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光と闇 〜終わりの始まり〜  作者: シラス王
学園編
19/34

学園編① 〜編入〜 再会

家事王がやらかした次の日…

日が登りきったこの時間に、多数の生徒が体育館…と言う名の闘技場に集まっている。

何故か。みんなお待ちかねの戦闘科の授業だからだ。

教師は現Aランク冒険者3人組なので、是非ともと言う者が多くいて、結果こうなった。

皆、各々の好みの武器を携え、動きやすい服装をしている。

メリカが珍しく目を煌めかせながらユナとアシリカを誘った為、お決まりの3人も此処にいる。


まあ、当の冒険者達(のうち1人)は乗り気では無いのだが。


「大丈夫よ!みんないい子達ばかりだから!」


闘技場の控え室の様な場所で、フルヘンシオが3人を励ましている。

ただ、3人はそれどころでは無い。

フルヘンシオは女性の服を着ている為、3人とも話が入って来ないのだ。

『なぜ女性服なのか…噂は本当だったのか…』…3人はこれで頭が一杯である。


「どうしたのー?元気がないわね〜…」


お前のせいだよ!


「…帰りたい…」


大男が呟いた。


「んもう!大の男が弱音なんか吐くんじゃないわよ!」


流石は元Sランク…耳もいい…


フルヘンシオによる激励はこの後も続き、3人の精神を削ったとさ…


裏ではそんな事が起こってるとはつゆ知らず、生徒達はワイワイガヤガヤしていた。

もちろんユナ達も…特にメリカは群を抜いて興奮していた。


「ねえねえねえねえ!Aランク冒険者達が教えてくれるのって本当だったのよね!」

「そ、そうでしたよね…」

「なにダルそうにしてるのよアシリカ!此れは凄いことよ!」

「え、ええ…」


違うぞメリカ。アシリカはお前の熱意に引いているのだ。


「しかも、今最も勢いがある冒険者パーティーの一つ…『虚構の錫杖』なのよ!」

「虚構の錫杖?ナニソレ?」


ユナが不思議そうに尋ねた。

それにメリカが目を輝かせる。よくぞ聞いてくれたと。


「『虚構の錫杖』は伝説の武器の名前なの!能力はよく分からないんだけど、簡単に言うと、物事を無かった事に出来るのよ!凄くない?!」


そんな杖があってたまるか。

2人とも信じてない様子。

それもその筈。『虚構の錫杖』は、今はもう創作物として認知されている書物の中でのみ登場する武器の名前なのだから、実在する訳が無い。


「2人の考えてる事は分かるわよ…けど!だからこそ冒険して手に入れたく無い?!」


メリカの熱は冷める所を知らない。

周りの生徒達も若干引いている。


「分かりましたから落ち着いて…」

「他にも、『黒槍クロリエンヌ』とか、『賢者の脳』とか『骸死剣ナバド』とか…」


アシリカの静止も聞かず、メリカは伝説の武器の名前をつらつらと挙げていった。


「あら。結構お詳しいんですね」


嵯峨徒が来た。心なしか、同族を見つけた様子で目を煌めかせている。


「でしょ?」

「勿論です♪『流星球ドデギオン』、『虹刀』、『雷光鞭ボルクス』、『双瘴王の扇』はどうでしょう?」

「知ってるわよ!勿論ね!」

「武器名では無いですが、『地拳』や『穿車』なども」

「むしろそっちの方が本命よ!」

「あら♪私もです♪」


えー…彼女らはいわゆる軽度のオタクである様だ。

中でも、創作物や史実の中に登場する装備や人物のオタクだ。

其れを見たアシリカはやれやれと、ユナは2人の話してる内容が分からずポカンとしている。

しかーし、此処は王族貴族の学園。キャッキャと騒ぐ場所では無い。


「なに?あの2人?」

「ほら…最近入って来た…」

「隣の方はサガト姫じゃ無くて?」

「なんてはしたない…」


この光景は、令嬢の皆様からすれば格好の嫌味の的となる。当の2人はどこ吹く風と受け流している。何時もなら突っ掛かるが、メリカも成長したのだな、パーフェクトスルーだ。

と言うか周りの連中も騒いでるんだからそっちにも嫌味をすれば良いのに…

逆にユナは食って掛かろうとするが、アシリカの静止を受けてやめた。


「ユナさん…家事王さんとの約束、忘れたんですか?」

「はいー…」


家事王はと言うと…


「…ユナ様が叱られてる気がします。叱ってるのはアシリカ様ですかね?全く…」

「…」


他のゴーレム達と共に、体育館内のゴーレム専用の待機場所にて待機している。


「へくち!」

「くしゅん!」


ユナとアシリカが同時にクシャミをした。

2人とも怪訝そうな顔をする。

其れと同時に、冒険者の3人とフルヘンシオが入って来た。


「みーんなー!ちゅうもーーーく!」


元Sランクが発する声…デカい。フルヘンシオの呼びかけで皆がフルヘンシオ達の方を向く。


「今日から戦闘科で教えてくれる先生方を紹介するわよー!」


そうして3人の冒険者を見たユナは、動けなくなってしまった。

そこには、とても懐かしい面々が居たのだから。


「あー…冒険者のバロルだ、よろしくな」


スキンヘッドで紫色の目、背にバルディッシュを担いでいる筋骨隆々の男はバロル。職業は重戰騎士。


「よ!俺の名はショウ!気軽にショウ兄さんとでも呼んでくれ…痛っ!何すんだ!」


少し長めの茶髪と茶色の目、背に弓、腰にはナイフを携える細身の男はショウ。職業はシーフ。

そんなショウの頭を杖でゴチンと女が叩く。


「私はジョアンナと申します。主にこのバカが無礼を働いて申し訳ございません。不束者共ですが、どうか宜しくお願いします」


翡翠色の髪と目を持つは、ザ・魔法使いという出立ちの、魔法使いのジョアンナ。


3人とも、まだあの孤児院があった時、ユナ達に戦い方を教えたり土産を沢山持ってきた、あの3人だ。


「もう!そんな固くならなくて良いのよ!先生になるんだから、ドジっと構えないと!」


フルヘンシオはこう言ってるが、飽くまで便宜上だ。

Aランク冒険者にもある程度の発言力や影響力があるとは言え、王族貴族に不敬を働くと後々厄介になるかも知れない。


ユナは、目から落ちる涙を止められずに居た。


「あ…あ…」

「ユナさん…どうしたんですか、そんなに泣いて…」

「此れから長い間お世話になる人達だから、キチンという通りに…」


フルヘンシオの言葉が終わらない内に、ユナはバロルたちの元に駆け出した。


「ユナさん?!ちょっ…」

「バロルおじさん!ショウ兄さん!ジョアンナお姉さん!」


周りは何事かとユナを凝視する。

フルヘンシオも少し驚いたが、事情を察したのか、邪魔をしない様に他所に避けた。


「な?!」

「え?!あ?!るぇ?!」

「痛っ!」

「ユナちゃん?!」


勢い余ってユナがこけてしまった。

ジョアンナが急いで駆け寄り、ユナを起こす。


「もう…そうやって怪我しちゃったらどうするの」

「ゔ…ゔ…ジョアンナお姉さん…」

「そんなにぐしゃぐしゃに泣かないの…可愛い顔が台無しよ?」

「だっでぇ…だっでぇ…」


そう言うジョアンナの頬にも涙が伝っていた。

其の光景をみた十数人が再開を祝う拍手をし、其の内の幾人かは貰い泣きをしていた。


「…よく…生きていてくれたわね…もう…こうやって抱く事が出来ないと思ってた…」

「うう…うう…」

「親切な人に、助けてもらったの?」

「…うん…」

「他の友達は、出来た?」

「うん…!」

「そう…」

「…グス…グス…」

「ショウ兄さんとバロルおじさんの方にも行ってきなさい…物凄く会いたがってんだから…」

「うん!」


ジョアンナから離れ、近くにいたショウに駆け寄った。


「久しぶりだな〜!会いたかったぞー!」

「ジョウ兄ざぁん!」


そして抱き合った。


「よく無事でいてくれたなー!兄さん嬉しいぞ!」

「うえーーーん!」

「よしよし!」


ショウはユナの髪をワシャワシャとかいた。


「ううう…ぐずぐっだいがらやめでよ…」

「ははは!めっちゃ嬉しそうな顔してるじゃ無いか!もっとかいてやる!」

「う…ははは…」

「…笛は持ってるかい?」

「…部屋にあるよ…」

「…」

「…御免なさい…ヒビが入っちゃって…」

「悪くない…ユナは悪くないぞ…」

「うう…うう…」

「…バロルと話な。バロルが一番詳しい…」

「…分かった…」


バロルに歩み寄る。バロルはそっとユナを抱きしめた。


「…シスターとカイザー…皆の件は残念だったな…」

「…」

「あの後調べたんだが、やったのは盗賊なんじゃないかと…」

「違うよ」


驚くほど速く、ユナは答えた。


「ん?」

「盗賊じゃ無い…私達の家を壊したのは、盗賊なんかじゃ無い…!」

「ユナ…」

「あの家を…私達の家を…皆のシスターを…私のお兄ちゃんを壊したのは…あの黒い…!」


ユナの声と顔にはどんどん憎悪のソレが含まれて行く。


「ユナ…!」


慌ててバロルがユナの言葉を遮る。

ユナもハッとした。


「バロルおじさん…」

「ユナ…俺だって彼処を壊した奴の事は憎い…だが、お前はそんな顔をするな…」

「…」

「ユナ…何の為に俺達がよく、彼処を訪れてたと思う?」

「…何で?」

「お前達に、苦労させない為だ…」

「…」

「それに、まだお前は子供だ。そんな顔をするものじゃ無い…なんで、カイザーがお前を、戦う事から遠ざけてたと思ってるんだ…なんで、お前から剣を取り上げようとしたと思っている…」

「私はもう…!」

「子供だからじゃ無い。ましてや、女の子だからでも無い。お前を戦場に出さない為だ…」

「…」

「ユナ…お前は此処から出ろ…兄の思いを踏み躙るな…」

「…やだ…私は強くなるんだ…強くなって、みんなを助ける…みんなを苦しめる彼奴を殺すんだ…」


バロルはユナを見て、悲しそうな顔をした。

まだ12歳の少女が、復讐心に支配されてるのだ。こんなものは、バロルもカイザーも望んではいない。

このまま強引に引き摺り出す事も出来るが、焼石に水にもならないだろう。

バロルは時間を掛け、ユナの復讐心を和らげる事にした。


「…其処まで言うのなら…分かった。キチンと鍛えてやる」

「おじさん…!」


ユナの顔が少し明るくなった。


「今は友達の所に戻れ」

「うん!」


バロル的には明るくなってしまっては困るのだが、今は仕方がない。

ゆっくり鎮火していくしか無いのだ。

ユナは小走りでアシリカ達の元に戻った。


「ユナさんの知り合いだったのですか?」

「うん!小さい時に戦い方を教えてもらってたの!」

「あー…だから初めてメリカさんと戦った時、あんなに動けてたんですね」

「だと思う」

「あんた…Aランク冒険者に鍛えて貰ってたって訳?ズルくない?」

「んっん!」


と、此処でバロルが咳払いを一つ。


「さて。自己紹介と入り用も済んだ事だ。此れから、この授業でのポリシーを言うが…」

「…」


皆黙る。


「俺達は本気で強くなりたい者にしか教えん。半端な覚悟で戦場に立たれて野垂れ死にされても困るからな。だから、今からテストをする」


皆が騒つくと同時に、バロルが強烈な殺気を放った。

殆どの者が腰を抜かし、尻餅を付いた。

ほんの十数秒の出来事だ。

バロルが殺気を引っ込めた時、この場には十二名のみが立っていた。ユナ、アシリカ、メリカ、嵯峨徒、スタン、アルメリア、ガルジュ、キャロライン、その他諸々。


「はぁ…はぁ…」


ただ、皆汗だくである。ユナでさえもそうだった。


「…俺如きの殺気に倒れる様では戦場で犬死するだけだ」


Aランク冒険者の殺気は凄い物だと思われるが、近くに元Sランクがいては、其の凄さも霞んでしまう。


「んもう!バロルったら怖いわねえ!けど、これで倒れちゃっても落ち込まないでね!倒れない方が可笑しいから!」


フォローになってるのかなってないのか…


「これが今のお前達だ。ソレでだ。今倒れてない奴は俺とジョアンナが鍛える。倒れた奴はショウが鍛える。ショウはこう見えて結構面倒見が良い。俺達が教えるより、ショウが教えた方が断然、お前達の為になる。分かったな?分かったら、立ってる奴はこっちに来い。此処は広いからな。多少離れれば十分なスペースは取れる」


そう言うとバロルが移動し、ジョアンナとユナ達がそれに続いた。


「これだけ離れれば問題あるまい。さてと。改めて、俺はバロル」

「ジョアンナよ」

「はじめに言っておくが、俺は相手が貴族王族だからといって手加減する気は毛頭ない。必要とあらば普通に殴るし普通に骨をへし折るからな」


子供相手になんちゅう事を言ってんだ。

ほれみろ。ユナまですくみあがってる。


「バロル。余り脅かさないの」

「舐められない為の通過儀礼だ」

「ユナちゃんまで怖がってるじゃない」

「うぐ…」


バロルはユナの方をチラッと見て、思いっきりため息を吐いた。


「…たしかに脅したのは悪かった」

「いいから、早くやる事を説明しなさいよ」


ジョアンナが急かす。


「簡単だ。全員で俺に掛かって来い。一回は自分の無力さを知っといた方がいい」


バロルが構えた。


「そっちは剣を抜いても良い。魔法を使っても良い。何でもアリだ」

「で、でも…危ないよ?」


ユナは誤って怪我をさせてしまってはどうしようと、少し躊躇っている。


「…ほお?少し前までカイザーにコテンパンにされてたのに、よく言えるな」

「む…」

「安心しろ俺はカイザーよりは弱いが、お前達よりは断然強い。万が一は無いと思え」

「…私、お兄ちゃんとは随分戦えてた方だからね?バロルおじさんこそ、私の事を甘く見ないでよ…ね!」


ユナが剣を抜くと同時にバロルに急接近する。


「おお…速い速い」

「何時迄も子供扱いしてると、本当に怪我するからね!」


剣の間合いに入ったと同時にユナは跳躍し、バロルの頭目掛けて剣を振り下ろした。

しかし、バロルは其れを一歩下がる事で回避し、ユナの腕を掴み、皆の居る方に投げた。


「きゃあ!」

「どうしたどうした。カイザーとまともにやり合ってたなら、こんな物じゃ無いだろ。彼奴は俺とショウの2人がかりで掛かっても、余裕で俺達の首元に剣を当てて来たぞ?」

「え?!それって冗談じゃないの?!」

「バーカ。嘘言って何になる。本当だぜ」


一同驚愕。なんとAランク冒険者2人を同時に相手取る者が居るらしい(最も、当時のバロル達の強さは今よりは下であり、当時のバロル達のランクはBだったが)。


「…ユナさんの事を叱ろうと思ってましたが、今ので叱る気が無くなりました」

「うん…私も少し驚いてる…」

「アンタ、どんな環境で生きてきたのよ…」

「すっげえ…ユナさんのお兄さんって強えんだな…痺れるぜ…」


スタンはユナへの想いが増したらしい。


「さあさあ。彼奴の話は終わりだ。とっとと掛かって来い」


バロルは仕掛けて来ない。


「…我が体に流れし魔力よ、我が手先に集いて、標的を切り裂く風となれ!下級風属性魔法、ウィンドカッター!」


ユナがウィンドカッターを放つが、バロルは普通に避ける。


「ダメか〜…」

「当たり前でしょ。そんなバレバレの詠唱じゃ避けられるに決まってるじゃ無い」

「ほらほらどうした?俺は短気だから、そろそろ行くぞ」


そう言うとバロルは猛スピードで駆け出す。そのあまりの気迫に、空気が若干揺らいでいる。

ユナ達は一斉に散ろうとするが、少しばかり遅かった。


「ふうん!」


バロルは拳を地面に思いっきり放つ。すると地面が割れ、砂塵が当たりを覆った。

何という腕力か。


「全く…加減を知りなさいよね…」


傍ではジョアンナが呆れている。

砂塵からは皆がすぐに脱出して来たが、見事に散開している。

非常に不味い。此れでは一対一を強いられる。また、砂塵も晴れていない為、誰にバロルが向かうのか予測が付かない。

皆が狼狽えるのも束の間。バロルはユナ目掛けて駆け出して来た。


「い?!」

「驚いてる場合か!最初に教えた筈だぞ!戦ってる最中は平常心を保てとな!」


言い終わる頃にはユナの目の前にまで接近していた。


「ふん!」


ユナに右手の中段突きを放つバロル。このまま当たればユナの顔面にクリーンヒットする事になる。

其れをユナは、紙一重で右側に避ける事に成功し、バロルに反撃しようと、剣を両手に持ち、カウンターを放つ。しかし、其のカウンターを待ってたと言わんばかりに、バロルはユナのカウンターを弾き、そのまま足を払った。

そのままユナはバロルの足元に転がる事になる。


「うぐ!」


すると、バロル目掛けて矢が2本飛んできた。


「ん?」


其れをバロルは当然のようにキャッチする。

矢を放ったのはスタンだ。キャッチされた事に驚いている。


「ユ、ユナさんから離れろ!」


漢気を見せるスタン。良いぞ良いぞ。


「隙あり!」


バロルの後ろから嵯峨徒が剣を鞘から抜き放つ。

いきなりの攻撃にバロルも少し動揺したが、ギリギリで回避した。

お陰で、バロルとユナを引き剥がせた。


「おわっと…危ねえ危ねえ。噂には聞いてたが、凄えな…確か…『居合』だっけか?」

「良くご存知ですね」

「けど、本来は『刀』って奴を使うんだろ?」

「その通りです。生憎、此処に刀は御座いませんでしたので、剣で代用させて頂きました」

「解説どうも…っと…」


悠長に会話してる間に、キャロラインが短剣二刀流で、メリカが剣と盾を持って接近していた。


「会話してる余裕、無いんじゃ無いの?!」

「ハアーーーー!!」


キャロラインは連撃を、メリカは其の間を突くように攻撃するが、全て弾かれたり避けられたりしている。


「退いて!」


と、此処で燃えるような赤い髪と目を持つ少女が燃える長剣を持って走って来た。


「ええ?!」

「ちょっと待って!」


流石の2人も大慌てである。


「せりゃ!」


燃える長剣を思いっきりバロル目掛けて振り下ろす。


「遅い!」


が、大きい得物なため、速度的にダメだった。


「ははは!誘導ありがとうな!」


しかーし、避けた先ではガルジュが大剣を下から斜めに振り上げようとしている。

身の丈以上もある大剣を振るうとは…


「うおおおおおお!!」


凄まじいPOWERだ。バロルも少し感心している。


「だが、まだまだ甘い」


バロルは片手でガルジュの大剣を掴み、止めた。

大剣はピクリとも動かない。


「うぐぐぐぐ…」

「まだ武器に振り回されているな」

「ご注意…感謝しますよ…!ぐうううう…」


すると後ろから魔法が飛んで来た。威力は下級魔法のソレではない。中級魔法に匹敵するだろう。

放ったのはアルメリアとその他複数人の生徒、其の背後にアシリカが居る。

おおかた、アシリカが魔法攻撃力を上昇させる支援魔法の一つ、『体内魔力(オドアンプ)強度(リィフィ)増幅(ケイション)』を使用したのだろう。それで強化された魔法でバロルを叩くと言ったところか。

放たれた魔法は下級火属性魔法の『ファイアボール』二発と下級風属性魔法の『ウィンドカッター』四発だ。

ユナの放ったソレとは違い、キチンと杖を用いて行使した為、威力が幾分か向上している。

さらに支援魔法を上乗せされたので、もはや中級魔法並の攻撃力である。


「当たるとちょっと不味いな…!」


バロルは大剣から手を離して退散しようとするが、其れは少しの間阻止された。


「む…」

「ははは…!逃しませんよ…!」


ガルジュがバロルの腕を片手で掴んでいる。そしてバロルが退散しようと大剣から手を離した事により、両手で捕まえる事が出来た。


「…此れは俺のミスだな」


ガルジュはバロルをギリギリまで捕まえている。大した度胸である。下手を打てば丸焦げになるかも知れないのに…


「正直脱帽だ。碌に作戦を練る時間も無かったのにな」

「此れはアシリカさんとメリカさんの発案なんですよ…!」

「ほお?」

「ユナさんが倒されてる内に簡単な指示を出されましてね…!此処まで上手く誘い込めるとは思いませんでしたが…!」

「ははは!カイザーが聞いたらブチ切れそうだ!」


そう言ってる間も火の玉と風の刃は近付いて来る。


「…気に入った」


バロルは握られてない方の手で魔法をあさっての方向に弾いた。


「この躊躇の無さは気に入ったぜ。状況判断も中々だ」


無力さを思い知らせる為の模擬戦だった筈だったが…


「ただ、全員が全員、そう言う訳では無い」


そう言うバロルはユナの方をチラリと見た。

確かに、ユナは地面に転がされて何も出来なかったし、最初に1人で突っ込んだのもユナだ。


「うう…」

「なに。責めてるんじゃない。良い勉強になっただろ?協力が大事だってな」

「…お兄ちゃんには出来たのに…」


まさかの、カイザーに出来たから自分も出来ると思ってたらしい。


「あのなあ…彼奴の…いや、コレはやめておくか」


バロルが言い淀んだ。

当然、兄の事なのでユナは知りたがる。


「なに?」

「いや、きっとお前が知ったら、自信を無くす事だからな」

「うー…教えて?」


愛らしい顔でユナが頼み込むが、バロルは動じない。


「そんな顔してもダメだ」

「ケチ〜…」


そんな軽口を叩きつつも、バロルは頭の中で全員の大まかな戦い方や癖を整理し、どの様に鍛えるべきか計画を練っていた。


「…剣を持ってる奴は素振り、短剣とかなら素早さを鍛える特訓、魔法使い系は…」

「ひたすらに魔法を打ち続けなさい」


皆から不平の声が漏れる。


「皆が通る道だ。我慢しろ。ジョアンナ。少し会議と行こうか」

「ええ」


ジョアンナとバロルは一旦闘技場を後にし、ゴーレム達が待機している場所に来た。

残されたユナ達は言われた通りにする事にした。


「…ユナにまた会えるとはな」

「ええ…楽しそうでよかったわ。…それで?ユナちゃんからなんて聞いたの?」

「…教会を襲ったのは盗賊じゃないらしい」

「本当?」

「恐らくな。黒い何からしいが…これ以上聞くと、ユナの中の憎しみがまた燃え上がっちまう…」

「十分よ。にしても、少し厄介ね」

「ああ…カイザーには悪いが、『黒』はマズイな…」


この世界において、黒色はありとあらゆる悪いイメージを持たれている。

そのため、様々な差別や迫害を引き起こす。黒い髪や目を持つ事で石を投げられるだけなんてまだ全然マシな方だ。下手すれば、その赤ん坊を産んだ一家全員村八分か追放、過激な所なら災いを呼ぶとして一家全員処刑される。この世界で、黒は絶対に大人まで生きられないとまで言われている。


「色々な国々が躍起になるわね」

「そうだな。それに、ユナにも被害が及びかねない」

「カイザーの外見的特徴が知れ渡れば、尚更ね」

「なんですと!?ユナ様に危害が?!ちょっと詳しく聞かせてください!」

「わ?!」

「ゴーレム?!しゃべって…」


2人とも唐突に話しかけられて飛び上がるほど驚いた。


「一体全体なにが?!何がユナ様の身に危害を加えるのです!是非ともお教え下さい!」

「落ち着け落ち着け!お前は誰だ!」

「ユナ様専属ロボットの家事王です!それよりも!」

「分かった分かった!話すから俺の足を叩くのをやめてくれ!結構痛いんだよ!」


バロルはこの世界での黒がどんな意味を持ってるかについて話した。

話を聞いた家事王は、慌てるのをやめ、露骨に不快感を露わにした。


「…腐ってますね…誰ですか?そんな馬鹿げた噂を流布したのは…」

「分からん…だが、此れは世間一般論って奴なんだ…」

「…貴方方は、ユナ様の御友人ですか?」

「ああ。俺はバロル」

「ジョアンナよ」

「なるほど…この件…言わずとも口外は厳禁ですね」

「話が早くて助かる」

「いえいえ。所で、ユナ様方は今、何を?」

「素振りさせてる」


この短期間で、バロルは家事王を信用する事にした様だ。

ジョアンナは警戒を怠らないが。


「となると、此処には、練習メニューの打ち合わせにでも?」

「その通りだ」

「是非とも聞かせて下さい。見た所、お二人はそれなりの戦線を潜り抜けてきたご様子…」

「…ジョアンナ、どう思う?」


こう言う時はジョアンナに任せるのが通例だ。


「…良いと思うわ。けど、飽くまで聞くだけよ。口出しはさせないわ」


ジョアンナが警戒する理由…それは、家事王の存在に気が付かなかった事だ。いかに気を抜いてたとは言え、Aランク冒険者と言う一流の冒険者が、同じ部屋にいる者の存在に声を出されるまで気が付かない訳が無い。


「構いません。全てはユナ様の為に…」


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