門出4
上昇する事約1分。魔導飛行船に到着した。
魔法効果が切れて甲板に着地すると、此れまた豪勢な御出迎えが用意されてた。
総勢100人に登るクルーが艦橋への花道を作ってくれてた。
花道の先にいるのは、ザ・ベテラン船長と言った風貌の壮年の男が立って居た。
「お待ちしておりました勇者様方。此の魔導飛行船、カタリナ号の船長を務めさせて頂いております、マリック・ブレイと申します。勇者様方は、此れまでに魔導飛行船にお乗りした事は?」
3人共首を横に振った。
「成る程。勇者様方は幸運ですな。何たって、此の私が操るカタリナ号が、初めての魔導飛行船となるのですから」
マリックは自信満々である。
「勇者様方は初めての航海です。此の私が、勇者をやめて船乗りになりたいと思う位の、素晴らしい航海をプレゼント致しましょう」
3人の緊張が和らいできた。
「なに。心配は御座いません。もう乗りたくない、などと後悔させぬ航海ですので」
此れは要らなかった。
空気がピシッと凍る。
「…やっちまいましたか?」
マリックは、やらかしたーみたいな顔をした。
「…正直言って…寒い」
メリカが初対面の相手に辛口評価をした。
「ショボン…」
「可愛くないので…やめて下さいっ!」
可愛げな声と共に、マリックの頭にハリセンが炸裂した。
「ごふぉ!」
叩かれた所から湯気が出てるのを見るに、かなり強い衝撃だったのだろう。マリックはそのまま意識が昇天した。
「もうっ!此のボケジジイがすみません!」
後ろから、ユナ達と同じくらいの身長の少女が来た。茶髪で三つ編み、茶色の瞳を持つ。
「あ!私は副船長のメローラです!」
「え…」
ユナ達は思った。何故同い年と思われる少女が此処に?と。
「あらら?何で私達と同じ年齢の子供が此処に?なんて考えちゃってます?失敬な!此れでも20歳なんです!少し成長期を逃しちゃいましたけど、此れは此れで皆さんに好評なので別に気にしてません!」
失敬なと言ったクセによく言う。
「ま!俗に言うエリートって奴ですねはい!」
確かに、カタリナ号の乗員の平均年齢は30歳ぐらいだ。皆他の船で実績を積んで、此のカタリナ号で働く許可を与えられた超エリート達だ。
其れを若干20歳で、カタリナ号での乗務を許可されるとは、とんでもない事なのだ。
「わ、僅か20歳で副船長に就任されるとは…恐れ入ります…」
アシリカが社交辞令的に褒めた。
「さ!起きて下さい船長!出航しますよ!」
そう言うとメローラはマリックの頬を往復ビンタした。
「んあ?飯か?」
「ご飯じゃ無くて出航だよお爺ちゃん!」
「え?!お爺ちゃん?!」
因みに、メローラがカタリナ号に乗れたのは本当に実力があるからだ。コネなんて一切使って無い。
ユナが驚愕の声を上げた。
「いやはや勇者様、先程は失礼しました。此方は孫娘のメローラです。お天馬過ぎて困る程ですよ」
そう言ってマリックはメローラの頭を撫でた。
「子供扱いすんな!とっとと出航!」
メローラがマリックの髭を引っ張って艦橋の方に向かった。
「あいたたたた…誰か勇者様方をお部屋にご案内するのだ。これメローラ!年寄りは労らんかい!これ!」
嵐の様な2人であった。
「あ、あはは…はぁ…本当に申し訳ありません勇者様方…あの2人にはキツく叱っておきますので…」
クルーの1人がユナ達にそう言った。
「た、楽しそうですから…」
アシリカが遠慮気味にそう言った。
「と言うか、一介の乗組員が、あの2人を叱れるわけ?」
メリカがそのクルーに向けて言い放った。
「此の船でのルールは、皆平等に、ですので」
「其れは…指示系統は大丈夫なんですか?」
アシリカが不安そうに尋ねた。
「御安心を。飽くまで仕事以外の時だけ、です」
「なんか…家族みたいですね」
ユナが率直な意見を述べた。
「お!流石は勇者様!分かってますなぁ!」
「早く御案内しろ」
先輩の雰囲気を出すクルーが注意を出した。
「…では御案内致します」
「よ、宜しくお願いします」
アシリカが代表して言った。
クルーの案内の元、部屋に着くと…何と言う事でしょう。王族用と考えても不思議でない様な素晴らしく豪華な部屋じゃありませんか。聖都で使ってた部屋の一回り…いや、二回りも豪華なのだ。
「…」
3人とも理解が追い付いていない。
「あ、あの…幾ら何でも此れは…」
ユナが思わず遠慮しようとした。
「何れは世界を救って下さる勇者様方なのです。其の様な方々に手抜き接待など、出来る筈が御座いません。此れはカタリナ号全乗員の総意です」
「え…あ…」
ユナはもうどうして良いか分からなくなった。見兼ねたアシリカが代わりに答える。
「カタリナ号の皆様からのご厚意に感謝申し上げます。不束者ですが、よろしくお願いします」
妥当な返答だ。
「何かあれば部屋の中にある呼び出し鈴を鳴らして下さい。直ぐに担当クルーが駆け付けます。とは言っても、男ばかりなので対応できる事は限られますが…」
「じゅ、充分です」
「では失礼します。お食事の時間になりましたらお呼びにあがりますので。では」
そう言って其のクルーは去って行った。
「…」
3人共目を見合わせた。
「…なんか…凄いね」
ユナが呟いた。
「もう少しまともな感想は無かったの?」
メリカがユナの呟きに不満を言った。
「凄いんだもん」
「まあまあ」
と会話してたら、いきなり船がガコンッと揺れ、ユナ達はバランスを崩した。
「きゃあ?!え?!落ちるの?!」
メリカは混乱している。
「い、いえ…窓を見る限り、動き出した様です」
「もう!ビックリしたじゃ無い!」
何とまあスタート時から不安にさせてくれる。
「さて…誰がどのベッドを使う?」
アシリカが2人に問うた。
どれも同じ感じなので、ぶっちゃけどうでも良い。
「何でも良いでしょ」
「私此処!」
そう言うとユナが真ん中のベッドに飛び込んだ。
「じゃあ私は右で」
メリカも決めた。
「私は左だね」
アシリカは消去法で決まった。
其れから暫く話し合ったりしてた所、ふとアシリカが外を見て驚いた声を上げた。
「見て!雲が下に!」
「え?!私達死んじゃったの?!」
ユナが的外れな事を言った。
「馬鹿じゃ無いの?」
メリカが呆れ顔でユナに言い放った。
すると扉が文字通り『バーン!』と開き、メローラが入って来た。
「楽しんでますかー?!」
「メローラ様?!いきなり扉を開けないで下さい!」
アシリカがメローラに注意した。
「御免なさいね!次からは気を付けるから!」
「エリート様が何用?」
メリカが棘のある言い方で質問した。
序でに、もうメローラは敬語を使ってない。
「気付いてると思うけど、私は此の船の紅一点な訳!」
「で?」
「だからね!久し振りに女子トークをしたいの!」
「無理。帰って」
メリカが秒で突っぱねた。
「えええ?!其処を何とか!単純にお話ししたいの!」
「えー…」
「良いんじゃ無い?」
ユナが賛成の意を述べた。
「私も同意見です」
アシリカもだ。
「ありがと!」
と言うとメローラは何処からとも無く椅子を出した。
「な?!」
3人共驚いた。
「へへーん!驚いた?魔法の鞄だよ!容量はあんまり無いけどね」
「其のあんまり無い容量を椅子に使ってると?」
メリカがまたもや棘のある問い掛けをした。
「御安心を!容量は部屋一個分位だからね!」
「随分と大きいんですね」
「此れ買う為にお爺ちゃんのヘソクリをチョロまか…ゴホンゴホン…貰ったからね」
「…」
アシリカは絶句した。
「ま、其のせいでお爺ちゃんから生まれて初めての鉄拳制裁を食らったけどね」
「お父さんお母さん、お婆ちゃんは?」
ユナが尋ねた。
「お婆ちゃんはお父さんを産んだ時に死んじゃって、お父さんとお母さんは冒険の最中に死んじゃったよ」
「あ…御免なさい…」
「良いよ良いよ」
「冒険?アンタの両親って冒険者だったの?」
「そ!此れぞ冒険者!って感じでね!…えーと…名前は何でしたっけ?」
「私はユナ!」
「アシリカと申します」
「メリカよ」
「3人が分かるかは分からないけど、『雲の探究者』って聞いた事ある?」
「知らない」
「すみません…同じく…」
ユナとアシリカは知らない様だ。
「アンタ達!『雲の探究者』を知らないの?!馬鹿なの?!伝説の冒険者チームの名前よ!たった2人だけなのに、彼らのお陰で色々な空飛ぶモンスターの生態が分かったりしたのよ!」
メリカが、嘘でしょ?!と言った感じで2人に言った。
「物知りですねメリカさんは!そう!其のチームのメンバーが、私の両親だったんです!」
そう言うメローラは誇らしげだ。
「其の方達は、何か目標がお有りで其の様な名前を?」
アシリカがチーム名を気になってそう質問した。
「よくぞ聞いてくれました!私の両親の目標はただ一つ!そう!空を駆ける者なら誰もが求める、あの!」
「あの?!」
ユナが食い付く。
「エルデヴィオンを見付ける事を目標にしてました!」
3人共ポカンとした。
「…エルデヴィオン?」
全く持って聞いた事の無い名なのだ。
「…もしかして…ご存知でありませんか?」
3人とも申し訳なさそうに頷いた。
「あちゃー!確かにそうかも知れませんね!エルデヴィオンは絵本の中に登場する難攻不落の天空要塞の名前です!」
「は、はぁ…」
「ああ!馬鹿を見る目をしてる!絵本は殆どが事実を元に描かれてるんですよ!だからエルデヴィオンも実在する筈です!」
「しかし…歴史の授業ではエルデヴィオンなる要塞も城も見掛けなかったのですが…」
アシリカが言うのだ。間違いない。
「そりゃそうです!エルデヴィオンの存在は絵本以外にも数々の遺跡に記されてるんですが、それを紐解いていくと、なんとエルデヴィオンは二千年以上前から存在している事が分かったんです!」
「へ〜…」
「となると、メローラさんもエルデヴィオン発見を目標に?」
「勿論!」
「ねえ。気になったんだけど、エルデヴィオンって具体的にどんな要塞な訳?」
「お?!興味ある?!此の私に任せて下さい!エルデヴィオンは天空要塞で、周辺はドラゴンが飛び回って警備してたと聞きますねはい!」
「ええ?!ドラゴンを警備に使ってたの?!」
「二千年前といえば孤高の魔王!孤高の魔王が使ってたかも知れないと言うのが一説にあるんです!」
またなんか変な単語が出て来た。
「孤高の魔王?」
ユナが思わず尋ねた。
「あ!まだ習ってない?なら予習込みで教えてあげる!孤高の魔王は、歴代魔王の中でもトップクラスに強かったんだよ!余りに強過ぎて、配下が誰も付いて行けなくて、同じ魔族にも煙たがられて、モンスターも孤高の魔王を恐れて近付かなかった!だから孤高の魔王!」
3人共絶句した。そんな魔王が居たのかと。
「歴代魔王の中で唯一討伐出来なかった魔王で、在任期間が100年以上と、魔王の中でも群を抜いてるんだ!孤高の魔王が居た間だけは、孤高の魔王を排除しようと全種族が手を組んだらしいね!あ!モンスターも含めてね!」
「はぁ?!嘘でしょ?!」
「当時は全種族の歴代最強が揃ったの!そんな勇者一行でも、全然歯が立たなかった訳!何十回も交戦したのに、戦果はたったの一太刀浴びせただけ!」
なるほど。とんでもない化け物がいたものだ。
「そんな孤高の魔王は、大陸を4つに分断した後に消えたの!」
「消えた?どう言う事ですか?」
「文字通りだよ!元々四つの大陸は繋がってて、四葉型の大陸だったんだけど、孤高の魔王が分断させたの!其の後消えた!」
「え、えー…?」
「そんな孤高の魔王が愛用してたのが、森羅万象を砕く『特大剣アスラ』!」
「其れは今何処にあるの?!」
ユナが興奮気味に尋ねた。
「孤高の魔王の居城…孤高の魔王の失踪以来、ずっと魔王軍が魔王城として使っている魔王城にあるらしいよ!」
「1人でもお城は持ってたんだね」
「孤高の魔王以前は魔王城なんて概念は無かったからね!だって城作るより兵站拠点作った方が安上がり!けど、孤高の魔王が其の概念を壊して、城を建てたの!」
「1人で?」
「1人で!」
「ちょっと待って下さい。1人で城を作った?聞き間違いですよね?」
アシリカが尋ねた。
「事実らしいよ!」
「…世界は広いですね」
アシリカは何かを悟った顔をした。
「大陸を割ったのも、特大剣を地面に一回叩き付けただけだとか!此れは本当か如何か分からないけど!」
「他には?!他になんか凄いの居たの?!」
「うーんとね…同時期に『虹の戦士』ってのが居たらしいよ!」
「同時期に?」
「虹色に輝く武具を身に付けた戦士で、孤高の魔王との関係が今でも考察されてるんだ!本当か如何かは知らないけどね!」
「しかし…其の様な魔王が仮に再び現れたら、私達では対処のしようがありませんね」
アシリカが冷静な意見を述べた。
「なんか怖くなって来ちゃった」
ユナが布団に包まりながらそう言って来た。
其処からポコンと出てる顔からは満面の笑みが見えるが…
「メリカさん。コレって、ユナさんのダメ人間具合が進行してるよね?」
「間違ってないわね。出なさいユナ」
「いーやーだ!此の布団気持ち良いんだもん!」
「…はぁ…」
「ユナさん…本当にみっともないからやめて…」
アシリカがユナにそう懇願した。
「…すみません」
出て来た。
「さて!こんな部屋の中で話してても仕方ないから、外行こ!」
「…へ?」
メローラに連れられて皆甲板に出た。
「ご覧下さい!雲海です!」
そうして見た景色は、何とも壮大な物であった。夕方ならもっと映えるだろう。生憎、今は昼なので至って普通…では無い。雲の中に魚が居る。
「え?!魚?!」
ユナが素っ頓狂な声をあげる。
「そうなんですよ!しかも美味しいんですよー!」
「如何やって…釣る?んですか?」
アシリカが真面目な質問をした。
「釣るなんて出来る訳無いじゃないですか!銛でブスッと!」
「えーと…あの速度で泳いでる魚を、銛で?」
「そうでーす!」
カタリナ号の速さ(時速80km程)の倍くらいの速度で魚は泳いでる。
「しかもアレは遅い方ですからねー!」
「アレで…ですか…」
「あと!本当に稀に、ですけど!雲龍が見れる事もあります!」
「雲龍?」
ユナがさっきまで騒いでたのに話に入って来た。
「書いて字の如く、雲の中を泳ぐドラゴンです!見れたら良い事があるかもですね!」
「逆に運を使い果たして悪い事が連続しそうだけどね」
メリカがネガティブな発言をした。
「其の発想は悪く無いですね!良いですよ!中々に的を得てる発想です!雲龍の体を見たら幸運になるんですが、頭を見ると不幸になるんですよ!」
「頭が?如何して?」
「雲龍は蛇みたいな容姿をしてるらしいです!ですので、頭を見たら最後、ペロリと頂かれるらしいです!」
「絶対に遭遇したく無いわ」
「其の時は仲良く丸呑みですよ!」
「ねえねえ!あの魚は何?」
ユナがメローラに質問した。
「あの魚ですか?アレは…」
暫く、ユナが質問しメローラが解説する時間が生まれた。
「此れでもたくさん勉強したつもりだけど、知らない事ばっかりだよ!」
「そりゃそうです!其の歳で詳しかったら逆に怖い!にしてもユナさんは意欲が素晴らしいですね!何処かの嫌味しか言えない奴とは大違いです!」
『嫌味しか言えない奴』のくだりでメリカをチラリと見たのは偶然では無い。
「何?文句あるの?」
「自覚あったんですね!」
「…」ブチィ!
メリカがキレた。
「…エリート様は随分と良い性格をしてるわね」
「そうですか?もっと褒めてくれても良いんですよぉ?」
「お二人とも」
静かな、だが周りを威圧する声が響いた。
「仲良くしましょうね」
アシリカだ。普段優しい人程、怒ると怖い。何に怒ってるのかは不明だが。
「メリカさん。メローラさんは私達の旅を楽しく盛り上げてくれてるんです。喧嘩腰なのはやめて下さい」
「…はい…」
「メローラさんも、余り挑発しないで下さい。悪いのはメリカさんですけど」
「すみませーん」
ユナがアシリカの怒気をいち早く察知して逃げ出したのだが、其れに気付いた者は居なかった。




