学園編① 〜編入〜 大事件
ー少し前ー
「っ?!バロル!」
ジョアンナが何かを捉えた。
バロルは尋ねる
「どうした?」
「今直ぐに行くわよ。場所は此処!」
ジョアンナは地図に記す。
「…ここから遠い…階段に近えな。“はぐれ”に遭遇したか…」
「とっとと行くわよ!尋常じゃない魔力なんだから!」
「分かってる!」
バロルがジョアンナを担いで走り出す。
なりふり構っては居られない。
走りながら、2人は情報を整理する。
「どんなモンスターだ!」
「『サング・オース』よ!」
「なんだと?危険度Bランクのモンスターが何故こんな浅い階層に?」
「分からないわよ!兎に角急いで!なんなら私を下ろして!」
ジョアンナは出て来たモンスターの危険度のランクが高いため、多少ばかり混乱して居た。
「落ち着け。『サング・オース』の持ち味はその巨体を駆使しての大規模な破壊攻撃だ。見ろ。この狭い通路は『サング・オース』の持ち味をちっとも活かせない」
バロルは分析し、通常個体の『サング・オース』より危険度が低いと判断する。
たしかに、ダンジョンの通路内は『サング・オース』にとってはこの上なく不利な地形と言えよう。
「バカ!危険度Bよ、B!持ち味活かせなくても、基礎能力だけで脅威なのよ!」
「…わーってる」
「…っ?!」
角を曲がった所で、バロルは急停止した。
そこでは、ガルジュ達が瀕死のシエをゴブリンから守るために戦って居た。
「降ろすぞ!」
ジョアンナを降ろすと同時に、背中に担いでいた大剣を横に薙ぐと、風圧でゴブリンが飛んで行った。
「!!バロルさん!」
ガルジュが気付き、他の皆も気付いた。
「エリカはどうした?」
バロルの問いに、皆顔を曇らせる。
「成る程な…」
場には悲壮の空気が流れ始めるが、その空気は速攻で散らされた。
「すみません遅くなりました!」
アシリカ、メリカ、嵯峨徒がこの場に来た。
「な?!なんでお前ら此処に…」
「話は後です!メリカさんと嵯峨徒さんはまだ生きてるゴブリンをお願いします!我が主神アルター様…我が魔法を強めたまえ!」
信仰魔法でアシリカは自身の魔法効果を強めた。
「…我が体に流れし魔力よ、傷を治したまえ、血を止めたまえ、痛みを和らげたまえ、悪霊を取り払いたまえ…中級治癒魔法、ミドルヒール!」
アシリカの手に緑色の光が灯り、手をシエの腹部の穴にかざす。
すると、シエの腹部の穴からの出血が止まった。
そして徐々に傷が塞がり始めたが、すぐに光が消えてしまった。
「…もう一度…」
再度同じ詠唱をし、緑色の光を灯す。
誰も言葉を発さない。アシリカによる治療を邪魔しては、シエが助かる可能性が万に一つもなくなってしまう。
何度回復魔法を掛けただろうか。アシリカからは止めどなく汗が出て、息も荒い。だが、シエの傷は完全に塞がり、呼吸も落ち着いていた。
ちょうど同じタイミングで、メリカと嵯峨徒がエリカに肩を貸して歩いて来た。
「エリカ!」
ガルジュが駆け寄る。
「まさか、『サング・オース』に勝ったのか?!」
「…バロル先生…」
エリカはガルジュの問いを無視し、バロルに向けて話す。
「どうした?」
「ユナが…何処かに『飛ばされました』…」
「っ?!」
『飛ばされた』。ダンジョン攻略においてこの言葉は、転移トラップにかかってしまった事を指す。
転移トラップとは、ダンジョンの罠の中でもトップクラスに凶悪とされている罠だ。
飛ばされたが最後、何処に向かうかは寸分たりとも解明されて居ない。
理由はとても簡単。生きて帰った者が1人たりとて居ないからだ。
バロルは頭を抱え、ジョアンナは口を覆った。アシリカ達も驚き、目を見開いている。
しばらく沈黙が続く。
沈黙を破ったのは、怒気を孕んだバロルの声だ。
「…なぜお前らが此処にいる。俺は言った筈だ。あそこで反省してろと」
応えたのはアシリカだ。
「…その事に関してはなんの申し開きもありません」
「謝るんじゃなくてちゃんと話せ」
「…」
アシリカとエリカゆっくりと喋り始めた。
〜少し前〜
ユナ達はバロルへの愚痴を一頻り言ったところで、言われた通り反省会を開いていた。
「なるほど…地図も全部が全部正確、とは限らないのですね」
「偽物を高額で売り付ける人も居るんだね」
パンフレットをめくりながら情報を確認している。
「あーあ…こんなデザインだから読む気失せるのよ…」
メリカは愚痴るが、嵯峨徒が咎めた。
「メリカさん。そんな事を言ってはいけません」
「はーい」
素直に返事するメリカに、アシリカは驚きを隠せなかった。
そして嵯峨徒に尋ねる。
「嵯峨徒さん…どうやってメリカさんを手懐けたんですか?」
「ちょっとアシリカ?私を何だと思ってるの?」
「手懐けてなんていませんよ。話しただけです」
「そうよ。私と嵯峨徒は『心の友』って奴なんだから」
「…はぁ…」
アシリカは反応に困る。
「それはそうと、この前勧めた『灰の王子と白の王女』は読んでみましたか?」
「まだよ。今は『ミスリア戦記』を熟読中ね」
「あら!描写が非常に細かい物語ですね」
「ええ。これを書いた筆者には感銘を受けたわ。まるで間近に見た様に描かれているし、読み易いのよね」
「内容も中々に歯応えがありましたぁ…」
「ネタバレしないでよね?」
「しないですよ。鉄の掟です」
アシリカは彼女らの話について行く事を放棄し、ユナの方に近寄った。
「ユナさんは何か興味惹かれる事とかってあるんですか?」
「興味?うーん…ダンジョンかな」
「ここ?」
「うん。だって、お宝が出るって聞いたら、お宝が出るまで潜りたくない?」
「あー…冒険者のロマンですよね」
「でしょ?アシリカちゃんにも分かる?」
「私ですか?私は…」
アシリカは言い淀む。
なぜならアシリカは、危険を冒してまでお宝を得たいとは思っていない。
すると突然、ユナは背筋が凍る感触を覚え、驚きの声を上げた。
「…っ?!」
しかし、その声は周りには届いたかは分からない。
何せ、ユナを除く皆は、時が止まった様に動いていないのだから。
「お願い勇者様!」
幼い少年の声だ。
勇者。この単語は世界中の誰でも知ってるが、果たして誰が勇者かは、一部の者しか知らない。
そもそも、ユナの中では、自分が勇者であると言う自覚は薄い。
辺りを見回しても誰も居ない事からユナは幻聴だと思ったが、直ぐに否定された。
「白い髪のお姉さん!勇者なんでしょ?!なら助けて!」
何を助ければ良いのか、ユナには分からない。
「死んじゃうよ!お姉ちゃんが死んじゃう!」
「お姉ちゃん…?」
「エリカお姉ちゃんが死んじゃう!」
「っ?!」
エリカ。少し前にユナがダラダラしている事を咎めた少女の名前だ。
「どう言う事?!」
「お姉ちゃんが戦ってるのは凄く強いモンスターで…その…その…」
少年の声は混乱し、何を最初に伝えるべきか分から無くなってしまった様だ。
「つまり、エリカがその凄く強いモンスターと戦ってるんだよね?」
「そ、そう!」
「分かった!」
ユナは駆け出す。それと同時に、周りも動き出した。
「え?あ!ちょっと!ユナさん!」
「来て!」
アシリカの静止も聞かず、ユナは走って行く。アシリカ達も慌てて追い掛けるが、とてもではないがユナには追い付けそうに無い。
『そこを右!あ!左!えーとえーと…』
ユナ視点で状況を説明するなら、道の角に差し掛かる度に周りの動きが止まり、少年の声が指示を出している。
ただ、ユナの移動が早過ぎて、指示が追い付いていない。
やがて指示が止むと、ユナの目には大きな熊が映り込んだ。
赤味を帯びた毛は生物の組織とは思えぬ重厚さがある。
額にある紅の角は突けば大抵の物は貫けよう。
そして、4本の腕に、青い爪、赤く輝く目玉は、凡そ目の前の生物が、通常の生物の括りには存在しない事を示していた。
その熊は、大きく口を開け、壁に背を付けて倒れている少女を、今まさに食わんとしていた。
熊はユナが近くにいる事には気付いていない。だが、気付いていなくても、その熊の様なモンスターが放つ威圧感は、ユナに自身の勝利のビジョンを容易に思い浮かばせない程の圧を持っていた。
今まで対峙した事の無いモンスター。どう対処すべきか、経験の浅いユナには分からない。
だが、自然とユナは剣を抜き、突きの構えをした。
今、ユナは自身が何をしているのか分からない。ただ、直感に身を任せている。
自身の体に何かを纏う感覚を、自身の体を何かが駆け巡る感触を、ユナは確かに感じていた。
そして、熊が少女を噛み殺そうと口を閉じようとした瞬間、ユナはスキルの名前を口にする。
「一刀一閃」
目を閉じていても眩しい程の光を放たれると同時に、熊は横へと吹き飛ばされた。
「GUO?!」
熊も、何が起こったのか分からなかった。ただ、熊がハッキリと分かったのは、自らを吹き飛ばした存在は自身より格上の存在である事、そして、自身が命を賭して真っ先に排除しなければならない存在だと確信した。
「どうしたの?毛色が変わるとダメ?」
目の前の存在は、熊に問う。
「やってごらん。私は、逃げる事を薦めるわよ」
「GU…GURUOOOOOOOOO!!!!!」
熊は目の前の存在を捕まえようと腕を伸ばすが、瞬時に切り裂かれた。
「GUGAAAAA?!」
「…そう。それが貴方の選択なのね。なら、容赦はしないわよ」
目の前の存在は剣を構え直す。
熊はそれを見て全く別の方角へと駆け出した。
「? 待ちなさい」
時折振り返り、相手の様子を確認している様から、逃げていると言う訳ではないらしい。寧ろ、相手を誘き寄せている様に思える。
熊の巨体だと通路を通るには大き過ぎる様で、壁を破壊しながら進んでいる。やがて、行き止まりに突き当たった。
「何のつもり?」
熊は頭を少しばかり下げると、後ろ足に力を込め、角に異様なオーラを纏わせた。
「…『サクリファイス・オールチャージ』…命も魔力も全部賭して、私を倒すの?…止めて。そんな事をしても、貴方に私は倒せない」
「GUGAAAAAAAAA!!」
『倒されるには最高の前台詞だな!』と言わんばかりに咆哮した後、熊は目の前の存在目掛けて突進を繰り出す。
その圧だけでダンジョンの壁はひび割れてから崩れ、空気が歪む。
そんな、まともに当たれば一撃で山を砕けるであろう渾身の突きは、目の前の存在に角を優しく握られる形で、不発に終わった。
目の前の存在は、涙を流していた。
「止めて。これ以上は、ダメ…」
目の前の存在の言っている事は、熊には理解できない。
熊が人の言葉を理解していない訳ではない。
ただただ、言っている意味が理解出来ない。
熊は足から力が失われていく感覚を得ると同時に横に倒れる。
倒れ行く中、熊は自身の頭の中で自問と自答を繰り返した。そして遂に腑に落ちる答えを得ない内に、意識を失った。
ユナは、倒れた熊を静かに見下ろした。
そして彼女もまた、自身の頭の中で自問自答を繰り返していた。
先程までの自身の言動は、ユナの意識下で行われた物だが、先程の思いや考えのルーツを、彼女は知らなかった。まるで身に覚えがないのだ。
モンスターの特攻に涙を流させる体験は彼女の中には無い。
そして、このモンスターの命を賭した突きを、角を優しく掴んで止められるだけの身体能力は、彼女には無い。
思索している内に、熊は消え、場には毛皮製の外套が一着だけ残った。
毛皮は赤味を帯び、所々に青い装飾が見受けられる。
ユナは試しに羽織ってみる。その姿はさながら山賊の頭領の様だ。身につけた本人も苦笑している。
ふと、周りを見ると、ユナは疑問を浮かべた。
「うん?こんな部屋あった?」
先程の熊の攻撃で崩れたダンジョンの壁の奥に、部屋があった。
直ぐに、ユナは自分が興奮しているのがわかった。
見たところ手付かずの部屋の様に見えるし、何より、宝箱がある。
頭の中では危険だと分かっていても、どうしても行きたくなってしまう。
ほんの少しばかり迷った結果、ユナは部屋に足を踏み入れた。特に何も起こらない。
二歩三歩と進んでも何も起こらない。
何事もなく宝箱まで到達した。宝箱に手をかけ、ゆっくりと開ける。
開けると、中には小瓶が一つ入っていた。
小瓶の状態は非常に良い。長い間、誰の目にも付かなかったため、傷一つついていない。
中には薄らと金色に輝く液体が入っており、小瓶を回転させる度に光が反射して輝く。
「何だろこれ…」
酷く神秘的な物にユナには感じられた。暫くそれを鑑賞しようとも考えたが、鑑賞会は一つの声により、行われる事は無かった。
「ユナ!早くそこから離れて!」
はっと声のした方を振り向くと、エリカが立っていた。
そして下を見た時、地面には青く輝く魔法陣が浮かんでいた。
「え…」
驚く間も無く、ユナはその場から消え去った。
…
「…これが、事の顛末です」
エリカの言葉により、説明は終わった。
「…なるほど。ユナがそんなに早く移動して、エリカの元に行って、『サング・オース』に勝利した…俄には信じられんが…」
バロル達はアシリカ達の目を見る。
「嘘を言ってる訳でも無いな…最も、全部を話してる様にも思えんが」
そう言うとエリカを見る。エリカはそっと目を逸らした。
確かに、エリカはユナがどの様に『サング・オース』と戦ったか、バロルに話していない。
「…まあ、今回はさして重要じゃ無さそうだから良い。ジョアンナ。ショウに伝えろ。コイツらを学園に戻したら直ぐに、ユナの捜索に向かう」
「ギルドに話を通さなくて良いの?」
ジョアンナの問いに、バロルは首を横に振る。
「無理だろ。ユナ1人の捜索の為に、ギルドが多くの人員を割くとは思えんし、そもそもが門前払いされる…」
そう。転移トラップに掛かった人の捜索は、此れまでに何度も行われて来た。しかし、尽くが無駄、もしくは凄惨な結果に終わっている。
そもそも発見されること自体少なく、発見されたとして、遺体の状態で見つかるか、遺品が偶然見つけられるか。
また、それらが見つかる所も、ダンジョンの深部である。
ダンジョンはより深ければ深い程、出現するモンスターの強さやトラップの凶悪さは増す。
総じて危険度が増すので、捜索隊が痛手を被り、全滅したケースもある。
だから、冒険者ギルドも捜索隊を編成する事は稀になった。稀に編成する時と言うのは、どこか爵位の高い貴族もしくはその血縁者、王族などがトラップに掛かった場合が殆どで、市民や一般の冒険者がトラップに掛かった場合は見捨てられるのが普通だ。
よって、ユナの為に捜索隊が編成される可能性は、万に一つでもあればマシな方だ。
ジョアンナも頭では分かっている。分かっているのだが…
ジョアンナにとって、ユナは歳の離れた妹の様な存在だ。カイザー亡き今、ユナを守るのは自身の役目と思っている。
…藁にもすがる思いと言う物だろうか。ジョアンナの頭の中には、『万に一つ』に賭ける以外に道はなかった。
「…だとしても、掛け合ってみるわ」
「…ハァ…分かった。ショウには俺が話しておく」
「じゃあ、私は先にギルドに向かってるわね。『テレポート・第一階層』」
今のは、大抵のダンジョンで誰でも使える呪文で、『テレポート』と言い、その後にそのダンジョンの階層を指定する。すると、指定した階層へと転移できるのだ。
最も、この呪文を使える様になる為には、特定の条件を満たさなければならないので、『“理論上”誰でも使える』と言うのが正しいだろう。
バロル達は無言で歩きで帰る事となった。お通夜状態と言うべきだろうか。道ゆく人々もそんなバロル達に道を空けるほどだ。
そして、学園に戻った後も大変だった。
バロル達の話を聞いたショウは顔を真っ青にし、今直ぐにでもダンジョンに潜りに行こうとし、バロルが説き伏せるのに時間が掛かった。
クロームとフルヘンシオもまた、顔から血の気が引く思いをした。2人は事情を知っている為、仮にこれでユナが死んだ時、人類はどうなるかと言う事にも尚更血の気が引いた。
ただ、1番の問題なのは…
「…へえ。成る程成る程。それは困りましたね。ユナ様が死亡率100%のトラップに巻き込まれて行方不明…困りましたね」
家事王だ。
その日の夜に話をしたのはアシリカとメリカ、そして嵯峨徒。ユナの部屋にまで行き、椅子に座らせられ、話をした。
3人から見ても、家事王が激怒している事は違い無い。特にアシリカとメリカは、家事王が怒った時何をしたか知っている為、冷や汗をかき、腕を押さえていた。
「…それで?何で私にわざわざ話に来たんですか?」
3人とも、ポカンとした。
「な、何故…とは…」
「私、好奇心が旺盛なので」
「そ、その…家事王さんには話さないといけないかなと思い…」
家事王は途中で遮る。
「良い心がけですね。たかが学園のお世話ゴーレムに、わざわざ主人が行方不明になった事を報告しに来るなんて、その誠実さに感動で動けなくなりそうです」
その声に、感動してる様子は微塵も感じられない
「その誠実さがあるなら、直ぐにでもユナ様を探しに行く気概も見せて欲しかったですね」
アシリカ達は何も言えない。反論する資格が、彼女らには無いと考えている。
「貴女方の話を一言でまとめましょう。ユナ様が死んだかも知れない。そう言う事ですよね?」
アシリカは恐る恐る頷き返す。
その様子を見て、家事王は淡々と続けた。
「ふざけないで下さい」
急速に部屋の温度が下がり、3人とも声を詰まらす。
「わ、私達は…」
「ユナ様は不幸な方ですよ。貴女方の様な方々をご友人に持ってしまって…こんな薄っぺらい友情を信じて、挙げ句の果てには見捨てられるなんて…」
「……どんな…」
アシリカが何かを口にする。
「はい?」
「どんな…罰だって受けます…今回の件…申し訳ございませんでした…」
そう言って頭を下げる。
これが、アシリカ達が家事王に見せれる、最後の謝意だ。
しかし、家事王はそれを一瞥し、鼻で笑った。
「はっ。そう言うのが1番腹が立つんですよ。どんな罰だって受けます?そう言えば此方が尻込みするだろう、って言う魂胆が見え見えなんですよ。それに、貴女方が心配してるのはユナ様の事なんかじゃあ無い。自分の身の安全です」
その言葉に、アシリカとメリカはハッとした。
「分かったらとっとと回れ右して帰って下さい。そろそろ、怒りを我慢するのも限界なので」
こう言われては、最早交渉は不可能。
3人とも、家事王に軽く会釈し、大人しく部屋から平原へと転移した。
転移してから暫くは3人とも黙ったままだった。
特に、アシリカは自分の拳を握りしめ、唇を噛んでいた。自身があの場で保身を図った事は、聖女としても、仲間としても、友としても、そして人としても恥ずべき行為だ。
結局、我が身可愛さに墓穴を掘ったと言う訳だ。
そんな沈黙を破ったのは、嵯峨徒だった。
そして沈黙を破ったその言葉に、2人とも驚愕した。
「ユナさんを助けに行きませんか?」
2人は驚愕する共に、心の中で自身を叱咤した。
ユナと長く付き合って来た2人がこの言葉を言えず、比較的短い付き合いの嵯峨徒からこの言葉が出た。
「ユナさんを助ける為にはダンジョンに潜らねばなりません。しかし、ダンジョンに潜る為には冒険者としての資格が必要です。ですから…」
「冒険者ギルドに行く、でしょ?」
言葉を続けたのはメリカだ。
「はい!」
「けど、大丈夫なの?バロルさんも言ってたけど、冒険者登録はバロルさん達の許可を貰わないと…」
すると、嵯峨徒が人差し指を左右にふる。その仕草たるや、まるで悪戯小娘だ。
「メリカさん、弱腰になっちゃいけません。事後報告です事後報告」
「は、はぁ?」
「ダメと言われる程やりたくなるのが、人の“性“という物じゃないですか?」
「そ、そうかも?」
「それにユナさんを無事助けられれば、バロルさん達も文句言えません」
「う、うーん…」
「ま、当たって砕けましょう!」
その言葉を聞き、アシリカは自身の頬を一度手で叩くと、前へと歩み出した。
「行きましょう。冒険者ギルドに」
その顔に、迷いは微塵も感じられなかった。
アシリカの声に2人とも頷き、冒険者ギルドへと歩みを進めるのであった。
「それはそうと、冒険者ギルドって夜だと閉まってるんじゃ…」
「∑(゜Д゜)」




