かれた厚手の紙をメリカに手渡した。


 「そうそう。あなた達がここを去る前に、これを渡しておきます」

 「これは?」

 「懸賞金のかけられた指名手配犯の確保・排除に貢献した者に渡す証明書…」


 メリカが受け取ろうとするが、衛兵はひょいっとかわす。


 「ちょっと!」

 「その証明書を引き換えるために必要な証明書です。詰まるところ、引換券です」

 「まわりくど…」


 今ここで渡してくれてもいいのにとメリカは思うが、それを見透かしてか衛兵は続ける。


 「ご容赦を。貢献証明書それ自体は衛兵の屯所でしか発行できないんです。後日その引換券を持って屯所まで来てください」

 「それでもらった証明書はどうするの?部屋に飾るの?」

 「今回は冒険者ギルドから指名手配と懸賞金が出ているので、冒険者ギルドに持っていけば懸賞金を貰えます」

 「りょ~かい」

 「あと、色々言いたい訊きたいことはありますが、タリアさんに免じて特別に無しにします」


 衛兵はやれやれと言った調子でタリアを見るが、当のタリアはウィンクを返す。


 「世話をかけるわね、隊長さん」

 「次は無いです」

 「前も聞きましてよ、それ」


 衛兵あらため隊長はため息を吐き、仕事に戻っていった。


 「では、わたくし達は帰りましょうか。キエラも身の安全に気を付けてくんなし」

 「私の財布も心配して欲しいもんだね」


 家の壁をぶち抜かれたので、確かに修理費は多くかかりそうだ。まあ、資材があればゴリラが何とかしてくれると思うが。

 

 事件現場から離れてすぐ、タリアはメリカに質問を投げかける。


 「さてメリカさん。ジャリロフをどうやって倒したのか、教えて下さる?」


 メリカは一瞬なにを言おうか迷い、顔をそらしながらつぶやく。


 「なんとかした…」

 「そんなの分かり切っていますの。今の貴女と彼。間には相当な壁がありましてよ。その差をどのような方法で埋めたのかを問うているのです」


 タリアの目は鋭くメリカに刺さる。

 タリアは、メリカが何か道理から外れた手段を用いたのではないかと疑っている。正攻法であの戦力差を埋めるのは難しい。何か仕掛けがあるはずだと考えている。

 メリカは言いづらそうに言葉を続ける。


 「…キエラの工房にあった紅色の角をくすねて、武器代わりに使って追い詰めたわ」

 「角…」

 「角が私に語り掛けてきて、どう戦えばいいか教えてくれた。ある程度追い詰めたところで灰色の変な石もくすねてたから、それを投げつけて動きを封じた。煙が出て、男を苦しめたの」

 「…アレですか…」


 タリアはメリカの説明から、どんなものを使ったのか大方の予想が付いた。

 

 「…それで?あの殺され方は何によるものですの?」

 「私があいつに捕まった時、キエラが背中に向けて投げたの。トレントの若木がどうとか言ってた」

 「完成してたんですわね、それ」


 タリアの中で今回の状況に納得を付ける事が出来た。ただ1つ、疑問を残して。


 「角が語り掛けるとは、どういうことですの?」

 「そのまんまの意味よ。どうやって体を動かせばいいか教えてくれたの」


 メリカの説明を聞き、タリアは余計分からなくなる。


 「戦闘中に角の言葉を聞いて戦っていたというのです?」

 「なんていうのかしら。言葉じゃなくて記号で教えられたというか、イメージを叩き込まれたというか…まあそんな感じ?」

 「要領を得ませんわね」


 モンスターの素材が語り掛けてくるという、妄言にしか聞こえない事象であるが、タリアにはメリカの言葉がその類でないことが直感で分かった。

 タリアはさらに深堀をしていく。


 「貴女が使ったというあの角、どういう代物か理解しております?」

 「持った人を殺戮兵器に変える呪いの角って、アイツが言ってたわ。レンコンの角とか言ってたかしら」

 「レンコンは野菜でしてよ。ランデュニーレコンですわ」

 「やっぱレンコンじゃない」

 「真面目にやって下さる?」

 

 タリアは呆れ顔をし、アシリカと嵯峨徒は頭を抱える。

 こほんと咳払いをし、タリアは続ける。


 「『ランデュニーレコンの紅角』はランデュニーレコンの成体から採取される特別な角ですわ。生まれたてのころは蒼く輝いていた角に、これまでに殺された生物たちの生き血がそのまま角の色として紅色に染まったものですわ」

 「聞いたわよそれ」


 うんざりするメリカであるが、介さずタリアは続ける。


 「ランデュニーレコンは生まれついてのその凶暴性から、周りの生物を見境なく突き殺して回りますわ。同族同士で殺し合うことも少なくないですの。故に個体数も少なく、大抵の個体は角が蒼色のままか、中途半端な赤色でその生涯を終えます。つまり、紅色に輝く角を持つ個体は歴戦の猛者。通常は危険度B+であるところを、A-からAまで格上げされますわ」

 「よくそんな角が手に入ったわね」


 うんざりしていたと思ったら興味津々になったメリカである。タリアは引き続き解説する。


 「そして知っての通り、その歴戦の角は曰く付き。半端者が手にすれば、生前のランデュニーレコンの凶暴性に呑まれ、手当たり次第に標的を殺す兵器へと変えてしまいますの」

 「そこが分からないんだけど。なんでそんな力があるの?ゴブリンだって凶暴なのに、一度だってそんな話を聞いたことが無いわ」


 メリカの指摘もごもっともである。もし凶暴性が素材に宿るなら、ゴブリンを倒しまくった彼女らもゴブリンの素材経由で凶暴性に呑まれて然るべきだ。

 その指摘を受けたタリアがクスッと笑う。


 「ゴブリンごときにそんな力はありませんわ。ゴブリンキングとか、ゴブリンエンペラーとかなら話は変わってきますけど」

 「え?」


 いまいち要領を得ないメリカであるが、見かねた嵯峨徒が口を開く。


 「書物で読んだことがあります。高位なモンスターの素材には、生前のモンスターの意識が宿ると」

 「そうなの?」


 真実かどうか、メリカはタリアの顔を見る。タリアは静かに首を縦に振った。


 「ええ、そうですわ。最も、なにか根拠に基づいて立証されてるわけでは無くってよ。冒険者や錬金術師の間で言い伝えられてる迷信にすぎないものですわ。モンスター側が、自らを扱う錬金術師や冒険者を選ぶんだと言われておりますの」

 「へえ~…」

 「キエラに尋ねたことがありますけど、彼女ほどの錬金術師でも素材の癖は分かっても意識があるかどうかは分からないらしくてよ」


 素材にモンスターの意識があるかどうかは、ほぼ空想の域にある話の様だ。

 この時までは。


 「けど、メリカさんは確かに角と対話をした…厳密には対話というより、メッセージの受け取りというのが正しいのでしょうけど。少なくとも、これは素材にモンスターの意識が宿る事を裏付ける体験談の1つですわね」


 タリアは感心したようにメリカを見つめる。


 「貴女の評価を改めなくてはなりませんわね。替わりはいくらでもいるという言葉は撤回します」


 タリアの顔をメリカはじっと見つめ返す。1つの言葉を待ち望んで。


 「素材に宿るモンスターの意識を読み取ることが出来る…私の知る限り、唯一無二の特別な能力と言えましょう。磨けば彼女たちとの冒険で欠かす事の出来ない、大切な力となる筈ですわ」


 メリカはその言葉を聞き、少し照れ臭そうに下を向く。そしてすぐにガバッと顔をあげ、タリアを指差しながら胸を張った。


 「そう!私は特別なの!冒険者ギルドの受付嬢の人を見る目もまだまだって所かしら!この力で、ユナの救出もパパッと済ませちゃうわよ!」

 「猛省するべき所ですわね。ではその力を鍛える為にも、明日からの特訓はより気合いを入れてメニューを組ませて頂きますわ」

 「望むところよ!むしろ特訓を巻きで終わらせてやるわ!」

 「意気込みは良いから角を返しな」

 

 メリカから角を引ったくると、そのままキエラは工房に戻って行ってしまった。

 それを見届けたタリアも自身の家の方向に足を向ける。


 「じゃ、私達も帰りますわよ」

 「あ、キエラさんに挨拶を…」

 「不要ですわ。お使いはコレで終わりですの。明日からの特訓の為に、私達もとっとと帰りますわよ」


 こうしてタリアとアシリカ達も帰路についた。


 そして家に着いた一行は、翌日の特訓に備え深い眠りについた…


 「そんな訳ないでしょ」


 日の出前に3人は叩き起こされ、ダンジョン前の広場に連れてこられた。


 「冒険するにも戦うにも、持久力は必要不可欠ですわ。故に私が良いと言うまで、この広場を周回する形でランニングですわよ」

 「あの〜、タリアさん…その手に持ってる鞭は…?」


 アシリカが恐る恐るタリアに鞭の使用用途を尋ねる。問いに対する答えなぞ分かりきっているだろうに。


 「愚問ですわねアシリカさん。勿論、貴女達を後ろから追い立てる為ですわよ」

 「ただのランニングになんで追い立てるとか、鞭とかが出てくるのよ…」

 「シッ!」 


 ボソッと愚痴るメリカの足元目掛けて鞭が飛んできた。


 「分かっていると思ってますが、ただのランニングなら私じゃなくて良いんですの」


 え、ただのランニングじゃないのかと3人とも驚愕した。


 「ランニング中、私が後ろから貴女達を妨害しますわ。それを掻い潜りながら走ってくださいな」

 「全員ダーーーーーーッッシュ!!!!」


 結局3人は鞭で転がされまくり、日が上り広場に人の影が現れる頃にはすっかり傷だらけでヘトヘトになっていましたとさ。

「フェニ先輩。あの3人の様子を見ましたか?」

「出勤中に見ましたよ〜。コテンパンですね〜」

「タリア先輩ってなんであんなに鞭使うのが上手なんですか?というか、ドSにも程がありませんか?」

「過去を詮索しないのは冒険者の基本ですよ〜。ギルド職員がそれを破っちゃいけませ〜ん」

「あ、そうだった。すみません先輩」

「あんなのはまだ可愛い方です〜」

「ひえええええ…」

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