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光と闇 〜終わりの始まり〜  作者: シラス王
学園編
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学園編① 〜編入〜 試験

放課後、アシリカ、メリカ、嵯峨徒の3人は事前に決めた通り、冒険者ギルドの前の広場に集合した。メリカが最初に、そのすぐ後に嵯峨徒が、そしてだいぶ経ってからアシリカが来た。

その際、アシリカの顔色が優れなかった事に、メリカも嵯峨徒も疑問を抱いた。2人ともアシリカに何があったのか尋ねたが、アシリカは頑なに答えようとせず、要領の得ない回答を繰り返した。結局聞き出すのは諦め、少しムードがよろしく無いまま、依頼を受ける事となった。


早速ギルドに入る訳だが、勿論注目される事は免れない。確かに12歳から登録可能とは言え、皆が皆、その歳になってから来るのではなく、殆どの場合は15歳で成人してから登録しに来るのだ。故に、若干12歳という子供がギルドに来るのは稀である。

更に、3人ともかなり容姿が整っている為、自然と注目される。女性冒険者の中にも容姿が整っている者は大勢いるが、果たして何人、容姿に関してこの3人と真っ向勝負できる者が居るか。

そんな3人に向けられる視線は主に好奇が大半を占めるが、中には下心丸出しな視線もある。この様な視線の元に晒される機会は中々に無い為、3人とも何処か落ち着かない様子で受付カウンターへと向かう。

カウンターに着いて3人がフェニを探していると、不意に背後から大声を浴びせられた。   


「おいおい!何でガキがこんな所にいやがるんだぁ?!」


そう言って3人に向かって歩いてくるのは、座る筋骨隆々の身長2mに迫る巨漢だ。頭は剃られ、顎髭を生やしている。自身の上半身の筋肉を主張する為なのか知らないが上裸で、下半身も所々破けているズボン一着と、明らかなパワータイプの戦士だ。

しかし歩き方から、ただパワーだけが取り柄では無い事が分かる。


「ありゃりゃ…バルガスに目をつけられちまったか」

「あの嬢ちゃん達もバルガスの洗礼を受けるのか?」

「あんなのがBランク冒険者だなんて…世の中理不尽よね」


周りの冒険者はバルガスと呼ばれた巨漢に聞こえない様にヒソヒソと会話するが、バルガスにはそれがハッキリと聞こえていた。


「何だとこのクソアマ!俺は自分のこの力でBランクを獲得したんだよ!文句あるならかかって来いや!」


理不尽と嘆いていた盗賊の女は、一瞬ビクリとするも、すぐに言い返す。


「文句じゃ無くて一つの考え方よ!」

「屁理屈抜かすとは良い度胸だなぁ!テメエのランク言ってみろや!ああ?!」

「はいはーい。そこまででーす」


マイペースで眠そうな声と共に、1人の女性がカウンター脇からホールへと姿を表す。


「げ…フェニ…」

「バルガス君は落ち着いて下さ〜い。冒険者はランクが全てじゃ無いんです〜。ご理解くださ〜い」

「…わーったよ…クソッタレが」


先程の勢いからは考えられない程素直に、フェニに従う。

そんなフェニに3人とも、懐疑的な視線を送る。


「だが!ギルドに子供がいるのは納得いかねえ!此処はいつから公園になったんだよ!」

「御安心ください〜。この子達はギルドに登録出来る年齢に達してますし〜、普通の子達と比べても強い部類に入りますよ〜」

「け!だから何だってんだ!普通より強い?馬鹿馬鹿しい!そんな奴は毎年の様に現れる!だけど所詮はガキだ!結局はダンジョンで散ってくんだよ!なら此処で帰らせるのが筋じゃねえのか?!」

「お気持ちは分かりますが、落ち着いて下さい〜。でないと〜…」


フェニが最後まで言い切るより早く、カウンターから鞭がバルガスの足元ギリギリに飛んで来た。その際、床が少し砕ける。

そして姿を現したのは金髪縦ロールで紫色の瞳を持つ女、タリアだ。


「うるさい事ですわよ、バルガス!大人は大人らしく大人しくするんですわよ!」


そう言うと間髪入れず鞭をバルガスの足目掛けて振るう。バルガスがギリギリで避けると、また床が少し砕ける。


「危ねえだろタリア!当たったらどうするんだ!てか大人言い過ぎだろ!」

「お黙りですわ!此処でチンタラしてる暇があるのなら一つでも依頼をこなしなさいですわ!貴方の様な方が積極的に依頼をしないせいで、依頼は溜まる一方ですわよ!」

「依頼をこなすよりダンジョンの素材を売り飛ばす方が儲けが出るんだよ!」

「それならダンジョン関連の依頼を受ければ良いでは無くって!?」


黙れと言っている本人が1番うるさい様に聞こえるが、それを言うと鞭が飛んでくるのは自明の理なので、ギルドに居る誰もそれを口にしようとしない。

場を緊張感が包むが、それを破るのはフェニの静止の声だ。


「落ち着いて下さ〜い。この子達もビックリしてますよ〜。ですよね〜?」


フェニの問いかけと共に、彼女の有無を言わさぬ圧の様な物を感じ取り、3人ともコクコクと頷く。


「そう言う事なので〜、ご理解下さ〜い」


通常なら頷く場面なのだろうが、バルガスはまだ納得出来ずに食い下がる。


「…だが、戦闘で使えるかは分からねえよな?」

「ええ」

「なら、俺が戦闘の試験官を務めても良いよな?」


バルガスの質問に、フェニは顎に指を当てて考える。

ただ3人とも、バルガスの質問の意味がわからなかった。最初の段階で既に戦闘力を測るのだから、わざわざ試験官が付く必要があるのかと。

そんな3人の様子を傍目で見ていたタリアは回答を言う。


「簡単ですわ。いかに戦闘力が高くとも、実戦でその戦闘力を十分に発揮出来るとは限らないのですわよ。現時点で何処まで発揮出来るかを測るのが、試験の目的ですわ」


その説明で、3人とも納得した。

説明が終わってもまだ考えているフェニに、代表してメリカが自分らの意見を述べる。


「フェニ。是非ともやらせて。何処までやれるのか、知りたいから」


メリカの言葉を聞き、フェニは顎から指を離す。


「…ま、本人達が言うのであれば構いませ〜ん。それなら〜、ギルドの地下にある訓練場に案内します〜。バルガス君も〜、久しぶりについてきて下さーい」

「君付けはやめろ…」


と、言いつつもフェニについて行くので、フェニには頭が上がらない様だ。

アシリカ達3人とバルガス、その他観客達がギルド地下の訓練場へと向かう。

ギルド地下の訓練場へは、受付カウンターの横にある階段から行く事が出来る。


「地下ねえ…毒気が溜まるんじゃないの?」


メリカの言う毒気とは二酸化炭素の事だ。


「その辺りの心配は無用です〜。マジックアイテムの力で〜、常に外と空気を取り替えっこしてるんです〜」

「成る程。アシリカ。マジックアイテムだって。見せて貰えば?」

「え?ええ…いえ…結構です…」

「もう…シャキッとしてよね!」

「イ?!」


メリカはアシリカの背中を叩く。

それにアシリカは驚いた声を上げ、赤面する。


「な、何するんですかー!」

「嵯峨徒も覚えておいてね。アシリカを驚かすと必ず変な声出すから」

「あら。良い事を聞いてしまいましたね」

「メリカさんの言う事は信じないで下さい〜!」

「ちょっと皆さ〜ん?緊張感が無さすぎますよ〜」


はしゃぎすぎは良くないと、フェニが釘を刺す。


「コレから皆さんが相手をするバルガス君は、Bランク冒険者で〜、同じランク帯でも実力は上位に位置しますよ〜。注意して下さ〜い」


Bランク…プロ中のプロのランクとされており、非凡な才能を持つ者のみがこのランクに昇格できる。まずアシリカ達が勝てる相手では無い。

そんなこんな注意を受けていると、バルガスが訓練場に姿を現した。周りはギャラリーが大勢おり、どれくらい良い勝負をするか賭け事まで始まっている。


「どうなると思う?」

「灰色の髪の子は支援系だろうからな〜…一発でやられるかもな」

「黄色の子は案外良い線行くかもだぜ」

「あのピンク色の子は絶対に一撃加えるわよ」

「コッチは準備完了だ。最初は…そこの灰色髪の嬢ちゃんだ。勿論、一人で来い」


バルガスがアシリカを指名するが、メリカ達は反対の声を上げる。


「ちょっと!アシリカは支援専用よ!肉弾戦なんか出来ないわ!」

「そうです!まさか、杖で殴って戦えとでも言うのですか!」


メリカ達の抗議を一通り聞き、バルガスは頭を掻く。


「馬鹿か。常に誰かそばに居るとは限らねえだろ。ダンジョンで孤立した時も同じ事を言うのか?モンスターは抗議を受け入れるほど優しいのか?」


流石はダンジョンでの活動を主流とする冒険者だ。言葉の重みが違う。

それは分かってるが、尚も納得出来ないメリカ達を他所に、アシリカは前へと歩み出る。


「よろしくお願いします」

「その意気だ」

「ちょっとアシリカ!」

「大丈夫です。何も、支援だけが私の戦い方じゃ無いので」

「そ、そう?なら良いけど…」


メリカ達に見送られ、アシリカはバルガスの前に立つ。

ふと、バルガスが丸腰な事に気が付いた。


「…武器は…」

「必要ねえ」

「…なめられてますね」

「残念だが俺は手加減を知らねえ。骨の一本や二本は覚悟しとけよ」


そう言うとバルガスは構える。それを見て、アシリカも杖を構える。


「では〜…始め!」


フェニの合図と共に、アシリカが魔法を発動する。


「我が主神アルター様!私の足の枷を外したまえ!」


敏捷性を上昇させる信仰魔法だ。これでバルガスの攻撃を避けるつもりらしい。


「我が体に流れし魔力よ!我が手に集え!敵を切り裂く風よ、刃となれ!敵を留める水よ、矢となれ!下級風属性魔法、風刃(ウィンドカッター)!下級水属性魔法、水矢(ウォーターアロー)!」


アシリカの発動した魔法に、冒険者の魔法使いや、魔法を齧ったことのある者達は感嘆の声を上げる。

アシリカが現在行ったのは『二重詠唱』と呼ばれる技術で、一つの詠唱で二つの魔法を発動させると言う物だ。魔法のランクは同じ、属性は異なる、と言う条件は付くが、習得すれば戦術の幅は一気に広がる。習得難度は低くは無いが、かと言って高いわけでも無い。二つの属性を持つ魔法使いならば習得までにそれほど時間は掛からない。では、冒険者達は何に驚いたのか。要因は主に二つ。

一つは、彼女の職業が攻撃系の魔法職ではなく、支援系の魔法職であったからだ。

支援系の魔法職も攻撃魔法を使えるが、その威力は本職には及ばない。しかし、彼女の放ったソレは本職のと比べても遜色無いモノだった。

もう一つは、なんと言っても彼女の若さだ。若干12歳にして二重詠唱と言う技術を身に付けられる者はそうそう居ない。勿論、歴史を振り返ればそれよりも若い年齢でさらに高度な技術を身に付けてる者は居るが、そんなの本当に稀だ。まずお目に掛かる事は無い。

彼女の日頃の成果が身を結んだのだ。


いきなりそんな事を披露されたバルガスはと言えば、特に慌てる事なく二つの魔法を回避する。


「ほう…二重詠唱か。努力の賜物か?それとも才能って奴か?」


バルガスの問いには答えず、アシリカはバルガスの側面に回り込み詠唱を完了させる。


「我が体に流れし魔力よ!我が杖に集え!凍れ!そして敵を穿つ矛となれ!中級氷属性魔法、氷槍(アイスジャベリン)!」


流石に中級魔法ともなると魔力の消耗が激しいのか、息を切らし、汗を多量に流している。

だが、バルガスはアシリカの放った氷の槍を素手で砕き、アシリカの目の前まで急接近。拳を彼女の顔目掛けて繰り出す。アシリカは咄嗟に目を閉じるが、攻撃は寸止めで終わった。


「コレは驚いた。その歳で中級魔法まで使いやがるか」

「ハァ…ハァ…」

「だが…その様子を見た限りじゃ、まだまだ使いこなすには至ってない様だな」

「…ええ…」

「そこまででーす」


フェニが模擬戦の終了を宣言すると共に、アシリカに目一杯の拍手が送られ、健闘を称える声が投げかけられる。


「氷の槍凄かったわね!」

「二重詠唱なんてやるじゃねえか!」

「最初に素早さを上げたのは悪くなかったよ!」

「誰だ一発で終わりとか言ったのは!」

「お前だよ」

「大人になったら絶対美人になるぜ、ありゃあ」

「是非ともウチのパーティーに欲しいな」

「コレは残り二人への期待も高まるぞ!」


自身への賛辞に、少し照れながらアシリカはメリカ達の所に戻る。

その様子に何人かの冒険者がハートを射止められた様だが、当の本人が知るのはだいぶ後の話だ。


「じゃ、次はそっちの黄色だ」

「私達を髪の色で呼ばないでくれる?」

「分かりやすいから良いじゃねえか」

「何よそれ」

「とっとと来い、まさか怖気付いたか?」


バルガスの挑発にメリカは額に血管を浮かばせ、訓練場にある訓練用の剣と盾を身に付ける。


「…潰す」

「メリカさーん?殺し合いじゃ無いですよ〜?」

「お。あの嬢ちゃんは随分と威勢が良いぞ」

「だな。武器はオーソドックスに剣と盾か」

「バルガスの攻撃を上手く躱せると良いな」

「貴方達!品定めなんかしてないでお黙り!」


タリアの鞭に皆黙り、メリカは右手に剣を、左手に盾を構える。


「それでは〜…始め!」


フェニが開始の合図を出すも、両者は動かない。

バルガスはメリカが仕掛けてくるのを待ち、メリカはバルガスの隙を伺う。

両者は10秒ほど互いを観察したのち、痺れを切らしたメリカが動いた。


「はあああああ!!」


気合十分な掛け声と共にバルガス目掛けて駆け出し、バルガスは立ったままメリカを観察し、メリカの動きの速さに少しだけ驚く。

そしてあと一歩で剣が届くと言った所で、バルガスの拳が飛んでくる。


「パリィ!」


バルガスのパンチをメリカはスキル『パリィI』で逸らし、バルガス目掛けて突きを繰り出すが、後方に跳躍されて避けられてしまった。


「どうした?こんなものか?」

「コレからに決まってんでしょうが!この坊主頭!」


効果はないと知りつつも挑発の悪口を言い、再度駆け出す。

メリカの言葉に特に反応することはなく、バルガスはメリカの観察を切り上げて拳を構える。


「喰らえ!」


バルガスが繰り出したパンチは、先程のパンチとは比べ物にならない程の速さと圧でメリカに襲いかかる。その予想外の速さにメリカは動揺し、盾を構えてしまう。構えてしまった。拳と盾が接触した瞬間、盾は砕け散り、メリカを後方へと吹き飛ばし、そのまま地面を転ばしていく。本来であればメリカの体にパンチが炸裂して模擬戦の範疇を超える筈だったが、流石にそうなっては堪らないと、バルガスが拳と盾が接触した時点で止め、極力体へのダメージを減らしたのだ。勿論、喰らった本人は無事では無いが。


「うぐ…いった…」


左手を押さえつつゆっくりと起き上がり、痛みが少し引いたあたりで剣を両手で持ち、再度構える。


「ほほう。盾なんかない方が良い、とでも言いたげな顔だな」

「そう?まあ、否定はしないけど…ね!」


メリカもまた、先程までのより一段上の速さで動き始める。元々の速さも中々の物であったが為、今の速さは並の剣士のそれを上回る。

だが、相手は並の者では到達できぬ域に居る者。通用するとは限らない。

バルガスが再度拳を繰り出すが、その拳に合わせ、メリカは剣を振るう。


「スラッシュ!」


拳と剣がぶつかり合い、両者は距離を取る。

スキルで強化された斬撃と、普通の拳。通常は拮抗し得ない二物が拮抗したのには、やはりバルガスと言う男の非凡な強さがあってこそだ。

何度か剣と拳のぶつかり合いが起き、遂には剣の方が折れてしまった。


「…参った…」

「そこまでで〜す」


再度、相手がメリカへと変わり、目一杯の拍手と賛辞の声が送られる。


「やるじゃねえか嬢ちゃん!バルガスの拳と剣で戦うとはな!」

「すばしっこさも中々だ!実は盗賊系の才能もあるんじゃねえか?」

「威力の高い攻撃を繰り出せるのも良いけど、あの速さを活かせばもっと戦略の幅が広がるかもな」

「となると、レイピアとかと相性が良いのか?」

「馬鹿。レイピア持ってる柄に見えるか?きっと短剣で相手を切り刻むだろ」

「いや、普通に剣のままの方が良いだろ。威力と速度を1番両立させやすい」


勝手に自身の戦闘スタイルに関する会議が始まり、メリカは何か言いたそうにするが、特に何も言わずに元の場所に戻る。


「よし…最後はお前だ、着物」

「あら。私は髪の色では無いのですね。と言うか着物を知ってるのですね」

「噂に聞いただけで、実物を見るのは初めてだな」

「そうですか」

「それに知ってるぜ。倭ノ国(やまとのくに)の連中に『カタナ』って言うのを持たせると、馬鹿みたいに強いんだろ?」

「…回答は控えさせて頂きます」

「そうかい?剣よりもカタナの方が得意だろ?」

「…剣もそれなりには出来るので大丈夫です」

「ちぇ。カタナを振るう倭ノ国(やまとのくに)の戦士の姿を見たかったんだがな」


バルガスは残念そうにするが、嵯峨徒は逆に笑みを浮かべた。


「御安心ください。失望はさせません」


その言葉と同時に、嵯峨徒は剣を構える。いわゆる正眼の構えだ。


「その言葉…取り消すなよ?」

「ええ。勿論です」


会場は静寂に包まれる。嵯峨徒の挑発とも取れる言葉に、観客は思考を巡らす。実力差を理解出来ない馬鹿なのか、本当にそれ程の実力があるのか。どちらが正解なのかは、始まらなければ分からない。皆、模擬戦の開始を静かに待っていた。

そしてフェニが開始の宣言をする。


「…それでは〜…始め!」


宣言と共に、嵯峨徒は歩み出す。ゆっくりとバルガスへと近付いて行く。バルガスは仕掛けずに観察を…いや、仕掛ける事ができない。

自身より遥かに力の劣る目の前の相手から、異様な気配を感じ取った為だ。

やがて嵯峨徒がバルガスの間合いに入ると同時に、バルガスは拳を繰り出す。威力、速度ともに実戦でも使うレベルの物だ。メリカの盾を破壊した物とは一回りも二回りも上の攻撃だ。

やがて拳は嵯峨徒の持つ剣に到達し、剣を折らんとする。が、剣が折られる事は無かった。


「…え?」


誰が呟いたかは定かでは無いが、観客は皆同じ気持ちだ。

拳が剣に接触した瞬間、嵯峨徒の剣の切っ先はバルガスの腕を伝い、胴に一撃を入れ、本人はバルガスの斜め後ろに居た。そして、嵯峨徒は技の名を口にする。


「…大和桜花流・飛花の閃き」


訓練場は一瞬、時が止まったかのように静かになる。フェニでさえもどうすれば良いか分からず、静観している。が、すぐに拍手が巻き起こる。賛辞の声は無い。必要無い。この場に居る者は皆、自分ら程度では今の技を評価する事は出来ないほどに洗練された技であると分かっていたからだ。

拍手がある程度収まった辺りで、フェニが終了の宣言をする。


「それまで!」


再度拍手が巻き起こる。バルガスも小さく拍手をしている。そんなバルガスに、嵯峨徒は手を差し出した。


「模擬戦、ありがとうございました」


バルガスは黙ってその手を握る。


「…こちらこそだ。お前ら強えな」

「まだまだ未熟者ですよ」

「度を過ぎた謙遜は嫌味だぜ」

「事実です」

「…そうかい」


バルガスの言葉を最後に握手をやめ、嵯峨徒はアシリカ達の元へと戻る。


「凄かったですよ嵯峨徒さん!まさか一撃入れるなんて!」

「全く…脳ある鷹はなんとやらね…って、どうしたの嵯峨徒?具合が悪いの?」


見ると、嵯峨徒は目を伏せてフルフルと震えている。


「ど、どうしたんですか?もしかしてどこかに攻撃を…」

「…で…た…」

「…はい?」

「…出来た…出来たよ2人とも!私やったよ!」

「は、はあ?」

「やったーーーー!!!私にも出来たーーー!!!」

「お、落ち着いて下さい嵯峨徒さん!何が何だか…」


アシリカの静止も聞かず、文字通り飛び上がりながら喜んでいる。


「先程の『飛花の閃き』は大和桜花流の中では習得難度が高い部類に入るんです!土壇場で思わず使っちゃったけど…はあ〜〜…成功して良かった〜…もし当たってたら骨折どころの騒ぎじゃ無かったですから!模擬戦が始まった時も凄い緊張して、上手く歩けませんでしたよ!ハハハ!」


嵯峨徒は満足気な顔をしているが、メリカもアシリカも満足どころか信じられないと言う顔をしていた。


「アンタねえ…ユナよりも問題児ね」

「全くです…」

「…あれ?私への評価が上がるどころか落ちてるような…」


アシリカは、問題児が1人に減るどころか、2人から3人に増えていた事実に悲しみ、メリカはそんなアシリカを慰め、嵯峨徒は何が問題だったのか分からず、2人の後を追いながら首を傾げるのであった。

「…アルター様…コレは試練なのですか…?」

「ほら見なさい嵯峨徒。アシリカがおかしくなっちゃったじゃない」

「なんで私なんですか?」


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