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光と闇 〜終わりの始まり〜  作者: シラス王
学園編
22/34

学園編① 〜編入〜 異変

「…それは本当ですか?」


特にアシリカは疑いもせずに聞き返した。アシリカは分かっている。

ユナは、真面目な時は凄く頼りになるのだ。


「うん」

「…おや?何か残されてますね」


ユナの後ろに、角笛の様な物が転がっている。


「…あのゴブリン、こんなの持ってましたかね?」

「さあ…」

「…一回吹いてみます?」

「ううん。バロルおじさんに見せる」

「たしかにその方が良いですね」

「…となると、早くメリカ達を見つけて、パーティーを組み直さないとね」

「しかし、パーティーを勝手に組み直して良いのですか?やはり一度決めたのですから最後まで…」

「けど、バロルおじさんは、パーティーを組んだら絶対にそのパーティーじゃなきゃダメ、なんて言ってないよ?」

「…」


アシリカは思った。それは屁理屈だ。一度決めた事を、屁理屈で曲げているだけだと。

アシリカとしては、自分がユナから頼りないと思われてる様で仕方なかった。


「早く行こ、アシリカちゃん。時間が経つと、どんどん離れちゃうかも」


アシリカは黙って付いて行った。

途中に何度かモンスターと遭遇したが、アシリカが何かをする前に全てユナが斬り伏せた。

いずれのモンスターも何も残さなかった。


暫く通路を走る内に、ゴブリン4体と交戦中のメリカと嵯峨徒を何とか発見した。

2人とも背中を任せており、消耗している様子が窺える。


「アシリカちゃん!」

「我が主神アルター様!我らの味方、ユナの力を、素早さを高めたまえ!」


先ずはユナに最も近いゴブリンが背中を見せていた為に首を刎ね、嵯峨徒と鍔迫り合いをしていたゴブリンを横から貫く。

鍔迫り合いをやめた嵯峨徒は、メリカを側面から攻撃しようとしていたゴブリンを一刀両断する。

そしてメリカの盾により棍棒を弾かれたゴブリンは、そのままメリカに切られた。


「はぁ…はぁ…」


全員、地面に腰を下ろした。皆、度重なる戦闘により精神的にも体力的にも消耗していたのだ。

ユナでさえも、慣れない環境と敵が強いと言う事からプレッシャーを感じていた。


「何なのよ…此処は初心者御用達の階層なんじゃ無いの…?」

「メリカさん…それ五度目です…」


モンスター達が外より格段に強いと言う訳では無いのだろうが、ダンジョン内でのモンスターの遭遇率は当然高いし、何より、ダンジョンは基本的に通路状…軽い密閉空間の様な物となっている為、いざと言う時に逃げられないと言う心理が働き、余計に消耗する。

その為、戦い慣れした彼女らでもかなり消耗していた。


「此処で一度引き返しましょう…」


そう唱えたのはアシリカだ。当然の選択だ。このまま無理をして全滅したとなっては笑えない。

全員が同意し、メリカ達が来た道を引き返す。

運良くメリカの記憶力が良かった為に、特に迷う事もなくバロル達の元に引き返す事に成功した。


「お?随分と速い帰還だな。どうだった?」


バロルがユナ達の方を見て、してやったりと言わんばかりの笑みを浮かべている。

4人とも心の中でこう思った。『こいつ分かってたな』と。


「バロルおじさん…酷いよ…」


ユナが愚痴を溢す。


「悪い悪い」


全然悪びれてない。


「お前らは途中で合流した感じか?」

「2人じゃ絶対に無理じゃん…」

「お。よく分かってるじゃないか、ユナ」

「モンスターも強いし、通路は狭いし…もうやだ〜…」

「はっは!それに見合う宝はゲットした様じゃねえか!」

「宝?」

「ほら。お前が腰に下げてる、その笛だよ」


バロルは、ゴブリンが残した笛を指さした。


「それは…何とかって言う笛だ」

「馬鹿。それは『召喚の魔笛』よ。その角笛に魔力を込めて吹けば、一度だけその魔力に見合ったモンスターを配下として召喚出来るの。何回かに分けて込めても良いから、凄いお宝なのよ?」


中々に強力なアイテムだ。


「魔道具ですか?」

「そうよ。売ったら、白金貨が動くかも」


ジョアンナの言葉にユナ達は固まった。

この笛に、億単位の値が付くのだから。


「これを残したのは、ゴブリンを呼んでただけのゴブリンだよ?そんな凄い物落とすの?」

「それはもしかしたら、ゴブリンの希少種を倒したのかもな」

「希少種?」

「ああ。強さや見た目は普通のゴブリンと変わらないんだが、無限にゴブリンを召喚する能力を持っていてな。最初は普通のゴブリンを呼んで、時間が経つ毎にどんどん上位のゴブリンを呼び出していくんだ。で、そいつは初心者の階層にしか現れないし、現れるのも本当に稀だ、俺の記憶が正しかったら、最後に出現が確認されたのは10年以上前だ。更に、何かを残していく事は無かったそうだ。最も、確認された個体の数が少ないから何とも言えんがな」

「普通、この笛は何処から出てくるんですか?」

「ダンジョンの奥底のモンスターとかが稀に残す位だ」

「あれ?バロルおじさん達は、此れを見た事があるの?」

「ああ。一度手に入れた事があった。仲の良いテイマーにあげたな」


成る程。

因みに、テイマーというのはモンスターを魔力を以って使役し、指示を飛ばして戦わせられる職業だ。

魔力が多い方がより強力なモンスターを使役できるので、テイマーは皆、魔力が多い。

渡したのは正解と言えよう。


「で?結局それは誰の物なんだ?ユナのか?」


ユナが頷く。


「大事にとっておけよ。ダンジョンで初のドロップ品がそれなら、幸先が良いだろうからな」

「うん」

「…そろそろ、他の奴らも参って帰ってくる頃か?」


これを聞き、ジョアンナが溜息を吐いた。


「ふざけてんじゃ無いわよ。とっとと探しに行くわよ」


此れには皆動揺した。


「え、ど、どう言う事です?探しに行くって…」


嵯峨徒も動揺している。


「そのまんまの意味だ」

「え?ええ…?」

「それと、お前らも精々其処で反省してろ。行くぞ」

「全くもう…」


ユナ達が何か言葉を発するより早く、バロルとジョアンナは走り去って行った。


「…行っちゃった…」

「反省してろ…とは、どう言うことですかね」


アシリカが怪訝そうに尋ねる。


「うーん…こうして生きて帰ったし、アイテムもゲットしたし、大成功なんじゃないの?」

「全くです。少しくらいダメな点を教えてくれても良いと思います。断固抗議です」


嵯峨徒がプリプリ怒ってる。

それをトリガーに4人とも愚痴をこぼし始めたが、途中でアシリカがハッとした。


「あれ?もしかして、このパンフレットが原因ですか?」

「それ?そんな訳ないよ。そんなに変な…」


アシリカは慎重に読み始め、やがて凍り付いた。


「…書いてあります…」


その小言にも近い声と共に、見開きのパンフレットが示される。

3人は不思議そうな顔をするも、アシリカの開いたページに書かれてることを見て、凍り付いた。


『ダンジョン攻略の基礎中の基礎!出来ない人は子供未満!』

1,味方は必ず3人以上!前衛の盾役、中衛の攻撃役、後衛の支援役が居なけりゃオワリ!

2,地図を買おう!探索の楽しみがない?喧しい!死なれちゃ困るのはこっちなんだよ!

3,危機感知能力を持とう!ダンジョン内は危険だらけ!無理することなかれ!



4人とも顔を見合わせ、微妙な空気が流れる。

その空気に耐えかねたユナが、苦し紛れに叫んだ。


「バロルおじさんの意地悪ー!」



一方でバロルらはどうしているのかというと、ジョアンナが魔法で皆を探し当てるのを待っていた。


「…ふう…此れで3回目…」


ジョアンナが地図にパーティーの場所を書き込む。


「そろそろ出来そうか?」

「そう思ってるならなら周囲を警戒していて頂戴。近くにモンスターが居ると正確に捉えられないんだから」

「はいはい」

「我が体に流れし魔力よ。火を以って命の灯火を照らせ。火を以ってその場を示せ。火を以って道を示せ。中級火属性魔法、火の導き(ブレイズ・チャネル)!」


ジョアンナの詠唱が完了すると、ジョアンナからは地面にうっすらと炎が浮かび上がる様に見える。そして迷宮の地図が頭の中に構築されていき、ポツポツと青い点と赤い点が頭の中の地図に現れていく。赤い点は生きているモンスターを示し、青い点はモンスター以外の生物を示す。


では、何故数回に渡って行使したのか。

何回も行使しないと、どこに何がいるのかすら分からない。

ダンジョンの中を無造作に走り回って探すことも出来るが、それでは時間が掛かり過ぎる。

少し時間を掛けてでも、大まかでも良いから位置が分かれば、無駄に時間を掛けずに済む。


一刻も早く探し出そうと、ジョアンナは再度詠唱を始めた。



ダンジョンの一角から、次々とゴブリンの断末魔が聞こえて来る。

まだ消えていないゴブリンの死体の近くにいるのは3人の人影。何れも子供だ。

どうやら、残りのゴブリンは後一匹の様だ。


「これで…最後!」


燃える長剣がゴブリンに振り下ろされ、ゴブリンは真っ二つになり燃える。


エリカ、ガルジュ、アルメリアの3人は順調に探索を進めていた。


「なかなか順調だな!いやはや!意外にもあのパンフレットはしっかりしていた物なんだなと思う!」


ガルジュはいつも通り元気だ。


「煩いわよ。モンスターを呼びそうだからやめてよね」

「すまんすまん!」

「だから煩いって」


ガルジュの煩さに釘を刺すのはアルメリアだ。


「この階層のモンスターは弱すぎね。何も落とさないし退屈よ」


愚痴を溢すのはエリカ。

3人とも、日頃の鍛錬の成果を十分に発揮出来ている優等生だ。

ユナ達とは違い、キチンとバランスの良いパーティーを組めている。


「いやいや!外よりも手応えがある様に感じたぞ!そろそろ戻った方が良いのでは?」

「相手はたかがゴブリン。精々、10が11になった程度よ。この程度なら次の階層に行っても問題なさそうじゃない」


そんなエリカにも、アルメリアは釘を刺す。


「エリカ。そろそろ戻りましょう。マニュアルにも書いてあったでしょ。初心者は、思ったよりも消耗してるって。それに、絶対に下の階層には降りるなって言われてるでしょ?」

「…たしかにそうね。戻りましょうか」

「はっはっはっ!エリカ殿は生粋の冒険者かもな!」

「やめてよね。てか煩いって」


次の瞬間、エリカは明後日の方向を向く。


「む?どうした?」

「今、悲鳴が聞こえなかった?」


ガルジュとアルメリアには聞こえなかった様だが、エリカの耳は、小さい悲鳴を確かに捉えた。


「…ニケ…!」


エリカはそう呟くと駆け出す。それに追う形で、ガルジュとアルメリアも駆け出した。

彼女は悲鳴を発したのがニケだと判断した。


彼女らは余程の事が無い限りいつも一緒にいる。そんな彼女らの中で長女たるニケは1番冷静だ。

だからエリカは内心焦っていた。確かに不慣れな環境で予期せぬ事態が起これば、冷静さを失うのも仕方が無い。

だが、この階層の難易度を鑑みるに、冷静さを失い、かつ悲鳴をあげる程の事態は起こるだろうか。


走り、角を曲がり、また走り、道中のモンスターを無視し、ただ駆け続ける。


走って走って走り続け、喉が痛くなり始める頃に、ニケ達の姿を視認する事が出来た。


ニケ達の周りにはゴブリンの死体が転がっており、3人でも上手く対応できていた様子が伺える。


が、問題なのは、彼女らと対峙しているモンスターだ。

熊の様だが、やはりモンスターと言うべきか。その体躯は6m程もある。毛並みは赤味を帯びており、額には紅の角、腕は2本では無く4本、爪は青く、目は赤く輝いている。

熊の姿を見るだけで、足が竦む。後から来たガルジュとアルメリアもそうだ。

絶対に戦ってはいけない、そんな相手だ。


「な、何よコイツ…」

「エ、エリカ?!何でこんな所に来てるの?!早く逃げて!」


ニケがエリカに逃げる様に叫ぶが、エリカは首を横に振る。


「何言ってるの!貴方達こそ早く逃げて!此処は私が…」

「シエが!シエがぁ!」


見ると、シエが壁に倒れており、腹に穴が空いており、其処から大量の血が流れている。


「?!…シエ!しっかりして!」


エリカがシエに駆け寄るも、シエは返事出来ない。大量出血による血液不足で、意識が朦朧としているのだ。


「この!来るな!来るなあぁ!」


リエが熊に向かって杖から魔法を射出するが、熊には一向にダメージを与えられていない。


エリカはこの状況に混乱した。自分ではシエの傷を治せない。シエの傷を治せる誰かを連れて来れるだけの時間も無い。そもそも目の前のモンスター相手にニケ達が持ち堪えれる訳が無い。かと言って自分達が加勢した所でどうにかなりそうにも無い。


「GUOOOOOOOO!!!」


熊が咆哮すると、その場にいた者は全員後方に飛ばされた。

咆哮だけでこの威力。

エリカは、このモンスターの名前を思い出した。


「…『サング・オース』…」


Bランク冒険者…プロ中のプロの冒険者が数人がかりで倒す相手、つまりは危険度Bランクのモンスターである。

かつてこのモンスターがとある小国内に現れた際、小国の軍隊が壊滅的状況に追い込まれつつも討伐したのだが、それが後々にその小国の滅亡に繋がった。


エリカは何とか持ち直し、思考を巡らす。この場は、バロル達が到着すればエリカ達の勝ちだ。

だが、果たしてバロル達がエリカ達を見つけるまで、自分たちは持ち堪えられるだろうか。ハッキリ言って望み薄だ。エリカ側には瀕死のシエもいる。下手に動かしては、命を縮めるだけだ。


治せるとしたら…聖女候補のアシリカならば、応急処置くらいは出来るだろう。最も、彼女らが此処に来る確率はゼロに等しい。


エリカは、覚悟を決めた。


「…全員、逃げて」


エリカ以外の全員が驚き、顔を見合わせる。

アルメリアがエリカに異を唱える。


「エリカ…!貴女、自分が何を言ってるか分かってるの…?私は反対よ…」


ガルジュも、エリカの提案を却下する。


「ダメだろ。此処で引いて、何が騎士だ。何が戦士だ。俺は戦うぞ!」


それに続く形で、ニケとリエも抗議した。


「そうよ!私達だって戦えるわ!」

「時間稼ぎくらいにはなるよ!」


すると、エリカは背中に収めていた長剣を抜き放つと同時に炎を纏い、強制的に自分とガルジュ達とを引き離した。


「エリカ!」

「行って!ガルジュ!あんた騎士になって守るんでしょ?!だったら誰かを守る方法が一つだけじゃないことくらい覚えたらどうなの!」

「しかし…!」

「ガルジュ!」


エリカの強い口に、ガルジュは戸惑いながらもシエを抱え、後方に走り出す。それを皮切りに、他の者も走り出した。アルメリアが最後まで残ったが、エリカの後ろ姿を見て、無言で走り出す。


全員が去ったのを感じ取り、エリカは長剣を握り直す。

握り直した手は、思っていたより震えていなかった。

不思議と恐怖も感じて居なかった。


「…かかって来なさい!このウスノロ!」


エリカの職業は『魔法剣士』。魔法使いでありながら剣士でもある職業で、剣士のスキルも魔法使いのスキルも比較的楽に入手できる優れた職業だ。

エリカが使ったのは『挑発』と言う剣士のスキルで、敵対生物のヘイトを集められる。


エリカの挑発に掛かったサング・オースは腕を振りかぶり、エリカに振り下ろす。

単調な攻撃だが、その威力も速度も侮れない。エリカは間一髪で避けるも、振り下ろされた腕の風圧と、叩き付けによる衝撃により壁に打ち付けられた。


「カハ…!」


しかし、直ぐに体制を立て直し、叩き付けた腕に振り下ろす。

炎の勢いが増し、剣速も増す。

熊は振り下ろされる剣に対し、腕を振り上げ、剣を弾く。それと同時に、口に炎を溜め、エリカに向かって放った。

轟々と音を立ててエリカに向かうその炎は、まるで生き物の様にエリカに襲いかかる。


「なんの…これしき!」


燃え盛る長剣を構えると、炎は長剣に吸い込まれていった。


「GUO?」

「返すわよ!」


長剣を振るうと、熊が放った炎と同程度の炎が熊目掛けて放たれた。

熊の顔に直撃し、毛皮を焦がす。が、それだけだ。

熊は怒りの咆哮をあげ、エリカはその衝撃でまた吹き飛ぶ。


「…ッ…ハァ…ハァ…」


全身が痺れて、体が上手く動かない。剣を握ろうにも、手に力が入らない。


「…こんな所で…終わり…なの…?」


エリカの眼前まで熊が歩いて来た。


「GURURURURUUU…」


熊が口を開き、凶悪な牙を見せる。

エリカは死を悟った。

両親の顔を思い浮かべて、懺悔の言葉を口にする。


「…御免なさい…お父様…お母様…言いつけ…守れそうにありません…」


そして、今は亡き、幼かった弟の顔を思い浮かべる。


「ごめんね…お姉ちゃん…長生きできなかった…」


エリカは目を閉じ、自らの死を待った。



いったいどれだけ目を閉じていただろうか。ほんのコンマ数秒が、永い時の様に感じられる様だ。

もう自分は死んだのか。エリカは疑問に思う。


すると突然、瞼を閉じて居てもなお明るい光が、エリカの目の中に飛び込んだ。


「っ?!」

「GUOOOO?!」


少しばかり離れた位置から、巨大な物が倒れた音が聞こえ、地面が揺れる。


エリカは疑問に思い、瞼を開いた。

すると…


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