妹の連絡先を入手するだけの話④
第三章のPart15,16の例のシーンを修正しています。
ソラの心情描写が気になっていた方は、先にご覧ください。
サキトの家から20分ほど歩いた所に、目的地の公園があった。
「さてと、お二人はどこかね、っと」
そう漏らしつつ探していると、二人の姿は案外すぐに見つかった。
高校の体操服を来て、公園の中を走っている。
少し前をサキトが走り、その後ろに疲労の色を滲ませたヒカルが付く形だ。
タイミングを見て声をかけようとしたが、先にサキトが気付いてこちらの方に近づいて来る。
「ソラのにーさんじゃないですか。先日はどうもです」
「ああ、サキト君か。先日ぶり」
「そんな硬い事言わずに、呼び捨てでいいっすよ。で、俺達に何か用でも?」
「あー、それなんだけど......君達、ソラ個人の連絡先って知ってたりする?」
そう聞くと、二人は互いに顔を見合させて首を横に振った。
こ、これが親友の間で成立する、言葉を介さない意思疎通ってやつか......!
「スンマセン、それ俺らも知らなくて。アイツ、付き合い悪い所あるんで」
「そっか、駄目か......」
「どうしても連絡したいんなら、寮の番号にかけてましたしねー。何だったら、俺の連絡先教えておきましょうか? また高校始まった時に聞いてみますよ?」
「そっか、助かる」
実際話して分かるが、サキトは本当に壁が低いな。何か、スルッと距離感を詰めてくる感じ。
そう脳内でぼやきながら、サキトに連絡先を教える。返信のメッセージに書いてあったのはサキトの連絡先と――
「ん? このもう一つの連絡先は?」
「あ、上が俺んで、下がヒカルのです」
「! ちょっとサキト君、僕の連絡先なんて教えても迷惑なだけじゃ......」
「いーだろ別に。悪い人じゃないって、ヒカルも知ってるだろ?」
「そうだけどぉ......。すみません、宜しくお願いします」
そう言って、申し訳なさそうに頭を下げるヒカル。いや、別に謝らなくても......
と言うか、これで何気にソラと親しい人達の連絡先コンプリートか。思わぬ収穫だな。
「ところで、二人はどうして走ってたんだ?」
「体力作り、ってトコですかね。ソラに何かあった時の為に、俺達で出来る事やっとこう、ってカンジで」
「へぇー、凄いな」
「どもども。つっても、コレ言い出したのヒカルの方なんですけど」
「ちょ、ちょっと! そんな事言わなくても!」
声を荒げるヒカルに、ヘヘっと笑うサキト。
それにしても、ソラの為か。シュウが共鳴術の練習してたのもソラも為だろうし、俺も何かしといた方がいいかな......?
「ところで、俺達が公園に居るって何で分かったんです?」
「ああ、それは――」
「私が教えたのでありますっ! ただの付き人に見えましたか? 残念、ニーナさんでしたっ!」
............
普通に『弟クンが教えてくれた』って言おうとしてたんだけど、何も気にせずに割り込んで来るなコイツは。
名刺を受け取ったサキトとヒカルも、うわぁ、って顔してるじゃないか。
「あー、オモシロ高の人から聞いたんすか......じゃあ仕方ないですね」
んで、やっぱりそれで納得してしまうと......。
「さっきシュウにも会ったんだけど、みんな『オモシロ高校なら仕方ない』みたいな反応するな?」
「だってオモシロ高ですよ。あそこって何でもアリなカンジの場所ですし、個人情報知られてても逆に違和感ないって言うか......」
そう言いつつ視線を逸らすサキトは、どこか諦めているようにさえ見える。
アリスもシュウも怪訝な顔したし......オモシロ高校ってよっぽどなんだな。
いやまあ、ニーナを見てたらお察しなんだが。
「てか、何で知り合ったんです? もしかしてカノジョさんですか?」
「うん、それさっきも言われたんだけど......」
「私ハルトさん程度の人間じゃ――」
「それも言わんでいいからなっ!?」
その後、一応サキトとヒカルに説明をする。
二人とも本当だとは思って無かったようだ、良かった。......いや、何か少し悲しい気がする。
また走り出す二人を尻目に、俺とニーナは公園を出た。
「結局、ソラさんの連絡先、手に入らなかったですねー」
その帰りの電車の中。
色々と疲れて椅子に座り込む俺に対して、横に立つニーナがポツリと呟いた。
「そうなんだよなぁ。あー、高校始まるまで待たされるとか、マジで辛いっ!」
「ハルトさんから寮に電話するのはどうです?」
「いや、メールでのやり取りで再開させたい」
「ソラさんに直接聞きに行くのは――」
「それは絶対ムリッ!」
お兄ちゃん普通に話せるか自信ありません!
そんな醜態晒したくありませんっ!
頭を抱える俺を見て、ニーナはクスクスと笑う。
「そんなに変か?」
「えぇ本当に。貴方達は、見ていて面白いですよぉ?」
「趣味の悪い言い方だな......」
どう言う意味だよ、マッタク。
余りにも愉快そうに笑うニーナに少しイラッと来て、何か言ってやりたくなる。
あ、そう言えば――
「今思い出したんだけどさ」
「はいはい、どうかしました? 新しいブラコンのネタでも思い出しました?」
「ちげーよ。ニーナ、お前この前常明学園に侵入してたけど、後で何も無かったのか?」
「何か、とは?」
「いやいや、不法侵入だぞ? お前も警察の人にはバレてる訳だし、何か言われたんじゃないか?」
起訴猶予処分と言えど、俺だって逮捕までされたんだ。
看守や警察の人をおちょくり回ったニーナは何かしらの罪に問われてもおかしくない、と思うのは俺だけじゃないハズ。
「あー、アレは......不問です☆」
「うっそだろオイ!?」
額の前でVサインを作るニーナに対して、思わず大声で突っ込んでしまった。
が、それぐらいにビックリである。
何だ、オモシロ高校は無法地帯で、高校関係者である事は免罪符か何かなのか?
『仕方ない』ってレベルじゃねーぞ!
「おや? 次降りる駅じゃないですか?」
「ん? ああホントだ」
などとやり取りしている内に、そろそろ俺が降りる駅に着きそうだ。
ニーナはまだ乗るから、ここでお別れになる。
「何だかんだ言って、今日は世話になったな」
「『何だかんだ』って何です!? 私けっこう役に立ったでしょう!?」
「え、そうか? ゴメンマジでそう思わない」
ギャイギャイと騒ぐニーナ。
そう言われてもなぁ。お前がやったのって、ちゃちゃ入れる位じゃ無かったか?
「ま、また何かの機会だな。そんな会う機会があるか分からんけど」
「はい、また会う日まで。面白いネタがあれば、いつでも教えてくださいねっ!」
「出来ればそう言う方面で会いたくは無いんだけど......取り敢えず、今日の所はお疲れ様でした、っと」
そう俺が口にした直後、電車のドアが開く。
手を数回振ってから、俺はホームへと向かう。
「ええ、お疲れ様でしたハルトさん。でも、私ともそう遠くない先に会うと思いますよ......? あ、先に妹さんですね」
ニーナが独り言を漏らすと電車のドアは閉まり、また走り出すのだった。
◇◇◇◇◇
「はぁ、学園再開までソラとは会えないのか......くぅ、辛すぎるっ......!」
延々と続く坂道を登りながら、俺は愚痴を漏らしていた。
学園再開、か。あと二週間足らずって所か?
今でさえこんなに辛いのに、マジで耐えられる気がしないんだが。
「断妹も、何か変にソラの事意識してしまうしなぁ......アリスにも悪いし、もう普通に接するようにするか?」
うーんでもなあ。ここ数日アリスを無視してるような感じだったし、流石に機嫌を損ねられても文句言えないレベル。
拗ねてしまったら、その時は平謝りしよう。
「そう言えば、リーシャにも悪い事したなぁ」
ふと横を見ると、リーシャの居る山瀬調薬本舗の前に来ていた。
リーシャは多分、拗ねたりはしないだろう。
が、それが反って罪悪感を抱く事間違い無し。
「俺のしてた事って......はぁ」
もういいや、今日は疲れたしさっさと寝よう。
そう思って店舗の前を素通りしかけた時、
「あれ、お兄さん? お久しぶりです!」
店からひょっこり顔を出したリーシャに呼び止められた。
う、妹っぽい存在は......ってアレ? 何も感じないぞ?
そうか、今は疲れてるから大丈夫なのか。はぁ。
「大丈夫ですか? 何か、お疲れのように見えますけど......」
「うん、まあ色々あってさ」
「大丈夫ですか? 私で良ければ聞きますけど......?」
ああ、マジでこの子天使だわ。
この前一方的にお誘いを断ったって言うのに、それを少しも気にせずに俺の事を心配してくれるなんて。
最近お喋りして無かったし、話していくか。
「実はさ、会いたいのに会って大丈夫なのか不安な相手がいてさ......」
「? ごめんなさい、どう言う意味なんですか......?」
「いや、大切な人で、すぐにでもその人と会いたい気分なんだけど......色々あって、前までと同じように話せるか不安なんだよ。そうしたら、相手を傷つけるんじゃないか、って思ってさ」
何か自分でも驚くぐらいに口が回るなぁ。
あれか、疲れてるせいで心のストッパーが緩んでるのか。
ツラツラと言葉を重ねる俺の横で、リーシャは黙り込んでしまった。
あ、小学生にこの話は早かったか......?
「うーん......あの、私はまだお兄さんと比べて長く生きてないですし、お兄さんの気持ちを全部分かる事は出来ないんですけど......。でも、会いたいって思って、その気持ちをちゃんと言葉にして伝えたなら、その人だって悲しんだりはしないと思います......よ?」
「っ......!」
なんて真っ直ぐな言葉なんだろう。
それは迷う要素を省いた、シンプルな答え。
でも......そうか、それぐらいシンプルに考えた方が良いかもしれないな。
「リーシャ......ありがとな」
そうだ、妹を想う気持ちはややこしくなんか無い。ソラと話して、同じ時間を過ごして、それだけなんだ。シンプルな話じゃないか。
「なんかリーシャに話したら、スッキリしたよ。ありがとな」
「そんな。お兄さんがちょっとでも元気になったら、私も嬉しいです!」
「はは、ホント眩しいわ......それにしても、俺の悩みに結構すぐに答えたね?」
「え? あ、はい。実は、お兄さんと同じ事を言ってる人が先ほどお店に来られまして」
「へぇ、俺と同じ悩みをねぇ。世間って狭いもんだなぁ」
「もしかしたらまだ......あ、あの方です」
「んー、どれどれ?」
リーシャに招かれて、俺は店の入り口に立つ。
あくまで、その相手には悟られない近さで。
リーシャの声も、決して向こうには聞き取れない程度に抑えられた声だった。
――なのに一体、どうした事か。
俺がその人の顔を見た瞬間、相手も俺を見た。
『「あっ」』
そしてその瞬間、同時に声を漏らした。
店の奥に居たのは、紛れもなくソラだったのだ。
直後、俺もソラも顔を赤くする。
色々言いたい事があるはずなのに、互いに口をパクパクするばかりで言葉が出て来ない。
そんな俺達を見て、リーシャはポンと手堤を打ち、こう口にした。
「お二人はコイビトなのですねっ!」
『「俺がソラを異性として見るとか、あり得んからっ!」
「私が兄さんを異性として見るとか、あり得ないから!」』
「ほら、息ぴったりです!」
満足げにニッコリと笑うリーシャ。
こんな時まで察しの良い子で無くていいんだっ!
くっ、リーシャがそんな事を言ったせいで、益々意識するじゃないか!
ソラも俯いたままだし、一体どうしたら――
「兄さん!」
「はいっ!」
「スタホ貸して!」
「どうぞっ!」
突然ソラが近づいて、スタホを渡すよう要求して来る。差し出された手に、サッと渡す俺。
その動き、熟練の餅つきパートナーの如く。
そしてソラが高速で文字を打ち込み、俺の方に差し出した。
「はい、連絡先! これで良いんでしょ!?」
「あ、ああ!」
「じゃ、じゃあっ! また来ますっ!」
そう言い残して、ソラは俯きながら俺の横を通り抜けていった。
凄い焦り様だ。坂道で転んだりしないだろうか。
一瞬の出来事でポカンと口を開ける俺に、おずおずとリーシャが尋ねかける。
「あの、何だったんですか?」
「......俺にも何がなにやら。まあでも......結果的には良かったよ。リーシャが居なかったら店を覗く事も無かっただろうしさ」
「? えっと、お兄さんの役に立てたんですか?」
「ああ、ありがとな」
「はいっ、良かったです!」
そう言って、リーシャはまた天使のような笑顔を浮かべるのだった。
ちなみに、その夜。
ソラの方からメッセージが来た。
(兄さん)
(一応確認なんだけど)
(私達、ただの兄妹だから)
(恋愛感情なんて無いから)
(なんか今日、ぎこちない感じだったけど)
(勘違いしちゃ駄目だよ)
俺の合いの手を入れる隙すら与えずに、次々とメッセージを投げてくるソラ。
「そうだな。俺もそれがいいよ、っと」
その後毎日、ソラとはメッセージや電話で何時間とやり取りを重ねた。
こうして互いの存在に慣らす事で、一週間後には普通に会話できる程度には、俺達兄妹の仲は戻ったのだった。




