学園編① 〜編入〜 幻の術師
「いやはや、お手伝いが居るって楽チンですわね♪」
日は既に落ち、都市全体にある明かりの魔道具が役立つ現在、新人研修を受けている(はずの)3人は部屋で家事に従事している。アシリカは椅子に座るタリアのマッサージ、メリカは炊事、嵯峨徒は掃除だ。
ここは市民区画にあるタリアの住まいだ。赤い半丸の瓦で覆われた切妻屋根が特徴的な二階建ての庭付きハウスであり、一人暮らしというにはだいぶ豪華である。1階はリビングとダイニングキッチンがある、いわゆる1LDK。2階は丸々タリアの私室、あとは屋根裏に物置スペースが少々。
「アシリカさん。肩はもうちょっと強く揉んで下さいな。ここ最近事務作業ばかりで肩凝りが酷いのですの」
「は、はい…」
「あ、嵯峨徒さん。リビングの掃除が終わったらお花に水をやってくんなし」
「か、かしこまりました…」
「メリカさん!お皿を洗う音がうるさいですわよ!もっと静かにやってくんなし!」
「こいつ…気をつけますヨォ…」
とまあ、絶賛顎で使われている真っ最中である。
「それにしても、フルヘンシオ様が話のわかる方で助かりましたわ。お陰で、こうやってお仕事を任せられるんですもの♪」
「うう…大事なレポートがぁ…」
「そのリカバリーはしてくれるって話だから安心しなさいな♪」
今日から一週間、アシリカ・メリカ・嵯峨徒の3人はタリアの家で暮らすことになっている。タリアの家は市民区画の中でも冒険者区画に近い場所に建っており、かつ新人研修は主に冒険者ギルド内で行われる為、寮よりも冒険者ギルドへのアクセスが良いタリアの家が好都合なのだ。
「なんで私達がこんなコト…」
「あ〜〜〜〜〜ら、メリカさん???事前に申し上げましたけど、私に捕まったら何でも言うことを聞くのでは無くって??」
「頷いた覚えは無いわよ…!」
「だったら逃げてごらんなさい?すぐに捕まえて差し上げますから」
「ぐぐぐぐ…」
因みにここで家事をやらされてから、既に両手では数えられない位にはこのやり取りが繰り広げられている。
逃げきれないことはメリカも重々承知しているため、心の中で悪態をついて少しでも溜飲を下げようとする。すると、メリカが食器を洗っている最中に蛇口から水が出て来なくなってしまった。
「…あれ?魔道具が壊れた?」
「ああ。メリカさん、それは中に入っている魔石が使えなくなっただけですよ」
「そんなのどうやって取り外しするのよ」
「あらら。しばらくは大丈夫かなと思っていましたけど、やっぱり粗悪品を掴まされましたわ」
タリアがウンザリした様子でキッチンに歩いてくる。
「粗悪品?」
「そ。ちょっと待ってて下さいな」
そう言うとタリアは手慣れた手つきで蛇口をキッチンから取り外し、その蛇口を即座にバラバラにして中から正八面体の形をした青色の小さな宝石を取り出した。その様子をアシリカはまじまじと見つめる。
「これは?」
「水属性の魔石ですわ」
「へぇ〜…これが属性持ちの魔石ですか…」
アシリカは興味津々といった様子でタリアの持つ魔石を眺める。
「そうよ。もしかして、今までただの魔石しか見たことが無いのかしら?」
「そうですね。普段相手にするのはゴブリンやスライムといった最低ランクのモンスターですので」
「もったいないわね。貴女達ほどの腕を持つのならもっと強いモンスターと戦った方が良いですわ。属性持ちの魔石はいつだって足りていないのですから」
「頑張ります」
笑うアシリカを見た後、タリアは自分の手にある魔石に目を落とす。
「やっぱり、魔道具に関しては彼女が一番ですわね…それに比べてあのチビハゲときたら…」
そう愚痴を漏らすと、魔石をポイッとメリカに投げて寄越す。
「ちょっ?!危ないじゃない!」
「何度も逆らおうとした罰ですわ。その魔石を持ってキエラの元に行ってちょうだい」
「は?」
「お使いよ、お使い。頼んだわよ」
言うべきことは言ったとばかりにタリアは椅子に座り、アシリカにマッサージを再開させた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!そのキエラって誰よ!」
「分からないのならその辺の人に訊いてくんなし」
そういうとメリカは家から追い出された。
「あんのクソ金髪縦ロール…!帰ったら覚えときなさい…!」
そう言いつつも、言われた事をこなさないと何をやらされるか分からない以上、仕事はするしかない。いやいやながら、男の冒険者を捕まえて訊ねる。
「ねえ」
「ん?どうしたお嬢ちゃん?」
「キエラのところに連れて行って」
「キエラ?あの幻の術師にか?」
「幻???」
「なんだ、その様子だと知らないらしいな」
「知らないわよ」
思えば、ウルベモルティスにユナ達が来てから3ヶ月強が経つが、あまり外に出た事はなく、噂話もあまり知らない。
「そうかい?まあそれはともかく、キエラってのは凄腕の魔道具職人の事だ。んで、彼女の作る魔道具は低燃費かつ性能も高いという優れものばかりらしい」
「へ〜〜〜。で、らしい、ってどう言うこと?」
「そりゃお嬢ちゃん、俺なんかが魔道具なんていう高級品を持ってると思うか?」
「いいえ」
「はっきり言うなや。ま、だから噂程度のことしか知らん」
「使えないわね。で、他に知ってる噂はある?」
「う〜〜ん…そうだな…なんでも、超がつくほどの子供嫌いらしいな」
なんという事でしょう。子供であるメリカにとって最悪の相手でした。
「最悪…」
「なんだ?お使いでも頼まれたのか?」
「ええ、そんな感じ」
「じゃ、俺からは頑張れとしか言えんわ」
男の言葉に、メリカはがっくりと肩を落とす。
「そうらしいわね…はぁ。ご苦労さん。もう行って良いわよ」
「俺は別に良いが敬語は使えるようにしておけ?」
「余計なお世話よ」
「はいはい」
やれやれと言った手振りをしながら男は離れて行く。やがて男が居なくなったのを見計らい、近くにあった小石を蹴った。
「クソ金髪縦ロール…子供嫌いって知ってて私をお使いに出したのね!下手したら門前払いくらって、ハイお終い、じゃない!それに何が幻の術師よ!そんなに有名人なら店の場所くらい把握しときなさいよ!ああ、もう!ムカつく!」
愚痴を吐き出す程イライラが溜まってきたのか、メリカは小石を先程よりも強く蹴り飛ばす。
小石が何回か跳躍するのを見ていると、突如、後ろから強い衝撃を受け、メリカは前のめりの形で勢いよく倒れた。
「いっ…!」
「おいおいクソガキ!誰がムカつくってぇ??えぇ?!」
背中の痛みと腕の擦り傷を我慢しつつ振り返ると、そこに居たのは片手に酒瓶、もう片手は相方の肩の上という状態で千鳥足で歩いている二人組。片方の髪は緑色でモヒカン、もう片方の髪は青色でリーゼント。どちらも顔が赤くなっており、酔っていることが窺える。
「誰もアンタらなんかにムカついてないわよ!」
「『アンタらなんか』だぁ?おいおい、目上への口の利き方がなってねえなぁ」
「敬語を使って欲しかったらもっとそれらしい振る舞いをしなさいよ!大体ねぇ!」
そしてメリカの罵詈雑言が始まる。が、二人組は特に聞きもせずに顔を見合わせる。
「なあ兄貴。このクソ生意気なガキに礼儀を教えてやるってのはどうだ?」
「そうだな兄貴。この小娘に教育してやらないとなぁ」
二人組は再度メリカを見る。
「そうやってコソコソ話しする所とかが本当に格好悪いし気持ち悪いのよ!」
「しかし、よくもまあこんなにポンポンと悪口が出てくるなぁ、兄貴よ」
「貧民街出身かねぇ、兄貴」
「ちょっと聞いてるの?!」
二人組は互いの肩にかけていた腕を下ろし、モヒカン頭がメリカへと近づく。
「はいはい、聞いてる…よ!!!」
そしてメリカの顔目がけて繰り出されるパンチ。突然というほど意外でもないそのパンチ、メリカのガードはギリギリで間に合う。が、パンチの勢いはメリカのガードでは殺し切れず、そのままメリカは壁までぶっ飛び、再度背中を強く打ち付ける。
「あがっ…?!」
「おいおい!差を考えろって、差を!どう考えてもお前じゃ俺のパンチを止められねえだろうが!なあ兄貴!」
「そうだぜ小娘!お前みたいな貧弱者が兄貴のパンチをガードしようなんざ生意気にも程があるぜ!貧弱者は貧弱者らしく逃げ回ってろってんだ!」
倒れたメリカに今度はリーゼント頭が近づき、メリカの腹に蹴りを入れる。ガードも何もできずに入った蹴りは、メリカの内臓にダイレクトに衝撃を伝える。
「っ…ゲホっ…ゲホっ…」
「こんときこそガードしろよなあ!まあ、お前がやっても無意味だけどなぁ!」
痛みに、思わずメリカの目尻に涙が溢れ始める。しかし、その涙をこぼさぬよう、見られぬよう顔を地面へと向ける。が、その努力は無駄であった。
「やりすぎ注意だぜ兄貴!兄貴の蹴りじゃ殺しちまう!見ろ!泣いちまったじゃないか!」
「気をつけるぜ兄貴!さて小娘!まずは謝罪から言ってもらおうじゃないか!『ムカつくなんて言ってごめんなさい』ってな!」
「…誰が…言うか…!クソ野郎…!」
「こいつ…!」
メリカの反抗的な態度に痺れを切らしたのか、リーゼント頭は足を少し後ろに下げた。
「!待て兄…」
モヒカン頭が言い終わるより早く、その場に爆発音が鳴り響く。その音は、少なくとも市街地で聞ける音では無いのは確かだ。その場にいた3人ともが疑問に思い動かないでいると、メリカとリーゼント頭の間の地面から土煙が立ち上る。よく見れば、煙の出どころである地面はわずかにひび割れているのが見てとれる。
「そこまでにしな、オニール兄弟」
「ああ?」
リーゼンと頭が声のした方向にぐわんと振り返ると、そこには先端から煙を出している筒を持った女がいた。女は藍色のフード、半袖で薄灰色、細めのドレスを着用しており、フードからチラリと見える黄色に輝く目が、印象的と言うか神秘的だ。
「酔っ払っているとは言え、まだ15にもなってないような少女を甚振るだなんて感心しないよ」
「…テメエかよ」
「アタシんとことまだお付き合いがしたいなら引きな。アタシは犯罪者と取引する気はさらさらないよ」
そうして女は筒をオニール兄弟の方へと向ける。兄弟は筒を見て、次に女の顔を見る。
「また変なもの作ってやがるな」
「生憎、アンタらの方がずっと変だとアタシは思うけどね」
やがて、筒から出ていた煙は次第に薄れ、やがて出なくなった。
「…アンタと取引できないのは痛い。だがこっちにも、貶されたという理由がちゃんとあるんでな。はいそうですかと引いたら、オニールの名が泣いちまう」
「本当かい?」
女は初めてメリカの方へと顔を向ける。メリカは腹を押さえてゆっくりと立ち上がりながら口を開く。
「言いがかりよ…アンタらがたまたま通りがかっただけじゃない…!」
「けどよぉ!『ムカつく』って言ったのは本当だぜ!」
「まあ待ちな、バカ兄弟。アンタら酔ってて状況をちゃんと把握出来てないでしょ。お嬢ちゃんの言ってることは本当さ。大方ムカつくことでもあったんだねぇ。で、そこに酔ったバカ2人が通りかかってイチャモンをつけて暴行。これが正しいよ」
「ふざけんな!その小娘の肩を持つって言うのかよ!」
リーゼント頭が抗議する。が、女は静かに筒を彼の方へと向けて言い放つ。
「そもそも本当に『ムカつく』と言われたとして、それを理由に少女を殴るってどうなんだい?荷役番のガキが色々くすねて逃げたことには同情するけど、それとこれは別問題だよ」
女はこれで終わりだとばかりに筒を向ける。
「…わーったよ。行くぞ兄貴」
「了解だぜ兄貴」
「こいつへの謝罪と礼は?」
「あ、すまねぇ」
「すまんかった。今度会ったらいいクエスト譲るぜ」
「難しいクエストだったら手伝ってやるよ」
オニール兄弟はそう言い残し去っていった。
「誰がアンタらなんかとっ?!」
メリカからすれば、殴られ蹴られで散々な目に遭ったのにこの程度でチャラに出来るのかと憤慨案件だ。文句を言ってもなんら問題はない。しかしメリカの言葉は、彼女の頭に振り下ろされた筒の衝撃で止められる。
「いった!何すんのよ!」
「黙りな。素行に問題があるとはいえオニール兄弟はBランク冒険者。そんな相手に喧嘩をふっかけるのは賢くないよ」
「でも!」
「Bランク冒険者の協力を得られるって考えたら、採算取れると思わないかい?」
「全然。私の気が収まらないわ」
全くもって同感である。そのことを感じ取ったのか、女は再度口を開く。
「あいつらは一週間前までダンジョンに潜ってたんだ」
「だから?」
「今回はいつもの荷役番が病気で寝込んじまったらしくてね。その病気の材料をダンジョンで集める為に臨時で別の荷役番のガキを雇ったわけだが、そのガキがなかなかのクソガキでね。オニール兄弟の戦利品を盗んでさっさと帰っちまったって訳さ」
メリカは黙って聞く。
「結果、あいつらは材料を見つけられず、そいつの病気は悪化。運よく別のパーティーが材料を調達したのを買い取れて、薬も作れて良かったが…結構ギリギリだったもんで、今そいつは昏睡状態。あの時の荒れ様は見てられなかったよ。お前さんに当たったのもそれが理由さ」
「あっそ。だからと言って、許す気はさらさら無いけどね」
「誰も許せとは言ってないさ。けど、理解はして置いて欲しいさね。お前さんに当たったのも、大事な仲間をクソガキに殺されかけたからってことをね」
「殴られ損じゃない…」
「ま、これからは口調を改めるんだね。それだけで余計な諍いはグンと減るよ」
そう言うと女は立ち去ろうとする。
「私はキエラ。魔道具売りを生業としているわ。縁があったら買いに来なさい。知り合い割引しておくから」
「あっそ。私はメリカ。じゃあね…?」
「じゃあねぇ」
「ちょぉっと待ったぁ!!!」
そのままキエラは歩いて行こうとするが、メリカに手を掴まれたことで止められてしまった。
「何よ、そんなに大きな声を出して」
「あんたが幻の術師のキエラ?!」
「そんなダサい形容詞は知らないけどキエラよ」
「あんたを探してたのよ!お使いで!」
「そうなの?誰のお使い?」
「タリアからこの魔石を預かってるわ」
「見せてちょうだい」
メリカがキエラに預かっていた魔石を渡すと、キエラはしばらく魔石を観察し、時々唸るばかりになった。やがて満足したのか、キエラは魔石をしまいメリカに向き直る。
「お使いありがとうね。で、悪いけど付いてきなさい」
「付いてくって…どこに?」
「決まってるでしょ?私の『アトリエ』に、よ」
そう言うとキエラはスタスタと歩いて行ってしまったので、メリカは慌ててその後を追う。
「ちょっと待ってよ!」
「付いてこないとお使いできなくて大変よぉ〜」
「うぐ…」
「素直で宜しい」
キエラの言葉にイラッとくるメリカであるが、どうにかそのイライラを押し殺し、疑問を口にする。
「さっきから気になってたけど、その筒はなんなの?」
「ああ、これ?試作中の魔道具よ。この穴から小さい球が矢みたいに出てくるって奴」
「それなら矢で十分じゃない」
確かにその通り。わざわざ小さな球にしなくとも、矢の方が殺傷力としては上だ。
「ええ、確かにそうね。けど、これの真骨頂はその球の出る速度よ」
「速度?」
キエラは筒を片手に持つと、もう片方の手で人差し指と親指を直行、残りの指を折りたたんでマークを作る。
「貴女、『銃』ってアンティークを知ってる?」
「ジュウ??何それ?」
メリカは聞きなれない単語に首を傾げる。
「昔あった武器の名前。超高速で小さな球を飛ばせるの」
「へぇ、強そうね」
「でしょ?あまり訓練をしてない人でも簡単に相手を殺せる武器なのよね」
「分かった。アンタそれを作ろうとしてるんでしょ」
メリカは自信満々そうに答えるが、キエラは人差し指を左右に振り、違う事を示す。
「残念ながら不正解」
「ム…」
「私は銃を改良して、より高性能な物を作ろうとしてるの」
「改良?アンタの説明を聞く限りじゃ、改良できそうな点なんて無さそうだけど?」
「欠点は致命的なまでの威力と連射性能、狙いにくさ」
メリカは一瞬、何を言っているのか分からず首を傾げそうになるも、すぐさま聞き返す。
「何言ってんの?人を簡単に殺せる武器なんでしょ?」
「人は簡単に殺せるわ。だけど、それは生身の人、と言う条件が付くわ。鎧を着た相手に射っても跳ね返ってお終いなの。それに、ちょっと硬い部位をもつモンスターなんかにも効かないわね」
なるほど。モンスターが跋扈するこの世界でこの欠点は致命的だ。それだったら威力ある魔法で事足りる。
「それ本当…?だとしたらとんでもない欠陥品じゃない。で、連射性能って?」
「銃は筒の先から火薬を入れて、その次に出す球を入れて、火をつけて射ち出す。簡単に言えば小さい大砲よ」
「へぇ〜…確かに早く射て無さそう。似たような理由で狙えないってわけ?」
「ええ、そうよ。射つ時の反動が強くてね。少し離れると全然当たらないのよこれが」
キエラは肩をさすりながらそう言う。
「そんなモノをなんで改良しようだなんて思ったのよ…」
「さあ。ビビッと来たから、としか言いようがないわね」
そう言うキエラに、メリカは呆れた顔を向けた。
「こんなのが凄腕…??」
「これだからガキは嫌いなんだよ。馬鹿らしいことしかしない癖に、他人のことはすぐに馬鹿にする」
メリカの額に青筋が浮かぶ。ガキと言われたことにご立腹なようだ。
「生憎、私は普通のガキとは違うの。今の今までそんなことしたことないんだけど???」
「私からみれば大体同じだよ、ガキ」
額の青筋の本数が増える。
「ほーら、見る見る顔が赤くなってく」
「こんのぉ…」
「はいはい、おしゃべりはこれまで。そろそろアトリエに着くわ」
「…やっと?」
「そんなに歩いてないでしょうが。あ。そうそう。これだけは言っておくわ」
「何?」
前を歩いていたキエラはメリカの方へと振り返る。
「アトリエの道具に指一本でも触れたら殺すから、注意しな」
「…はい」
キエラのあまりの迫力に、メリカも思わず敬語で返してしまう。
「ここの路地よ」
そのまま少し歩くと、開けた場所に出た。その場には、一目でも目を凝らしてもアトリエとはとても呼べない極々ふつうの一軒家がぽつんと建っていた。
「ようこそ。私の工房『渡り鳥の寝床』へ」
「兄貴、俺たちやり過ぎたんじゃねえか?」
「そうだな、兄貴。酔ってたとはいえ、殴る蹴るは無えわ」
「なあ兄貴よ。どんな謝礼を送るべきなんだろうな」
「さあな兄貴。最低限、何かあったら助けるくらいはしないとな」
「分かった!今度最高級のぬいぐるみを渡そう。それで何か手を貸すためのとっかかりを作るんだ」
「なるほど!まずはそこからだな!」
「よし!そうと決まったら市場調査だ!今流行りのぬいぐるみを徹底的に洗い出してやるぜ!」
「待ってやがれぬいぐるみ!」




