門出3
「え…」
朝、食堂にて15歳様から、もう数日経ったら此処を離れ、別の所で勉強する事になると言われ、3人は絶句した。
「そんな…そんな急に…」
アシリカが力無く抗議した。
「…此れは人一機関の決定です。拒否権はありません」
いつもの調子でそう言おうとする15歳様だが、其の声からは悲しさが滲み出ている。
「…」
アシリカは押し黙って俯いた。
「そんなの勝手過ぎるんじゃない?コッチに相談してくれるくらいしても良いんじゃない?」
メリカがド正論を言って、黙ってるアシリカの代わりに抗議した。
「…」
「…どうして黙ってるの!いつもみたいにナイフ投げるなりしないの?!」
「…あと4日あります。此の4日間、好きな事をしなさい。此処でやり残した事をしなさい。悔いが残らない様に」
其の声からは、悔しさと無念さが感じられる。
「…私は此れで」
そう言って、15歳様は駆け足で去って行った。
「…何しよう…」
ユナが呟いた。
「好きな事って言っても…」
メリカもショックだったのか、何時もの調子では無い。
「…私…部屋に戻ってる」
アシリカがそう言って走って行った。
「…アシリカちゃん…」
ユナが追い掛けようとしたが、踏み止まった。
「…アンタにしては賢明な判断ね。今は、そっとしておかないと」
「…だね」
「私は庭で素振りしてるから。アンタは?」
メリカが訪ねた。
「…私は…本でも読む」
ユナが答えた。
「そう。…アシリカの事は、任せても良い?」
メリカも、アシリカの事は心配だ。
「…メリカっぽく無いね」
普段メリカが他人の心配をする事はないから、ユナはそう言った。
「…ふん」
メリカも去って行った。
「…」
ユナも、無言で書庫に向かった。
「…如何しよう…(せめて、みんなに御礼したいのに…)」
ユナが書庫に来た理由は、此処が何となく落ち着くからだ。
「…シスター…こんな時、如何したら良いの?」
不意に、何でも出来るマリーナの事を思い出した。
「(何でも出来るシスターなら、こんな時に如何したんだろ…)」
此処のみんなに御礼がしたい。だが、それを準備する時間は無い。言葉だけで無く、何かをして感謝の気持ちを表したかったのだ。
「(…そう言えば…お兄さんお姉さん達が教会を出る時、卒業パーティーをしたな〜…)」
出来れば、パーティーの様な物をして、感謝の気持ちを表したいと考えた。
「(…あの人に相談かな…)」
書庫で心を落ち着かせ、ユナは厨房へと向かった。
「すみません。ベルモッドさん居ますか?」
ベルモッドは料理長の名だ。15歳様の補佐役でもある。
「料理長ですかい?」
料理人の1人が聞き返した。
「はい」
「…あちゃー…料理長は今忙しいんですよ。すみませんが、また今度にして頂けませんか?」
「…分かりました」
希望は潰えた。ベルモッドは豪快な性格でとても優しい人だ。15歳様が居ない隙を見て、よく遊びに来てくれるのだ。
アシリカの所に行こうかと思ったが、今行くのは不味い。如何励ましたら良いか尋ねに、カシアの元に向かった。
「おやおや。如何したんだいユナちゃん?」
柔らかな声でカシアは尋ねた。
「…カシア様…私達…後少ししたら、此処を出て、別の所に行く事になったんです…」
「…そうかい…」
ついに知ってしまったか…とカシアは思った。
「其れなら、こんなババアの所に来ないで、アシリカちゃんやメリカちゃんと遊べば良いじゃ無いか。私じゃ、遊び相手にはなれないよ?」
「あ、あはは…遊びに来た訳じゃ無いんです…」
「…アシリカちゃんの事だろう?」
凄まじい推測力だ。
「…はい」
「アシリカちゃんは8年此処に居たからね。そりゃ愛着が湧くってもんさ」
「…ですよね…」
「ユナちゃん。そんなに悲しそうな顔しないの。ほれ来なさい。暖かいお茶を淹れるからね」
「そんな…お茶なら私が…」
「此処はババアに活躍させておくれ。お茶なら自信があるんじゃよ」
「…では…お願いします」
「任せときなさい」
静かに、だが洗練された動きでお茶を淹れるカシアだ。
「まだ熱いからね」
「はい…」
「元気を出しなさい。ユナちゃんが此処に来てから、何年になるんだっけ?」
「…えーと…4年…ですね」
「4年か…そうかい…ユナちゃん。此処は好きかい?」
「はい!大好きです!」
紛れもない本心だ。
「…其れは良かった」
「だからこそ…離れたく無いんです…」
「はっは。まだまだ子供だね」
「ムカ!子供じゃ無いです!」
「じゃあ聞くけど、誰が、もう戻って来れないなんて言ったんだい?」
「…あ…」
「ユナちゃん達は此処に戻れるじゃ無いか。誰も、此処に戻るな、行くな、なんて言ってないだろ?」
「…そうですね」
「勿論、悲しんでくれるのは嬉しいよ。でもね?笑顔で居てくれた方が、私達はずっと嬉しいんだよ。笑顔で旅立ってくれるのが、私達への感謝だと思いなさい」
此の老婆…すごい。
「…もしかして分かってたんですか?」
「伊達にババアじゃ無いよ?子供の考えてる事なんて、すぐに分かるからねぇ?」
「本当に?」
「ええ。ほれ。そろそろ冷めて来たんじゃない?」
「うーん…」
ユナはお茶を飲んだ。
「…熱い…」
愚痴った。
「猫舌だね」
「ふー…ふー…」
何とか冷まそうとする。
「お菓子もあるからね」
「いやいやいや!流石にお菓子まで…」
そう言って菓子が入った籠を引っ張り出した。
保存が効く様に、乾物系が多い。
「私じゃこんなに食べれないよ。さ。私の為だと思って食べておくれ」
「じゃ、じゃあありがたく…」
…
「あんまーい!美味しい!」
ガツガツ食い始めた。
まあ、基本的に甘い物は超高価だ。ユナ自身も、甘い物を食べる機会なんて殆ど無かったから仕方無い。
果物も甘い物に入るが保存は効かない為、都市部では殆ど食べられない。
「そうかいそうかい。其れは良かった」
「カシアお婆ちゃんも食べなよ!美味しいよ!」
敬語を忘れてる。
「いやいや…私の顎じゃ噛み切れないよ」
「其れなら遠慮無く!」
「これこれ。そんなに頬張っちゃダメだよ」
「だってー!」
「もう12歳になる女の子が、そんな端ない食べ方をする物じゃありません」
「はーい…」
「…アシリカちゃんを、宜しく頼むよ。ユナちゃんの光が頼りだからね」
「分かりました!お菓子は持って行っても?」
図々しい…
「良いよ。アシリカちゃんにもあげるんだよ?」
「分かってます!では失礼します!」
…
「…全く…此れは、神様からの御褒美なのかね…」
流石に今直ぐではアシリカも気持ちの整理がついてないだろうから、ユナは夕方辺りに向かった。
当然、昼ご飯にアシリカは来なかった。
夕方…
「アシリカちゃん!入って良い?」
「…入って良いよ…」
「失礼します!」
ユナが入ると、アシリカはベッドの上で蹲ってた。
「此れ、カシア様から貰ったお菓子ね!此処に置いとくから!」
「…ありがとう…」
やはり元気が無い。
「…あー…」
自分が空振りしてる事に気が付き、少し気不味くなるユナである。
「(えーとえーと!こんな時如何やって声を掛ければ…)」
「…如何したのユナさん?」
「…何を言ったら、アシリカちゃんが元気を出してくれるかなーって」
「…私は大丈夫だよ」
何処から如何見ても大丈夫では無い。
「…私だって寂しいんだ…」
「…」
アシリカは黙って聞く。
「此処の人達はみんな優しいし…いや…1人程違うけど…ご飯は美味しいし、ご飯は美味しいし…ご飯は美味しいし…」
「…ご飯だけじゃん…」
「いやいやいや!…うーん…言葉にすると分かんなくなっちゃった…」
「…ユナさんって…あの子に似てるね」
「あの子?」
「うん。初恋の男の子。何て言ったら良いのかな…時々ダメになるって感じ?」
「私は千年に1人の完璧者だもん」
「…」(¬_¬)
ジト目をアシリカは向けた。
「…ゴメンなさい」
「あの子も、私に叫ばせる為に剣を向けてくるし、毛虫を落として来たし…」
「え、えー…」
何で恋したの?とユナは思った。
「オマケに馬鹿とか言ってくるし…」
「其の人最低だね」
「如何だろうね。私、其の子に会う迄は、勉強とかそんなにしてなかったんだ…」
「…そうなの?」
「うん。けど、其の子に馬鹿って言われて、また会った時に馬鹿って言われたく無くて、必死に勉強したんだ。実は」
「…へえー…知らなかった。って言うか、時々ダメになるって酷く無い?」
「だって…全然励ましになってなかったよ?」
本当でもあるし嘘でもある。
励ましの言葉とは言えなかったが、アシリカにとっては、気持ちがとっても楽になった物なのだから。
「そんなー…」
ガッカリするユナである。
「其れじゃあさ?ユナさんのお兄さんの話をしてよ」
「お兄ちゃんの?」
「うん。何だかんだ言って、一度もユナさんのお兄さんの事聞いてないからね」
「うーん…優しかった、じゃダメ?」
「其れは知ってる」
「…私とお兄ちゃんは双子なの。お兄ちゃんは何でも出来てたけど、私はお兄ちゃんみたいに出来なかった。魔法もダメ、剣もダメ。…一度もお兄ちゃんに勝てなかった」
「え?ユナさんよりも強いの?」
「…うん。下級風属性魔法のウィンドカッターが良い例かな。今の私でも、猪の首を落とす事は出来ない。けど、お兄ちゃんは、落としてた」
「…」
アシリカは黙り込む。やはり、あり得ない、と。
「教会だとみんなの憧れだったよ。女の子には年齢問わず好かれてたね。お兄さん達からはライバル視されてたけど」
「あはは…」
「…今思えば、優しいんじゃ無くて、甘かったのかな。けど、お兄ちゃんは私の事を、本当に大事に思ってくれてたんだと思う。森で迷子になっちゃった時、お兄ちゃん助けてって思ったら、遠くからお兄ちゃんの声が聞こえたし…」
「一心同体みたいだね」
「うん…教会に盗賊が来た時、私とシスターで、棚を何とか倒して、盗賊の1人を殺しちゃったの…其れで私…悪い夢ばかり見る様になって…魘されたり、泣いてたりしたんだって。そんな時、お兄ちゃんはずっと、私の手を握っててくれてた。今でも、お兄ちゃんの手の暖かさは、私の手から冷めて消えて無いんだ」
「…」
アシリカは羨ましく思った。自分にも、そんな関係の者が欲しかった。
「そんなお兄ちゃんに、私は迷惑ばかり掛けてたね…狩りに付いて行ってもみんなの足を引っ張ったし、直ぐに我儘を言ったし…」
ユナはしみじみとそう言った。
「…結局、お兄ちゃんから貰えるだけ貰って、私は逃げたんだね。私、卑怯者だよ。お兄ちゃんに、何も返せなかった…」
「…」
「優しくされた分、他人に優しくしろって言われたけど、そんなの…お兄ちゃんへの恩返しには…ならないんだよね…」
「…きっとお兄さんは、天国からユナさんを見守ってると思うよ。其れに、そんな事言ってたら、お兄さんに嫌われるよ?天国から降りて来て怒るかもね」
アシリカは冗談交じりにそう言った。
「…戻って来てくれるなら、そうするよ」
勿論嘘である。もう、兄に迷惑はかけないと決めたのだ。
「やめてよね。勇者が其れじゃあ困っちゃうよ」
「あはは…」
アシリカに兄や姉は居ない。妹は居るが、妹は自分が教会に行った後に生まれた為、顔も名前も知らない。だから、ユナを余計に羨ましく思った。
「…私には妹がいるんだけど…其の子と私…ユナさん達の様になれるかな?」
殆ど独り言の様に、アシリカは尋ねた。
「きっとなれるよ。アシリカちゃんがお姉さんなら、其の子も幸せだと思う」
「…だと良いけど…」
「そんなにしんみりしない!私がなれるって言ったんだからなれるわよ!此の私が言うんだからね!」
ユナってこんなキャラだっけ?
「ユナさんってそんなキャラだった?」
アシリカも同じ事を思ってる。
「…」///
ユナが赤面した。
「酷い!アシリカちゃんを元気にしようと思ったのに!」
演技だった様だ。
「もう元気だよ?」
会話を通して持ち直してた様だ。
「うー!私が恥ずかしい思いをしただけじゃん!」
「面白かったから今度またやって?」
「嫌だ!あんな恥ずかしい事もうしない!」
恥ずかしい事では無いと思う。
「そんなにしんみりしない!私がなれるって言ったんだからなれるわよ!此の私が言うんだからね!」
からかうアシリカ。
「何も聞こえない何も聞こえない!」
ユナにとっては黒歴史確定となった。
「あ痛…」
メリカがドアから転んで入って来た。
「…へ?」
ユナが間の抜けた声をあげた。
「ふふふ…良い物見させて貰ったわ。じゃあね」
メリカ恒例のユナの弱点探しである。
そしてメリカは去った。
「…もうイヤ!」
アシリカのベッドに潜ってしまった。
「ちょっと?私のベッドなんだけど?」
「メリカに知られちゃった!もう嫌!勇者やめる!」
「あ。そろそろご飯の時間だよ?」
「行こう!」
切り替えが速い。
「はぁ…」
当然、アシリカは呆れた声を出した。
食堂に行くと、メリカがちゃっかりと2人の席を確保してた。
「来たわね2人とも」
「珍しいね。メリカが席を確保してるなんて」
言ったのはユナだ。
「良い物見せて貰ったしね」
「其れは忘れて!」
「暫くはネタにさせて貰うわね」
「やっぱり勇者やめる!」
「まあまあ2人とも」
「あ。後、ソーセージは頂いたわ」
「…此の山姥!」
苦し紛れにユナがそう言った。
「誰が山姥だ此の白髪ババア!」
毎度お馴染みの喧嘩勃発。
「此れは生まれつきよ!」
「生まれつきババアだったって事ね!」
大変にバリエーションに乏しい言い争いである。
結局、ユナがハンバーグを食い尽くす事で痛み分けにしたそうだ。
と言うか、よく食べれるものだ。
其れから3日間、ユナ達は基本的に外で時間を使う様になった。
何故かと言うと、今まで聖都を探検したりする事が殆ど無かったからだ。
其れに、ユナ達が勇者だとは公表されていない。
だからこそ、ユナ達は聖都を探検したりする事が出来た。
行く前日には、ベルモッドがユナ達への卒業パーティーをサプライズで開いた。決して豪華とは言えなかったが、ユナ達にとっては最高のサプライズとなった。
ユナ達は此の3日間を満喫した。そう。とても短い3日間を。
3日後の早朝に、人一機関からの迎えが来た。迎えに使うのは馬車では無く、魔道飛行船だ。
魔導飛行船は、簡単に言えば、魔法の力で浮いてる船だ。あのずんぐりむっくりした形では無く、本当に船の形をしてる。ちゃんと帆も付いてる木製の船だ。
まさか魔導飛行船が来るとは思わず、聖都アルターはてんやわんやだ。
「わー…」
大聖堂の庭に居たユナが感嘆の声を漏らした。其れも其の筈。聖都の上空にて待機してる魔導飛行船の大きさは、優に全長100mはある。世界に10隻しか無い魔導飛行船の中でも最大クラスの大きさだ。
「…此れは…凄いね…」
アシリカもユナと同じ感想だった。
「…落ちて来ないわよね?」
メリカがめっちゃ不安そうに尋ねた。
「あれぇ?メリカってアレが怖いんだ?へぇー」
ユナが空かさずに攻める。
「な?!あ、あんなの怖く無いわよ!」
「あ!落ちて来る!」
すると…
「☆→%×○♪$々〒々#<+×€$¥?!」
未知の言語を叫んでアシリカにしがみついた。
「え、えー…」
ユナもドン引きである。
「…メリカさん?離して」
「だって!だって!」
「落ちて来てないよ?」
「…」
メリカは、湯気が出てくるかもと言うレベルで顔を真っ赤にした。
「…私のせいじゃ無いもん」
「どう考えてもユナさんのせいだよ。謝って」
「…御免なさい」
「…あんなの怖く無いし!」
見栄っ張りである。
「3人共。彼方の準備が整ったそうです」
15歳様が来た。
「…やっぱり…行くんだね」
「…うん…」
「…こうして思い返してみると、色々あったわね」
3人共、思った事を呟いた。
「…ユナさん、アシリカさん、メリカさん。此方に」
15歳様が3人を手招きした。
「はい?」
3人が近付くと、15歳様は膝をつき、3人をいっぺんに抱き締めた。
「…先生…」
アシリカが呟いた。
「…あっちに行っても、私が教えた事は守りなさい。日が昇る頃には起きて、ウォーミングアップに走りなさい。御飯は残さずに全部食べて、歯はちゃんと磨きなさい。友達を沢山作り、思い出も沢山作りなさい。何事にも真剣に取り組みなさい。悪口を言われても聞き流しなさい。夜遅く迄起きていてはダメ、消灯時間はキッチリ守りなさい」
15歳様の声は、悲しみに満ちていた。
「…メリカさん。貴女は素晴らしい戦士の素養を持っています。引き続き励みなさい。後は、言動には気をつけなさい。何時も酷いです。メリカさんは綺麗に生まれたんですから、ちゃんとしなさい」
「…分かってます、先生」
メリカは今にも泣きそうだ。何だかんだ言って、メリカは15歳様が好きだったからだ。
「…アシリカさん。次期聖女候補として、恥ずかしくない行動を心掛けなさい…と言っても、アシリカさんには不要でしたね。そうですね…ユナさんとメリカさんを、上手くコントロールしてあげて下さい。此の中で一番しっかりしてるのは、貴女ですから」
「…はい…!先生…!」
アシリカは大粒の涙を流している。
「…最後に、ユナさん。ユナさんは此の中で一番の曲者でしたね。ハッキリ言って、ユナさんは勇者としての自覚が無さ過ぎます。もう少し、もう少しで良いので、ちゃんとして下さい」
「…」
怒られたと、ユナは落ち込んでしまった。
「…けど、ユナさんは此の中で一番明るい性格をして居ます。其の明るさはとても大事な物です。勇者の旅は、数々の苦難が待ち受けてるでしょう。ですから、如何なる時も、其の明るさを絶やさない様にしなさい。そして、皆んなを引っ張って行きなさい。ユナさんにしか出来ない事です」
「…」
「私はユナさんに期待してますから」
「!…はい!私、頑張ります!」
暫く抱いた後で、15歳様は何時もの姿勢に戻った。
「…さて。行きますよ皆さん。怖い人達が待ってますから」
其の顔からは、普段は見られない笑顔があった。
其の笑顔を見られて満足なのか、3人共終始笑顔であった。
そうして大聖堂の門に来ると、其処には10人程の、金色の鎧に身を包んだ騎士がいた。兜を付けてるので、誰が男で誰が女か分からない。すると1人の超ゴツい騎士が一歩前に出て、兜を取った。
其の騎士は、端的に表せば、ゴツくて怖い。どんなにオブラートに包んでも、凶悪な盗賊の顔である。スキンヘッドに加えて数多の古傷、凶悪そうな目。うん。怖い。
ユナ達も思わず強張っている。
「…はじめまして勇者様方」
見た目通り、低い声だ。
「人一機関治安機構外征部隊隊長の、ヘンリックと申します。今回、勇者様方のお迎えに上がる事を任せられました」
案外流暢な敬語である。
「あ、はい…御苦労様です」
取り敢えずユナが適当に返事をする。
「…私…そんなに怖いですか?」
ヘンリックがしょぼくれながら尋ねて来た。
「へ?!い、いえいえいえ!」
「別に構いません…こんな顔ですから…」
コンプレックスな様だ。
「隊長ー…ファイトでーす…」
後ろから騎士達の小さな応援が聞こえてくる。
「…御安心を。私は此れでも優しさに定評がありますので」
そう言ってヘンリックは笑って見せたが、其の笑顔が怖すぎる。側から見れば、筋骨隆々の男が幼い少女らに、如何わしい事を誘ってる様にしか見えない。
「あう…」
アシリカが可愛らしい悲鳴をあげた。
「…」
ヘンリックは隊員に助けを求める視線を送ったが、隊員達は露骨に顔を背けた。
「なーにしてやがるヘンリック!」
と言う声と同時に、シャロンがユナ達とヘンリックの間に飛び込んで来た。
「怖かったわよね怖かったわよねユナちゃん!大丈夫!お姉さんが居るからね!」
「あ…シャロン先輩…」
如何やらヘンリックはシャロン(30)より年下らしい。
「おいこらヘンリック!私のユナちゃんに何してくれたんだ?ああ?!」
シャロンのキャラが…
「い、いや…俺はただ…」
「シャロンお姉さん!ヘンリックさんが可哀想だよ!」
如何にヘンリックが怖いと言えども、ユナはヘンリックの内に秘められたる優しさを感じ取れた(かも知れない)。
「…此処はユナちゃんの優しさに免じて許してやるけど、次にユナちゃん達を怖がらせたら…分かってるわよね?」
「も、勿論です先輩…」
「よろしい」
シャロンは…元ヤンって感じか?
「…ユナちゃーーーーーん!!もう行っちゃうのね…お姉さん寂しいわ!うん!分かってる!お姉さんは分かってるわ!ユナちゃんも寂しいわよね!最後に、ギューーーっと抱き締めてあげるから!」
そう言ってシャロンはユナを抱き締めた。
「シャロンお姉さんやめてよー!」
「ダーメ!そんなにホッペ膨らまして怒らないの!」
そう言って抱き締めるのをやめると…
「ホッペプニプニー!」
と、ユナの膨らんだ頬を指で何度も突いた。
「ムーーーーーーーー!!!」( *`ω´)
「怒った顔も可愛いですねー!」
何時ものユナなら逃げるだろうが、暫くは会えなくなるのだ。だからシャロンは今の内にユナを可愛がり、ユナもシャロンの愛情を受け取っていた。
「あら?此の袋は?」
シャロンはふと、ユナが腰に下げている少し小さめな袋に目が行った。大きさとしては、手のひらサイズの物が入る位だ。
「此れ?此れは、私の宝物が入ってるの」
「宝物…」
「うん。此の笛なんだ…」
そう言って取り出したのは、黒くて何の飾りも付いておらず、ヒビが入っている笛だ。
「あら…」
此れを見てシャロンは、ユナが此れを懸命に吹いた後に、お兄ちゃんと繰り返し呟いて居たのを思い出した。
「私の…大好きなお兄ちゃんの代わりなんだ。もう…音は出ないけどね…」
「…」
シャロンはもう一度、ユナを抱き締めた。
「…行ってらっしゃい、ユナちゃん」
「…行ってきます、シャロンお姉さん!」
「そろそろですかね。勇者様方。私の周りに」
3人共ヘンリックの側に寄る。
「ヘンリック。ユナちゃん達は任せたわよ」
「分かってます先輩。此の命に変えてでも守ります。メトローナ!」
隊員の名を呼ぶ。よくよく見れば、メトローナと呼ばれた女性の騎士の装備だけ、剣では無く杖だ。
「我が体に流れし魔力よ…我の周りに居る者共の体を優しく包み込め。風の力となりて我らの周りに現れよ。浮かせ。我らを地に縛りつける鎖を断ち切れ。我らの背中に翼を与え給え。風属性中級魔法、フライ!」
すると、騎士達とユナ達の体が浮いた。
「え?!え?!!」
3人共驚愕の声を上げた。
「頑張るのよー!」
「元気でねー!」
「しっかりやるんだぞー!」
下からは、ユナ達がお世話になった者達からのエールが聞こえた。
「…今まで!ありがとうございました!」
ユナがそう叫んだ。
「ありがとうございました!」
2人も叫んだ。
其の声は確実に下の者達に届いた。其の証拠に、みんな目尻に涙を浮かべてる。
何れまた戻って来る事になるが、其の時は大分後の話だ。




