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光と闇 〜終わりの始まり〜  作者: シラス王
学園編
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学園編① 〜編入〜 薬師ミネルバ

試験も終わり、訓練場からゾロゾロと冒険者達が出て行く中、1人の男が訓練場に佇んでいた。

筋骨隆々の巨漢で坊主頭、顎髭を生やしている男のバルガスは訓練場から去る3人…アシリカ、メリカ、嵯峨徒の3人をじっと見つめていた。


「何かあったのかしら?」


そんなバルガスに話しかけるのは、冒険者ギルド総本部所属の受付嬢、タリアだ。


「いや。ただ、あの3人を見てただけだ」

「中々に素晴らしい卵ですわよね。特にあの娘…正面から貴方に一撃を加えてみせるとはね」

「『飛花の閃き』だっけか?聞いた事のないスキルだ」


バルガスの発言に、タリアは溜息を吐きながら訂正するを


「スキルじゃないわよ。アレはれっきとした技術の一つですわ」

「…倭ノ国恐るべし、だな」

「あの子の言葉を信じるなら、倭ノ国には大勢の手練れが居る事になるわね」

「一度行ってみたいな」

「ですわね。私はこの辺りで失礼しますわ。貴方は?」

「…少し、鍛錬をする」

「良い心がけね。見直したわ」

「…言ってろ」



訓練場から出たアシリカ達は、すぐさま受付カウンターへと向かう。

受付カウンターでは、フェニが3人を待っていた。


「フェニさーん。依頼を受けたいのですが…」

「あら〜?少し休んでから受けられても良いんですよ〜?」

「大丈夫です。まだまだ元気ですから」

「そうですか〜。分かりました〜。では〜、迷子ペットの捜索依頼と薬の配達の2つがありますが〜、どちらを受けます〜?」

「うーん…私は迷子ペットの捜索に一票なのですが…」

「何言ってるのよ。薬の配達の方が良いに決まってるわ」

「そうですか?どちらもそんなに変わらないと思いますが…」


捜索に一票、配達に一票、どちらでもが一票と、見事に意見が割れた。


「ちょっと嵯峨徒。キチンとどちらに賛成か言ってよ」

「だって…うーん…うーーーん…うーーーーーん…」

「あんた真面目に考えてないでしょ」

「うーーーーーーーん…うーーーーーーーーーん…では、薬の配達で」


アシリカは少しばかり残念そうな顔をするが、すぐに嵯峨徒の選択の理由に気づく。


「あ。ペットの捜索はいつまで続くか分かりませんからね」

「ええそうです。薬の配達なら、手軽に終わると思いますから」

「そうよね」


そんな3人のやり取りを見ながら、フェニは脳裏に依頼主についての情報を思い出す。そして溜息を吐きそうになるが押し留め、3人のやり取りが終わったのを見届けてから確認をする。


「では〜、薬の配達を受けると言う事で宜しいですか〜?」

「はい」

「分かりました〜。少々お待ちを〜」


そう言うとフェニは依頼書に、依頼受注済みを示す判子を押し、丸めてからアシリカへと手渡す。


「この紙は依頼主さんに渡して下さ〜い。自分達が依頼を受けたんだと示す物ですので〜」

「はい。ありがとうございます」

「依頼主さんの名前は『ミネルバ』と言い〜、結構なお歳のお婆ちゃんです〜。代々薬屋をやってるそうです〜」

「ミネルバさんの家ですね。何処にあるんですか?」


アシリカが当然の質問をするが、フェニは少しばかり考えたのち、首を振る。


「…うーん…口で説明するのは難しいので〜、街の人に聞きながら行くと良いです〜…すみませ〜ん…」

「いえいえ。がんばります」

「その意気です〜」

「では、行ってきます」

「いってらっしゃいませ〜」


フェニに手を振られながら、アシリカ達は冒険者ギルドを出る。


「…さて、と。どうしましょう」


出たは良いが、誰に聞いたら良いかが分からない。


「誰に聞くのよ」

「誰でも良いから片っ端から聞いてみるのは如何でしょうか?」

「衛兵に聞くのが良いんじゃない?」

「いえ。こう言うのは御老人の方に聞くのが良いのでは?」


メリカと嵯峨徒が様々な案を出す中、アシリカは近くに居た若い男性冒険者2人組に声を掛けた。


「すみません。道を尋ねたいのですが」

「ん?あ。将来有望な3人組じゃ無いか」

「どうしたんだお嬢ちゃん。道を尋ねたいって?」

「はい。ミネルバさんと言う方の家が何処にあるのか聞きたいのですが…」


ミネルバの名前が出た瞬間、2人とも目を逸らす。

2人の仕草にアシリカは疑問を抱いた。


「…?」

「あー…まあアレだ。そう言う奴が居るのは知ってるが、何処に居るかは知らないんだ。なあ?」

「ああ。済まんねお嬢ちゃん。力になれそうに無いわ」

「いえ。お時間を取ってしまってすみません」

「良いって良いって」

「依頼が無事に達成される事を祈ってるぜ」


そう言うと二人組はそそくさと去って行った。

アシリカはショボンとしながら戻ってくる。


「…何よアレ」

「名前を聞いた瞬間に目を逸らしましたよね」

「嫌われてるんでしょうか…」

「多分ね…」

「コレは難航しそうですよ…」


3人の悪い予感は的中し、日が沈むまで聞き込みをしたのにも関わらず、その日は住んでる場所の大まかな位置までしか分からなかった。依頼主の名前を出した途端に皆顔色を変え、そそくさと逃げ出す。嫌われてると言うより、恐れられていると言うのが正しいであろう反応だ。結局、その日は成果と呼べる成果を得られないまま学園の寮に戻り、3人ともそれぞれ床に就いた。


翌日、朝礼が終わってすぐにアシリカ達は学園を出て、前日分かった場所辺りに移動する。

ただ、其処はアシリカ達が来ていい場所では無かった。


「…此処は…」

「貧民街…ね」


如何に、人間大陸最大の光あふれる都市といえど、影は存在する。ここ、ウルベモルティスは主に七つの区画に分かれている。第一学園のある『学園区画』、第二学園や一般庶民が住む『市民区画』、商人達が商いを行う『商業区画』、各国の王侯貴族達が宿泊する『貴族区画』、人一機関の抱える軍が駐在する『軍事区画』、中心部にあり冒険者ギルドとダンジョンへの入り口がある『冒険者区画』、そして学園区画と市民区画の間にある、貧しい者が流れ着く『貧民街』だ。

貧民街は六つの区画の中で最も小さいが、具体的な住民数は判明しておらず、犯罪組織の根城だとされている。ただ一つ分かっているのは、貧民街は犯罪の温床である事だ。少なくとも、3人のような子供が来ていい場所では無い。現に、アシリカ達がいる場所は貧民街の端っこに当たる部分であるのに、既に様々な角度から尋常ならざる視線を向けられている。3人とも外見が整っている為、誘拐してから奴隷商にでも売り飛ばすつもりなのだろう。そんな視線を向けられる中、アシリカ達はミネルバの家を探す。


「なんでこんな所に住んでるのよ…」


とうとう視線に耐えかねたメリカが愚痴を溢した。残りの2人も、口に出さずとも首を縦に振る事で同意する。

すると、アシリカ達の耳に怒声が聞こえてきた。


「…誰かが喧嘩してるのなんていつもの事だと思うわよ」


メリカが、貧民街では日常茶飯事であろうと言うが、嵯峨徒は耳を澄ます。


「…いえ…これは…」


嵯峨徒はさらに感覚を研ぎ澄ませ、目を見開く。


「今、ミネルバって聞こえました!コッチです!」


そう言うと2人の手を取って駆け出す。


「本当にそう聞こえたんですか?!」

「はい!多分こっち!」


そうして迷路とも言える貧民街を駆け抜けると、数人の男達が剣を抜いて家を包囲していた。


「ミネルバのババア!とっとと出てこいや!」

「お前のせいでオレ達の面目は丸潰れだ!どうしてくれるんだ?!」


情報の多さ故にどうするべきか迷っていると、家から木製の深い皿が投げられ、老婆の声で男達の声を上回る怒声が響いた。


「良い歳した男が揃いも揃ってピーピー喚いてんじゃ無いよ!そもそもアレはお前らんとこのボスが私にイチャモンつけたのが始まりさね!自業自得って奴だよ!」


一瞬男達は気圧されるも、すぐに立て直す。


「な、なんだと此の尼?!」

「悔しかったらアンタらんとこのボスを謝罪に来させな!話はそれからだよ!」

「ふざけんのも大概にしろ!」


男の言葉を皮切りに、老婆の声は静まったかと思われたが、それも束の間。この世の物とは思えない程の叫び声が聞こえた。


「ギャーーーーーーーーーー!!!!!」

「っ?!」


あまりの叫び声に、アシリカ達は思わず耳を塞ぐ。

男達も耳を塞ぎ、その場を後にする。


「マ、マンドラゴラだと?!」

「やべえよ!逃げねえと本当に死んじまう!」

「畜生!覚えてやがれ!」


そんな男達の声はマンドラゴラの悲鳴に掻き消されたのであった。

直ぐに悲鳴は消え、中から老婆が出て来る。


「全く!叫び声一つで情け無いねぇ!この腑抜け共が!…ん?」


見ると、アシリカ達が地面に転がっていた。


「キュ〜…」

「耳が〜…」

「南無三〜…」

「…」


老婆は息を吸う。


「起きんかい!いつまで寝てるつもりだい?!ええ?!」


老婆の怒声に、3人とも飛び起きる。


「全く!たかが幼体のマンドラゴラ如きの悲鳴でなにのびてんだい!シャッキっとせんかいシャッキっと!」

「あ…はぁ…」

「なにが、はぁ、だい!返事の一つも出来ないのかい今の若いのは!」


なんとか場を収めようと、嵯峨徒が声を出す。


「ミ、ミネルバさん…ですか?」

「…ああ?」


老婆に睨まれ、嵯峨徒は縮こまる。


「看板見りゃ分かるだろうがい!見えないのかい?!『ミネルバ薬店』って書いてあるだろうが!」

「す、すみません!」

「で?!何の用だい!あたしゃ忙しいんだよ!」

「あ!い、依頼を受けて…これ依頼書です…」


アシリカが恐る恐る依頼書を手渡すと、ミネルバは乱暴にひったくり、マジマジと見る。


「…そう言えばこんな依頼出してたね」

「はい。薬の配達という事ですが…私達は何を…」

「ま、折角受けてくれたんだ。お茶くらいは淹れるよ。付いて来な」


ミネルバはそう言うと店の中に入って行き、3人ともそれに続く。

入ると、中にはカウンターと椅子があり、カウンターの奥に仕事場がある様だ。

ミネルバに椅子に座る様に言われ、座って少しばかり待つと、奥からミネルバが盆を持って現れた。


「飲みな」

「は、はい…」


言われた通りに口に含むと、3人とも揃って顔を顰めた。


「…苦い…」

「そりゃあもう苦い成分をコッテリ含んでるからね。その代わり疲れが殆ど吹き飛ぶ代物さ」


そう言うとミネルバは茶を一口飲み、話を進める。


「それで、依頼の事を話しとかないとね。アンタ達に頼みたいのは、薬を街の連中に配ることさね」

「配る…」

「ああ」

「回復魔法ではダメなのですか?」


ミネルバはアシリカの問いに一瞬顔を顰めると、嫌そうに話し始めた。


「ここだけの話、回復魔法だの治癒魔法だのは教会連中が独占してるからね。頼もうとすると法外な金をふんだくられるから気を付けな」


思わずアシリカが立ち上がり、ミネルバに抗議する。


「そんな筈はありません!下級の回復魔法では大銅貨1枚、中級では銀貨1枚、上級は大銀貨5枚と決まっています!上級はまだしも、下級や中級なら法外とは呼べません!」

「おや?アンタはアルター教の関係者かい?」

「そうです!」

「へえ、そうかい。なら教えといてやるよ。アンタんとこの末端の連中は腐ってるね。効果はまちまちな癖して、下級で銀貨5枚、中級で既に金貨6枚、上級に至っては明示されてないよ?法外と言わずして何と言うんだい?え?」


アシリカは俯いて口を閉じる。如何にアシリカが正規の値段を主張した所で、現実は全然違うのだから、黙ってミネルバの言葉を聞くしか無い。


「勿論、中にはさっきアンタが言った価格で回復魔法を掛けてくれる奴も居るけど、そんなの極小数さね」

「…」

「だから、アタシが定期的に長持ちする薬を配って、要らぬ金を支払わないようにしてるのさ。アンタはそんな私をどう思う?やっぱり、アルター教の教えに背く背信者かい?それとも偽善者って奴かい?」


ミネルバはアシリカに問う。アシリカの回答によって、今後のミネルバとの関係は決定されると言っても過言では無いであろう為、迂闊な事は言えない。

下手に取り繕っても不自然なだけだ。少しばかり考えたのち、アシリカは顔を上げ、正直に答える事にした。


「貴女は市民の為に献身的に働いています。アルター教の教えの一つに、力ある物は力なき物を助けよ、とあります。貴女の仕事が賞賛される事はあれど、偽善者だの背信者だなどと後ろ指を刺される事がある筈がありません」


強い目で答えた。これがアシリカの導いた答えだ。その思いに、ミネルバは応える。


「それなら安心だ。じゃあ、仕事を頼まれてくれるね?」

「はい!」

「その意気だよ。ちょっと待ってな」


そう言うとミネルバは奥に行き、薬瓶が入った木箱を次々と持ってくる。とても老婆とは思えない力だ。1つの箱につき60本入っている。


「す、凄いですね…」

「外に三つくらい荷車があるから、そこに運んで行ってくれ。薬の種類について説明するから」

「は、はい!」


3人がかりで運び出し、20分ほどで一人当たり六箱、合計十八箱を出し終えた。


「こらこら。此のくらいで息切れしてるんじゃ無いよ」

「…だって…重くて…」

「此のババアを見ろ。ピンピンしとるだろうが」

「…頑張りますぅ〜…」


3人が回復したのを見計らい、ミネルバは説明を始める。


「良いかい?まず此の緑色の液体が入った瓶があるだろ?此れは傷を癒す薬だ。次にオレンジ色の奴は体力を癒す薬、最後に紫色は毒を癒す薬だ」


3人とも真剣に話を聞く。


「誰がどの薬を担当するかは自分達で決めな。アンタ達には、今日一日中、其れを売って回ってもらう。別に、全部売れんでも、一本も売れなくても良い。アタシが勝手にやってるからね。その薬は全部、下級の回復系魔法位の効果があるから、一瓶につき大銅貨2枚、一人当たりにどれか一瓶まで。分かったね?」

「はい!」

「あと、主に市民区画を回っておくれ。貧民街の直ぐ隣だからね」


そう言うとミネルバは店に戻ろうとするが、嵯峨徒が道について尋ねる。


「貧民街から市民区画に出るにはどうすれば?」

「…その問題があったね。道案内くらいはするよ」


そう言うとツカツカと歩き出し、3人とも無言で荷車を押して付いて行く。

道中特に会話をしなかったのは、やはり端と言えど貧民街は犯罪の温床。油断できない為だ。

やがて市民区画に出ると、ミネルバは来た道を戻りだす。


「道は教えたからね。あとは任せるよ」


そう言うと貧民街の闇の中に消えて行った。


市民区画の端に残されたアシリカ達はミネルバを見送った後、早速作戦会議を始める。


「どうしましょうか」

「3人で回るのは確定として…どう言う風に売るかが問題よね。ミネルバってだいぶ嫌われてるらしいじゃ無い?だから、名前は隠すべきかしら」


メリカの提案は悪くは無いが、果たして出自不明の薬を誰が買いたいのだろうか。

彼女の提案に、アシリカが別の案を示す。


「いえ、嫌われてるとは思えません。もし本当なら誠に恥ずかしいですが、アルター教が法外な値段で治癒を施す中、正規価格に近い薬を売るミネルバさんを、街の人々が嫌う筈がありません」

「わたしもアシリカさんに同感です。寧ろ、大々的に宣伝すべきです」

「…かもね。じゃあ、どうやって売る?」

「大通りか広場があったらそこで!」


嵯峨徒が元気よく答える。やけに乗り気だ。

それに、アシリカもメリカも少しばかり不安気な表情をする。


「なんか嫌な予感がするんだけど…」

「ふっふっふっ…良い考えがあるんですよ…」

「…聞くだけ聞くわよ」


嵯峨徒の案を聞いた後も会議を続け、ある程度方針が固まった所で3人は荷車を引き、市民区画を移動する。

住宅が立ち並ぶ区画を荷車を引きながら歩くので、道ゆく人々からは注目され、何人かが何やらヒソヒソと会話をしているのが聞こえる中、3人は市民区画の広場に辿り着く。幸い、広場には数多くの人がおり、物を売るには丁度良いだろう。3人は荷車を置き、嵯峨徒が息を大きく吸い込んで大声を出す。


「ちゅうも〜〜く!!」


広場に居た人々は一瞬驚きながらも、何だ何だと興味深そうに3人を見る。ある程度の視線が集まった所で、嵯峨徒は言葉を続ける。


「今からミネルバ印のお薬を販売致しまーす!一瓶につきお値段なんと大銅貨2枚!体力回復に傷の治癒、毒消しの三つがありますよ〜!」


嵯峨徒がひとしきり宣伝を終え、広場は一瞬静寂に包まれるも、直ぐに人々が喜びの声を上げる。


「みんなー!ミネルバさんの薬が復活したぞー!」

「急げ急げ!」

「早くみんなに知らせるんだ!」


どうやら、アシリカ達の予想は当たっていた様だ。皆、ミネルバを嫌ってなど居なかった人々が群がり始めたのを見計らい、今度はメリカが声を上げる。


「さあさあ早い者勝ちよ!一人当たりどれか一瓶までだからね!くすねたりしたら承知しないわよ!」

「傷の治癒くれ!」

「私は毒消しを!」

「体力回復の奴を!」

「あわわわ…」

「思った以上です〜…」


販売はアシリカと嵯峨徒が、宣伝はメリカが担当する。渡される大銅貨2枚を受け取ってから、各人が求める薬を手渡していく。たちまち瓶の在庫は減っていき、僅か1時間ほどで三分の一程にまで減った。

そんな薬の販売は盛況の様に思われたが、一つの怒声によって盛り上がりは一瞬にして冷める事になる。


「此処か!魔女の薬が売られているのは!」


人々はシンと静まり返り、中には舌打ちをする者まで居る。


「ええい退け!退け!」


自分に怒りの矛先が向いては堪らぬと、人々がどんどん避けていき、自然と声の主とアシリカ達とを繋ぐ道が出来た。


「貴様らか!魔女の薬を売っているのは!」


3人が見ると、複数人の兜を被った騎士と、甲高い声で怒鳴っている兜を脱いだ1人の男の騎士がいた。

その男の騎士は金髪カールで髪を纏め、目は細く、短い2つの口髭を携えている。

騎士達の甲冑には、アルター教所属である事を指す、輪に一対の羽が生え、その中に五芒星が描かれた紋章が彫られていた。


「さあ散れ!散れ!」


兜を脱いだ男の騎士が人々に怒鳴ると、人々はアシリカ達と騎士達を囲みつつ距離を取った。

それが気に入らないのか男は舌打ちをするも、アシリカ達に詰め寄る。


「なんのつもりだ貴様ら!誰に許可を取って薬を販売した?!ええ?!しかも魔女の薬だと?!何のつもりだ?!!!」


男が甲高い声で怒鳴るたびに唾が飛び散るも、3人とも我慢し、例の如く代表としてアシリカが答える。


「…私の仕事ですね、これは…」

「…頼んだわよ」

「お願いします…」


アシリカは男に向き直る。


「…此処での販売が許可制だったとは知りませんでした。その点に関しては弁明のしようが御座いません」


今回、アシリカは自身の立場を使わないで交渉を試みる様だ。


「…その点に関してはぁ?何か他に文句があるのかぁ?!」

「はい。ミネルバさんは魔女ではありません。市民の為に献身的に働く素晴らしいお方です。ミネルバさんの行動は、アルター教の教えにも沿っている行動です。魔女と呼ばれる道理はありません」

「…あ?我々が間違ってると言いたいのか?」


男は心底不愉快そうにアシリカに再度詰め寄るが、アシリカは男の問いに強く肯定する。


「そうです。間違いだらけです」


その様子からは、先日酷い仕打ちを受けていたとはとても想像出来ない。

アシリカの言葉を聞いた周りの人々は『よく言ってくれた』と感心し、口々に同意の声を上げる。


「そうだそうだ!」

「お前らが間違ってる!」

「ミネルバさんは悪魔じゃねえ!」

「分かったらどっか行け!」


人々はアシリカ達の味方をし、騎士達を責める。その状況に、内心アシリカは胸を痛める。

それもその筈だ。アシリカもアルター教の関係者なのだ。アルター教が…延いては自身の信じる神がよく思われていないこの現状は打破しなければならない。しかし、今はその時では無いのだ。そんな心情を隠し、騎士達を見つめる。


「おのれ…おのれぇ…」


男は腰の剣に手を掛けようとするが、他の騎士がそれを止めた。


「隊長。此処は大人しく引き下がるべきです」

「なんだと?!」

「ここで抜剣しては、単なる騒動では済まなくなります」

「…チッ…貴様らは運が良いな!だが!その運もこの瞬間に全て消える!我らに楯突いた代償は重いと知れ!」


そう捨て台詞を吐き、騎士達はその場を後にした。

やがて騎士達の姿が完全に見えなくなると、人々は歓声をあげる。


「やったー!ざまあみやがれ!」

「良い気味だぜ、金の亡者どもが!」

「豚どもに宜しくなー!」


まずは騎士達への憂さ晴らしの為の歓声を。次に、自分らの心の声を代弁してくれたアシリカ達に感謝の声を。


「ありがとうなお嬢ちゃん達!スッとしたよ!」

「ありがとうございます!これで娘も元気になれます!」

「見たところ新人の冒険者かしら?だとしたら、あそこまではっきりと言えるなんて凄いじゃない!」

「もしかして、彼女達が噂の新人か?」

「噂?」

「ああ。なんでも、Bランク相手に一撃入れた奴が居るとか」

「だとしたらとんでもない連中じゃねえか」


3人への感謝は賛辞に、賛辞は噂話へと変わる。

その後は一瞬で薬が売り切れた為、3人はその場を後にしてミネルバの元へと戻った。

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