学園編① 〜 編入〜 チュートリアル
「まず、今俺達が居るのは、学生寮の中の平原だ」
「その位分かってるわよ」
メリカがうんざりした様子で答える。クロームもそう言う反応をされる事は想定内だったのか、軽く反応して直ぐに次の説明に移った。
「彼処に浮いてる塔があるだろ?6本ある内のどれかが、お前達が居た所だな。一番派手なのが第一の塔で、一番地味なのが第六の塔だ。数字が少なければ才能がある事になる」
「何なんですか?そのシステムは」
優等生アシリカが、少し食って掛かりながら尋ねた。
それもその筈。このシステムが何かしらの問題を起こす事は明白だからだ。
聖女候補として、見過ごす事は出来ない。
「分からん。何とも言えないな」
「私達は何処の塔に居たんでしょうか?」
「えー…うーん…あ。思い出した思い出した。こう唱えろ。エビンス・タワーランク、ってな」
3人が唱えると、手の甲に1と出て来た。
「おやおや…全員第一の塔とは…」
クロームは、やっぱりか、と言った様子で答えた。
「えーと…つまり…」
「才能は十分って事だな。分かったら外に出るぞ」
クロームがとっとと行ってしまうので3人とも慌てて付いて行った。
校庭に出た所で、クロームは説明タイムを設けた。
「校庭だ。それなりには広いだろ?」
「広いなんてものじゃないわよ!スッカスカじゃない!」
「同感だ。で、彼処に体育館がある」
「体育館も圧縮空間なんですか?」
「いんや。まあ、構造は体育館と言うよりも、馬鹿にデカイ闘技場みたいな感じだがな」
「あれも昔からずっとあるんですか?」
「この学園にある物は全て、昔からそのままだ」
「調べれば、大昔の人が書いた落書きとかが見つかるかも知れませんね!」
「普通、技術云々の話をすると思うんだが、勇者様は着眼点が違うようだな」
「あはは…大昔の言語って、どれが何を意味するか分からないじゃ無いですか。それが技術とかになると、完全に未知の領域だと思うんです。けど落書きなら、もしかしたらどんな意味なのか分かるかも知れないなぁ…なんて思ったりして…はは…」
「何を意味してるのかすら分からなかったら、落書きでも判断出来る訳無いでしょ?バカ?」
「じゃあメリカは何かいい案でもあるのー?」
バカと言われた事にカチンと来たユナが、神経を逆撫でする様に言った。
見え見えの挑発だが、少なくともユナにだけは舐められたく無いメリカは、敢えてその挑発に乗ろうとするのだが、他に何か良い案が無い。暫く考えた後、こう答えた。
「…どっかに辞書でも転がってるんじゃ無い?」
全然解決に至っていない。
「そもそも辞書に書かれてる単語の意味って分かるんですかー?」
「…その口縫い合わせるわよ?」
「メリカ裁縫出来ないじゃん」
このままでは何時もの様に口喧嘩に発展しそうなので、アシリカが止めに入った。
「2人ともそこまでです。仲が良いのは分かりましたから」
失礼。止めに入るどころか事態を悪化させた。
「ユナとなんて仲良く無いわよ!」
「メリカとなんて仲良く無いもん!」
2人とも同時に言い、今度はメンチを切り始めた。
「おい馬鹿共。別にお前達がまともな解決案を出せるなんて誰も思ってねえからどうだって良いだろ」
クロームがうんざりした口調でやめさせた。3人ともムッとしたが、クロームは慣れてるのか無視している。
「で、一番立派なのが校舎だ。一番スゲーからな」
「え?!もしかして空を飛ぶんですか?!」
「やっぱりバカでしょ」
「空なんか飛べるか。その建物の部屋の数が凄いんだ。見た目は普通なのに百部屋以上有る」
「図書館とかは無いんですか?」
「あったらとっくのとうに考古学者で溢れ返ってる」
「あ、そうか」
「とは言っても、講義室を幾つか使って、擬似的な図書館を再現してるがな」
「…うーん…」
アシリカは、何故講義室のみ利用可能で、図書館の類が無いのか疑問に思った。
どうせなら普通に使わせても良いのに、何故なのか。そもそもあるのか無いのか。
「何処かに隠し部屋があるのかと学者達は探し回ったが、結局手掛かりすら無かったそうだ」
アシリカが疑問に思ってる事が分かったのか、クロームが補足説明を加えた。
その事にアシリカは少し驚いたが、落ち着きを取り戻して問い掛ける。
「何かしらの物的ではない…えーと…合言葉とか…何かしらの証とかが必要なのではないでしょうか?」
「そうとしか考えられないよな。だが、実はその可能性は低いんだが…まあ説明すると長くなるし難しい内容だからな。ある程度知識を身に付けた所で教えてやる」
「私達はバカじゃないです!」
遠回しに頭悪いと言われてると思われたのか、ユナがクロームに食って掛かった。
「誰がいつバカって言った?もしかして、自分がバカって自覚でもあるのか?」
「うぐ…」
「沈黙は金なり、よ?」
メリカが珍しくことわざを使ったので、ユナもアシリカも驚いた表情をした。
「メリカが…勉強してる…」
「あのメリカさんが…」
「勇者様に聖女様が、本人を前にして良くそんな台詞を言えるわね」
「日頃の行いの所為です…」
「漫才なんかしてないでとっとと行くぞ。お前達は特進クラスに編入するんだからな。それに一応、測定をしないといけないし」
何故か特進クラスに編入する事になっている事に、3人とも、特にアシリカは驚きを隠せなかった。
「と、特進クラスですか?!」
「そうだ。てか、驚く程の事じゃないだろ。将来世界を救う者達が普通クラスだなんて、示しがつかん」
「い、い、いや…そうですけど…」
アシリカは途端にオロオロとし始めた。その表情からは、とてもでは無いが嬉しさは感じられない。
「どうした。何かまずいのか?」
「と、特に何でも…ありません…」
そんなアシリカの様子を見たユナとメリカは、珍しく顔を見合わせた後、同時に頷いた。
2人ともダメな所はあるが、馬鹿では無い。
声には出さないが、2人とも同じ事を考えた。『自分達がアシリカの為に動かねば』、と。
「…そうか。話を戻すが、これから教室にて測定を行う。流石は勇者達の情報だ。朝早くの、誰も居ない時間にやらないと秘匿できん」
「先生。何を測定するんですか?」
「決まってるだろ。ステータスを、だよ」
「!」
「測定されたステータスを基に、クラス分けを行うんだ。ま、良かろうが悪かろうが、特進クラスに変わりは無いがな」
「如何やって算出してるのよ」
「それはお楽しみだ」
そうして校舎に入ると、あら不思議。外見と比べると十倍くらい、中が広い。
3人とも黙ってクロームに付いて行った。
アシリカは少し憂鬱そうにしながら、ユナとメリカはそんなアシリカの様子を伺いながら付いて行った。
校舎に着き、階段を上り、教室の一つに入る。
教室の中には、水晶玉とそれを乗せている足の細いテーブルが一つだけある。
「こ処はステータス測定のみに使われる。万が一にも情報が漏れる事はない。あの水晶に手をかざせば、お前達のステータスを見る事が出来る。先ずは俺のステータスを見せよう」
クロームはそう言うと手をかざした。
すると、水晶玉の上にパネルの様な物が出現し、数字と文字を刻んでいった。
そしてパネルには、こう刻まれた。
クローム 人間 47歳 戦士
[基礎能力]
体力 200
魔力 0
筋力 300
敏捷 100
知力 200
気力 100
戦闘力900
[状態異常]
無し
[属性]
火
[スキル]
スラッシュII・パリィI・タックルII・ブーストII・レジストI・ウォークライII・チャージII・シールドバッシュII・ヘビースラッシュI・挑発II・ツインスラッシュI
ユナ達が大体読み終わるのを見計らって、クロームは説明をする。
「こ処に見えてるのが俺のステータスだ。基本的にステータスは、たとえ自分のだとしてもこの測定結晶を用いないと見る事は出来ん。戦闘力は別だがな」
すかさずアシリカが質問する。
「先生。他人のステータスを、測定水晶を介さないで見る方法はあるんですか?」
自分達が家事王にされた事。もし家事王が言った事が本当ならば、帰ってくる答えは『魔法』の筈。裏付けが欲しかったのだ。
「優れた魔法使いにしか使えない『ステートアナライズ』と言う魔法を使えば知る事が出来るが、『ステートアナライズ』は上級魔法だ。上級魔法を使える輩なんてこの世界に30人も居ないと言われてるから、まあ、見られる心配は無いだろ」
上級魔法。本当に才能に恵まれた魔法使いが研鑽を重ねる事によりようやく習得出来る魔法だ。
使える魔法の階級(魔法のレベル。下級、中級、上級と言った感じ。)によって、魔法使いの資質を大まかに測れる。下級なら一人前、中級なら才能に恵まれた魔法使い、上級なら上記の通りだ。
「では、上級魔法を無詠唱…もしくは詠唱省略によって行使する事は可能ですか?」
「んな訳あるか。そんな輩は世界を探しても何処にも居ないだろ。そもそも、下級魔法の詠唱省略を出来る魔法使いだって殆ど居ないんだ。中級…ましてや上級なんて…無い無い」
「あ、あはは…」
クロームはやれやれと言った感じで答えてるが、アシリカは心の中で戦慄していた。
詰まる所家事王は、少なくとも魔法に於いては世界最高峰であると言う事だ。
もしあの場で家事王を怒らせていた場合自分達は、世界最高峰の魔法使いの有効射程範囲内に、無防備で座っていた事になる。
「(…もし…メリカさんをあの場で止まられずに喧嘩騒ぎになってたら…)」
間違い無く命は無かっただろう。最も、今のメリカと家事王とで、喧嘩騒ぎになるのかすら分からないが。
「…メリカさん…良かったですね」
「…なに?その死人を見る様な目…」
「何茶番やってんだ。とっとと測れ。そうだな…お前がやれ」
そう言って指されたのはメリカだ。
クロームに指示されたのに少々不満を持ちつつも、メリカは測定水晶に手をかざした。
文字と数字が刻まれていく。
メリカ 人間 12歳 戦士
[基礎能力]
体力 110
魔力 0
筋力 100
敏捷 100
知力 70
気力 100
戦闘力 480
[状態異常]
無し
[属性]
雷
[スキル]
スラッシュI・パリィI
「…ほぉ…歳とレベルの割には強いな」
クロームから感嘆の声が漏れた。
「普通、ステータスは80前後をうろちょろしてる筈なんだがな」
「伊達に勇者パーティーの一員やって無いわよ」
「メリカって頭良いんだね」
「どう言う意味なのかゆっくり話し合う?」
「遠慮しまーす」
「じゃ、次は聖女様で行こうか」
「は、はい…」
アシリカは恐る恐る手をかざした。
文字と数字が刻まれていく。
アシリカ 人間 12歳 聖女
[基礎能力]
体力 90
魔力 100
筋力 30
敏捷 40
知力 150
気力 70
戦闘力 480
[状態異常]
無し
[属性]
聖・水・風・氷
[スキル]
支援魔法強化I・ホーリードメインI
「魔力量が多いな」
「あはは…回復魔法は普通の魔法と違って持続させてかないとダメな時もあるので、魔力量が多い方が良いんです」
「成る程」
「ただ、これは後ろに下がってた方が良いステータスよね?」
メリカが確認する様にクロームに問いかける。クロームも頷いた。
「間違い無くな」
「しゅん…」
「さて。じゃ、最後は勇者様のステータスを拝見して終わろうか」
「…ふっふーん…勇者のステータスを見て恐れ慄け!」
ユナが変な事を言い出したため、皆押し黙った。
ユナも恥ずかしくなったのか、下を向いたまま手をかざした。
文字が刻まれていく。
ユナ 人間 12歳 勇者
[基礎能力]
体力 100
魔力 200
筋力 140
敏捷 200
知力 40
気力 100
戦闘力 780
[状態異常]
無し
[属性]
火・水・土・風・氷・雷・木・光
[スキル]
光属性魔法強化I・一刀一閃I
「…はぁ?」
ユナが訳が分からないと言った感じで言った。
明らかにステータスがおかしい。
他2人と比べ、かなり高い。
「…流石は勇者様だ」
クロームは、勇者だから、と言う理由で納得する事にした。
「さーてと。ここらでステータス…特に基礎能力の解説と行こうか。先ずは体力だ。生命力と持久力を示している。次に魔力。見たまんまで、魔力量を表してるな。筋力は力と丈夫さを、敏捷は素早さを、知力は魔法攻撃力を、そして気力は、魔法防御力と状態異常の掛かりにくさに関わっている。で、戦闘力はそのトータルだ」
クロームが一通り説明をした。
「じゃ、何か質問はあるか?」
「魔法使いにとって、属性が多いのは…有利なんですか?」
アシリカが少し遠慮気味に尋ねた。
「場合によりけりだな。何かに特化してた方が強い場合もあれば、色々使えた方が強い場面もある。まあ、有利である事には間違い無い」
その事を聞くとアシリカは、少し憂鬱そうな顔をした。
どうにも様子がおかしい。何かしら『有利』である事に、アシリカは抵抗感や忌避感…もしくはそれに準ずる物を持っている様に思える。
「…さて…ステータス測定も終わったし、ここの校舎長に挨拶しに行くぞ」
「校舎長?」
「ああ。形式的なもんだが、一応必要なんでな」
そう言うとクロームがまたスタスタと歩いて行ってしまったので、3人とも駆け足で着いて行く。
少しばかり歩くと、正にそれと言った風貌の扉の前に来た。
「そうそう。ここの校舎長はちょっとアレだから、気を付ける様にな…」
そう言うクロームの顔は、『これから地獄に行きますよ』と言う雰囲気を出していた。
「えー…フルヘンシオ校舎長…失礼しま…」
「クロ〜〜ムちゃ〜〜ん?ダメじゃなぁ〜い!陰口なんか叩いちゃ!」
口調は女性のそれなのだが、その声は太い。
ユナ達は背筋が違う意味で凍る感覚を覚えた。
「…失礼します…」
クロームが本当に嫌そうな感じで扉を開ける。
部屋の中は、両脇に本棚、中央にソファ二つ、テーブル一つ、奥に執務机が一つ。
その執務机に座っていたのは…女装をしたおっさんであった。ケツ顎に青顎髭のムキムキボディなおっさんなのだが、メイクや口紅、髪型、服装は女性だ。ピンク色の髪と目を持つ。
「んっもう!クロームちゃんったら照れ隠ししちゃって!本当の事を言っていいのよぉ〜?」
当のクロームの顔は真っ青である。
「校舎長…勇者達を連れて…」
「…そう言う事は早く言ってよー!!!こんな適当なお化粧じゃ勇者様に見せる顔が無いわ!」
「いや…もうここに…」
「…クロームちゃん?後でディープキスよ」
「…」
そう言われたクロームは、ユナ達を恨めしそうに見た。
3人ともこう思う。断じて私達のせいでは無い、と。
校舎長室の空気が少しギスギスし始めた。
「んっん!」
その空気を払うかの様に、フルヘンシオが咳を一つ。
「はじめましてねぇ〜、勇者様方♡ウルベモルティス第一学園特進クラス校舎の校舎長を務めています、フルヘンシオよ〜。噂は聞いてるわ♪何でも、物凄く可愛い子達なんですって!昨日なんか職員会議で先生方がお話ししてましたの♪」
「は、はじめまして…」
アシリカとメリカはクロームの影から出ようとしないので、恐る恐るユナが挨拶をする。
「そんな怖がらなくて良いのよぉ?」
「…」
逆にどうやって怖がるなと?
「あら?私そんなに悪者みたいに見えちゃう?」
ユナはコクコクと無言で頷く。
「やーだーっもう勇者様ったら!酷いわねぇ…」
ユナがフルヘンシオを怖がる理由は、見た目では無い。彼…いや、彼女の出すオーラを怖がっているのだ。
クロームがその事に気付いたのか、ユナに耳打ちする。
「校舎長はかつて戦場で、戦鬼と呼ばれる程恐れられてたが、安心しろ」
何をどう安心しろと言うのか…
「ちょっとクロームちゃん!人の過去をコソコソ話すんじゃ無いわよ、もう!」
「せ、戦鬼…」
ユナは合点が行った。
すると、メリカが声を張り上げた。
「戦鬼って…まさか…戦鬼フルヘンシオ?!本物?!」
「あらら?私の事ご存知でぇ?」
「はい!元Sランク冒険者、戦鬼フルヘンシオ!コカトリスやバジリスクを単騎討伐!あと、グリフォンを倒した凄腕の冒険者!」
「…ふふ…今は昔の話よ」
どうやらメリカは、こういう冒険者の中の有名人に詳しい様だ。
「え、えええええSランク冒険者?!」
アシリカも驚きで声が上ずっている。
Sランク冒険者。
先ずは冒険者について軽く説明する必要がある。冒険者とは、簡単に言えば何でも屋だ。
モンスター討伐や捕獲、薬草採取、護衛、盗賊退治、治安維持、雑用何でもこなす。
ランクは下から、H、G、F、E、D、C、B、A、Sとあり、上に行く程、冒険者の能力…戦闘能力や知識などなどを持つ。
Sランク冒険者とはつまり、冒険者の頂点に立つ者。そんなSランク冒険者は、引退した者も含めて20人にも満たない。
因みに、
『Sランク冒険者が居れば大概の戦争には勝てる』
そう言われる程、Sランク冒険者の存在は大きい。
「ちょっと“ある奴”に深傷を負わされてね。今は前線を退いたの。血筋が貴族の物って事だから、こんな所に居座ってるの」
「ある奴?」
ユナが興味津々に尋ねた。
「聞いても面白い話じゃ無いわよ?」
Sランク冒険者を引退に追い込んだ敵。皆、気にならない訳が無い。
「ダーメ」
ダメだった様だ。
「そう言うお話は、仲良くなってからじゃ無いと。ほら。今の私、勇者様方から自己紹介もして貰ってないのよぉ?」
完全に忘れてたのか、3人とも慌てて自己紹介をした。
「ん〜♡ユナちゃん♡アシリカちゃん♡メリカちゃん♡良い名前ねぇ〜♡ハグしちゃいたいわぁ〜♡」
そう言って手を広げるが、3人ともクロームの影に隠れた。
「…釣れないわねぇ…」
「校舎長…そろそろ本題に…」
「んぁ!そうだったわぁ!クロームちゃん。戦闘力とかその辺は大丈夫そう?」
「杞憂に終わりました」
「良かったわぁ!これでちょっとアレだったら、ちょっと面倒臭い事になっちゃってたのよ!あ!けど、ユナちゃん達の為に働けるのなら万々歳よ♡」
フルヘンシオは本当に安心したのか、そっと胸を撫で下ろした。
少しの間を経てから、再度咳をし、空気を改める。
「んっ!…勇者ユナ様、聖女アシリカ様、戦士メリカ様。今日からしばらくは、こ処で暮らしていく事になるけど大丈夫かしら?」
「はい!」
「はい…」
「…まあ…」
ユナは元気に、アシリカは少し不安そうに、メリカは何とも言えない感じで返事した。
「…何かあったら“直ぐに”私の所に来なさい。殆どの事には対応出来るから」
今までとは違う、元Sランクの貫禄とも言うべき雰囲気を漂わせながら、フルヘンシオは3人…特にアシリカに向けて言った。
「あ!これこれ!皆んなの教材よぉ!」
そうして執務机の下をガサゴソしたかと思うと、非常に重たそうな教材の山を執務机の前に三つ置いた。
既にユナはその光景を見て、オエーとしている。
「えーと…この4冊が算術の教科書で…この三つが文学云々…」
「手伝いますよ校舎長」
「あら!気が利く男はモテるわよぉ〜!後で御礼のハグしてあげちゃうわぁ〜!」
「結構です!」
と言うか、元Sランク冒険者の…しかもゴリゴリの武闘派のハグとか、骨が軽く数本粉砕しそうなのだが…気にしたら負けだ。
2人の奮闘で、取り敢えず山から塔になった。
「ホント、大変よねぇ…こんな量の教材をどうやって持って行けって言うのよ、もう!」
「入学式当日は第一学園名物、ゴーレムの大行列が見られる程ですからね」
「そうなのよぉ!さ!皆んなも早く自室のゴーレムを呼んで、運んで貰っちゃいなさい!」
「どうやって呼ぶんですか?」
3人とも同時に質問した。
「簡単よ!『サモン・バトラー』って唱えてご覧なさい!」
3人が唱えると、家事王がユナの隣に、鉄製のゴーレムがそれぞれ、アシリカとメリカの後ろに現れた。
「如何なさいましたか?私を呼び出して」
家事王が喋ると、クロームとフルヘンシオが驚きの表情を浮かべた。
「ごめんね。ちょっとこれを運んで貰いたくて…」
「…」
家事王は何も言わずに、積まれた教材の中から歴史の資料集と思しき教材をそっと抜き取り、パラパラと見て、上に戻した。
「…なーるほど。分かりました。直ぐに運びましょう。今日の時間割とかは分かりますか?」
「分かんない」
「知ってました」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!ユナちゃん?!何そのゴーレム?!喋ってる?!」
「え、いや…うーん…」
「…」
家事王は驚いてるクロームとフルヘンシオを見て、溜息を吐いた。
酷く呆れた、そんな溜息だ。
「…はぁ…校舎長殿。時間割表の類って何処にありますか?」
「…あ!そ、そうね!渡し忘れちゃってたわぁ!けど、この学園は何でか知らないけど教科は選択制だから、ここ三、四日間お試しで全部受けてみて、自分に合うと思う物を選択してね」
「何で最初に全部の教材を?」
家事王が解せない様子で尋ねた。選択制なら、後々選んだ教科の教材のみ受け取れば良いのだ。
「大は小を兼ねるでしょ?」
「ま、そう言う事にしておきますか。本来のバッグの容量はどれくらいですかね」
ユナ達の持つバッグを示した。
「あら?何処でそのバッグを?冷静に考えたら制服も…本当なら私達が渡す筈だったんだけど」
「見様見真似で作ってみただけです」
「彼女達の制服も貴方が作ったの?」
「はい」
「へぇ…」
「え?!アシリカちゃん達の分の制服も作ってたの?!」
「当然です。ユナ様の御学友に、あんな物着させられますか」
「あら。ウチの制服はそれなりの品質よ?」
「すみませんね。さてと」
そう言って家事王が教材の塔に触れると、塔が消えた。
「…」
「あれ?あれ?!」
フルヘンシオはその光景を見て妙に納得し、ユナは何が起こったのか分からずアタフタした。
「君達も、早くこれを収納して下さい」
「…」
家事王に言われるとゴーレム達が動き出し、自身の中に格納し始めた。
「貴方達…何者なの?」
フルヘンシオが核心に迫りそうな事を尋ねた。
「…さあ?私達は、ただのお世話ロボットです」
少し含みのある言い方をした家事王は、そのまま列に直った。




