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光と闇 〜終わりの始まり〜  作者: シラス王
学園編
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学園編① 〜編入〜 薔薇vs桜花

お久しぶりです。色々立て込みまして、投稿がとても遅れてしまいました。これからもぼちぼち頑張りますのでよろしくお願いします。

 「本気を出さない…?仰ってる意味が分からないのですが…」


 嵯峨徒には意味が分からない。少なくとも自身は、腕に強烈な痺れを覚えてるし、額からも汗がとめどなく出ている。万人が見れば万人が、本気を出した筈だ、と言うだろう。実際嵯峨徒も本気で戦ったつもりだ。


 「言葉が足りませんでしたわね。何故刀を持ってないのです?」

 

 倭ノ国にいる『侍』はとても強く、独特の武器である『刀』を用いて戦う事で本領を発揮する事は冒険者界隈では有名な小話だ。また、嵯峨徒が倭ノ国出身と言うことは既に冒険者ギルド内にて知られており、本来は刀を使うことも知られている。

 タリアにしてみれば、自分という格上を相手にしておきながら死力を尽くさ無いことに疑問を持たずには居られない。

 嵯峨徒はタリアの問いに一瞬考えた後答えた。


 「…私にとっての得意武器が剣だからですよ。刀なんかじゃなくてね」

 「刀なんか…ねぇ〜…」


 若干言葉に棘がある事に違和感を覚えるが、今は関係ないとタリアは一旦忘れることにする。


 「ま、得意武器であるのなら文句はありませんわ」


 そう言って鞭を振ろうとしたタリアだったが、鞭が動かないことに気がつく。見ると、嵯峨徒が鞭を剣で地面に固定したままだった。


 「…その剣をどけて下さらない?鞭が振れませんわ」

 「ようやくの思いで封じることが出来たんです…そう易々とは解放しません」

 「…生意気な子猫ちゃんね…」


 しばらく2人は互いを見つめた。嵯峨徒は少しでも時間を確保して体力を回復させる為に、タリアはどう虐めようか考える為に。やがて、ある程度体力を回復させることのできた嵯峨徒が口を開いた。


 「先ほど…」

 「はい?」

 「私のことに関しての質問に答えましたよね?でしたら、私も質問を一つ、よろしいですか?」

 「あら?その前にも貴女は私に質問していたと思うのですが…まあ、減る物ではありませんわね。どうぞ」

 「タリアさん、貴女本当に何者なんですか?とても一介の受付嬢とは思えないのですが…」

 

 嵯峨徒の問いにキョトンとした後、タリアは口を開く。


 「なんだ、そんなことですの?てっきり、他にどんな隠し球を持っているんだ!とでも訊かれるかな?と思ったのですがね」

 「確かにそれも気になりますけど、訊いても答えないでしょう?」

 「ええ。わざわざ敵に奥の手を教えて窮地に陥る趣味はありませんもの」

 「…で?どうなんですか?」

 「ああ、本題はそっちでしたわね」


 タリアは一呼吸置いてから口を開いた。


 「私は元冒険者。貴女方の先輩にあたりますのよ。もっと敬意を払って欲しいですわね」


 やはり、と嵯峨徒は心の中で納得すると共に、警戒心をこれまで以上に強める。冒険者を辞める以前のランクは言われなかったが、冒険者ギルドにて現役Bランク冒険者であるバルガスと対等に言い争っていたことから、最低でもBランクであったことが予想できる。

 Bランクは今の嵯峨徒からすれば雲の上の存在であり、勝ち目もなければ、逃げられもしない。


 「敬意を払って欲しかったら、もっと後輩に花を持たせてくれるような優しい先輩であって欲しいです」

 「あらあら、私は十二分に貴女達に花を持たせているつもりですわよ?ただ、貴女達の手に私の花は重すぎたようですわ」


 軽口を叩きつつ、嵯峨徒は攻略の糸口を考える。

 タリアの武器は鞭。その長いリーチを活かした中距離の連続攻撃を得意とするが、間合いに入られるとほとんど使い物にならなくなる、使い手は多くない武器種だ。また、タリア自身の身体能力も充分に脅威だ。

 対する嵯峨徒の武器は剣。汎用性が高く、近距離での戦闘を得意とする。この世界で最も使い手が多い武器種であろう。嵯峨徒の身体能力は並の大人には勝るが、目の前のタリアに敵うとはお世辞にも言えない。

 一見、嵯峨徒は絶体絶命の窮地に陥っているかもしれない。しかし、この戦いでの嵯峨徒の勝利条件はタリアの撃破ではない。日の入りまで捕まらなければ良いのだ。

 既に空は橙色から藍色に変化しつつある。あと半刻も凌ぎ切れば嵯峨徒の勝利だ。それを悟ったタリアは心の中で舌打ちする。


 「…あまり時間は残されていませんわね。良い加減離してくださらない?」

 「生憎、わざわざ敵を自由にして窮地に陥る趣味はないので却下です」


 嵯峨徒の言葉を聞きタリアは僅かに顔を顰めるが、何かよからぬことを思いついたのか口角を少しばかり上げて口を開く。


 「…確かに、このまま私の鞭を抑えておけば貴女の勝利ですわ、サガトさん。若輩ながら見事です」

 「…どうも」


 唐突に嵯峨徒をタリアは褒めた。急に褒められた嵯峨徒は警戒心を強める。

 

 「“貴女の勝利“ですけど、お二人は捕まったままですわよね?」

 「…何が言いたいんです?」

 「私、この鬼ごっこが終わったらして貰いたい仕事が沢山ありますの。けどそれは、3人捕まえたと仮定しての仕事…けど捕まえたのは2人…お分かり?」

 

 タリアの真意を悟り、嵯峨徒は動揺する。


 「まさか…」

 「ふふ、そうですわ。このままだとお二人、しないといけない仕事が増えてしまいますわよ?お仲間が自分のせいで苦しい思いをするだなんて…貴女は嫌でしょう?」


 なるほど、これは性格が悪い。嵯峨徒の善意に付け入ろうとするとは。


 「…だから降伏しろと?」

 「それが最善ではありますけど、それじゃちっとも……いや、それもそれで悪くはないですわね…」

 「早く要件を言ってください」

 「おっと、失礼いたしましたわ。私から貴女に、お仲間を解放するチャンス、というものを差し上げますわ」


 見るからに怪しい。嵯峨徒も重々承知しているようで、押さえつける力を強める。


 「そんなに警戒なさらないでおくんなし。とっても簡単な条件ですわ」

 「…それは…?」

 「私に一撃入れることができたら、お仲間は解放、鬼ごっこも貴女方の勝利ですわ」


 提示された条件はかなり嵯峨徒たちに有利なものであった。仮に一撃入れたとて、解放してすぐさま捕まえられる、というパターンも考えられたが、一撃入れた時点で勝利ならその心配もなくなる。

 最も、全ては一撃が入れば、の話だ。そもそも一撃入れるためには、この拘束を解除しなければならない。体力も集中力も回復したとはいえ、あくまでそれは鞭の連続攻撃を防ぐまでの話。鞭の連続攻撃を掻い潜って一撃加えるとなると、難易度は格段に跳ね上がるし、そもそも出来るのなら既にやっている。しかし、やらねばならない。やらねば捕まった2人にどんな重労働が課せられるかわかったものではない。

 嵯峨徒は意を決し、押さえつける力を緩めた。


 「ふふふ…倭ノ国の戦士の力…楽しませてくれることを期待しますわね!」


 そう言うや否やタリアは、鞭を引き戻して振るい、嵯峨徒はこれまで通り弾こうとする。しかし弾いた瞬間、嵯峨徒は脇腹に衝撃を感じるとともに横に吹き飛び、壁に激突する。


 「カハッ…!?」


 感じる激痛を我慢しつつ顔を上げると、両手に鞭を持ちうっすらと笑みを浮かべるタリアの姿が目に映った。そして嵯峨徒の頬には、うっすらと冷や汗が流れる。


 「まさか…二刀流…?」

 「当たり。鞭一本だけじゃ、攻撃しても延々と弾かれるだけ。これじゃつまらないですわ。だからもう一本、出しちゃったと言うわけですわの♪」


 嵯峨徒の脳裏に絶望の二文字が浮かびあがる。

 先ほどまで、嵯峨徒にとっては重すぎる攻撃を、腕にたまる痺れを我慢して弾き続け、それで精一杯であったのに、これからはさらに多くの攻撃を弾かねばならない上、同時にきた場合は嵯峨徒の技量では捌ききれない。さらに、今は攻撃を掻い潜って一撃入れなければならない。


 「逃げたければ逃げて構いませんわ。冒険者たるもの、引き際を見極めることも重要ですわよ?」


 嵯峨徒は脇腹を抑えながらゆっくり立ち上がる。大丈夫、まだ動けると、自分を鼓舞する。


 「…おやおや。まだ動きますか」

 「当然です…」


 嵯峨徒は目を閉じ、剣を構え直す。勝機はこの技にしかない。そう嵯峨徒は確信していた。


 「諦め、ではありませんわね。良いですわ。この攻防で決着をつけましょう」


 場を緊張感が包み込む。嵯峨徒とタリア…両者ともに微動だにしない。捕まったアシリカとメリカもまじまじと2人を見つめ動かない。遠巻きに見ている観客も動かない。皆一様に、勝負の行く末を黙って見ている。

 きっかけは、一枚の羽だった。下界で起きている戦いなど我関せずとばかりに飛ぶ一羽の鳩。その鳩の体から抜けた一枚の羽毛はヒラヒラと滑空し、やがて道にふわりと着地した。

 その瞬間、タリアが両手の鞭を振るった。振るわれた鞭の先端は容易に音の速さを超え、不可視の攻撃となって嵯峨徒に襲い掛かる。しかし嵯峨徒は動かない。すぐに鞭は嵯峨徒のすぐ近くまで接近する。そして彼女の肉を抉ろうとした次の瞬間、嵯峨徒の剣が鞭の腹を撫で、鞭は少しずれて結局嵯峨徒の肌に肉薄して過ぎ去っていっただけだった。直後、もう片方の鞭が嵯峨徒に襲い掛かる。しかしその鞭もまた、先ほどと同じようになるだけだった。


 「…大和桜花流・飛花の閃き」


 嵯峨徒の放った技は、冒険者ギルドにてバルガスの攻撃をカウンターする為に使った技だ。似たような技に『桜河斬』があるが、桜河斬は正確には防御するための技である。カウンターとは少し違うのだ。しかし、今はカウンターしたというより、攻撃を受け流したように思える。

 その不自然さに違和感を覚えつつも、短期決戦で勝負を決めたいタリアは連続攻撃を仕掛ける。その速度は、そこそこの実力を持つ冒険者でも目で追うのがやっと、というものだ。新人冒険者…ましてや子供に向けて放って良いものではない。その為、タリアとしては最低限で済ませて早めに降参して貰いたかった。しかし、次の瞬間には誰もが予想だにしなかった光景が、その場にいた全員の目に飛び込んだ。

 タリアの放つ鞭は全て嵯峨徒に命中することはなく、ただ嵯峨徒のすぐ側を過ぎ去るのみ…いや、この表現は正しくない。確かにそう見えるのは事実だが、現実は少し違う。

 嵯峨徒は襲い掛かる鞭に剣を添え、最小限の力で鞭の軌道を変え、少しずつタリアを目指して歩んでいる。彼女はまるで風に揉まれる花びらのように柔らかく、それでいて鋭く動く。

 ヒラヒラと宙を滑空する花びらは、勢い良く突き出した拳が作る空気の流れにより、拳の脇に逸れる。拳を連続で繰り出そうとも同じ結果になるだろう。

 

 「飛花の閃き…あれはカウンター技では無かったのですの?」


 嵯峨徒は問いに答えない。なぜなら、答えは既に目の前にあるからだ。タネに気づいたタリアは面白そうに笑う。


 「…いえ。カウンター技であることに違いはないですわ。ただそれを連続して行ってるだけ…私の鞭をカウンターし、次の鞭にそのままカウンターへと繋げる…どちらかと言えば受け流しに近いですわね」


 タリアは嵯峨徒の動きを評価し、感心した。


 「それにしても…見事と言わざるを得ないほど、柔らかい動きですわ。はっきりと申し上げますと、私は貴女のことをみくびっていました。この連撃を凌ぐだけなら出来る人は大勢いますが、流れるように、となるとそうはいませんわ」


 そう言いつつもタリアは連撃を止める様子を見せず、嵯峨徒の動きも少しも鈍らず、少しずつ確実にタリアに近づいている。


 「その歳でそれ程までの技量を身に付けた努力…きっと私では想像もつかぬ過酷なものだったことでしょう」


 いつの間にか、嵯峨徒はタリアを自身の剣の間合いに入れるまでに接近していた。そして連撃の嵐の中に、一点の隙を見出す。


 「勝機!」

 「けど…」


 嵯峨徒は今度こそカウンター技としての『飛花の閃き』を放った。そこに手加減などというものはなく、当たれば誰しもが致命傷になりかねない一撃だった。

 そう。当たれば。

 嵯峨徒の渾身の一撃はタリアの鞭の持ち手により、金属がぶつかり合う音と共に防がれた。


 「え…」

 「努力は認めますが、経験が圧倒的に不足してますわね。目線、殺気…これらのお陰でどこを狙っていたか初めから丸分かりでしたわ」


 その言葉とともにタリアは嵯峨徒の剣を持ち手で弾くと、一瞬の内に嵯峨徒を組み伏せた。


 「はい、最後の子猫ちゃんも捕まえましたわ」


 わあ!と観客から歓声が上がる。


 「あー!惜しい!」

 「今のは大人気ないだろタリアさん!」

 「あ“あ”あ“あ”あ“あ”!俺の銀貨があ“あ”あ“あ”あ“!」

 「大穴狙いすぎだったな。タリアさんはそう甘くはねえ」

 「タリアお姉様〜♡」

 

 流石に3人の勝利で終わると考えていた者はあまり居なかったらしい。


 「…完敗です」

 「潔くて宜しいですわ。力の差は充分に理解できたようですわね」


 3人とも刻々と頷く。それを見て満足したタリアは嵯峨徒の拘束を解き、3人の元に帰す。


 「では、貴女方の動きを簡単に評価しますわ」

 「評価…?」


 メリカが首を傾げる。


 「必要なことですわよ、メリカさん。『新人研修』はもう始まってますのよ。これから一週間毎日、その日ごとに評価を行いますわ。今の自分達に最も必要な物は何か、よ〜く見極めてくんなし」


 タリアは一呼吸置いてから評価を始める。


 「まずはアシリカさん。後方支援タイプの貴女にとって、この鬼ごっこは不利な物でしたわ。ただやはり、他の二人と比べて体力の無さが目立ちますわね。実際の戦場では自分が思ってる以上に、立っているだけでも精神や集中力だけでなく体力も消耗しますの。戦闘になれば少なからず動く必要がありますから、さらに消耗しますのよ。いくら後方とは言えそれは変わりませんわ」


 そう言うとタリアはアシリカの持つ杖を指差す。


 「それに、貴女はバフ・デバフだけでなく、回復も出来ると聞きましたわ。つまり、貴女はパーティーの中で最も欠けてはならぬ存在ですの。貴女が倒れればそのパーティーは崩壊してしまうわ。ですから、味方は貴女の周りを極力安全な場所にしなければなりませんですの」


 だがしかし、とタリアは続ける。


 「戦場は刻一刻と生き物のように変化しますわ。敵側があらぬ方向から奇襲を仕掛けてきたり、そもそも敵の攻撃範囲が広すぎたり。絶対に安全な場所なんて物は存在しませんもの。ですから、臨機応変に貴女は移動して安全圏を確保しなければならないのですわ。お分かり?」

 「はい…」


 アシリカは頷く。実際、体力不足は彼女自身も克服したいと考えていた問題だ。


 「あと、貴女の支援魔法は見事な物でしたわ。非常に丁寧で、掛けられた方の負担も最小限に留められていた事でしょう。勿論、これまで支援特化で訓練していたとは思いますが、あのレベルの支援魔法を扱える方は、私もこれまでで数人程度しか見たことがありませんわ。これならわざわざ研修で鍛える必要はないですわね。お陰で、貴女の訓練は当初考えていたより少しは楽になりそうですわ」

 「お、お手柔らかにお願いします…」


 そう言い、タリアは加虐的な笑みを浮かべ、アシリカは縮んでしまう。


 「さて、次にメリカさんですわ」

 「早く終わらせてよね」

 「メリカさん…!」


 実力差を思い知ったはずなのにキレッキレのメリカに、アシリカは悲鳴をあげる。鞭が飛んでくるのはごめんだ。


 「色々言う前に、貴女は少し相手に愛想良くする事を覚えた方が良いですわね」

 「は?なんで愛想良くしないといけないの?」

 「少なくともしないよりは、貴女の為になりますもの」

 「はいはい。どうせ、敵を作りやすいんだ、とか、喧嘩を周りにふっかけ回ってるようなものだ、とか言うんでしょ?悪いけどその手の説教は聞き飽きたの」

 「あらら。嫌われましたわね。まあ、交渉仕事は他二人がやりそうですので、解決を急ぐ必要はないですわね」

 

 その回答にメリカは満足したのかトゲトゲした雰囲気を引っ込める。


 「じゃあ、評価の方ですけど…メリカさんは良くも悪くも、これといって言うことがないですわね。良く言えばバランスが良い。悪く言えば平凡ですわ」

 「ま、予想通りの評価ね」

 「けど裏を返せば、いくらでも貴女の代わりになる者はいるという事ですわ」


 メリカの顔が一気に険しくなる。


 「確かに戦士にしてはすばしっこい印象がありましたけど、それだけですわ。戦力という観点において、貴女には唯一性がないですの。私の殺気を耐え抜いた胆力は認めますが、この先の未来で戦力増強をする際、最優先で取り替えられるのは貴女ですわ」

 「っ!!!!」


 断言されて言い返そうとするメリカだが、どう考えても反論の余地がないことしか分からず、押し黙るしかなかった。


 「ですから、この研修で貴女だけの『何か』を見つけたいですわね」

 「…見つけられたら良いわね」


 今のは負け惜しみ、と言ったところだろう。彼女らしいといえば彼女らしい。


 「…で、最後にサガトさんですが…貴女みたいな人は初めてですわ。まさか鬼役の私に切り掛かってくるだなんて…」

 

 だろうね(でしょうね)、と当事者含めその場にいた誰もが思った。 


 「一応、言い訳を聞かせて貰いますわ」


 嵯峨徒は口を尖らせながら言い訳を始める。


 「…だってぇ…鬼に捕まった人を助けるには、鬼退治した方が手っ取り早いじゃないですか。それにタリアさんもやる気満々だったじゃないですかぁ。そもそも、鬼ごっこで鬼を攻撃したらいけないなんて、誰も言ってないじゃないですかぁ」


 間違いか否かを問われれば否だが…これでは鬼ごっこがただの乱闘になってしまう。


 「屁理屈ありがとうございますわ。貴女が脳筋的思考ということがよ〜く分かりましたわ」

 「脳筋とは失敬な!どんな方法が助けられる確率が高いのかな、と熟考した結果です!」

 「熟考という割には結構すぐ切り掛かってきたように見えましたわよ?」

 「判断が早いんです!」

 

 正しく『ああ言えばこう言う』を忠実に再現したやりとりだ。タリアがウンザリした風にため息を吐き、強引に評価へと移る。


 「…はぁ。貴女の取り柄はその自由な発想とそれを実行に移す行動力、そしてそれを可能とする技能の高さですわね」

 

 高評価を貰った嵯峨徒は満足したように胸を張る。しかし世の中、メリットばかりで成り立ってはいない。


 「で・す・が、基礎が疎かになっている様にも見えましたわ。自由が好きで悪戯好きな貴女のことです、稽古もサボりがちだったのではなくって??」

 「ギクッ…」

 「私は貴女の使うヤマトオウカ流に関してはよく分かりませんが、オウガザン(桜河斬)もオウザン(桜斬)も、基礎的な技では無いですの?」


 タリアの問いに嵯峨徒は、そっぽを向きながら答える。


 「こ、高度な技ですぅ…」

 「基礎の技ですわね」

 「ううぅ…」

 「初め辺りで私の鞭を弾くのに使用していましたわよね?その際にかなり消耗していたように見えましたわ」


 嵯峨徒はさらにそっぽを向く…


 「だって…タリアさんの攻撃が強すぎて…」

 「基礎をしっかりと固めておけば、消耗を今以上に抑えられたのではなくって?そうして長期戦に持ち込めば、貴女の勝利も現実味を増したのではなくって?」

 「うぐっ…」

 

 タリアの言葉には何も間違いはない為、嵯峨徒は言い返せず、かと言って認めたくもない為に唸るばかりだ。


 「質問に答えてくんなし」

 「うぐぐぐぐ…」

 「唸ってばかりじゃ何も分からないですわ」

 「…ソウダトオモイマス」

 「何でカタコトなのか気になりますけど、まあ納得したなら良しとしますわ」


 いつかギャフンと言わせてやる。嵯峨徒は心の中で固く誓った。

 

 「それはそうと、明日からよろしくお願い致しますわね、子猫ちゃん達」

 「…」

 「返事は?」

 「…は〜い」


 嵯峨徒は間の抜けた返事を返す。すると、嵯峨徒のすぐ真横に鞭が飛んできた。

 

 「…返事は?」

 「はい!」


 嵯峨徒の上辺だけは従順で元気な返事に満足したのか、今度はアシリカとメリカの方へと顔を向ける。


 「明日から、よろしくって?お二人さん?」

 「は、はい!」


 少しでも機嫌を損ねる真似をしたら鞭が飛んでくるため、非常に素直だ。あの反抗的なメリカでさえ素直に返事している。


 「では、私の家に行きますわよ」

 「はい!、、、、、え?????」

 

 あまりに予想外な言葉に、3人とも戸惑いを見せ、タリアは意地の悪い笑顔を浮かべた。

「う〜〜〜〜〜ん、、、、」

「どうしたのバロル?」

「いや、なんというか…アシリカたちが何かとんでもないことをやらかした気がする…」

「そういえば今日はあまり元気なかったわよね」

「報酬が思ったより少なくて項垂れてたんじゃねえの?」

「あ〜、成る程。割に合わないって気持ちは分かるわ」

「ショウのくせに中々的を得てそうなこと言うじゃねえか」

「色々余計だ」

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