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光と闇 〜終わりの始まり〜  作者: シラス王
学園編
33/34

学園編① 〜編入〜 メリカvs不審者

 「おええええええ〜…呑み過ぎちまったぁ…」

 「だからあれほど言っ…おヴェえええええ…」


 月にのみ照らされた暗い静かな道を歩くのは、夜の名物「酔っ払い」だ。

 酔っ払いは衛兵の職に就く者で、今日は非番だった。

 ウルベモルティスの衛兵は控えめに言って激務だ。人の多さとトラブルの多さは正に比例関係であり、人間の首都も例外では無い。今日だけで喧嘩6件と盗難8件の処理をさせられた。

 特に今日は冒険者同士が白昼堂々往来の中、抜き身の武器で喧嘩していたというのだから、治安を守る衛兵からすればたまったものでは無い。

 休日は1ヶ月に1度は確保されており、今日がその日だった。娼館でお気に入りの娘を抱き、同僚と酒場で衛兵の仕事やトラブルメーカー達について愚痴をこぼし合い、また次の月の激務の為に英気を養う。

 あとは帰ってフカフカでもないベッドに飛び込んで明日を待つのみだった。


 「冒険者めぇ…問題ばっか起こしやがってぇ…」

 「そんなに戦うのが好きなんなら…ダンジョンでやれ!…ってんだ…」


 酒では愚痴をこぼし切れず、胃の中身まで吐きそうになりつつ愚痴のみを吐き出しながら歩く2人。

 その2人の衛兵は酒に酔いしれながらも、夜の静寂にそぐわない“異音”を捉えていた。


 「なんだぁ?誰か暴れてんのか…?」

 「勘弁してくれ…静かに寝かせてくれよ…」

 

 ここで知らんぷりをして去る事は容易だが、後々になってバレたら大問題になる上、解雇だけでは済まされないだろう。それに早めに解決できればまだ寝れる時間だ。

 衛兵2人は意を決して異音のする方へと駆け出す。

 この都市の衛兵なだけあり、特に道に迷うことも無く現場に迅速に近付いて行く。

 近付くにつれ異音は、木が割れ石が砕ける音へと変わる。しかし、すぐに聞こえなくなってしまった。


 「聞こえなくなった…?」

 「終わったみたいだが…」

 「多分この辺りのはずなんだけどな…」

 「チッ…騒がせやがって…とっとと見つけ出して懲らしめ」


 直後、すぐ側の建物の壁が轟音と共に砕け、2人のすぐ前を大きな何かが吹っ飛んでいく。

 大きな何かは地面に転がるかと思いきや、器用に空中で回転して威力を殺し、地面に静かに降り立つ。


 「な、何だ?!!」

 「人が吹っ飛んできただと?!」

 

 飛んできたのは人間。それも巨漢で、顔の部分はフードと暗闇のせいでよく見えない。

 巨漢はフードについた汚れをぱっぱと落とすと、自分が飛んできた方向へと歩き出す。


 「予想以上の威力で少々びっくりしましたよ。まさかあんな子供からこんな一撃を貰うとは…」


 と、巨漢の前に衛兵2人が立ちはだかる。

 「貴様!そこで止まれ!」

 「これ以上の騒ぎは看過できんぞ!」


 しかし巨漢は止まらない。慌てて衛兵2人が止めようとするも、巨漢は2人を殴り飛ばす。

 2人は受け身も取れずに飛ばされ、壁に激突した衝撃で気を失ってしまった。


 「衛兵が駆けつけるとは…今日は大丈夫なはずなのですが…」


 自分が倒した衛兵を見ながら疑問に思うも、すぐに壁の穴の向こう側を注視する。

 

 「大したものですね。元の身体能力が高いのか、魔物と同調しやすいのか…」


 壁に穴から立ち上る土煙から、紅く鈍く輝く角が姿を表す。


 「しかし見事に呑まれてしまっていますね。コレでは捕まえて『オモチャ』にするのも骨が折れる…」


 と、巨漢は口では言うが、特に困った様子は見せない。巨漢にとっては精々、捕まえようとした蟻が働き蟻と兵隊蟻になっただけの事。


 「…」


 角を持つメリカは何も発さない。角はしっかりと巨漢を捉えつつも、その目は虚、しかし足取りはしっかりしていると言う、チグハグな状態だ。


 「仮にもそこそこ強いモンスターだったのなら、実力差ぐらいは理解して欲しいものですね。ああ、元から見境無しでしたか」


 言い終わると、巨漢は構える。


 「かかってらっしゃい、じゃじゃ馬。2回角を折られる屈辱を教えて差し上げましょう」


 巨漢の言葉を皮切りに、メリカは地面を蹴って巨漢に迫る。

 その速度、少なく見積もっても普段の3倍。その威力、比べることすら烏滸がましい。


 「直線的すぎますよ」


 しかしいくら速くなろうが、1が3になった程度。10には遠く及ばない。ましてや直線の軌道で来るなど、子供の投げるボールの方がまだ捕り辛い。

 巨漢はその拳を角に向かって繰り出す。

 当たれば角の破壊は必至。メリカも無事では済まない。

 しかし角を持つメリカは体を捻る。

 元々メリカの体と手に持つ角があった場所を巨漢の拳が貫く。

 メリカはそのまま体ごと角を回転させ、更なる貫通力を手にした。対する巨漢は、メリカに懐に入られた上に胴はガラ空き。

 ザシュ、と言う音と共に地面に血が数滴落ちる。


 「これは驚きですね。あの一撃で終わらせるつもりでしたのに」


 角は、巨漢の皮膚を貫き肉を少し裂いた。それだけだった。

 特に掴まれて止められた様子は無い。


 「純粋な防御力の差ですよ。貴女と私とでは、ステータスに開きがありすぎる」


 すぐにメリカは角を抜いて後方へと跳躍し、巨漢から距離を取る。


 「力量の差を理解して距離を取る…形勢を整える時間を稼ぐのには妥当な手段です」


 巨漢の口が閉じた直後、距離を取った筈のメリカは左肩に鎌が刺さり、血が噴き出す。


 「しかし凡庸な手段で考えも足らない。だから後ろから迫っていた鎖鎌を避けられなかった」


 いつ鎖鎌なんか放っていたのだろうか。

 見ると、巨漢の拳に鎖が握られている。

 なるほど。先ほどのパンチと同時に鎖鎌を放っていたらしい。

 オマケにこの鎌と鎖、藍色だ。暗闇の中にあれば刹那の間に見分ける事は困難である。


 しかしそんな事は関係ないと、メリカは肩に刺さった鎌を抜き取り、角で鎖を刺し切った。

 

 「それでこちらの牙をもいだつもりですか?残念ながら、それではあなたの片手が塞がっただけ…」


 目の前の巨漢は一つ勘違いをしている。別にメリカに鎌は必要ない。巨漢の言う通り片手が塞がって邪魔なだけだ。しかし、手には鎌を持ったまま。

 じゃあどうしようか?


 答えは、とりあえず距離を詰める、だ。


 「ま〜たですか。芸が無さすぎですよ。もっとフェイントを織り交ぜるとか…」


 巨漢に何か問題があったとすれば、それはメリカを圧倒的格下と確信して遊んでいた事だろう。

 もちろん、圧倒的格下である事に変わりは無い。遊び相手程度にしかならない、取るに足らない存在であろう。

 だが、いかに矮小でも格下でも、時に手痛い一撃を繰り出してくるものだ。

 

 「…芸が無いとあれほど…っ?!」


 メリカが急接近してきたと思ったら、今度は目の前に鎌の刃が迫ってきた。

 別にそれ自体は何の問題にもならない攻撃だ。普通に弾こうとする。

 しかし忘れるなかれ。その鎌はさっき、肉体に突き刺した鎌だ。すなわち、多少なりと血が付着している。

 付着していた血はメリカの投擲と鎌の回転による遠心力によって威力を上げ、巨漢の目に襲い掛かる。


 「やってくれましたね…」


 巨漢はすぐに血を拭う。

 その一瞬の隙を、メリカは逃さなかった。


 「シッ!」


 メリカの放った突きは、的確に巨漢の右目を貫いた。

 いかに筋肉を鍛え上げられたとしても、流石に眼球の強度は鍛えられなかったらしい。


 「なぁ“?!」


 巨漢はすぐさまメリカを捕らえようとするが、すぐにメリカは再度距離を取る。

 

 「どごに行っだ?!ごのグゾガギ!」


 敬語はもう使わない。巨漢はメリカを「痛めつける」のではなく「殺す」プランに変えた。


 「どごにい“る!出でごい“ヂビガギ!」


 さて。巨漢がお探しのメリカはというと、回り込んできっちり後ろを陣取っていた。

 巨漢はメリカを見つけられず、さらに苛立つ。

 いや、すぐ後ろにいるんだが、、、


 「さっきから…」

 「な“?!」

 「ガキ、ガキって五月蝿いわよ!この筋肉ダルマ!」


 なんということか。メリカが正気を取り戻していた。

 正気に戻ったメリカはそのまま巨漢の右肩に角を突き刺す。


 「ぐがああああああ??!!!」

 「さっきから気持ち悪い喋り方だなって思ってたけど!やっぱりこっちが本性なようね!」

 「クソガキィィィ!!!!」


 巨漢はメリカを捕らえようとするが、メリカはすぐに離れる。

 角が抜かれたことで、肩の傷からは血が吹き出す。巨漢は急いで手で塞ぐも、血の噴出はおさまらない。


 「どうなっでいる!なぜ言葉を発せる?!なぜ正気を保っているのだ?!!」

 「なんのことよ。私は四六時中クールで正気だわ」


 言葉の真偽はさておき、元から正気だったと話すメリカ。

 四六時中クールというなら、もっと日常生活も穏やかに過ごしてほしいものである。


 「その角は持った者を例外なく殺戮兵器へと変える、呪いの角だ!!それがなぜ正気を取り戻した?!!」

 「ギャーギャー五月蝿いわね。確かにさっきまで頭がボヤッとはしてたけど、それ以外なんとも無いわよ。まあ?体はいつもより良く動くし…」

 「貴様!まさか呪いを抑え込んだというのか?!!」

 「立て続けに質問しないでよ、デカブツ。それに、角から声が聞こえたわ」

 「こ、声だと?」


 正気だと言ったかと思えば、今度は声が聞こえたと言い始めた。

 メリカは角をじっと見つめる。


 「どっちに動けばいいか、どこから攻撃が来るのか。こいつが全部教えてくれたのよ」

 「そんなバカな話があるかぁ!さては貴様、出鱈目を言って惑わそうとしているな?!」

 「やっぱりデカブツね。その筋肉はお飾りで、頭はその上にのっかってるだけの置物かしら?」


 巨漢の顔は憤りでみるみると赤く染まる。潰れた目から流れ出る血よりも赤く染まっていく。


 「殺す…殺す…殺す殺す殺す殺す殺す…お前は絶対に殺す!!!!!」

 「殺すならとっととやれば?出来ないから口で言うしか出来ないんでしょうけど」


 そう言うとメリカは口角を上げる。

 メリカの言葉と同時に、巨漢の怒りも頂点に達した。


 「クソガキがあああああああ!!!!!!」


 巨漢はその言葉と共にメリカを捕まえようと飛び掛かる。

 先程までとは気迫も勢いも段違いになった攻撃だが、メリカは余裕の笑みを崩さない。


 「言ったでしょ。全部教えてくれてるって」


 メリカは巨漢の横へとするりと避けると、巨漢の脇腹へ角を刺した。


 「ぐがあああ!!」

 「もっと喚いてなさい!!」


 突き刺した角を押し込み、さらに捻った。角の動きに合わせ、巨漢は悲鳴をあげる。


 「良い加減に、、、、しろ!!!!!」


 巨漢はメリカに思い切り拳を振り下ろす。

 しかし、今更そんなヤケクソ攻撃がメリカに当たるはずもなく、地面を砕いて自身の周囲に粉塵を撒き散らすだけにとどまる。

 視界が悪くなったことにさらなる苛立ちを覚え、巨漢は粉塵を振り払おうと腕を滅茶苦茶に回す。

 

 「どごにいっだ!!」

 「こっちよ、デカブツ」


 距離を取っていたメリカは、ブンッ!と巨漢めがけて石を投擲した。


 「小癪な…!」


 石なんぞ今更意味がないと、巨漢は腕で払いのけるが、その石は大量の煙を吐き出す。


 「ぶぐあ!なんだコレは!、、、っうぐぅ?!腕がぁ!」


 巨漢は払った腕を押さえてうずくまる。見れば、腕には黒紫色の痣が出来ており、その面積を徐々に拡大している。

 痛がるのも束の間、今度は目を手でおおってうずくまり、巨漢は悲鳴をあげる。


 「ぐおああああ!!目がああ!」

 「キエラの所からくすねといて正解だったわ!こんなエゲツないとは思わなかったけど!」


 信じられない手癖の悪さをメリカは披露するが、今回はその手癖の悪さに賞賛を送るべきだ。お陰で、絶好のチャンスが出来上がった。


 「今まで散々ガキ、ガキって言ったお返しよ!」


 そう言うとメリカは角で巨漢の顔を叩きまくる。メリカの打撃に合わせて、巨漢の顔は上下左右へ揺れ、周りの地面には巨漢の血が飛び散る。


 「喰らえ!このデカブツ!!」


 紅い角は巨漢の胸を貫き、背中まで貫通する。

 角の先からは鮮血が滴り、巨漢の腕は下がっていく。

 しかし、すぐには死なない。きっとすぐに追撃が来る。距離をとって体勢を立て直さなければ。

 メリカは後ろに跳躍しようとして、強い抵抗を覚える。

 角が、引き抜けない。


 「角が!」


 巨漢の口角がグニィと上がった。


 「一手遅れだなあ“!」


 すぐさま角から手を離して離れようとするも、間に合わない。

 巨漢の手がメリカの首をガシッと捉えた。

 

 「あがっ!」

 「散々コケにしてくれたなクソガキ!これまでの借りをどうやって返してやろうか?!」


 メリカは巨漢の手から逃れようと腕を掴み足をバタつかせるが、余計に息苦しさを増させるだけだった。


 「離せ…!このデカブツ!!」

 「そのデカブツからも逃れられない今の貴女は最高に惨めですよぉ!」


 巨漢の首を絞める力はさらに強まり、メリカの抵抗する力は段々と失われていく。


 「ク…ソ…!」

 「今の貴女の、その苦悶の表情…凄くそそられます。その顔の方がとても可愛いですよ」


 その言葉にゾッとする何かを感じたメリカは抵抗を強めるが、現状を変えることは無い。

 メリカの暴れる様を見て、巨漢はより一層口角を引き上げる。


 「一瞬で首の骨をへし折ってあげます。出来る限りその顔のまま息絶えてください」


 死。この一文字がメリカの頭を塗り潰す。

 その時、巨漢は勝利と仕事終わりの楽しみを確信した。

 それと同時に、第三者の声が耳に届く。

 

 「人の工房メチャクチャにした挙句に子供を殺そうだなんて、見下げ果てた奴だね。そんな下衆には、コレがお似合いさ」


 その言葉を言い終わると同時に、キエラの工房から何かが飛んできて、巨漢の背に深々と突き刺さる。


 「な“あ”?!!」

 「ワオ!結構刺さるねこれ!」

 「なんのこれし…き?!」


 巨漢が背中のモノを取り除こうと手を伸ばすが、それよりも早く巨漢の背中から細い木が生え出しす。

 驚く暇もなく、次の瞬間には背中のと同じ木が巨漢の胸を突き破って出て、血が飛び散る。


 「ぐおわああああああああ??!!!」

 

 余りの衝撃と激痛に、巨漢はメリカを手放し、地面に倒れ込む。

 最初こそ血が噴出したが、直ぐにそれも止まり、巨漢の顔からどんどん血色が失われていく。

 メリカも目の前の光景のインパクトと凄惨さに、柄にもなく腰を抜かしてへたり込んでいる。


 「なん…なんだ…ゴフッ…これは…」

 「ゲホッ!ゲホッ!…何よこの木…」

 「まだ息があるのは大したもんだね。そいつは木に擬態するモンスター『トレント』の若木を加工して作ったスローイングダガーだよ。若木のトレントは自分に少しでも触れた動物や小型のモンスターをこうやって捕まえて自分の養分にしちまうのさ。加工に苦労した自慢の一品、とくと味わいな」

 

 トレントは木に擬態するモンスターで、目の前を餌が通ると枝と巨大な口を活かして一気に捕食する。木への擬態による発見の難しさ、それにより民間人に被害が広がりやすい点、捕食方法の残虐性、生息域拡大の速さ、必ず複数体が小範囲に居る事などから危険度D+、プロと呼ばれ始めるDランク冒険者4〜5人で対処できるとされている。とは言ってもトレント自体は攻撃範囲外から炎で燃やす事で簡単に倒せる。

 トレントの若木は根本を勢いよく叩き切って仕舞えば、捕まる前に仕留められるので対処が難しくないが、成長したトレントの様に顔がついてるわけでは無いので、発見は通常のものより難しい。

 

 「たかだか…D+…の…トレント…ごときに…!!」

 「その言葉が聞けて嬉しいよ。魔道具師にとっちゃ素材を最大限以上に活かせた証明でもある」 

 「この俺は…元…冒険…者ラン…」


 最後の言葉を言い切る事もなく、巨漢は力尽きた。

 巨漢から生え続けていた木は伸びるのをやめ、根本から灰になって消えた。


 「燃え…いや灰…え?」

 「育ちすぎて新たなトレントにならない様、一定時間経つと中に組み込んだ火属性の魔石がトレントを灰にするのさ。この機構を組み込んだせいで値段がバカにならなくて売れないんだよね」

 「スローイングダガーって消耗品なのに…」

 「それに一定時間経つと消えるから、大型で体力のあるモンスターには全く効かない、ほぼ対人用の武器さ」

 「えっぐ…」


 キエラの発想にメリカが引いていると、遠くの方から知っている声が近付いてきた。


 「メリカさん、キチンとお使い出来てるでしょうか…」

 「大丈夫ですよアシリカさん。どこかでカツアゲしてる筈も無いでしょうし」

 「そんな心配はしてませんよ。ただ、キエラさんと言う方に失礼な事を言って怒らせてないか心配で…」

 「大丈夫ですって。流石にお使い先にカツアゲはしてませんよ」

 「だからカツアゲの事は心配して無いですよ」


 タリアの家で待っていた筈のアシリカと嵯峨徒がゆっくりと歩いてくる。2人はメリカがこの先にいるとまだ気付いていない。

 メリカはというと戦いの疲れは何処へ行ったのか、額に青筋を浮かべている。


 「あれ?あそこに居るのって…」

 「あら、メリカさんじゃ無いですか。なんでそんな所に…って、え?」


 2人が道路に座るメリカを見つけるが、その奥に血まみれで倒れている巨漢を見つける。

 身体中に穴が空いて絶命している様は、改めて見て中々にショッキングだ。


 「きゅぅ…」

 「アシリカさん!大丈夫ですか?!」

 

 結構ショッキングだったのでアシリカが倒れそうになり、慌てて嵯峨徒が支える。


 「ちょっとメリカさん!ぼーっとしてないで手伝って下さい!…って、メリカさんもボロボロじゃ無いですか?!」

 「嵯峨徒?カツアゲが何だって?」

 「あ」


 嵯峨徒がしまったと言うように口を覆う。その際にアシリカを支えていた手で覆ってしまったので、アシリカはそのまま地面に落ちる。


 「「あ」」


 ゴチンという音が見えそうな勢いで地面に頭が激突し、アシリカはそのまま意識を取り戻す。


 「痛!」

 「ご、ごめんなさい!つい」


 嵯峨徒が必死に謝りながらアシリカの頭のぶつかった所をさする。


 「いえ、この程度であれば回復魔法で治りますからお気になさらず…イタタ…」

 「ごめんなさい〜」

 「ごめん、手を掴むのが遅れた」

 「って、メリカさんも血だらけじゃ無いですか!」


 アシリカは自分の頭にできたタンコブのことをすっかり忘れて詠唱を行い、メリカに回復魔法をかける。


 「うう…今の私じゃこの程度の応急処置しか…」

 「コレで十分よ、助かるわ」

 「それはそうと、これはどう言う事ですか?壁に穴は空いてるし、人は死んでるし。あと、この女性の方は?」

 「ああ、コイツは…」


 キエラがメリカの頭にゲンコツを一つお見舞いし、メリカは悶絶、2人はギョッとする。


 「人のことをコイツ呼ばわりとはやっぱりクソガキだね。私が慈愛の優しさを持ってなかったら、今ごろ半殺しにしてた所だよ」

 「だからと言っていきなりゲンコツは無いでしょクソババア!」

 「ふん!」


 再度ゲンコツを振り下ろされ、またもメリカは悶絶する。

 キエラはそんなメリカをよそに、2人に向き直る。


 「私はキエラ。魔道具売りを生業としてるわ」

 「あら。貴女がキエラさんでしたか。私はアシリカと申します。アルター教に入信している僧侶です」

 「初めまして、嵯峨徒春芽と申します。倭ノ国から来た剣士です」

 「あらあら、ご丁寧にどうもねお嬢さん方。こいつの連れだからどんな礼儀知らずかと身構えちまったよ」

 

 キエラの言葉に2人とも顔を見合わせ苦笑する。


 「メリカさんがどうもすみません…」

 「まあ元気なのは悪いことじゃないから良いさね。ははは」

 「元気が有り余ってるといいますか…あははは…」

 「せっかく暴漢から守ったのにこの仕打ちって何なのよ…」


 悶絶しながら愚痴るメリカにキエラは近付き、巨漢の方を指差しながら言う。


 「じゃあ尋ねるけど、私のところから『ランデュニーレコンの紅角』と『呪傷丸』をくすねた事はどう言い訳するんだ?」


 キエラの指摘に、メリカはそっぽを向く。


 「別に盗むつもりは無かったわよ。緊急事態だったし、近くにあって使えそうなのがこの2つだっただけで…」

 「こっち向いて喋りな」


 キエラはメリカの頭をガシッと掴むと、そのままメリカを正面に向かせる。


 「『渡り鳥の寝床』にある数ある魔道具・モンスター素材の中でその二つを咄嗟に選んだ『勘』と、使いこなした“センス”は大したものだわ。けど貴女がすべきだったのは、こんな危ないシロモノを手に取ることじゃなく、衛兵に通報すること。戦うことじゃない」

 「その衛兵は冒頭で戦いに巻き込まれてノビてるわよ…じゃなくて、あの状況で1人逃げろってこと?!」

 「相手が自分より強かったのは明白だったはずだろう?冒険者として、勝ち目のない相手を前にして逃げるのは立派な生存戦略だわ」

 「そんなこと分かってるわよ。アンタこそ、私がいないのにどうやって自分の身を守つもりだったわけ?!」

 「一々大声出すんじゃないよ。私には私なりの策がある。子供に心配されなくても問題無いのよ」


 キエラの結論にメリカは押し黙る。子供扱いされるのは腹が立つが、これ以上何を言っても無意味に時間が過ぎるだけだ。


 「最後に、コレだけは言わせて」


 そう言うと、キエラはメリカの頭から一度手を離し、優しくメリカの髪を撫でた。


 「助けてくれてありがとう。お陰で助かったわ」

 「…どういたしまして…」


 そう言うメリカの顔は、恥ずかしいのか少し赤くなっていた。

「メリカさんが珍しく恥ずかしがってますね、アシリカさん」

「それを言っちゃうと怒られますよ?」

「それはそうと…タンコブ治さないんですか…?」

「…言われたら痛みが蘇ってきました…アイタタタタ…」

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