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光と闇 〜終わりの始まり〜  作者: シラス王
学園編
28/34

学園編① 〜編入〜 貧民街にて

一本につき大銅貨2枚の薬が完売(合計1080本)し、合計2160枚、一人につき720枚の大銅貨が入った袋を荷車に乗せ、アシリカ達は貧民街の中を歩いていた。


「いや~…大盛況でしたね」


やり切った笑みでアシリカは語る。


「そうね。完売するなんて思ってもみなかったわよ。誰かさんのお手柄ね」

「アシリカさん、格好良かったですよ」


メリカは間接的に、嵯峨徒は直接的に褒めるが、アシリカは素直に受け取らずに謙遜する。


「わ、私はアルター教聖女候補として当然のことを言っただっけですし…なんたって、お客さんたちを呼び込んだのはメリカさんや嵯峨徒さんたちですから…」

「謙遜は不要ですよ。確かに当然のことかもしれませんが、その当然をあの場で、身分も明かさないでこなしたのは誇るべきことですよ。それに、アシリカさんはメリカさんやユナさんのお目付け役でしょう?胸を張らないと、いつか二人とも調子に乗り始めますよ?」

「ちょっと嵯峨徒?私を何だと思ってるの?」

「ヒュ~ヒュヒュ~」


メリカは嵯峨徒に抗議し、嵯峨徒は口笛を吹いてはぐらかす。

アシリカとしては、お目付けしなければならない相手に嵯峨徒も含まれる可能性が最近浮上してきたため、心の中では落胆しているのである。それを自覚してない嵯峨徒に気付くように視線を送るも、その真意が伝わることはなかった。


「安心してください。メリカさんのお目付け役は私が請け負いますので」


何がどうなって助けを求めているという解釈になったのか気になる…いや、あながち間違いではないかも知らない。少なくとも、アシリカの望んだ回答ではなかった。

ここで間違いを訂正しておくのは簡単であるが、それではせっかくの嵯峨徒の気持ちを無碍にしてしまうので、この場では軽く感謝しておく。


「…ありがとうございます…」


アシリカの言葉に満足した嵯峨徒は、メリカを笑顔で見つめる。


「これからよろしくお願いします」

「ひとつ言っておくけど、私は何一つとして納得してないからね」


と、冗談交じりに会話してるわけだが、一応ここは貧民街…犯罪の温床である。そんなところで警戒心もなにも持たないで騒いでは、私たちのもとへ来て下さいと言ってるようなものだ。

その証拠に、アシリカ達の前をふさぐように、身なりは汚くガラの悪そうな一人の男が出てきた。


「ケヒッ…ケヒヒッ…」


聞いてるだけでも不快な笑い声と下卑た笑みを浮かべ、手に持ったナイフをちらつかせる。


「…そこをどいてもらってもいいかしら?」


十中八九聞き入れられるとは思えないが、ダメもとでたずねる。


「ケヒッ…いいぜぇ…」


おや。案外聞き分けが…


「そのかわり…有り金と身包みはおいてってもらうがな…ケヒヒッ…でないと…捕まえて俺がおいしくいただいちゃうかもなぁ…ケヒヒッ…」


全然そんなことはなかった。


「…ゴロツキね…」

「さ、嵯峨徒さん…」

「ええ…」


メリカはあきれてるのに対し、アシリカと嵯峨徒の二人は警戒心を強める。メリカが二人に怪訝そうな顔を向けるも、二人が警戒心を緩めることはない。どうやら、メリカには感じ取れない『何か』を目の前のゴロツキから感じ取ったようだ。

アシリカはそんなメリカに忠告と作戦を伝える。


「メリカさん…一人で突っ込むのは危険です…ここは嵯峨徒さんと連携して…」

「何言ってるのよ。どう考えてもただのゴロツキじゃない」


忠告も作戦も聞かず、相手をまだ舐めているメリカを見かねた嵯峨徒が強い言葉で忠告する。


「その考えがすでに危険なんです!そうしてこちらを油断させ、一気にこちらをつぶすんですよ!」

「え、えぇ…」


メリカにしてみれば目の前の男はゴロツキ以外の何者でもないが故、なぜここまで二人が警戒してるのか理解できない。やがて話を聞かないメリカに痺れを切らした二人が男の前に出る。


「さあ、かかってきなさい!あなたの相手はこの私です!」

「…ケヒッ…良いのかぁ…?今俺の周りには…」

「我が主神アルター様!我が仲間、嵯峨徒に加護を!」

「フッ!」


男が何かを言おうとする前にアシリカが嵯峨徒に全能力向上の信仰魔法をかけ、アシリカの支援を受けた嵯峨徒は一気に男との距離を詰め、剣を抜き、男の胴を捉える。


「ハア!」

「へ?」


いつの間にやら懐に入られていた男は間抜けな声を出す。

男の間抜けな声と同時に嵯峨徒の剣が男の胴を、両断とはいかないまでも切り裂き、辺りに鉄の匂いを充満させる。


「いぎやあああああああ???!!!」


切られた男はのたうち回り、その動きに合わせて血の海の面積が広がる。

そんな惨劇を引き起こした嵯峨徒はと言うと、呆気に取られた顔をして呆然としていた。


「…あ、あれ…」

「あぎゃああ!!あぢい!!ぢくしょう!ぢぎしょうがぁ!」


のたうち回りながらも男は恨み言を言い続ける。その体力というかしぶとさというかは大した物だ。


「…2人ともエゲツないわね」


メリカが男に哀れみの視線を送りながら2人を非難する。


「え、えーと…」

「少しは手加減すれば良かったじゃない」


メリカの言葉に、2人は縮こまる。


「だ、だって…この人は人を食べちゃうから…」

「…は?」


苦し紛れの言い訳にしか聞こえない返答に、メリカは間の抜けた声を出す。

しばらく3人は口を開かず、男はといえば相変わらず叫んでいた。


「…え…えーと…人を食べる…?…なんで?」

「メリカさんは聞いてなかったんですか?おいしくいただくって言ってたんですよ?!」

「そうです!物語だけの話だなんて思ってはいけません!」


アシリカも嵯峨徒もメリカに訴えかけるが、メリカは顔を背ける。


「…なんで私だけ意味がわかってるのよ…」


アシリカも嵯峨徒も穢れなき眼差しでメリカを心配そうに見つめ、メリカはその目を見て再度顔を背ける。


「え?なにか意味があるんですか?」

「1人だけわかっててずるいですよメリカさん。知識は共有しようと約束したではありませんか」


2人は純粋無垢な瞳を以って詰め寄り、困ったメリカは嵯峨徒にアイコンタクトを送り、来いと伝える。

若干不満そうなアシリカを残し、メリカは少しだけ離れてから嵯峨徒に意味を伝え、嵯峨徒の顔がみるみる青ざめていく。


「え…そんなに酷いことをしようとしてたんですか…?」

「そういうこと。ていうか知らなかったの?」

「…だって…女性の『初めて』と呼ばれる物は、好きな殿方に捧げる物と…」

「そうは言っても、世の中上手くはいかない物よね」


メリカはやれやれとわざとらしく手を上げて首を振る。ふと、嵯峨徒がメリカに問う。


「…アシリカさんには何と言うんですか?」


この問いにメリカは押し黙り、しまいにはそっぽを向いた。


「メリカさん?!」

「…アシリカはこんな不潔な事、知らなくていいのよ」

「ちょっと〜?メリカさ〜ん?私は不潔でも良いってことですか〜?」

「アシリカは聖女候補。嵯峨徒はお姫様。聖女はダメだけど、お姫様はいずれ通る道でしょ?」


メリカの正論に嵯峨徒はぐうの音も出ない。嵯峨徒は口を尖らせ、アシリカの元へと戻るメリカの後についていく。

戻ると、アシリカが男に治療を施していた。


「あ。嵯峨徒さんには伝えたんですね」

「まあね。ところで、何してんの?」

「何って…治療ですよ」


見て分からないのかと言いたげな目でメリカを見つめる。


「そんな奴、助けるだけ無駄だわ。これ以上被害が出る前に殺しとくべきよ」


メリカはまるでゴミを見るかのように、男を見下ろしながら言う。

メリカの主張に男はギョッとするも、待ったをかける者がいた。

待ったをかけたのは、意外にも嵯峨徒だった。


「メリカさん。殺す事が一つの治安維持の為の手段であるのは否定しませんが、それを最初に考えてはいけません。あくまで最終手段です」


嵯峨徒が諭すようにメリカに言うが、メリカは納得しない。


「だったらどうするの?まさか無罪放免とか言わないわよね?」

「そのまさかです」


何を言ってるんだコイツは、と言う目でメリカは嵯峨徒を見るが、嵯峨徒は続ける。


「彼はもう悪事に手を染めることは無いでしょう」

「なんでそう言い切れる訳?」


嵯峨徒はメリカに、男の方を見るように目線で指示を出す。

男の方を見ると、アシリカによりすっかり傷は塞がり、おとなしくなっていた。


「あ、あんた…」

「大丈夫ですか?少なくとも、目に見える傷は治しましたが…」

「…」


男はアシリカの顔を、次にメリカ達を見て、数歩下がり、土下座し始めた。


「す、すまなかった!悪気が無かったとは言わねえしさっき言った事は全部本音だったけど、どうか許してくれ!この通りだ!」


男の言葉に、メリカは青筋を立てる。


「随分と虫がいい話ね。他人の人生を無茶苦茶にしかねない事しようとして、許してくれ?ふざけてんじゃ無いわよ!」


一歩踏み出そうとするメリカだが、アシリカが止める。


「アシリカ!」

「メリカさん。メリカさんの言う事は最もですけど、ここは見逃しませんか?」

「…コイツがまた同じ事をやらない、なんて言えるの?」


メリカの言葉に、男はガバッと顔を上げて否定した。


「や、約束させてくれ!もう悪事には手を染めない!自首してこれまでやってきた事の償いもする!」


男は心の底からそう思ってるんだぞと言う口調で必死に語るが、メリカはそれでも尚疑いの視線を向け続ける。


「お、恩人の顔に泥を塗るような真似なんてしねえ!」


メリカは暫く男を見つめるが、やがて諦めたかのように目を閉じた。


「…ハァ…ここまで言うんだったら問題ないでしょ」


メリカの言葉に、男はホッと息を吐く。

すると、アシリカが男に荷車に乗せてあった袋を差し出した。


「どうかこのお金を、やり直しの為に使って下さい」

「ちょ、ちょっとアシリカ?それ…」

「な、何から何まですまねぇ…本当に感謝する!」


そう言うと男は走って行った。

ここで、男のその後について軽く語ろう。

この後すぐ、男は衛兵の詰所に行き自首をした。取り調べを受けた際にアシリカ達の話をし、衛兵達を困らせるも、その男が嘘を言ってるとは思えないとの事で、アシリカから貰った金の一部を釈放金として釈放された。釈放された後、彼は都市の衛兵に志願。最初は突っぱねられるも、繰り返し押しかけたことにより相手が根負け。初めは雑用として衛兵の詰所で働きがてら、衛兵になる為の訓練を積むことになる。。こうして、男の新たな人生が始まった訳だ。

後に、この出来事は『貧民街に聖女が現れた』と言う事でかなり騒動になり、後でアシリカらを困らせる事になる。


男が去った後、メリカは恐る恐るアシリカに尋ねる。


「ねえ…さっきのお金…」

「……あ」


当人は忘れていたようだが、さっき渡した金はミネルバの薬を売って得た金であり、本来であれば依頼主であるミネルバに渡さねばならない金だ。それを無断で渡したとあっては、下手すればギルドから罰則が与えられる。ユナを助ける為にいち早くEランクに上がりたい彼女らにとって罰則を受けた事があるという経歴は、ランクアップを遅らせる原因になり得るのだ。

彼女の顔は段々と青褪めてゆく。


「ど、どうしましょう…ううう…」

「いや…起こった事はどうしようもないし、謝るしか無いんじゃない?」


目に見えて焦っているアシリカに、肩を竦めながらメリカは提案した。

ただ、あのミネルバだ。何を言われるか分かった物ではない。

アシリカはすっかり縮こまってしまった。


「2人とも。こんな所で立ち止まってたらまた狙われます。早く移動しますよ」


見かねた嵯峨徒の鶴の一声とも呼ぶべき指示のもと、3人はミネルバの元へと貧民街を足早に歩いて行った。若干一名程、足取りが重かったのは言うまでもないだろう。


特にゴロツキの類に遭遇する事なくミネルバ薬店に到着してみると、ミネルバ薬店の前に斧を持った大男と、薬店を囲む様に剣を持った男達が薬店に怒鳴り散らしていた。


「おいミネルバのババア!さっきはよくも俺の可愛い子分を痛めつけてくれた様じゃないか!ええ?!」


おそらくアシリカ達が薬店に来た時、マンドラゴラ(の幼体)の叫び声を聞いて逃げ出した男たちの頭といった所だろう。皮膚は日に焼け、痛々しい生傷が身体中の至る所にある。頭を坊主に丸め、着ている服は大男の筋肉の量を主張するかの様に今にも千切れそうだ。

思わず3人は陰に隠れ様子を見る。すると薬店からミネルバが出て来た。


「やあやあ。よく来たじゃないか。その可愛い子分に伝えた通り、謝罪に来てくれたのかい?」


最初の怒鳴り散らしている姿からは想像出来ない程、穏やかで優しげな表情を浮かべるが、その目は笑ってない。


「あんだとババア?!誰が謝罪になんかくるかボケ!今日こそここのショバ代を払ってもらうからな!でなきゃテメェの店をぶっ壊すだけだ!」


大男の言葉を聞いた途端、ミネルバの顔からは穏やかなどと言う言葉は消え、般若という言葉が相応しいほどの形相を浮かべる。


「ああん?誰の店をぶっ壊すだってぇ?そう言って私にタマキン潰されたのはどこの誰だい?ええ?!」

「黙りやがれ枯れたクソババアが!女とヤれなくなったのはテメエのせいなんだぞ!」

「ソイツは朗報だね!アンタみたいなクズの子を孕んじまう奴が減るってのは世の為だよ!」


陰で少女3人が聞いている中、教育上非常によろしくないやり取りは長時間続いたが、とうとう大男の方が痺れを切らし、ズンズンとミネルバに近寄る。


「あん?まさか土下座でもするつもりかい?」


ミネルバの質問に答えず、ミネルバのすぐ目の前まで来る。

そして、手に持っていた斧を振り上げた。


「先行きの無えババアがシャシャッてんじゃねえよ!年寄りは年寄りらしく隠居してやがれやああああああ!」


そう言って大男は力任せに振り下ろす。技術もクソも無い攻撃ではあるが、目の前の老婆の命を刈り取る程度は造作もないであろう威力を持つ。

陰で聞き耳を立てていた3人も思わずと言った様子で飛び出し助けに向かうが、どう考えても間に合う筈が無い。アシリカ達が一歩踏み出す間に、斧は大男の頭上からミネルバの頭上にまで移動している。もう一歩踏み出す間にミネルバの頭は割られるだろう。ただ、そんなイメージを頭に抱えていては間に合う可能性は潰える。たとえその可能性が万が一にも満たないかも知れなくても、だ。

しかしながら、そんな3人の心配は杞憂に終わる。

ミネルバは足を一歩下げ、紙一重で斧を躱し、軽く大男の顔に液体の入った小瓶を投げつける。大男の方は反応できず小瓶はそのまま顔面に直撃することで割れ、顔面に中の液体をぶち撒けた。


「…ってえな…なんだこりゃ…」


大男が鬱陶しそうに手で顔についた液体を払おうとするが、ミネルバはそのまま大男の股を蹴り上げる。


「あが?!!」


大男は突然の攻撃と激痛にそのまま蹲る。取り巻きの男達は大男に同情の視線を送り、中には股を押さえるものまでいた。飛び出した3人も思わず顔を引き攣らせる。


「敵を前に目を離すとは良い度胸してるじゃ無いか!ええ?!」

「おごご…」

「前回は片方しか潰れなかった様だけど、今のでもう片方も潰れたかね?」

「く、クソババアがぁ…」


大男は悶絶しながらも何とか恨み言を言うが、それを無視しミネルバは3人の方へと目をやり、大声を出す。


「ボーッと突っ立ってんじゃないよ!アンタらの雇い主の危機を陰でコソコソ見るとかアンタらどうなってんだい!早く助けに入らないかい!じゃなかったら周りのチンピラをとっとと片付けな!」


全く助ける必要は無かった様に思えるが、それとこれとは違うようだ。

盗賊の頭領のような指示を飛ばされた3人はすぐさま我に還り、武器を構える。

武器を構えた3人を見た取り巻き達は一瞬体を強張らせるも、相手が子供と知りすぐ安堵する。


「おい!ガキは邪魔だ!帰ってミルクでも飲んでやがれ!」


所詮相手は子供。強い言葉を浴びせれば怖気付いて逃げるだろうと考えたのだろうが…それは甘い考えだ。


「嵯峨徒!頼むから下手に斬らないでよね!」

「今度は峰打ちで済ませますよ!」


そう言って動き出したメリカと嵯峨徒の動きは恐ろしく素早い。少なくとも取り巻きの男達にはそう感じられた。


「な?!」


自分の想像とは全然違う結果に驚きの声をあげ対応するのが少しばかり遅れつつも、武器を構え直す。


「野郎ども!強行突破だ!このイカレババアを相手するよりずっとマシだと思え!」


取り巻きの1人が仲間に檄を飛ばすと、彼以外の者達も2人目がけて走り出した。


「スラッシュⅠ!」

「大和桜花流・桜舞!」


しかし、ただ突進するだけでは2人を相手にする事は出来ない。剣と鞘を固定した状態でのメリカの斬撃に、嵯峨徒の舞に男達は次々と気を失っていく。


「な、何だこいつら?!」

「ただのガキじゃねえ!」

「畜生!あのイカレババア、こんな隠し球を持ってやがったか!」


男達が呪詛の声を漏らしている間にも2人はどんどんと男達の意識を奪っていく。

このままでは子供相手に全滅してしまう。大の大人が子供相手に、しかも人数で優っている状況で全メツしましたとあっては、今後この貧民街で暮らしていく際に色々と不都合が生じるだろう。どうにかして活路を模索していく中、1人の男が物陰で見ている少女に気が付いた。


「おい!彼処にガキが1人いるぞ!」


アシリカだ。彼女は肉弾戦は得意では無い。また、魔法を使おうにも混戦になる事が予想され、狙い撃ちの難しい魔法は使えない以上、この乱戦の中で2人を支援する訳にもいかずこうして様子を見ていた。

男達はアシリカが支援タイプで肉弾戦は得意で無いだろうと見なすや否や、人質にしようとアシリカの元へと駆け出す。ただ、この場ではその考えは悪い方向に転がった。


「がぐ?!」


男の1人がバランスを失い、そのまま地面へと激突する。


「ちょっと、何無視してんのよ」

「まさか私達が見逃すとでも思ったのですか?」


複数人の男達を同時に相手取って次々と男達を倒している2人から意識を外せば、当然その隙を突かれる。結果、誰一人としてアシリカの元へは行けず、そのまま全員無力化させられる事になった。


「おつかれ」

「お疲れ様ですメリカさん。アシリカさんは無事ですか?」

「わ、私は大丈夫ですが…すみません…お役に立てなくて…」


アシリカは申し訳なさそうに物陰から顔を出す。


「大丈夫ですよ。寧ろ、隠れるのが仕事みたいなものでしたから」

「乱戦だと支援職は狙われるとマズいからね。隠れてて正解よ」


2人の励ましの言葉にアシリカは少しばかり安堵する。そして荷車と収入の入った袋を持って出て来た。


「…ん?」


ふと、ミネルバがアシリカの手を見て怪訝そうな声を出し、アシリカはビクッと震える。


「ちょっと待ちな。袋が一つ足りないじゃないか。まさか…ちょろまかしたりしてないよね?」


アシリカはすぐに頭を下げる。


「すみません!私のせいなんです!私が勝手にお金をあげてしまって…」

「…あ?ちょろまかした訳じゃ無いのかい?」

「え、えーと…盗んだかと言われれば盗んだ事になるのですが…」

「あ?!ハッキリせんかい!でなきゃ事情を説明しな!」

「は、はい!」


アシリカは金を勝手に渡した経緯を説明した。説明を聞き終えたミネルバは、ため息と共に呆れ顔をアシリカに向けた。


「お前さんねえ…そんな奴に与してやるなんてバカなのかい?」

「私は…あの人は根は良い人だと思ったんです…」

「へえ?だから売り上げをそいつに渡したって?」

「…はい…すみません…勝手な事して…」


アシリカは頭を下げ、ミネルバはその様子をじっと見つめる。暫く沈黙の時間が続くも、やがて根負けしたようにミネルバが口を開く。


「…何にビクビクしてんのか知らないけどね…そもそも、アレは報酬に上乗せする形でお前さん達にやろうと考えてたモノだよ」

「え?」


ミネルバの口から出た予想外の言葉に、アシリカは頭を上げてポカンとする。


「大体、こんな所でババアが大金なんざ持ってたら、すぐに盗みに入られるからね」

「え…ええ?」


仮に盗みに入られたとしても、盗みに入った人を返り討ちにしそうであるが…言わぬが吉である。


「それにだ。薬の材料だの食糧だのは自分で調達できるから金なんか要らないんだよ」

「え、えーと…一体どういう…」

「…まだ分からないかい?!私からのお咎めは無しって事だよ!」


再度アシリカはポカンとするも、直ぐに言葉の意味を理解し、感謝の言葉を述べようとする。


「ありがとうござ…」

「ただし!あくまで私からは、だって事を忘れるんじゃ無いよ!きちんとギルドに報告して説教して貰うからね!」


上げて落とすとはまさにこの事だろう。アシリカの顔から見る見ると血の気が引いて行く。


「ギルドの教官に伝手があってね〜…とびっきり怖い奴に扱いて貰うから覚悟しな!」

「う、うう…」


とびっきり怖いと聞くや否や、アシリカは縮こまってしまい、ミネルバはそれを見て悪いそうな笑顔を浮かべる。


「…少し可哀想ですね」

「いや…自業自得でしょ…」

「だとしても…」


嵯峨徒とメリカは火の粉が飛んでこないようにと、少し離れた所から第三者目線で語るが、その態度が気に入らなかったのか、ミネルバがズンズンと近づいて来る。


「な〜に『私は関係ありません』みたいな顔してんだい?アンタらも同罪だからね?」

「は?!」


思いもよらぬ言葉に2人とも驚きの声をあげ、すぐさま異を唱える。


「何でよ!私達何もしてないわよ!」

「そ、そうです!何もしてません!」

「へ〜…何もしてない、ね〜…」


ミネルバの2人を見る目が細まり、2人は思わず身を強ばらせる。


「アンタらの認識では私に渡す筈だった金が、目の前でコソ泥に渡されるのを見て何もしなかった…へえ〜〜〜…」


墓穴を掘ったとはこの事だろう。自身の潔白を証明するはずが、いつの間にか職務怠慢の自白へと変わっていたのだから。

その事に気がついたのか、2人ともあっと口を覆う。


「…さ〜〜て…報酬を受け取りにギルドに行こうじゃ無いか」


「お、俺のムスコがぁ〜…」

「だ…だからやめとけって…」

「う、うるせ…おおぉ…」


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