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Part4 “怪力乱神の権化”

 ニーナが藤宮邸を訪れた、その週の土曜日。

 俺と真耶はウィザードの動作テストを受ける為、バスでオモシロ高校に向かっていた。

 時刻は九時近く。

 朝早い事もあってか、バスに乗車している人間は運転手を除き俺達二人だけだ。


 ただ......なんだろう。

 ミョーに真耶と距離を感じるんだよなぁ......


 俺と真耶が座っているのはバスの一番後ろ、五人席になっている所だ。

 車内は人が少ないから、詰めて座る必要は無い。

 無いんだが......ヒト2.5人分と言うこの距離感、やっぱり気持ちが落ち着かない訳で。


「ハルト、さっきからソワソワしてどうしましたか。気持ち悪いですよ」

「いや、言いにくいんだけど......真耶、なんか遠く無いか?」

「気のせいですよ、気持ち悪い」


 また気持ち悪いって言われた......

 そもそも、何故こうなったかと言えば

 ――

 

「ハルト、早くしないとバスが出ますよ」

「悪い、ちょっと手間取ってさ......」


 時間は少し遡って、今朝の藤宮邸。

 使用人用の出入口の前で、俺は小声で話す真耶に急かされていた。

 と、そこに。


「あら、真耶は出掛けると聞いていたけれど、ハルト君もお出かけなのですね?」


 ふらりと現れたアイラさんが、俺達に話しかけて来た。


「あー、まあちょっと。自分だけだと人手が足りないからって、今朝になって急に頼まれて」

「それはそれは......真耶のお手伝いをしてくれて、助かります」

「いやいや、言われる程でも」


 適当に相槌ちを打ってごまかし、さっさと出かけようとする俺と真耶。

 と言うのも、アイラさんや藤宮一家には“二人でオモシロ高校に行く”とは話してないのだ。


 ウィザードと言う、ニーナ曰く画期的なデバイスの動作テスト。

 好奇心の強いアリスの耳に届いた場合、付いて行くと言うかもしれない。

 となれば真耶の本当の目的が達成し辛くなる、そう判断しての事だった。

 俺が一緒だと話してないのは......変に探られるのは恥ずかしいじゃん? って話で。


 と言うか、普段なら植物園の手入れをしている時間じゃ無かったっけか?

 何で今日に限ってここに現れるんだぁっ!


 俺達の事情を知らないアイラさんは、当然普段通りの声色で話す。

 よく通る、のびやかな美声。

 この声に誰か呼び寄せられでもしたら――


「あれ、朝っぱらからどうしました?」


 あ~ヤバイ、面倒な事になった......

 藤宮邸の住み込みメイド、現役大学生の佐伯さんが、丁度一階の窓ふきを終えてこちらにやって来た。


「ん? ハルトさんもお出かけ......? 真耶さんと揃って......?」

「ま、まあちょっと。ほら真耶、準備出来たし出掛けようか」


 真耶に手招きしてから、俺はそそくさとこの空間から逃げ出そうとする。

 一刻も早く、退散せねば。

 そう焦る俺の気持ちに伴って、額にジワリと汗が滲む。

 だが俺の挙動を見た佐伯さんが、あっと声を上げて手堤を打った。


「あ、分かった! デートですね!?」


 ああああああああああああああああ最悪だあああああああああああああああ!


「あらあら、そうなのですねぇ」

「ちょっと意外でしたねー、奥様。あでも、前から二人で話してる事も多かったし、私達の知らない内に仲が深まってたのかな? 世の中誰と誰がくっつくか、分からない物ですねぇ......」


 腑に落ちたように頷く佐伯さんに、頬に手を当てて微笑むアイラさん。

 

「ちょっ、ちが......!」

「ふふー、じゃあ何処に、何しに行くの? 華盛りの青年クン?」

「いや、それは......」

「ホラホラ、否定してみてくださいな?」


 意地悪そうな笑みを浮かべる佐伯さん。

 この反応、アイツ(ニーナ)に似ていて軽くイラッと来る......なんて事はどうでもいい!

 どうするよこの状況、オモシロ高校に行くなんて言う訳には行かないし、かと言ってデートだと思われたままなのも面倒だ。


 後頭部をワシャワシャと掻くも、打開策は掘り起こせそうにない。


「な、なあ。真耶の方からも何......か......」


 言って欲しいと。

 そう言おうとして俺が振り向くと同時に、俯いた真耶とすれ違う。


「ちょ、何ですか真耶さん?」


 ズカズカと佐伯さんに近づく真耶。

 そして――


「ふぇ、顔怖っ、ってゴフッ!?」


 胸元目掛けてラリアットをかまし、佐伯さんを後ろの生垣にぶち込んだ。

 ポカーンとするしかなかった俺だが、振り返った真耶に手を掴まれる。


「行きますよ、ハルト。何故あなたはこうも誤魔化すのが下手なのか......全く」

「わ、分かったから強く握るなって! 痛い痛い痛い!」

「二人とも、楽しんでいらっしゃいねぇ~」


 ――

 と言うやり取りを経て、俺達二人は無理やり藤宮邸から出て来たのだ。

 ああ言われてしまうと、どうしても今回の真耶との外出がデートみたいに思えてしまう。

 何だかんだ、真耶も美人だしなぁ。意識するな、って言う方が無理な話で。

 席が一番後ろなのも、それが理由だ。

 だって、二人席だと距離が近いじゃないか。

 かと言って嫌いでも無いから、離れるのはなんか悪いし。


 いや、待てよ?


 自由に座れる今、くっつくのも離れるのも嫌で一番後ろを選んだ俺同様、真耶も自由に席を選べるはずでは?

 て事は――


「もしかして、真耶も離れるのは嫌とか? いや、まさか――」

「気持ち悪い事を言わないでください」

「......尻尾ピーンってなってた訳なんだが」

「......」


 あ、尻尾隠した。そしてそっぽ向かれた。

 え? 真耶も多少なり意識してるって事か?

 ......余計に居辛くなって来たんだがっ!?


「そ、そう言えば会場の事とか全然調べてなかったなー、ちょっと調べてみるかー」


 アカン、もうこの空気耐えられへん。

 と言う訳で俺はスタホを取り出し、そっちに逃げる事にする。

 仕方ない

 知ってないなら

 仕方ない      はると


 主代高校 と検索すると、一番上に高校の公式サイトが出てくる。

 見慣れたレイアウト。メニュータブの下にお知らせ欄があり、そこにある『“ウィザード”動作テストの受付について』をタップしようと――


「ん? あれ?」


 する前に、ある一つの事に気が付く。

 そう、曜日が違うのだ。今日は土曜日で、サイトにある実施日は日曜日。

 タップして開いても、日曜日と書かれている。

 昨日ニーナに渡されたカードに書かれているのは......土曜日、今日の日付。


 え、もしかして間違ってるのか?

 なんか不安になって来たな、一回ニーナに電話するか。


「世界に溢れる驚きを、貴方の所へスロウ・イン! 高梨 仁奈でございます!」

「......お前のソレ、いくつレパートリーあるんだ?」

「レパートリーも何も、通知が鳴ってる間があれば思い付きません?」

「普通は思い付かんっての......」


 無駄に頭の回転早いよなぁ、ニーナ。

 それをもっと他の事に活かして欲しい、なんて。閑話休題。


「あのさ、この前お前が言いに来た動作テストの実施日、高校の公式サイトには明日って書いてるんだけど......」

「あー、ソレですか。こっちから依頼した人達は今日で、明日は一般参加向けなんですよー」

「なんだそりゃ。ややこしい事するな......」

「ま、気持ちも分からなくは無いですけど。声をかけた面子が面子だけに、大勢の人が居ると騒ぎになる可能性もあるって話で、こうなったんです」

「ふーん......」


 有名人が来るって事か? そんな人まで呼べるのか、オモシロ高校のネームバリュー......


「ウチの抱えてるSランカーが見られる、ってだけで騒ぎになりそうですしねぇ。それ以上のVIPが来ると分かれば、面倒な事になりそうで......」

「エ、Sランカー!?」

「あーもー煩いですねー、耳元で大声出さないでくださいよー」

「それお前に言われたかねぇよ」


 Sランカー――5000万人に一人と言われる、幻の逸材。

 それがオモシロ高校に居るだなんて、驚かない訳が無いじゃないか。

 と言うか......まさか生徒だなんて言わないよな......?


「ちなみにそのSランカーって、どんな人物なんだ?」

「それは......っと、すみません。ちょっと呼ばれたのでまた後程。着いたら電話して下さいねー、ではっ!」

「あ、おい――」

[ピッ]


 引き留める隙も無く、電話は切られてしまった。

 むー、何も聞けんかった。おいちゃん気になるぞい。


「で、本日で合っていたのですか」

「あ、ああ。俺達みたいな呼び出された人達は、今日であってるらしい。明日は一般向けなんだと」

「そう、ですか」


 何だか腑に落ちていなさそうな表情の真耶。

 あ、自分が変人みたいに言われて癪なのか?

 真耶だって別のベクトルの変人だと思うんだが......今は黙っておくか。


「ま、どうせなら二人一緒に、って事だろ」

「だと良いのですが。ただ、先日あの者(ニーナ)に『一部の書物の閲覧には許可が要る』と言われました。もしかすると、私達の目的に......いえ、私の秘密に気付いているのかもしれない」

「いやいや、流石にそれは考えすぎだろ......」

「そう、でしょうか」


 秘密を握られている、その不安感のせいか、真耶は表情を沈ませる。

 この話題は良くないな、内容逸らすか。


「にしても、オモシロ高校にSランカーが居るなんてな。ビックリしたよ」

「この辺りではかなり有名ですよ。月生唯一にして、史上初の高校生Sランカーですから」

「ちょ、え、ウソだろ......」


 驚きすぎて身体がヒュンッてなるんだが。

 え、月生で一人だけ? それってもう月生の最終兵器じゃないか。

 しかも高校生とか......世の中やべぇな......

 騒ぎの種になるのも納得だわ。


「詳しくは知りませんが......無属性の宝具を身体に宿したレリカントだそうで。そこから付けられた異名が、“怪力乱神の権化”」


 思わず、ゴクリと唾を吞む。

 いやいや、怪力乱神ってソレ、高校生が持つ二つ名じゃないだろ......

 なんかもう想像付くわ、アリアリと脳内に浮かぶわ。筋肉モリモリマッチョマンの野郎の姿が。


「ち、ちなみに名前は......?」

「名前は確か......“テンリュウサイ ミツキ”」

「て、テンリュウサイ......!?」

「天上の()に、ドラゴンの()。サイは()くですね。元々、多くの優れた魔法使いを輩出している名家です」


 いやいやいや、何そのヤバさを煮詰めた苗字。

 厨二真っ盛りな男子でも名乗らんよ、ソレ。

 て言うか何。何と戦ってんの、その一族。神殺しの兵器、みたいな? HAHA、笑えねぇな。


「じゃあ『ミツキ』ってのも......“()ちる”に“()”、とか?」

「いえ、それは――」


 俺の言葉を否定しかけた真耶だったが、そこで急に声を止める。

 口を開けたままじっと前を見つめるその顔は、段々と険しく......


「ッ!?」


 嫌な予感がした俺は真耶の視線の先を見て――そして絶句した。

 反対車線からはみ出した大型車が、俺達が乗るバスに突っ込んで来ているじゃないか!?


「ッ、伏せてくださいッ!」

「うおっ!?」


 道路を引っ搔き回すブレーキ音がしたと同時に、間に合わないと判断した真耶が覆い被さるようにして俺を押さえつける。

 直後、バスを襲う衝撃。

 そしてガラスの割れる音と、車のひしゃげる音が――


「......?」


 聞こえない。


 いや、確かにドンと何かにぶつかる音はした。

 が、その音は車同士の衝突にしては、あまりにも小さく軽く。


「ま、真耶? もう大丈夫だと思うんだが......?」

「え、ええ。すみません」


 真耶の背中をポンポンと叩き、身体を退かすよう促す。

 と言うか、真耶と身体を密着させる機会多いな、俺。そんな事言ったら張り手飛んで来そうだから言わないけど。


 サッと上げた視線。

 その先で、車同士の衝突は起こっていなかった。

 大型車はバスの一メートルほど手前で止まっている。


「な、何が――」


 色々確かめようと思い、前方に向かって歩き出した、その時。


「危なかったねー。運転手さん、大丈夫?」


 バスの出入口をこじ開けて、一人の人間が車内に入って来た。

 底抜けに明るく、朗らかな声を響かせて。


「だ、誰だ一体――」

「怪力乱神の権化......!」

「はぁっ!? あの子が!?」


 驚きの声を漏らす真耶。が、俺はその真耶の反応に驚く。

 華奢な体躯に、奇異なまでに白い肌。しなり、流れる白銀の髪。

 ルビーのように紅く輝く瞳は、正に紅一点の麗々しさ。

 その姿は、俺の想像した“怪力乱神”とはかけ離れていたのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 遅くなりましたー(/ω\*)ペコリ マヤちゃんとハルトくんの外出編。一番、誤魔化し方が下手なのはマヤちゃんだと思うのですが、はたして‥‥?(笑) それにしてもニーナさん、登場するだけで笑…
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