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光と闇 〜終わりの始まり〜  作者: シラス王
出立
12/34

門出5-1

色々あって大分間が空きました。申し訳ないです。

3日間、ユナ達は空の、速くてゆっくりとした旅を楽しんだ。


クルー達が気を利かせて様々なイベントを行ってくれた為だ。


さて。そんなユナ達が昼頃に辿り着いたのは、人間の大陸の都市で最南端に位置する、ウルベモルティスだ。


人間の大陸の長さは約2万kmなので、聖都アルターやウルベモルティスと言った都市は、大陸の南部に位置する。


そんなウルベモルティスは、人間の大陸の都市の中で最大の都市だ。


半径10km程の超巨大な円形型の城塞都市、人口約1000万人の超大都市である。


中央には半径150m、雲より高い白く輝く塔、『栄光の塔』と言う、人一機関の本拠地もある。円錐型とかで無く、本当に円柱型なのだ。遠くから見ると、都市の真ん中から光の筋が立っている様に見える。


ユナ達も栄光の塔を見て最初は、天使でも降臨してるのかなと思った程だ。


因みに、此れらは、全てメローラがユナ達に丁寧に説明した。


其れで、ユナ達が何故此処に連れて来られたかと言うと、ユナ達は勇者の適性があると認められたので、ユナ達をより勇者として相応しくする為の教育を行う為と、魔王討伐の為の仲間を見つけて貰う為だ。


其の為にユナ達は、ウルベモルティスにある2つの学園の内の1つ、ウルベモルティス第一学園に入学する事になる。


流石に、昨日まで顔も名前も知りませんでしたと言う奴と旅を出来るかと問われれば、其れはちょっと難しい。其れならば、学園で友を作り、其の友と旅に出れた方が良い。


此れには一応、事実に基づく理由がある。


冒険者達の話で、昔、人柄を見ずに能力だけでパーティーを組んだ者達が知能が高いモンスター(知能が高いという事は、必然的に戦闘能力が高い事にもなる)と遭遇した。絶体絶命の危機に陥った際、モンスターから、殺し合いをして生き残った1人を助けてやると言われ、其の者達は殺し合いをし、結局誰1人として帰る事は無かった。


其の為、『パーティーを組む時は、能力では無く人柄を見ろ』と言うのが常識となった。


で、ユナ達が行く第一学園だが、そこは各国の王族貴族の為の学園である。


何故各国の王族貴族を此処で学ばせるのか。


理由は多々あるが、簡単に言えば、人間と言う種族間で争いを起こさない為である。


同じ場所で同じ環境の元、同じ事を学ばせて、出来る限り差を無くそうと言う狙いだ。


とは言っても、仲の悪い国の王族貴族同士では、毎日の様に小競り合いが起こっている。


そんな第一学園は、学び舎としては最高の学び舎だろう。広大な敷地に数多の書物、優秀な教師達が揃っている。


ちなみに、第二学園の方は庶民用の学園で、第一学園と比べれば敷地や書物、教師の質が落ちるが、其れでも良い所だ。メローラやシャロン、ヘンリック、15歳様の出身校でもある。


「みんなー!元気でねー!」


ユナ達がメトローナの魔法で降りる前に、メローラがそう叫んだ。


「またの御利用、お待ちしております。其の時は、嵐の中でも火の中でも、安全で悠々自適な航海をお届けしましょう」


マリックも、船長らしい事を言った。


「クルー一同も待っています!」


後ろのクルー達が見事な敬礼をして見せた。


「ありがとうございました!絶対にまた来ます!」


ユナが元気よく感謝を述べると、魔法によって下へと降ろされた。


降下先は第一学園学生寮前、待つのは2人のみだ。


結構うやむやになって忘れがちだが、一応、勇者出現は極秘情報だ。


各国の勇者寄越せ騒動は飽くまで、『隠してるならとっとと出せ』と言う意味合いが強い。


オストン達もユナ達の情報は決してバラしてはいない。


で、だ。


下で待つ2人は、1人はスキンヘッドで高身長な老人で、もう1人はゴツくて赤い髪を持つ強面だ。


「お待ちしておりました」


ユナ達の着地と同時に、物腰が柔らかそうな口調で老人が口を開いた。


「はじめまして。ウルベモルティス第一学園学長を務めております、シースと申します。お気軽にシース学長とでも呼んで下さい」


シースはそう言うと優雅に一礼した。


「こちらこそはじめまして、シース学長。ユナです」


ユナが礼儀正しく挨拶した。アシリカが其れを見て胸を撫で下ろした。


「アルター教次期聖女のアシリカです。お会いできて光栄です、シース様」

「メリカよ。ニタニタしないでくれない?気持ち悪いんだけど」


メリカが開始早々にやらかした。アシリカも文字通り真っ青である。


「アッハッハッ…笑う角には福来たる…極東の島国に伝わる言葉です。笑っていれば、幸せは舞い込んで来る、と言う意味です。そんなにブスッとしてしまっては、折角の幸せも逃げて行ってしまいますよ?」

「余計なお世話よ」


馬の耳に念仏とは、正に此の状況を指すだろう。


「此れは困った…まあ、いずれ分かる時が来ますよ。さて。ずっと紹介を忘れてましたが、此方の方が、勇者様方の指導をする者です。クロームと言います」


そうシースが言うと、クロームが一歩前に出た。


「クロームだ。先に言っとくが、勇者だからって調子に乗るんじゃないぞ」


其の言葉を聞いた時、3人の頭には、15歳様のしごきの日々が思い出された。とっくの昔に鼻っ柱は折られているのだ。


「調子に乗りかける度に殺されかけて来たので大丈夫です」


アシリカが、輝きを失った目と営業スマイルをしながらそう言った。


「…殺そうとはしないから安心しろ」


其の言葉を聞いてユナとアシリカはホッとした。が、実は此のクロームと言う男が、15歳様の教育の基礎部分を築いたのは秘密だ。


「ふん。赤髪のアンタに教えて貰う事なんか無いわよ」


そう言うメリカの目には、憎悪が見て取れた。顔も険しい。


「おいおい。俺は何にもしてないぞ?」

「…チッ…」


正論を言われたので言い返せなかったのか、舌打ちをした後にそっぽ向いた。


「メリカさん!子供じゃ無いんですからやめて下さい!」

「まだ12歳だし」

「うぐ…」


こう言う時だけは本当に良く頭が回るのだ。


「さて、今お前達の目の前にある建物が何か分かるか?」

「寮でしょ?」


メリカがウンザリした様子で答えた。


「て言うか、第一学園って敷地だけは立派だけど、建物は随分と小さいわね」

「其れは誰もが最初は思う事だ」


確かに、校庭の大きさに比べると建物はまばらにしか無いし小さく感じる。何せ、ウルベモルティスの6分の1はこの第一学園の敷地であるため、とても広い。ただ、見受けられるのは、敷地と外とを区別する背の高い柵、校舎と思わしき建物、目の前の寮、闘技場のような構造物、それ以外は全て石製の道なり観葉植物なり噴水なりで整備された庭があるだけだ。


「ていうか校庭はどこよ」

「それはあそこの闘技場みたいな建物で代用できるからな。とっとと寮に入るぞ」


クロームに言われるがまま寮の中に入る。

後ろではヘンリック達が見送り、シース校長と少し話していた。

すると、あら不思議。

目の前には広大な草原が広がり、数多の宙に浮く塔が見えるではありませんか。


「…は?」


其の声を出したのは誰か分からない。が、3人ともポカンとしたのは確かだ。


「驚いたか?俺も驚いた」

「ちょっと…え?はぁ?るゑ?」


アシリカは理解が追い付かず、意味不明な事を口にしている。其れも其の筈。頭に思い浮かべるだけでも中々に意味不明な光景なのだから。


「此処は『圧縮空間』と言ってな。別の空間を圧縮して、本来寮がある空間に押し込んでるんだ」

「先生。何で塔が浮いてるんですか?」


珍しくユナが真っ当な質問をした。


「俺にも分からん。ただ、ロストテクノロジーの一つってのだけはハッキリしてるな」

「ろすとてくのろじー?」


ユナは初めて聞く単語だ。


「今は失われた技術の事だよ。お前達が乗ってきた魔導飛行船もロストテクノロジーの産物だ」

「へえー…ん?あれ?そもそも此処っていつからあるんですか?」

「1万年前には既にあったらしい」

「ええ?!嘘?!はぁ?!」

「とは言っても、一万年前からあるもので今でも残ってるのは、今の第一学園と、栄光の塔だけだって聞くぞ」

「…ん?残ってた?」

「聞いた事位あるだろ?孤高の魔王さ。かつて孤高の魔王は全大陸の文明の尽くを破壊し、大陸を割った」

「…」

「だが、孤高の魔王にも最後の時ってのがある。ちょうど大陸を割った時と言われてるがな。孤高の魔王は死に際して世界に強大な呪いをばら撒いたと言われている」

「呪い?」

「ああ。だが、どんな呪いなのかは分からん。と言うか、俺が今話した事も、飽くまで数ある説の中で、最もマシな物だ。殆ど手がかりも無い以上、殆ど妄想の域なんだ」

「けど、一応遺跡とかは残ってるんですよね?」

「一応な」

「うーん…」


ユナは色々と考えてみたが、頭がパンクしそうになったので途中で止めた。


「ま、深く考えても此の事に関しては分からんな。さて。此処の事について話を戻すが、そんな孤高の魔王が破壊出来なかったのが、栄光の塔と学園だ」

「…ふーん…」


ユナは何処か腑に落ちなかったが、そう言う物と納得する事にした。


「誰が此処を管理してるんですか?」


アシリカが優等生らしく質問する。確かに、ロストテクノロジーなら、現代人に管理は不可能な筈だ。


「簡単だ。此処に住むゴーレムが管理してる」


ゴーレム。無機物の物質を体とする生命体の総称である。ゴーレムには必ず核があり、核が壊れない限りは半永久的に稼働し続ける。

因みに、現代にも既存のゴーレムを操る技術はあるが、作れる技術は無い。ゴーレムの司令塔となる核を作成出来ないからだ。一応土属性系の魔法にゴーレムを作り出すものはあるが、これは時間制限付きである。


「ゴーレム…道理で…」


優等生アシリカは納得が行った様子だ。


すると、此方に一体のゴーレムが近づいて来た。

先程までは草原の草を刈っていたゴーレムだ。


「…?」


其れを見たクロームは首を傾げた。此処のゴーレムは誰かにいきなり危害を加える事は無いが、関わろうともしないのだ。

過去に魔法使いの1人が無理に操ろうとし、ゴーレムが自爆して魔法使いが死亡したケースがある位だ。

決して、自分から近付く事は無いのだ。


「……マ……テ………シ…。……イ…サ……オ…ト……ゴ…………マ……タ。…ユ…ク…ト………ス…ク…サ…」


恐らく発声装置に何かしらの異常があったのだろう。意味不明な暗号に聞こえたが、其の言葉とは言えぬ言葉には歓喜と哀愁、敬意が込められていた。

3人に向けて言うと、其のゴーレムはまた草を刈り始めた。


「…今…ユナさんに向けて…言ってたよね?」


アシリカが恐る恐る、ユナに確認した。


「う、うん…多分…」

「何?勇者様ってゴーレムに好かれる体質なの?」

「分かんない…」

「ふう…此処は、流石勇者様って事にしておくか」


クロームが面倒臭そうにそう言った。


「あ!そうだ!クローム先生!先生は勇者をどう思ってるんですか?」


ユナが本当に突然言い出した。突拍子が無さ過ぎる。

そもそも、ユナ自身が尋ねて良い事なのだろうか。


「ん?あー…魔王を倒す英雄って事くらいか」

「其の後は?」


ユナにとって重要なのは此処だ。シャロンに教えられた事が本当に正しいのか確認したい為だ。


「其の後?お前馬鹿か?褒め称えられるに決まってんだろ。何たって人間という種族を救った英雄だぞ?悠々自適な生活を送れるって聞くぜ?」

「?!」


ユナは驚愕した。シャロンに教えられた事と全然違う為だ。


「そ、その…殺されるとかは…」

「…おーい。冷静になれ。魔王を倒したって事は、最強って事だ。誰がどうやって殺せるんだ?」


クロームは裏表無く答えた。ユナも其れが分かったのか、更に頭を捻らせる事となった。


「え、えーと…」

「さてと。お前達の部屋に案内しないとな。良いか?俺が今から詠唱するから、覚えとけよ?俺が消える筈だから、俺が消えたら同じ詠唱をするんだ。あ。その前に、学園の案内云々は明日やるからな」


3人とも(メリカは不承不承ながら)頷いた。


「プリムーム・レビ。イン・スーマ・カリターテ。デ・アルティマ・プグナ」


クロームが詠唱を終えると、クロームが消えた。


「プリムーム・レビ。イン・スーマ・カリターテ。デ・アルティマ・プグナ」


3人とも同じ詠唱をした。

するといつの間にか、ユナは少し広めな部屋に立っていた。


「え?ええ?!」


其れも其の筈。ユナは見たこともない様式の部屋に立っていた。わかる様にいうのであれば、超高級タワーマンションの最上階みたいな部屋だからだ。

それに、どう考えても1人で済むには大き過ぎる。

と言うのも、別に学校側が勇者に配慮したとか言う訳ではなく、此の塔の仕組み的に仕方が無い。

空中に浮かぶ五本の塔。其々にランクと言う物が存在している。

塔のランク=部屋のグレード→住む者の素質と言った感じだ。

当然、ユナ達は第一の塔なので、優れた素質を持つ。

ただ、此の良く分からないシステムのせいで、学園内では少々深刻な問題が発生しているのだ。

だがまあ、ユナ達が其れに巻き込まれる心配は無い。何たって最高クラスなのだから。


「はじめまして、ユナ様」


唐突に隣から声が掛けられた。ユナは驚きながら声を掛けられた方を見ると、そこに立っていたのは一体のロボットだった。丸っこい見た目で、3対の腕があり、手にはほうきやら塵取りやらがある。体が浮いているのが見て取れる。


「此処にいらしたのはユナ様で2人目ですね、はい。あ。自己紹介を忘れていました。私は万能家事ロボット、家事王です。洗濯、掃除、炊事全てお任せ下さい。見た所、ユナ様は家事に関してはダメダメそうですので」


初対面の相手に対して中々の言い方である。


「な?!か、家事くらい出来るもん!と言うか…何で私の名前知ってるの?!」


そう。ユナは家事が全然ダメなのだ。洗濯させれば衣服は更に汚れ、掃除をさせれば部屋は更に汚くなり、炊事をさせれば物体Xが完成するのだから。


「ご安心を。かつて此処にいらっしゃった御方も、元々は家事がダメダメ過ぎて意中の方から呆れられてた程。ですが、私の指導の結果見事に、意中の方から褒められるまでに成長致しました。ユナ様の名前を知ってる理由は、まあ私の能力です」

「…うーん…私…好きな人とかは居ないんだけど…」


好きな人が居ないんだから家事の修行はしなくても良いだろ?と言う、ユナの面倒臭がりな所が出た。


「なんと!私の勘が外れる時が来ようとは!ユナ様!間違い無く!ユナ様は恋をしていらっしゃいます!いや…分かっております…恥ずかしいのでしょう…あの方も初めは自分の気持ちに素直になれないでいましたから…だからこそ!私には分かります!本当は好きで好きで堪らないのでしょう!振り向かせたいですか!」


ユナは此の言葉を聞き、兄の姿を思い浮かべた。好きで好きで堪らない…間違いでは無い。寧ろ正しい。が、其の相手はもう居ない。

勝手な事をベラベラと話す目の前のロボットに、だんだんとユナは苛立って来た。


「…何も知らない癖に、勝手な事言わないでよ!」


ロボットは押し黙った。


「振り向かせたい?!そんな願い!もう叶えられないの!」


そう言うとユナは口を閉じた。

数分の沈黙の時間が流れた。

静寂を破ったのはロボットだ。


「…そうでしたか…誠に申し訳御座いません。見苦しい言い訳をさせて頂きますと、本当に久し振りに話し相手が出来たので、かなり興奮してしまいました。思慮が及ばずに申し訳御座いません」

「…御免なさい…言い過ぎたよね…」


ギスギスした空気がユナ達の周りを包んだ。

耐えかねた家事王が空気を変えようとする。


「あ!忘れてました!此方、ユナ様の制服です!」

「誰が作ったの?」

「ふっふー!此の学園最高のスーパー超家事従事者を自負する私が作った制服です!」


良く見ると、非常に丁寧な仕事ぶりなのが分かる。他の者が着る制服とは、一線を画す出来だ。

灰色のブレザーとスカート、赤のリボンには金色の刺繍がされてある。胸ポケットには第一学園の校章である、黄金の獅子と盾が描かれている。


「えーと…ありがとう!」

「さてと!いつまで立っててもアレですから、適当にブラブラしてて下さい。料理が出来たらお呼びしますので」


そう言うとロボット…家事王はキッチンの方に向かって行った。

ユナは部屋を見回した。目を凝らしても、埃一つ無い。家事王の管理が行き届いている証拠だ。


「ふんふふーん♪」


楽しそうな鼻歌と共に包丁で切る音と何かを焼く音が聞こえ、美味しそうな香りが漂って来た。


テーブルには、一枚の小さい、鮮明な絵が飾られていた。2人の人物が見て取れる。1人は椅子に座り、もう1人は横に立っている。椅子に座っているのは美しい女性だ。黒髪黒目でモデル体型、長い髪を後ろで結んでいる。着ている服…と言うよりは装備に近しいものも神々しい輝きを放っている。其の隣に立っているのは、男性だろうか。何しろ、立ってる男の腰から上は、絵が千切れてしまっていて判別がつかない。


其の絵の横には、紫苑とラベンダーを模して作られた紙製の造花が飾られていた。


絵の裏には何かが書かれていた形跡があるが、何が書かれていたかは分からない。


ユナは寝室に向かい、ベッドのフカフカさを長時間堪能した。


「ユナ様ー!出来ましたよ!」


家事王の声がしたのでリビングに戻ると、テーブルの上には豪華な食事が並んでいた。どう考えても1人で食べ切れる量では無い。


「…ちょっと、やり過ぎましたね」


家事王が「やっちまった…」と言う雰囲気を出している。


「いやー…言い訳をするなら…以前此処にいらした方が良く食べるお方でしたので…はい」


ユナは大変驚いた。絵に描かれていた女性は、どう考えても目の前にある量を食べられる体をしてなかったからだ。


「え…あんなに綺麗な人が?」

「あ。気が付きました?」


そう言うと家事王はテーブルから絵を取って来た。


「どうです?美しい方でしょう?」

「うん…隣の人は?」

「此の方の意中の方ですよ」

「何で千切れちゃってるの?」

「私が誤って水を掛けてしまい、ふやけちゃったんです。その時点で見えなくなっちゃってたので、千切りました」

「いや…直しなよ…」

「頑張って直そうとしました。ですが、私は飽くまで家事ロボットなので、修復しようにも知識も無ければ道具も無い。諦めるしか無かったんです」

「…此の人…名前はなんていうの?」

「秘密です」

「えー?!何で?!ケチ!」

「誰がケチですか」

「君だよ!」

「家事ロボットたるもの守秘義務なのです!もし名前を聞き出したかったら家事修行して下さい!家事が出来ないのにお嫁に行けるとお思いですか?」


話が大分飛躍している。


「お、お嫁?!」

「はい」

「わ、私は勇者だもん!家事なんかしなくて良いんだもん!」


ユナは勇者と言う身分を盾にした。本当は秘密にしなければならないのに…


「勇者、ねえ…家事も出来ない勇者ですかーそうですかー。洗濯も炊事も掃除も仲間にやらせるので?うわー。最低ですねー。幻滅しましたー」


ユナの心にグサグサと家事王の言葉が突き刺さる。


「うぐ…」

「此れを食べ終えたらお皿を洗い、テーブルを拭いて下さい」

「うわーん…」


押し切られる形で家事修行をする事が決定したのであった。

因みに、食事の味は最高だった様だ。泣きながらも食事の味で笑顔になれる。


食事後は皿洗いをさせられたが、何ともまあ酷い事。洗う時に手を滑らせて割ったり、洗剤を出し過ぎてキッチンを泡泡にしたりと、もう滅茶苦茶である。


「ユナ様!真面目にやって下さい!」

「此れでも頑張ってるよ!」

「口で言うだけなら簡単なんですよ!」


キッチンからはユナの悲鳴と家事王の怒号が聞こえてくる。時々パリンと言う音がし、家事王が悲鳴をあげたりしている。


「あの方以上ですよ全く!何がどうなったらここまで壊滅的になるんですか!」

「せんざいとか言う変なヌメヌメしてる奴の使い方なんて知らないんだもん!」

「じゃあどうやって今まで洗ってたんですか!」

「魔法で一発だもん!」


クリーンと言う水属性の魔法をユナはよく使う。

クリーンを使えば、体は一瞬で綺麗になるし、部屋の埃は無くなるし、皿の汚れは一気に取れるしなので、今までずっとクリーンでやって来たのだ。


「魔法?!ユナ様は馬鹿ですか?!魔法で心が篭りますか?え?!」

「籠るもん!」

「篭りません!」

「ええい!我が体に…」


ユナは嫌になってクリーンを放とうとした。


「ダメです!」バチーン!

「イタ!」


家事王がハリセンでユナの頭をひっぱたいた。


「うわーーーん!もう嫌だ!」

「泣いて許されるのは赤ちゃんまでです!さあ立って!」


結局、皿洗いにテーブル拭き、部屋の掃除、風呂入れのレクチャー及び実践が終わる頃にはユナはクタクタだった。休む為にテーブルにつくと、そのまま突っ伏した。


「もー…無理ー…」

「よく頑張りましたね。明日はもっとビシバシ行きますよ」

「あはは…お手柔らか…に…」


突っ伏したまま寝てしまった。


「スー…スー…」

「…ふふ…まあ確かに、もう夕方ですからね。けど、此処で寝ちゃダメですよユナ様。キチンとベッドで寝ないと」


そう言うと家事王は6本の腕で器用に静かにユナを持ち上げ、寝室に連れて行き、ベッドに寝かし付けた。家事王が寝室から出る時、ユナが小さな寝言を呟いた。


「お兄ちゃん…今日は…私が料理…作ってあげるよ…猪鍋…」


そう呟いたユナの目から出た一滴の涙は、頰を伝って枕を濡らした。

家事王は再度ユナのそばによると、ユナの頬を何処からともなく出したハンカチで丁寧に拭き、部屋を後にした。



其の頃のアシリカ達はと言うと…


「…ユナさん何してると思う?」

「多分ベッドでゴロゴロしてるでしょ」


アシリカの部屋には制服を着たアシリカとメリカが居た。

実は部屋に向かう詠唱の後に行きたい部屋の主の名前を言うと、其の部屋に行けるのだ。プライバシー度外視である。


「にしても、メリカさんが私の部屋に来るのは意外だったね」

「ユナの所よりもアンタの所の方が安心だからね」

「にしても、よくこんな機能見つけられたね」

「適当に試してたら出来たのよ」

「成る程ね。外に出る時は?」

「自分の部屋から外に出たいならもう一度詠唱するだけ。誰かの部屋に居るなら、詠唱を二度繰り返さないとね」

「にしても、そこまで住んでた所と変わってなくて良かったね」


そう。アシリカとメリカの部屋は、ユナの部屋みたいな部屋では無く、中世西洋の宮殿の部屋の様な部屋なのだ。

因みに、ちゃんとゴーレムも居る。話したりはしないが。


「私の部屋とアシリカの部屋、似てるけどちょくちょく違うのよね」

「へー…」

「食べ物も普通にあるし。何処から出て来てるんだか…」

「もう私は考えるのを諦めました」


其の後もアシリカとメリカのトークは続いた。日が沈む頃に、メリカが突然こんな事を言い出した。


「ねえ。ユナの部屋に行ってみない?」

「だね」


即決だ。2人とも淹れてあった茶をのみほすと、詠唱を開始した。


「プリムーム・レビ。イン・スーマ・カリターテ。デ・アルティマ・プグナ、ユナ」


2人が詠唱すると、ユナの部屋に着いた。


「へー…此処がユナさんの部屋なんだ…」

「見たことないけど、大分落ち着きがあるわね」

「あ!メリカさん見て!窓から景色が見えるよ!」

「あら?外は草原じゃ無かった?何で山々が…」


そう。窓から見えたのは草原では無く、壮大な山々だ。


「凄いでしょう?此の部屋だけの機能ですから」


後ろから声が聞こえたので2人とも振り返ると、家事王がそこに居た。


「…貴方は…誰ですか?」


恐る恐る尋ねたのはアシリカだ。


「そう尋ねるならば、先に其方が名乗るのが道理でしょう?」

「…私は、アルター教の次期聖女候補のアシリカです」

「ア、アルター教?」

「はい。主神アルター様を筆頭に様々な天使を信仰しています」

「…え、あ、はい…アルター教…胡散臭そうな名前…」

「なんか仰いましたか?」


そこまで胡散臭い物だろうか。ただ、流石に聖女候補のアシリカを前でこんな態度をしては失礼だと家事王は考え、胡麻を擦る事にした。


「す、凄い宗教なんでしょうね」

「はい!」


胡麻擦りが成功した事に家事王はそっと胸を撫で下ろした。


「私はメリカよ」

「私は家事王です。どうぞよろしく。少し待ってて下さい。今から飲み物でも持って来ますので」


そう言うと家事王はキッチンの方に向かった。



ちょっと長くなりそうなので分けます。

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