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Part5 ”夢幻の現界”

「君達も、大丈夫?」


 ミツキは人懐っこい笑みを浮かべながら、バスの奥へと向かって行く。

 目の前まで近づたミツキに、真耶は丁寧に頭を下げた。


「お陰で助かりました、ありがとうございます」

「どういたしましてー。って、隣の人はどうしたの? ボンヤリしてて......もしかして、頭でも打ったのかな!?」

「心配する必要はありませんよ。情けない事に、この男は目の前の光景に面喰っているのかと」


 慌てた様子で俺の身体を観察するミツキに対して、真耶は大きな溜息を吐く。

 俺は完全にフリーズしていた。と言うより、目の前の人物に釘付けになっていた。

 

 腰まで届く長い銀髪をなびかせ、深紅の瞳で心配そうに俺を見つめるこの人物は、どう見ても可愛らしい女の子だ。

 身長も低い。オツムのテッペンで揺れる二本のアホ毛を含めても、160cm足らずと言ったところ。

 腕も足も細くて真っ白で。

 白い簡素なチュニックワンピ―スと、その胸元で揺れる翡翠色の宝石を嵌めたネックレスが、凄く似合っていて。


 これが......これが“怪力乱神の権化”? 天龍砕 ミツキ? 冗談も程々にしてクレメンス。


「――ぁ」

「! やっと返事してくれた!」


 まあ、アレだ。

 ずっと放心していても埒が明かない。目の前にいるこの子の名前を聞く事にしよう。

 この子が件のSランカー? 聞き間違いでしょ、ナイナイ。


「あー悪い、ちょっとビックリしてさ。助かったよ。えっと......ゴメンだけど、名前は?」

「ミツキは天龍砕(テンリュウサイ) 稀月(ミツキ)だよー、宜しくねー」

「あ、ああ......」


 マジだったよ......

 世の中どうなってるか分からんなぁ、ここ異世界だけど。

 っと、こっちからも自己紹介しないと。


「えっと、横に居るのが藤宮 真耶。俺は――」

「知ってるよ、北条 ハルト君だよね?」

「え、何で知ってるんだ?」

「それは――」


「オォイ君達、悪いけど降りてくれないか」


 ミツキが俺の質問に答えようとした時、バスの運転手が声を掛けて来た。

 曰く、車内点検の邪魔になるかららしい。


「――で、何で俺の名前を知ってたんだ?」


 運転手の指示に従って降りた後、俺はミツキに聞き直す。


「そんなに驚く事でも無いと思うよー? 君の名前、ミツキの高校だと皆知ってるから」

「なん・・・だと・・・」

「“藤宮邸のヤベーブラコン”!」

「はは――いてテッテテ!」


 怪訝そうな顔の真耶に、背中をツネられた。

 どうしたの? とミツキに聞かれるので、何でも無いと手を横に振る。

 真耶に背中をツネられましたー、なんて口にしたら、今度は足踏まれそうだし。


「でも......ニーナちゃんに『尾行して観察して欲しい』って言われたから見てたけど、見てるだけだと普通の人だねー、って――」

「ちょちょ、ちょい待ち」

「?」


 キョトンとした顔をするミツキ。

 この子、今自分自身の言った事の意味が分かってないのか......? 頭痛くなってきたな......

 ニーナの事はもう良いとして、それよりも――


「『見てた』? バスの中に居たの、俺達だけだったぞ?」

「違うよー、バスの上に乗ってたんだー」

「お前は何処ぞの怪盗団に属する剣豪か!」


 奴みたく(はかま)を着てアグラ組んでる訳じゃないだろうけど......え、バスの上から覗いてたって事か?

 全然気づかなかったぞ......


「と言うか、普通に乗車するとか考えないか?」

「でも......そうすると目立っちゃうし」

「変装って手は?」

「うーん、面倒臭いかなー......」

「......」


 確かに、ミツキの持つ白銀の髪や紅い瞳はバスの中では目立ちそうだ。

 だからって、バスの上に飛び乗るって......発想、ぶっ飛んでるなぁ。

 と言うか、料金とか払わなくて良いのか?

 何か疲れた。どうでも良いわ、はは。


「まあでも、バスの上に乗ってたから直ぐに対処出来て、車同士の衝突を防げたのか」

「うん。バスの上から飛び降りて、二つの車をバッ! って」


 両腕を横に広げて、無邪気に笑うミツキ。

 こんな非力そうな子が大型車を止めたとか信じられないんだが......怪力乱神、ねぇ......


「それにしては、妙ですね」

「何か引っかかるのか、真耶?」

「ええ。両車両の前面を見てください」

「......何もおかしな所は無さそうだぞ?」

「それが変なのですよ。衝突する直前だった為に距離も近く、ゆったりと受け止める余裕は無かったはずです。なのに、車体は凹んでいない」

「あー、確かに」


 言われてみれば。

 普通にドンと手を突いて止めたのなら、手形が残ってそうだ。

 さっすが真耶さん、しっかりしてる。


「それはね......」


 不思議がる俺達二人を見て、ミツキが得意げな顔を作りながら少し距離を取る。

 再現してくれるのか? どんな仕掛けが――


「よいしょ、っと」

「ッッッ!?」


 意外! それは髪の毛ッ!

 そう、何の前触れも無くミツキの髪の毛が膨れあがり、大きな手を形作ったのだ。

 その大きさは大型車の前面を鷲掴みに出来そうな程で、正に巨人の手。

 “怪力乱神の権化”の意味を感じ取るには、十分だった。


「ビックリした? これがミツキの力、自分の身体を思った通りに変えられる“夢幻(ファンタジア)()現界(リアライズ)”だよー」


 普通の魔術じゃない力......そうか、ミツキはレリカント(宝具を宿す者)だって真耶が言ってたな。

 てか何だその厨二臭いネーミング。

 一体どんな奴が名前付けたんだ? 俺的にはポイント高いけど。


「『思った通り』って――」

「それが()()()()なら、なんでも。石やフライパンに変わるのは無理なんだー」

「じゃあ......ドラゴンにもなれる、とか?」

「出来るよー?」

「マジですか......」


 つまりは、こう言う事だ。

 ミツキは自由に身体を変形出来る。

 そしてドラゴンにもなれると言ったから、『それが実在する生物でなくとも、()()()()()()()()()()()()()()()()』と言う訳か。


 ............

 チートが過ぎやしないか!?

 流石はSランカー......いやいや、それだけで納得して良いものなのか!?

 この光景には、流石の真耶も――


「真耶? どうしたんだ?」

「......いえ、何でもありません」


 真耶は神妙な顔でミツキを見ていた。

 驚いていると言う感じじゃない。これは......疑問? 問いかけ? 一体どうした――


「ねぇ真耶さんって......もしかして、ミツキと会った事ある?」

「え?」


 俺が真耶の横顔を見て、真耶がミツキの顔を見つめる微妙な空気。

 それを打ち破ったのは、ミツキの予想だにせぬ発言だった。

 流石の真耶も驚き、固まっている。


「ミツキが小さい頃にね、真耶さんに似た子を見た気がするんだ。気のせいかなぁ?」

「......申し訳ございませんが、私には会った記憶がありません」

「そっかぁ。じゃあミツキの勘違いかな? ゴメンねー、変な事聞いて」

「いえ......構いませんが......」


 とは言いつつ、見つめ合う真耶とミツキ。

 ん? 俺取り残されてる?

 声を掛け辛い状況に、何とかならないかなーと考えていた所、ミツキが駆け付けた警察に呼ばれる。事情聴取のようだ。

 よ、よし。もう大丈夫そうか?


「なあ、さっきからどうしたんだ?」

「天龍砕 ミツキ......もしかすると、普通の人間では無いのかもしれません」

「Sランカーだし、普通の人間じゃ無いだろ?」

「そう言う意味では......」

「じゃあどういう意味だ?」

「もう結構です、この唐変木」

「グハッ」


 ドストレートな毒舌、俺に100のダメージ。

 しかし『普通じゃない』ねぇ。何だろう。

 やっぱり気になるのは......あの髪とか目か?

 普通に考えるならアルビノだけど、どっちかと言うとアルビノって病弱なイメージが......


 ボンヤリ考えていると、ミツキが帰って来た。

 事情聴取が終わったらしい。


「ミツキ達はもう残らなくて良いんだって」

「ん、分かった」

「二人は、時間とか大丈夫なの?」

『「あっ」』


 しまった、色々あってすっかり忘れてた。

 ポケットに手を突っ込み、スタホを取り出して時間を確認すると、時刻は9時20分。


「待ち合わせが九時半だから......こりゃ間に合いそうに無いな」

「この位置......バスなら20分、走って80分と言った所でしょうか」

「うへぇ、マジか......」


 着くのは早くて10時40分、現実的な所だと11時頃か。参ったな。

 渋い顔を作って唸る俺と真耶。


「急いでるの?」


 と、それを打ち破ったのはまたミツキの一声だった。

 アッケラカンとした顔......なんだろう、嫌な予感がする。


「ん、まあそうだけど......」

「分かった、ちょっと待ってて」

「何を――うぉわっ!?」


 少しかがんだ直後、ミツキは空に向かって力強く跳躍。

 その風圧に驚き、俺は一瞬固まってしまう。

 跳んだ先に目をやると――俺達の後ろにそびえる崖の、その裏側に回るミツキの姿が一瞬見えた。

 

 え、あの崖、二階建てのビル位の高さありそうだぞ? と言うか跳んだ所の地面凹んでるし。

 何つーかアレだなぁ。色々とスケールが――


「ん?」


 突如、地上に落ちる大きな影。

 そして――


[ドスゥゥン!]


 さっきの崖を上回る大きさの白いドラゴンが、空から降ってきた。

 口をあんぐりと開ける俺と真耶。

 驚きで腰を抜かす、運転手さんと警察。


 ......ス、


「スケールが違うってレベルじゃねーぞ!?」


 うおぁぁぁーマジでドラゴンだよ! 俺が初めて異世界に来た時に出くわしたヤツより何倍もデケーよやべぇよコレ!

 さっき『ドラゴンになれる?』なんて聞くんじゃなかったよ何聞いてんだよ俺バカかよ俺のバカバカバうぼぁっ!


 心の中で叫びまくるもチビって声が出ない俺を、ドラゴンと化したミツキは大きな手でむんずと掴む。

 そして真耶も掴んだミツキは地面に大きなクレーターを作って飛び上がり、翼を広げて空に身を乗り出した。


「うわぁぁぁぁコワイコワイコワイァぶえるぼぶバババババブ」

「グァーッグアッグァ!!!」


 一帯に響き渡る、ドラゴンの咆哮。

 俺は叫び声を上げるも、風圧で顔の皮膚がブルンブルン揺れ、マトモに話せなくなり――

 ついには、意識を失ってしまうのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 規格外な子、出てきましたねー! ドラゴン少女に猫耳マヤちゃん。なんだかファンタジー感が満載になってきました。 ハルトくん、もうちょい空のお散歩楽しもうよー‥‥って言いたいところですが、気絶…
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