幼き日々1
シラス王です。始めたばかりで、分からない部分が多いかと思いますが、何卒宜しくお願いします。ダメな点がありましたら、どんどん指摘して下さい。作者の厨二病を爆発させた様な作品ですが、此の作品を楽しんで頂けたら幸いです。
(私の名前はユナ。6歳です。白い髪と金色の目をしてます。此処、ノスティム教会で保護されてる、親に捨てられた子供で、コジと呼ばれるらしいです。ノスティム教会では、沢山の子供達が居ます。森の中なのにね。如何やら、此処のシスターのマリーナさんが、此の森に捨てられるコジを積極的に保護してるらしいです。マリーナさんはとても優しいし、何でも出来ちゃう凄い人です。御飯はとっても美味しいし、服が破れたらパパッと直してくれるし、一緒に遊んでくれるし、洗濯だってお手の物)
(そんなシスターは色々な人と仲良しです。よく森の鹿や猪を倒して持って来てくれる、ムッキムキなボーケンシャのバロルおじさんや、私達に戦い方を教えてくれるショウお兄さん、魔法を教えてくれるジョアンナおねえちゃん。みんなシスターと仲良しです。バロルおじさん達は外で暮らしてて、ボーケンシャのパーティーを組んでるの。本当は忙しいのに、1週間に1回は顔を出してくれる、そんな優しい人達です。まあ、元々おじさん達は、此処のコジだったから、私達の事を心配してくれてるんだと思う)
(けど、それだけじゃ足りないのが現状。なんたって、ノスティム教会には本当に沢山の子供が居るから。大体20人くらい。みんな育ち盛りとかで、沢山食べるから、食べ物は直ぐに無くなっちゃう。そんな時に森に入ってくれるのが、最強冒険者騎士軍団です。エルフのアリアンナちゃんとクラウス君、猫獣人のミーちゃんが木の実や果物を手に入れて、1人だけの魔族のヨバル君と虎獣人のソワー君、そしてリーダーである、私のお兄ちゃんのカイザー!黒髪で黒目で、髪の毛が後ろの少し斜め上側にツンツンした変な髪型のお兄ちゃん!私と正反対な色なんだ…変な名前なんだけど、何となく王冠を被せたら似合ったから、こんな名前になったらしいの!私の名前の「ユナ」も、此処の先輩のお姉さん達が考えてくれたの。お兄ちゃんの方はお兄さん達が考えたらしいけど…まあお兄ちゃんはお兄ちゃんで此の名前をそれなりに気に入ってるみたい)
(そうそう。お兄ちゃんは私の双子のお兄ちゃんなの!お兄ちゃんはシスターみたいに何でも出来て、カッコ良くて、何より仲間想いなの!私は、そんなお兄ちゃんが大好き!小さい頃に「お兄ちゃんと結婚する!」とか言う位大好き!そんなお兄ちゃんは、私をいつも守ってくれるの!悪戯で森に入って迷っちゃった時に、直ぐに私を見つけてくれたのがお兄ちゃんなの!)
(そんなお兄ちゃんは、私と同じ6歳なのにお兄さんお姉さん達よりもしっかりしてるの!だから騎士軍団のリーダーにされちゃった。お兄ちゃんは嫌がってたのに!けど、お兄ちゃんはとっても強いの!剣も弓も使えるし、魔法だって使えちゃう!私も魔法を使えるんだけど、お兄ちゃんと比べると全然ダメ…その事で泣いたら、ジョアンナお姉ちゃんに、魔法を使える事自体が凄いんだよ、すぐにお兄さんみたいになれるよ、って慰められちゃった。けどお兄ちゃんは、私がお兄ちゃんぐらい出来る様になる頃には、もっと上手くなってる…多分、森で戦ってるお陰なんだと思う。だから、此れからお兄ちゃんに頼んでみるの。私も連れて行って、って。お兄ちゃんは私には甘々だから、きっと許してくれると思う)
よく晴れた日、森の中にある教会では数人の子供達が出かける準備をしていた。森の中に入り、食料を調達するのだ。
「お兄ちゃーん!」
物陰から様子を窺っていたユナが飛び出し、調達組の1人、カイザーの元へと駆ける。
「お、ユナか。どうした?」
(此処でお姉さん達が教えてくれた…)
「私も…連れてって?」
(上目遣い!お姉さん達が、お兄さん達から食べ物を取る時に良く使ってるの!此れで…)
「何処でそれを覚えたんだ?ダメに決まってるだろ。森は危険なんだ」
「えーーーー?!!」
入念に建てた計画が通用せず、ユナは困惑した。
(何で?!何で上目遣いが効いてないの?!)
「おねがいー!」
「ダメな物はダメだ」
「其処を何とか!」
「そもそも、お兄さん達がお姉さん達の上目遣いをくらって食べ物をあげてるのは、お姉さん達がやってるから効いてるんだ。お前がやっても意味無い」
実際、森は危険だ。多少厳しい口調になったが、カイザーはそれで良いと考えていた。しかし、当のユナは、みるみるうちに目尻に涙を浮かべる。
「私…私…」
「ぁ…いや…そう言う訳じゃ…」
カイザーは言い訳をしようとしたが、聞く妹では無い。
「うわーん!お兄ちゃんのバカ!もう知らない!もう絶対に2度と話し掛けないもん!」
ユナの絶縁宣言にカイザーは内心慌てつつ、冷静を保ってキッパリと断る。
「…良いだろう。今日だけだからな?」
前言撤回。あろう事か認めた。
すると、みるみるうちにユナは笑顔になる。
「わーい!ありがとー!お兄ちゃん大好き!」
ユナは喜怒哀楽が激しいのだ。
「…本当に何処で学んだ?」
「女の子の秘密!」
「はいはい…」
ユナは心の中でガッツポーズを取る。
(良し!大成功!)
そんなユナに対応しつつ、カイザーは他のメンバーの準備が終わったのを見計らって、適当な出撃前の文句を述べる。
「よーし!本日はただ鹿を狩るだけでなく、俺の妹のユナの護衛も兼ねた狩りとする!何れ最強の冒険者騎士軍団となる為の訓練だと思え!」
「おおーーー!!!」
団員の5人が了解の意味を込めて叫んだ。お姉さん肌の金髪エルフのアリアンナ、アリアンナの双子の弟でアリアンナと瓜二つの緑髪エルフのクラウス、男勝りな性格の人間よりのオレンジ色の髪と目をした猫獣人ミーに、少しだけ荒い性格の黄色の髪と目人間よりの虎獣人のソワー、1番平凡な性格の紫髪で紫色の角と翼が生えてるヨバルの5名が団員だ。
「では!出発!」
「おおーーー!!!」
何とも微笑ましい光景である。最も、先頭を歩いてるのが、此の中で最年少の少年なのには少し違和感を覚えるが。アリアンナとクラウスは12歳、ミーとソワーは11歳、ヨバルが13歳なので、何も知らない者が見たら、先輩達が後輩に花を持たせてる様に見えるだろう。そうして森を歩く事20分程…
「疲れたー…」
ユナがバテた。
「リーダー。アリアンナより報告。妹様がバテました」
副リーダーのアリアンナが報告して来た。
「クラウスより、休憩する事を提言します」
「ミーより、クラウスに賛成するにゃ」
「ソワーより、ミーに同感」
「ヨバルより、ソワーに同感します」
「よし。見張りはアリアンナとクラウスに任せるから、各自休憩」
「了解しました」
「了解です」
本当なら今頃、もう少し奥迄進めたのだが、森に慣れてないユナのせいで遅れが生じてるのだ。最も、ユナのせいだと非難する者は居ないのだが。
「はぁ…はぁ…」
「大丈夫かユナ?」
「う、うん…あ、足が少し痛いだけ…」
「少し見せてみろ」
「うん…」
「回復」
回復。初歩的な回復魔法だ。浅い切り傷位なら完治させられる程度の回復力しか持たない。しかし、魔法を使える者が少ない中、回復魔法を使える者はさらに少ないので、初歩的でも重宝されるのだ。
「あ!痛いのが無くなった!」
「それは何よりだ」
「まったく。リーダーは妹にだけは甘々だな」
今のやり取りを見ていたヨバルが言ってきた。
「そうそう。私達なんか、足が痛くても歩けって言うんだもん」
アリアンナも愚痴をこぼした。
「そうだにゃ!私達にもそれくらいするにゃ!」
ミーも空かさず言ってきた。
「ユナは森に慣れてないんだ。仕方無いだろ」
「はいはい」
クラウスも適当にあしらってる。
こうして見ると分かるが、愚痴を零しながらも仲は良いのだ。数分経ってまた出発。時々薬草や果物を見つけては採取したりを続けながら進む事十数分…茂みの向こう側の猪を調達組一行は見つけた。
「ラッキーだな」
「今日は猪鍋?」
ユナがそう尋ねた。
「鍋よりもステーキが良い」
クラウスが別の案を提案して来た。
「いや。鍋だ」
「えー…ステーキがー…」
クラウスが残念そうだ。
「無駄よクラウス。リーダーが鍋と言ったら鍋なのよ」
アリアンナがクラウスにそう言った。
「リーダー…俺はサンドウィッチが良い」
ソワーもそう言って来た。
「ユナが鍋と言ったから鍋だ」
「はぁ…甘々リーダーめ…」
ヨバルが愚痴を零す。
そんな隊員達とは対照的に、ユナは有頂天だ。
「お兄ちゃん大好き!」
ユナが大声をあげてしまった。
「あ」
全員の口からそう聞こえた。猪がこっちを向いた。
「…総員退避!」
カイザーの掛け声で散り散りになった。
「ユナ。後で説教だ」
「うわ〜ん!ゴメンなさい〜!」
「…説教は無しだ」
つくづく妹に甘い兄である。
「ヨバル!猪を牽制しろ!俺とソワーで猪を倒す!」
「了解だ!」
「採取チームはもしもの時に備えて避難しろ!」
「了解!」
少しズレたが、やってる事は何時も通りだ。
「こっち来い猪!」
ヨバルが魔法を猪に放つ。猪はビビって動きを止める。
「行くぞソワー!」
「おう!」
ソワーが猪の背中に捕まり、猪のストレスを溜め、直ぐに離れる。ストレスを溜める事で集中力を欠き、カイザーが魔法を放つ隙を窺っている。
「下級風属性魔法、風刃!」
集中力を欠いた所にカイザーが魔法で首を切り落とした。
「此れで血抜きの形になったな」
3人で協力して猪を木に吊るした。
「此れで待てば解体できる様になるだろ」
「お兄ちゃん達凄い!あんなに大きな猪を一瞬で倒しちゃった!」
「へっへーん。凄いだろ?」
ソワーが地味にアピールする。
「どうやったらあんなに貼り付けるの?!」
「力だな!」
「ソワーは獣人だから、こう言う事が出来るのであって、人間じゃ出来ないからな?」
ヨバルが忠告する。余計なことを、とソワーがヨバルを睨むが、ヨバルは気にしない。
「じゃあじゃあ!魔法は?!」
「魔法?それならリーダーに聞けば良いだろ?」
「ヨバルお兄さんからも聞きたい!」
「…うーん…日々の練習だな」
「えーー?!実戦で強くなるんじゃ無いの?!」
自分の考えが間違いだったと教えられ、ユナは落胆する。
「バカ言っちゃいけないぞ?みんな、日々の訓練を経て、実戦で其の力を発揮してるんだ。強くなるのは難しい事なんだぞ?」
「えー!!面倒臭いの嫌だ!」
兄に甘やかされたせいで、かなーりワガママである。
「いやいやばかり言ってると、リーダーに嫌われるぞ?」
「お兄ちゃんは私の事大好きだもん!そんな事ないもん!」
散々甘やかした結果である。
「リーダー…何か言ってやれ…」
ソワーがカイザーに囁き、カイザーも頷く。
「…ユナ。本当に強くなりたいのなら、毎日ちゃんと、好き嫌いせずにご飯を食べないといけないぞ?」
「なんでそうなった?」
ソワーがツッコミを入れた。
「うん!好き嫌いしないで強くなって、お兄ちゃん達と一緒に森に行く!」
「そんなんで強くなれたら苦労しないぜリーダー」
ヨバルも思わずそう口にした。
「まあまあみんな。リンゴ見つけたんだけど食べる?」
アリアンナがリンゴを抱えてやってきた。
「わーい!リンゴ大好き!」
「こら。先ずはちゃんと洗ってからじゃ無いと…」
そのままかじろうとするユナをカイザーが止めるも、ユナは抗議する。
「いや!今食べたいの!」
「はぁ…下級水属性魔法、水玉」
カイザーが威力を弱めたウォーターボールを当て、リンゴを洗った。
「此れでいいぞ」
そう言われるとユナはシャクシャク食べ始めた。
「甘ーい!美味しい!」
「羨ましいわよね。普通、魔法の属性は一人一つよ?」
アリアンナが本当に羨ましそうな口調でそう言い、他の皆も同意する。
そう。魔法使いが持てる属性は基本的に一つなのだ。火、水、土、風、氷、雷、木、聖、悪、光、闇の十一の属性に加え、無という何れにも属さない属性がある。聖悪光闇以外の七つには有利不利の関係があり、聖属性と悪属性に関してはどっちも効きやすい関係にある。後は、勇者と呼ばれる存在のみが使用できる光属性も存在してる。
そんな中、カイザーとユナは光属性や闇属性、無属性を除く全ての属性に適性がある事が分かってる。
「ま、才能かな?」
カイザーがふざけた感じでそう言った。
「ムカつくわね…」
アリアンナが若干眉間にシワを寄せる。歳下に揶揄われては、年長者としては面白くないだろう。
「けどさ?地水火風はまだしも、木とか雷とか氷って、あんまり居ないんだろ?ならアリアンナも才能あるって事じゃね?」
カイザーがそう指摘し、フォローを欠かさないようにする。
指摘を受けたアリアンナは見る見るうちに笑顔になる。
「…それ程でもお?」
「だろ?(ちょろいな)」
「ちょっと!何お兄ちゃんとイチャイチャしてるんですかアリアンナお姉さん!お兄ちゃんは渡しません!」
どうやら、ユナにとって、兄が他の女と話してるのはムカムカする事らしい。
「イチャイチャしてないわよ?ねえ?」
アリアンナはカイザーに同意を求める視線を送った。
「ああ」
勿論カイザーは同意。
「…ふん!なら良いです!」
ユナはまだ何処か不満そうだが、それは口にしなかった。
「そもそも、私は年下は趣味じゃ無いの。こんな子供とイチャイチャなんかしないわ」
アリアンナが要らぬ言葉を言う。今度はカイザーが顔を顰めた。
「誰が子供じゃ」
子供なのに、自分は子供では無いと言う風にカイザーが反論した。
「お兄ちゃんはアリアンナお姉さんより大人だもん!」
ユナが追撃を仕掛ける。
「はいはい。まあ事実だしね。此の中で1番しっかりしてるし。ねえ?ヨバル?」
1番年上のヨバルをからかうようにヨバルに振った。常日頃より気にしてるヨバルは嫌々ながら顔をコチラに向ける。
「…何だよ」
「此の中で1番しっかりしてるのはお兄ちゃんです!」
「そうだな」
「恥ずかしく無いのー?」
アリアンナがヨバルを煽る。
「俺は上に立つ柄じゃねえ!」
開き直りである。
「おーいリーダー!ブドウ見つけたぜ!」
「ナイス!」
「何度も聞くけど、『ないす』ってなによ」
「口癖だ口癖」
カイザーの好物の一つはブドウだ。
「そろそろ血も抜けてきたにゃ」
先程から猪を涎を出しながら見てたミーが教えて来た。このまま放置してたらミーに食べられかねない。
「分かった。ヨバル」
「分かってる。魔法のポーチ」
魔法のポーチ。これの場合は容量は部屋一つ分程度だが、それ迄なら何でも収納出来る優れ物だ。ジョアンナが教会に大金を叩いて寄付した物だ。
「ジョアンナお姉さんに感謝だな」
「そうだねにゃ。今迄は引っ張って来るせいで、肉がダメになっちゃったからにぇ」
「そうらしいな。よし。此れより撤収する」
「おー!」
団員の5人が了解の意味を込めて叫んだ。
「おー!」
ユナが釣られて叫んだ。年相応といった仕草で叫ぶ様は、何とも可愛らしい物だ。
帰り道は特に何事も無かった。そして何時も通りの帰還パレードが開かれる。最も、団員達が手を振り、それを子供達が拍手で迎えるだけなのだが。
「あら。今日は失敗しちゃったの?」
何も運んでない様子を見て、からかうように声を掛けて来たのは、此の教会のシスターであるマリーナだ。思春期の男子を刺激する体付きをしてるせいで、一部の女子からは時々ジト目を向けられてる。
「失敗なんかしてないぜシスター。ヨバル」
「あいよ」
ヨバルが立派な猪を出した。
「あらまあ!立派な猪ね!良く頑張りました!」
そう言ってマリーナは団員を褒めてくれる。
「へへ…」
カイザーもマリーナの前では照れる。
「むう!」
其の間にユナがいつも割り込むのだ。
「お兄ちゃんは渡さない!」
「おほほほ。シスターは結婚出来ないから安心しなさい」
そう言うとマリーナはユナの額をデコピンした。
ユナは額を抑えてマリーナを睨むも、マリーナは揶揄うような視線を送るだけだ。
「シスター!今日は猪ステーキ?」
「私はサンドウィッチが良い!」
「ステーキ!」
「サンドウィッチ!」
「まあまあ。何が良いかしら?団長さん?」
「ユナが鍋が良いと言ったから鍋だ」
「ええーーー!!」
教会の子供達が落胆の声を上げる。
「ユナちゃんずるーい!」
「偶にはステーキが食べたい!」
「いやいや…一昨日もステーキだったじゃん…」
「サンドウィッチが良い!」
「年長者の僕達の意見も聞けー!」
「そうだそうだー!」
絵に描いた様な暖かい絵面だ。
「…だそうだぞ?」
ユナにどうする?と言う目線をカイザーは送ってみた。
「お鍋が1番美味しいんだもん!」
「サンドウィッチだって美味しいもん!」
「照り焼き!」
「はいはい。じゃあジャンケンで決めるわよ。私とジャンケンして勝った人が、猪を如何するか決められるわ」
マリーナが仲裁に入った。
「良いぜシスター!」
「サンドウィッチは渡さないわ!」
「行くわよー?せーの!」
結果、鍋となった。
「こんなの反則だ!」
「負け犬の遠吠えだからやめなさい。ユナちゃんが買ったんだから、猪鍋よ?」
「いーやーだー!ステーキが良いー!」
「サンドウィッチー!」
男子2人が駄々をこね始めた。
が、それはすぐに終わる事となる。
「おいこら。潔く負けを認めろ。見苦しいぞ」
カイザーがとても6歳児とは思えない言葉を駄々っ子2人に言い放つ。それに2人ともビクッとするも、引き下がる様子は見せない。通常であればカイザーの一言で収まるのだが、今回は違うらしい。
「な、何だよ!ちょっと強いからって何でもかんでも思い通りになると思うなよ!」
「そうだそうだ!」
1人が主張をし、もう1人がそれに追従する形でカイザーと口喧嘩を始めようとするが、当の本人はポカンとし、頭を掻きながら答えた。
「うーん…なんでそう思った?」
「え…」
予想外の返答に、2人とも思考が一瞬止まる。
カイザーはその様子を見て続ける。
「だってさ、俺は何もしてないぞ?まさか、俺がジャンケンでユナが勝てるように何か変な事してたって言いたいのか?」
「違う!今までの事だ!」
「今まで?」
「ご飯も寝る所も!全部お前らが良いのを取ってくじゃ無いか!たまには俺達だって好きな物を食べたいんだよ!好きな所で寝たいんだよ!」
少年ら…最も、カイザーにとっては2つ歳上になるのだが…の主張を聞くも、カイザーは沈黙する。
見かねたシスターが声を上げた。
「あなたの言いたい事は分かったわ。けど、カイザー達はみんなの食べ物を頑張って取ってきてくれてるのよ。それに、今回はジャンケンでお鍋になったのよ?思い通りになんてしてないわ。寝る場所も、早い者勝ちでしょ?」
「けど…」
「う〜…」
シスターの言葉に少年たちはどうしようか迷う。
歳下相手に強く出た為に、引くに引かないのだろう。
そんな少年たちの考えを変えたのは、カイザーの謝罪だった。
「ごめん。最初に悪口を言ったのは俺だし、お前たちの言ってる事は間違いじゃ無い」
そう言ってカイザーは頭を下げる。
少年らもそれを見て、渋々謝る。
「…悪かった…」
「ごめん…」
暫く沈黙が流れるが、その空気を払う様にシスターが声を出す。
「さ!今から遊びの時間ですよ!名一杯たのしみなさい!」
「はーい!」
マリーナが手を叩き、重い空気にトドメを刺した。そうして団員も含めて皆庭の方に行く中、カイザーだけ其の場に残った。
「あら?遊ばないの?」
「俺は良い。日課が終わって無い」
「…貴方はまだ子供なんだから、そんなに強くなる事に執着しないで良いのに…」
「余計なお世話だシスター。俺が強くなれば、シスターを守れる。みんなを守れる。みんなが傷付く事も、手を血で濡らす事も無くなる」
「…あの時の事?」
そう言われて、カイザーは頭の中である事を思い出した。去年の夏に、此処に盗賊三名が来た事があった。其の時に盗賊を返り討ちにしたのがカイザーと子供達だった。
最も、返り討ちと言うより、時間稼ぎに近いが。其の過程で、2人の盗賊を殺してしまった。殴り合いの末では無く、壺を頭にぶつけたり棚を倒したりと言う、初歩的な戦い方だ。
其の際に、シスターとユナと幾人かの子供が怪我をした。カイザーに大きな変化をもたらしたのは、ユナが怪我をした事と、ユナとシスターが工夫して倒した棚で盗賊が1人死んだ事だ。其の出来事のせいで、ユナは夜な夜な悪夢にうなされる様になった。
カイザーは兄として、ユナに幸せになって貰いたい。だからこそ、カイザーはユナが此れ以上怪我をしない様に、悪夢にうなされない様にと強くなる事を決めたのだ。
「ユナちゃん…もう殆どうなされる事は無くなったから、もう少ししたら完全に治ると思うけど…」
「また盗賊が来たら?またユナにタンスを倒させるのか?悪いが兄として、それは認められない。だから強くなる。それだけだ」
其の時のカイザーの目は、6歳が出来る目ではなかった。揺るが無い決意を持った、そんな目だ。
「…なら止めたりはしないわ。けど、無茶だけはしないでね」
「分かってる」
そう言うとカイザーは去って行った。同時刻のユナはと言うと…
「ユナちゃんユナちゃん!お家ごっこしよう!」
「うん!」
兄の思いなど露知らず、名一杯楽しんでた。最も、それが兄の望んだ事だし、兄も強くなる事に何ら抵抗は無いのだが。遊んで良いと言う指令を受けてから2時間後…
「みなさーん!ご飯ですよ!」
「はーい!」
みんなが元気に返事をした。其の声を聞いたカイザーも戻って来た。事前に汗の匂いは落として。食卓には豪華とは言えないが、幾つもの小さな猪鍋と硬めのパン、野菜類が既に置かれていた。シスター1人で此処迄出来るんだから、凄い物だ。
「では皆さん。食事前のお祈りをしますよ」
一応此処は教会。食事前のお祈りは日常だ。
「主神アルター様並びに其の他の偉大な天使様方。私達に食の恵みを下賜して下さり誠に有り難うございます。此れからも神様方への感謝を忘れずに生きる為に、神様方が下賜して下さった食の恵みを頂く事をお許し下さい」
此れが食事前のお祈りだ。此の教会はアルター教と呼ばれる宗教に属している。アルター教は神像崇拝が禁止されている為、神の像は無いが、代わりに天使の像が建てられている。祈りの言葉を天使が神々に届けてくれるからだ。
そして、食事は楽しく食べろと、アルター教では教えられてる。だから毎日、教会内には笑顔が満ち溢れている。そんな幸せな日々が、ずっと続けば良いなと皆思ってる。だが、いつかは壊れるのが、幸せなのだ…
ユナが倒したのはタンスではなく、棚になりました。
あと、力関係的にシスターも追加しました。
気に入って頂けましたら高評価お願いします。