学園編① 〜編入〜 始めての講義
「では、私が各講義の案内をしますね」
額にほんの少し青筋を浮かべながら嵯峨徒は笑顔でそう言った。
「…嵯峨徒さん…苦労してるんですね…」
自分と同じ何かを感じたアシリカが同情の声を掛ける。
「…」
無言の笑顔を貫く嵯峨徒。
流石は将軍の娘…お姫様だ。
此処で肯定すると、ユナとメリカが手の掛かるタイプの性格だと、暗に決めつける事になる。
下手をして争いの種を作る真似はしない。
最も、メリカは兎も角、ユナはそんな事気が付かないだろうが。
「いえいえ…そんな事ないです。少しクラスの纏まりが無いだけですから」
だが、共感出来る相手は欲しい物なのだ。
「…ごほん。こうなってしまっては仕方ありません。まず、此の学園は毎日、1時間の講義が最大6つあります。9時から午前に3つ、昼休みを挟んで午後に3つです。先程皆さんが見た様に、各々違う講義を受けていますので、各々が違う講義室に行く事になります」
「質問!」
「どうぞ、ユナさん」
「なんで朝に起きてから講義室に直行しないんですか?」
「一応の確認を取る為です。皆さんも薄々分かってるとは思いますが、寮内のアレは、どんな人でも部屋に通してしまいますので、時々、問題が起こるんです。どんな問題かは知りませんけど。いわばコレは安全確認の為に行なっているらしいです」
おめでとうございます。此の学園がヤバイ所である事が判明しました。
「えー…」
「説明を続けますね。一応、此の学園では自由が尊重されてますので、遅刻したり無断欠席しても咎められません。まあ、そんな事はしない方が身の為ですけど」
過去にマジで実行した馬鹿が居たのか?
王族貴族の家柄の者達の学園なのに?
「皆さんは時間割りには目を通しましたか?」
「いえ。軽く見た程度で…」
「まあ、殆どは使わないであろう科目ですからね。では、其々の科目について、簡単に説明させて頂き…」
「ちょっと待って下さい」
何故か家事王が乱入して来た。
「科目の説明には私も同席させて頂きます」
嵯峨徒も大変驚いている。が、すぐに冷静を装った。
「…しゃべるゴーレム…ですか。驚きました」
「春芽姫。私はゴーレムでは無く、ロボットです」
家事王にとって其処は譲れない。
「…失礼しました。ろぼっと…ですか。聞き慣れない単語ですね」
「…ふふ…」
「?」
「此方の話です。さ。科目の説明を」
「…」
嵯峨徒は内心では家事王の事を不審に思うが、何かを判断する材料も無いので、一旦忘れる事にする。
「先ずは数学です」
ユナが速攻で嫌な顔をした。
「数字で色々と出来る楽しい科目です。次に地理学。地形や気候、各国の情勢などについて学ぶ科目です。次は歴史学。世界の歴史について学ぶ科目です。語学なら様々な言語について学べます。魔法学なら魔法について。魔道具学なら魔道具について。戦闘学なら戦闘について学べます。因みにコレ、ちょっと前まで講師がいなかった為、体育学に成り下がってました」
「あら?思ってたより少ないですね」
「科目は、です。今挙げた科目の中から色々な分野に分かれますね。数学を例に挙げるなら、空間、数列、方程式、確率、統計、数の性質などに分かれます。どの科目も其々の分野同士が繋がってるので、普通は複数の講義を受けますね。其れに、一つの分野に何人か教師の方が居ますので、自身と相性の良い教師も選べるんです」
家事王が少し感心した様子で話を聞いている。
「随分と生徒主体な学校なんですね」
「その通りです、家事王さん」
「非常に合理的かつ効果的なシステムの様です。確か此処は、王族貴族の子息子女のみが通える学園でしたっけ?ならば、やはり主体性や判断力が問われます。指導者の立ち位置の者が受け身になってしまってはいけませんからね」
「家事王さんはよく分かっていらっしゃる様で」
「はは」
「此れで粗方の説明は終わりです。何か質問はありますでしょうか?…無さそうですね。本来であれば3週間程かけて講義を吟味するんですが、今回はその期間が短そうなので、突貫工事で決めちゃいましょう」
「となると?」
「其処は…家事王さんならどれが良いと思いますか?」
「取り敢えずユナ様には、戦闘科の剣術、格闘術、魔法戦術、魔法学の魔法研究が必須です」
「ええー?!4つもー?!」
「基本的にアシリカ様もメリカ様も同様で良いと思います。アシリカ様に剣は要らないかもですけどね。後は御自分らで好きな物を」
家事王はユナ達が勇者である事を知っている為、此の3人だけでも冒険が成り立つ様にしようとした。剣で戦う事は勿論の事、剣を失った際の戦い方、魔法を用いての戦い方は必須と言えよう。
「あら。なら良い先生を紹介しますよ」
「良いんですか?」
「はい。付いて来て下さい」
嵯峨徒に3人と3体のゴーレム、家事王が付いて行く。
暫く無言で歩いたが、何となく楽しい雰囲気を作りたいアシリカが話しかける。
「嵯峨徒さんは、倭ノ国の出身なんですよね」
「はい。其れがどうかしましたか?」
「確か、亜人の大陸の近くに浮かぶ島にある国ですよね?」
「その通りです」
「少し前…大体20年前までは鎖国体制で、人一機関にも属してなかった筈なのに、何故いきなり?」
「もう、鎖国体制を取る必要は無くなったからです」
「必要が無くなった?」
「はい。我が嵯峨徒一族に代々伝わる伝承が関わっているんです」
「伝承?」
「私も内容は知りません。代々一族の長にしか伝えられない為、内容を知ってるのは父上のみです。その父上も、詳しい理由は教えてくれませんでした。お役に立てず、すみません」
「い、いいえ!此方も、突拍子の無い事を言ってすみません」
「…少し気になったのですが、アシリカ様は、アルター教の次期聖女候補…の1人、ですよね?」
「ええ」
「確か、他にも3人程居た様な気がするのですが…」
「はい。アルター教の聖女は、代々4人の内1人が選ばれるので」
其処にユナが驚き、メリカがやれやれと言った様に頭を抱えた。
「成る程」
「その所以、お話ししましょうか?」
「…話しちゃって良いんですか?」
「別に隠す程の理由も無いので」
「では、お願いします」
「とある神話がありまして、アルター教には4人の聖女が居ました。此れはアルター様がそうしろと仰せつかったそうです。その4人の聖女は皆、容姿端麗で、心優しく、回復魔法に秀でて居ました。初代四大聖女です。ですが、その内の1人が悪魔と契約し、2人の聖女を殺してしまいました。悪魔と契約してしまった方は、4人の中で最も能力的に劣っていたと伝えられています」
「聖女が、嫉妬心を抱いてしまったのですね…」
「はい。…其の方は聖女の地位を剥奪、奴隷に堕とされ、悲惨な最後を迎えたと伝えられます。ですが、アルター様はそんな事を望んでいませんでした。地位の剥奪迄にし、罪を償う機会を与えれば良かったのです。元聖女の悲惨な結末と、其の過程を見たアルター様は、我々人間の醜さに絶望し、此の大陸に疫病を流行らせました」
アシリカは一呼吸おく。
「其の病で、大陸の生物の半分は死に絶えたそうです。ただ1人残った聖女様はその様を見て、自分の命と引き換えに疫病の蔓延を止めていただく様に懇願しました。アルター様は最初は取り合わなかったそうですが、何週間もずっと地面に頭を擦り、必死に懇願する聖女様に同情したのか、聖女様の命と引き換えに、疫病の蔓延を止めました。其の事から、4人も聖女が居てはいけないと思い立ち、だが名残も捨てられず、4人の中から1人を選ぶ様に変わったとか」
「…何というんでしょうか…アルター様って怒らせると恐ろしいんですね」
「さあ…あ、すみませんがそもそも、私達がアルター様の事について考えるのは禁じられてるので、考えさせないで下さい」
「あ、すみません」
「…ユナさんは、勿論知ってますよね?其の理由」
アシリカがふとユナに問い掛けた。
「勿論!アルター様の御姿を私たち人間が表現出来ない様に、アルター様の御心は私達人間には理解出来ないから!」
「其の通りです」
キチンと言えてユナは一安心した。
「ああっと、話してる内に着きましたね。魔法学の魔法研究の講義室です」
ユナ達の目の前にある扉は、少し不穏な空気を漂わせていた。
「先生が少しおかしいですが、魔法に関してはスペシャリストですので…」
中々に聞き捨てならない内容である。嵯峨徒が扉を開けたと同時に、中から幼女が飛び出して来て、春芽に抱きついた。
「ハルメや!御主何をやっておったのじゃ!ワシはもう心配で心配で…」
口調と外見が比例してない。
「ケミスさん…私は大丈夫です」
「ダメじゃダメじゃ!御主はワシの唯一の生徒!何かあっては事じゃ!」
「いやあの…ちょっと紹介したい人達が居るんですが…」
「…んん?何じゃこのガキどもは」
「ユナさんとアシリカさん、メリカさんです。今日より私たちのクラスに編入しました」
そう言われると、ケミスと言われた子供はユナ達を品定めする様に眺めた。
「へー…御主らがフルヘンシオが話してた小娘どもか。成る程成る程…白髪の御主…ユナと言ったか…御主は、歳の割には中々の量の魔力を持っとるのお…」
「こ、此れでも頑張っては居るので…えへへ…」
「誰も褒めとらんわ!バカタレ!」
カチンと来るユナ。だが、出会って間もない嵯峨徒に無様な姿は見せられない。ユナは平静を装った。
「魔力量が多くても、其の魔力を制御する技術がまるで足りておらん!其の証拠に、体内の魔力の循環が滞ってるでは無いか!」
後ろでは家事王が少し驚いた様子を見せている。
「滞っている?」
「そうじゃ!全く…自分の体の調子にも気付かんとは…此れだから今時の若い者は…」
「えー…ケミスさんは、ユナさんの事を心配してくれてるんです」
「ワシがこんなガキの心配をする筈ないじゃろ!」
ツンデレ炸裂。
「まあまあ。そんなだから、生徒が私しか居ないんじゃ無いんですか?」
「うぐ…」
痛いところを疲れたケミスはそのまま黙り込む。
「ケミスさんはこう見えても、学園一の魔法使いと呼ばれても過言では無い実力を持ってるんですが、いかんせんこんな感じですので…教師の方とも生徒達とも仲が悪く…」
「ボッチなのね」
メリカがグサッと言った。
「うぐ…!」
「…ケミスさん…生徒三人確保出来るチャンスですよ?」
「はっ!そうじゃった!」
と言いつつも、ケミス自身、こんな姿を見せてしまった以上、承諾されるとは思っていない。
いわゆるダメ元である。
「その…なんじゃ…ワシと一緒に魔法の構造ついて学んでいかんか?」
「うん、いいよ」
ユナが即座に答える。
「まあそうじゃよな…ワシなんかと…って、え?何と言った?」
「だから、いいよ」
「…他の2人は?」
「ユナさんが良いと言うのですから、多分問題ないでしょう」
「…横に同じ」
「…おおーーー!!御主らは救いの女神たちじゃー!!」
号泣しながらユナに抱き着く。
「此れで…これで…」
そうして次に言うは何かしら感動の一句…
「予算が下げられずに済む…」
世は金なり。
「ケミスさん…台無しです…」
「何でじゃ!」
「アンタ…私達を金蔓にするつもりだったのかしら?」
おーおー…メリカさんがお怒りにあらせられる。
「違う違う!確かに生徒が多い講義には予算が多く割かれるが、其れはつまりワシが御主らにより良い教育を施せると言う事じゃ!」
「本当ー?」
「本当じゃ!ワシの可愛い生徒達を金蔓になんかせん!」
「まあまあメリカさん。ケミス先生もこう言ってるから良いじゃ無いですか」
「…分かったわ」
アシリカがそう言うならとメリカは下がった。
「…ゴホン!さあさあ入るが良い!私の講義室へ!」
「すみませんがケミスさん…他にもアシリカさん達に紹介しないといけない講義があるので…」
台無しにしてるのは誰なのやら…
「ぬわーーーにいいい?!!」
「後でちゃんと戻ってきますので。では」
どうせケミスは暇なのだ。ならば無駄なく案内してやろうと言うのが嵯峨徒の考えてる事だ。
其の後の魔道具構造と魔法陣構造は、至って普通の教師達の講義だった。
全員同じ教師の講義に決め、ケミスの講義室へと戻る。
「うおーーん!寂しかったぞー!ささ!さっそく魔法構造のお勉強じゃ!」
4人を半ば無理矢理講義室に押し入れる。
入った部屋の中は、それはもう凄い。
紙の山と本の山がある。黒板?そんな物は埋もれてしまっている。
「えー…」
三人とも呆れ果てている。
「機能美じゃ!」
機能を損なっているようにしか見えない。
「まあ適当な所に座れい」
4人とも紙や本が無い部分を探して座った。
「さてさて」
一呼吸置いてケミスは講義を始める。
「まず、魔法研究では何を学ぶかと言うと、そのまんま魔法について研究する。ワシら魔法使いが使う魔法は、どのようにして使う?アシリカ、言ってみぃ」
「詠唱をして魔法を行使します」
「其の通りじゃ。では、何故詠唱が必要じゃと思う?」
「…」
「まあいきなり聞かれても分からんよな。では簡単に、魔法の詠唱のおさらいをしよう。大体初めの文言は、『我が体に流れし魔力よ』、じゃ。其処から続く文言は、魔法級、属性、魔法のタイプによって異なる。じゃが一応、魔法級に関しては法則があって、低級なら一か二文。中級なら三文〜五文。上級なら六〜十文と言った感じじゃ。魔法の特徴などを言うんじゃな。そして最後に、属性と魔法級と魔法名を言い、魔法を放つ。属性と魔法級の順番はどっちでも良い。例を挙げるなら、『下級火属性魔法〇〇』でも良ければ、『火属性下級魔法〇〇』でも良いと言う訳じゃな」
「魔法の特徴を説明する分は、趣旨さえ捉えてれば良いんですか?」
アシリカの質問。
「そうじゃ。単発発射式貫通型魔法の類なら、『敵を穿て』でも、『敵を撃ち抜け』でも良い」
「成る程」
「その、単発発射式貫通型魔法ってなに?」
「魔法を分類した物じゃ。単発なら一発の魔法、複数発なら複数の魔法を放てると言う事じゃ。ま、其のまんまじゃ。あとは…まあ追って説明する。で、コレらを踏まえて言うが、ワシらがやる魔法構造学とは、魔法がどんな風に構成されてるのかを研究し、新しい魔法を生み出す学問じゃ。其処は分かったかのう?」
「何と無く」
「じゃ、善は急げじゃ!とっとと魔法の分類だけでも覚えてしまおう!キチンとメモを取っておけい!」
其処からは殆どに小難しい説明(そう説明しないといけないと上が言っている)が付いてるので要約してしまう。
先ずは、魔法が一度に放つ攻撃、効果の数。一つのみの魔法なら『単発』、複数なら『複数発』の二つ。
次に、魔法を発動した際にどの様な形で標的に届くか。
標的に空気中を通して撃つタイプなら『発射式』、既にある物(大地や木)を介するなら『干渉式』、身体的か魔力を介して触るタイプは『接触式』、武器などに纏わす『纒装式』の四つだ。
それぞれ例を挙げると、殆どの魔法は発射式、土属性魔法や木属性魔法は干渉式、回復系魔法の大体は接触式、纒装式は武器に何かしらの魔法を纏わす。
三つ目に、標的にどの様にダメージまたは効果を与えるか。
斬撃を伴うのなら『斬撃型』、刺突をするなら『刺突型』、打撃なら『打撃型』。
斬撃型でも一定の範囲に斬撃を及ぼすのなら『(小・中・広)範囲斬撃型』、刺突型でも貫通するなら『貫通型』。
回復させるなら『回復型』、何かしらの良い効果をもたらすなら『恩恵型』、悪い効果なら『悪効型』。
と言った感じだ。
コレらを魔法の特徴毎に組み合わせて分類して行く様だ。
「コレが基本じゃ」
「長ったらしい説明が多かったわね」
「全くじゃ!教える側も疲れるわい!」
「手が痛い…」
ケミスもユナもメリカもウンザリしている。
「そうですか?いつもの事じゃ無いですか」
しかしアシリカからすれば、こんな事は聖都にてこなしてきた事。いや、むしろ楽な位だ。
ケロッとしている。
と言うか、メモだけでなく事前に調べたであろう事まで書き込んでいる。
「す、すごいですね…私なんか書くので精一杯なのに…」
嵯峨徒が素直に感心した。
「それにしても、コレらに其々対応した詠唱があるんですよね」
「そこは魔法級によっても変わってくるから、ちと面倒臭いが…あ、そうそう。何故詠唱するのか説明し忘れておったな」
「そういえば…」
「いや、すまん。そうじゃのう…詠唱しなければ魔法が扱えない…からじゃ」
「?…無詠唱や詠唱破棄などはどう言う…」
「言い方が悪かったのう。詠唱をする事によってどの様に体内の魔力…学術的には『オド』と呼ぶのじゃが、其のオドの運用方法は魔法ごとに違うのでな。詠唱によりオドの扱い方をイメージし易くし、魔法の発動失敗を防いでおるのじゃ」
「うーん…ルーティーンの様な物ですか?」
「そうじゃ」
「発動に失敗すると、どうなるのですか?」
「うむ。実は、オド単体では非常に扱い辛い代物なのじゃ。体内では安定しておるが、外に出たら、不安定ったらありゃしない。そこで、属性オドに変換する事により扱い易い様にしておる。で、魔法の発動失敗は属性オドへの変換の失敗…オドの暴走に直結する。さて。体外のオドは不安定。其れが暴走すると何が起こると思う?」
アシリカは少し考えた後に答えた。
「…爆発?」
「勘が鋭いのう。其の通りじゃ。ボン!と爆発する。そんな事起こされちゃ堪らんじゃろ?だから詠唱をするんじゃ」
「となると、無詠唱や詠唱破棄はかなり危険なのでは…」
「危険じゃ。常に爆発の危険と隣り合わせじゃからな。確かに、コレらが何のデメリットも無く運用出来れば、魔法使い界隈にとっての革命となるじゃろうが、誰も好き好んで爆発するかもと言う物を使いたいとは思わん」
ここいらでケミスは一息ついた。
「実際、魔法学会では詠唱魔法の研究が主流、無詠唱や詠唱破棄の研究は異端とされる。まあ、下級魔法程度なら無詠唱や詠唱破棄して爆発しても大した事にはならんから、余程魔法に情熱を注ぎ込んだ輩なら使えるやも知れぬ」
「ふむふむ…成る程…」
「さてと…ここいらで小休止を挟むかのう。我が体に流れし魔力よ。我が内に秘めたる部屋と現世を繋げ。部屋にありし現世の物質を解放し給え。解放する現世の物質の名は『茶器セット』。出口は我が前にせよ。解放した後は扉を閉じたまえ。部屋と現世は違う世界なり。上級無属性魔法、ザ・ルーム」
何処からとも無く茶器セットが出て来る。
此の様子を見た家事王が少し感心した様子で感嘆の声を漏らした。
「おお…無属性魔法ですか。しかも、空間系の能力…」
「んん?其のゴーレムは喋るのか?」
「何度目ですかね此の反応。見ての通りです」
「の様じゃな」
「失礼。自己紹介が遅れましたね。私の名は家事王。よろしく」
「家事王?変な名前じゃな」
「家事に関しては世界最高を自負できるよう設計されておりますので」
「其れが本当なら、是非とも一家に一台欲しいのう」
「ダメです。私はユナ様専用ですのでね」
「…で?御主は誰のゴーレムじゃ?」
「私はユナ様にお仕えするロボットです。貴女方のゴーレムの認識で、私をゴーレムと呼ばないで頂きたい」
「すまんすまん」
「しかし、凄いですね。上級魔法を扱えるとは」
家事王が珍しく褒めた。
「そうじゃろう?」
「ええ」
「おっと。そろそろお茶も入ったかのう」
そう言うと湯呑み茶碗に茶を注いで皆に配った。
「貴族様が飲むような上等な茶じゃ無い、寧ろ安物の部類じゃが、リラックスするのには充分じゃろ」
「…」
家事王は黙って中の茶を見ている。
「ふー…此方に来た当初は此の紅茶に慣れませんでしたが、慣れて仕舞えば美味しいですよね」
嵯峨徒が少し染み染みとそう言った。
「確か、倭ノ国には緑茶なる物があるとか…」
「後々調べてみたら、使ってた茶葉は同じだったんですよ。発酵度合いの違いらしくて、緑茶は発酵させないんですが、紅茶は発酵させてたんです」
「成る程」
其れから数分間、紅茶を飲みながらの雑談タイムとなった。
「所で、家事王殿は知っとるかのう?」
「何をですか?」
「何故、人が上級魔法までしか扱えないか」
「…そうですね。何故、人は上級魔法までしか扱えないか。詠唱魔法が其の答えですよ」
「ほほう?」
家事王は紙に絵を描きながら説明を始めた。
「詠唱とはオドの動きを決める一種のルーティーン…と言うか制御する術の様な物でしょう。また、オドは不安定で、扱いを間違えると爆発する。では、何故魔法級によって詠唱の文が増えるのか。簡単です。魔法級は威力や効果によって決められる。より威力や効果が高ければ上の級に、低ければ下の級となる。そして魔法の特徴として、基本的には魔力の量が威力や効果に直結します。となると、魔法級の上昇は運用するオドの量の増加…最上級より上の魔法ともなると、そのオドを1人で思い通りに扱うには、制御力が足りない…最も、最上級迄なら複数人の制御力を以って行使する事は可能ですがね」
中々に分かりやすい絵だ。ただ、基本的には棒人間なのに、何故か爆発してるモデルがメリカを模している。
「ちょっと。何で私が爆発してるのよ」
「挨拶も真面目に出来ない癖に爆発させんなとは図々しいですよ」
全くもって謎理論である。
「ユナにしなさいよ」
「なんで?」
思わずユナが疑問の声をあげる。
「…いやはや、流石じゃのう…伊達に王は名乗らんか」
「馬鹿にしないで頂きたい。此の程度、オドの性質を寸分でも理解してるのであれば猿でも思い付きます」
「はは!言ってくれるのう!」
「其れで?あとは何をするのです?」
話を遮る様に、家事王が尋ねた。
「いや、今日は此処までとしよう。魔法級の事は家事王殿が教えてくれたからのう。それでどうじゃ?魔法研究は続けたいと思うたか?」
ケミスは三人に問い掛ける。嫌な物を続けてても意味は無い。
「面白そうと思ったよ」
ユナは語彙力が貧弱である。まあ、つまりは続けたいと言う事だ。
「大変興味深いですよね、新たな魔法を作れる様になるなんて。オリジナル魔法とかも作れるんですか?」
「うむ。結構難しいとは思うがのう」
「なら是非とも!」
実は物を作る系や弄る系が大好きなアシリカは是非とも進んで受けたいそうな。
「…」
メリカは少し考えている。自分は魔法が使えないので、そんな自分が学んでも良いものかと。
「メリカ様」
家事王が話し掛けた。
「メリカ様は、確実に魔法が使えます。身体強化系統に限定されるでしょうが、必ず使えます」
「冷やかしてる訳?」
「残念ですが私、利益に繋がらない事をする様には作られていません。」
家事王の言葉を聞いたメリカは、今一度考えた。少しの間考え、やがて結論を出した。
「…分かった。私も続けたい。魔法が使えても使えなくても、知っていて損は無いから」
「その意気です」
「では、皆にやる気がある事も分かったし、早速宿題を出そうかのう!」
「ええー?此処でも宿題ー?」
案の定ユナが愚痴った。
「なーに!簡単な物じゃよ!1人につき1つ以上、魔法を考えてくるのじゃ!」
「?」
何の意味があるのやら…
みんなの頭の上に?マークが出てる様に見えて来る。
「どんな素っ頓狂な魔法でも良いんじゃぞ!じゃあのう!」
そのままケミスはステップを踏みながら紙と本の山の部屋から出て行った。
生徒が増えた事をフルヘンシオに報告し、給料を増やしてもらえる様に。
部屋には、結局どんな意図があるのか分からない4人が残されたのであった。
其の後は各々が気になった講義を聞く為に解散した。
「良かったじゃなぁい!生徒が新たに三人も入って!」
「3人とも良い子達じゃよ!」
「安心してね?ちゃんと、お給金は弾むから」
「分かっておるのー!」
「其れにしても、どうだった?」
「何がじゃ?」
「ユナちゃん達と、あのロボット」
「んん?良い子達じゃと言うとるだろ。家事王殿は博識じゃったな」
「そうよね。特にあの家事王…ロストテクノロジーの類よね」
フルヘンシオは少し憂鬱そうだ。
「なんじゃ?家事王殿が魔法協会の連中に目を付けられるとでも思うとるんか?」
「まあそれもあるけど…」
「けど?」
「…察して頂戴…」
「…ああーー!!!はっはー!成る程成る程!まさか戦鬼フルヘンシオとあろう者が、そんな事で憂鬱そうな顔を浮かべる日が来るとはな!」
「アナタ、私を何だと思ってたの?」
「さてな!ははは!」
「笑い事じゃ無いわよ!ユナちゃん達に危害が及んだらどうするの?」
「くくく…御主の考えてる事はこうじゃな?家事王殿はロストテクノロジーの産物じゃ。そして其の持ち主であるユナは、妬みの的となる…と?」
一般に、ロストテクノロジーの産物は希少だ。どんなにショボくても価値は高い。また、ロストテクノロジーの産物は総じて何かしらの力を秘めている。以上の事から、ロストテクノロジーの産物を持っている事は絶大なステータスとなる。
そして何より、第一学園は王族貴族の為の学園。基本的に王族貴族しか居ない。
さて。ロストテクノロジーの産物は希少かつ何かしらの力を秘めていて、持ってる事は絶大なステータス…問題の種火にしかならない。
実際、ロストテクノロジーの産物を有してる者は学内でも少数。それらも剣や盾と言った物だ。
だが、家事王は違う。喋るし動く(それに家事もする)。ロストテクノロジーの産物の中では最高クラスの代物だ。
問題の種火どころか問題の爆薬である。
「残念だけど、ね」
「くくく…だったらデマの一つや二つ流せば済む話だろうに!随分と教師が身に染みてるのぉ。え?戦鬼殿?」
「あんまりふざけてると給料減らすわよ」
「すみません調子に乗りました許して下さい」




