妹の連絡先を入手するだけの話②
「ニーナ……この前現れた、あの高校生ですか」
「ああ、アイツだ」
『「………… ハァ~~~……」』
二人して大きな溜息を付く。
真耶もああ言うタイプの人間は苦手らしい。
いや、だってさあ?
あんな常時テンション爆上げみたいな奴と話してたら、余計に疲れそうじゃん?
「でも、マジでニーナしか頼れなさそうだぞ?」
「ハルト自身がそう言うのであれば、止めはしませんが……」
「うん、今は止まってる場合じゃないんだ。俺の個人的な理由でだけど」
「はあ……」
また肩を降ろす真耶を横目に、俺はニーナに連絡を入れる。電話だといつ返事があるか分からないから、今回はメッセージだ。
「ですが、あの者を信用していいのか、些か私は疑問ですね」
と、メッセージを送ったタイミングで真耶がまた話を始めた。
「変な情報握らされるかも、って意味か?」
「それもありますが……。ハルト、貴方が学園に行き、あのような事件に巻き込まれるきっかけを作ったのは彼女ですよ」
「確かにアイツのせいだけど……『作った』ってのは言い過ぎじゃないか?」
真耶は余り関わっていないからそんな目線を持つかもしれないが、あのはしゃぎっぷりを見ていると、そこまで考えているようには見えない。
この前の件にしても、偶然じゃないかと言うのが俺の考えだ。少し気になる言動をしていたのは確かだが、黒か白かで言えば白に近い。
「ハルト、貴方はもう少し危機感を――」
「危機感? この前の襲撃事件は別として、危ない事に首を突っ込むつもりは無いぞ?」
「そう言う事ではなく……。とにかく、もう少し気を付けてください」
「お、おう。分かった……」
何か妙に真剣な顔つきだなぁ。
それにしても、何か知らない間に真耶の好感度上がってないか? ナニユエ?
と、真耶とニーナについて話していた所に着信音が鳴った。
「――お、返信来たな。『本日の昼過ぎに伺います』、だそうだ」
「……ヤケにすんなり承諾しましたね」
「と言うと?」
「いえ、今回はハルトの方からの相談ですから。相手に協力する利点が無いように感じまして」
「……そう言われればそうだな」
そんなに現金な奴だとは思わないが、それにしても一つ返事でOKしたのは不思議だ。
もしかして調査料とか求めてくるのか? 金額にもよるけど、どうしたもんかな……
今後について軽く頭を悩ませる俺だったが、いざニーナに話を聞くと、その答えは意外な物だった。
「オモシロ高校で、俺の事が話題になってる?」
驚いて目を丸くする俺を他所に、ニーナは出された紅茶を啜りながら普段通りの口調で答える。
「さっき言ったじゃないですか、短期記憶大丈夫です? この前の襲撃事件を記事にして以来、ハルトさんはちょっとした注目人物になってまして!」
「それって、具体的には?」
「幼馴染の美少年を弟呼ばわりし、あろう事か学園に不法侵入までしてその弟を助けた『やべーブラコンが居る』と!」
「ウグッ……」
な、なるほど。他人から、かつソラとの作り話を前提にすると“ソラは昔隣に住んでた男の子”。
そして俺は、気に入った可愛い男子を弟呼ばわりし、何かあればその弟やらの元に現れる人間。
確かにヤベー奴だ。自分でも怖えよ。
「つまり……アレか。ソラの情報を教える代わりに、俺のヤバさを物語る話が知りたい、と」
「ですです! 私を満足させたらOKです!」
「っ、そう言われてもな……」
ど、どうする北条 ハルト。
目の前には、事態を進展させる鍵がある。
だがソラの為と言えど、メディアのオモチャになるのは流石に抵抗感が……
「では、私から一つ」
「ちょっ、真耶さん!?」
などと悩んでいる俺の事など意にも介さず、スッと手を上げる真耶。
ニーナが提案して、一分と経って無いんだが!?
「何を怖じ気付いているのですか、ハルト? 貴方自身の為でしょう?」
「そ、そうだけどさ……あの、お手柔らかに頼むぞ?」
「…………」
その無言の返し方、すっげー不安になるんですけど!? マジで大丈夫なのか!?
「ほほう、では教えて貰えますか?」
満面の笑みで手帳を取り出すニーナ。
俺の手の平から、嫌な汗が噴き出す。
いやいや、冷静になれ北条 ハルト。
さっきも感じたばかりじゃないか。真耶の俺に対する好感度は、最近上昇しているんだ。
内輪ならともかく、流石に外の人間が居る状況じゃ爆弾発言は――
「彼には特殊なルーティーンがありまして」
『ルーティーン』?
……え、ちょい待ち。まさかアレの話か!?
「魔術を使う前に目を閉じ、その弟の事を妄想すると言うものでして。正直、初めて聞いた時はドン引きしました」
やっぱり妹パワーの事かぁーっ!
とんでもない爆弾発言だよ! と言うかその言い方、悪意しか感じないんだが!?
「へ、へー。大層大切にしてるんですねぇ~……」
「マジっぽい反応止めろォ! いつものテンションどうしたんだよ!?」
「いえ、この男は年下であれば、男女問わず対象に入れます。以前駅で待ち合わせした際、歩いて20分程の距離であるにも関わらず、道中で金髪の小学生を拉致して来ましたから」
「もうそれブラコンと関係無いだろ!? 俺に変なイメージ付けて楽しんでるだけだろ!?」
「な、何を馬鹿な事を言うのですか、ハルト」
嘘オッシャイ! 口元震えてんぞ!
「ヌェッ!? では私もその対象に入るのでしょうかっ!?」
「お前は入らねーよ、ニーナ!」
「高校二年生はもうババアだと仰るのです!?」
「そう言う意味じゃねーよ!」
「……クスリ」
「真耶ぁ! 今確実に笑ったろ!?」
「これでお嬢様が楽しんでいただけるネタが出来ました、フフフ……」
「録音機片手に歪な笑み浮かべるなっ! 正体現したな、この性悪バトラー!」
くっ、何て事だ。二対一だと思ったら一対二じゃないかっ! こうなったら俺だって――
「そう言うなら真耶も、この前子供っぽい仕草してるアリスを撮ろうとしてただろ!?」
「ハルトこそ、以前口元にオメカシしたお嬢様を撮っていたではないですか」
「ああ撮ったよ。でもその場限りの冗談でな! すぐにアリスには伝えたし、我道さんに叱られるまで放置する真耶とは違うっての!」
「何を言うのです。お嬢様の愛らしい姿の一つ一つをこの世界に遺すのが、給仕の務め!」
「ただの記録にGS何とかとか言うゴツイカメラが要るかぁーっ!」
息を乱し、激しく言葉をぶつけ合う俺と真耶。
が、そこにパシャリと機械的な音が響く。
音のした方向に振り返ると、ニーナが満面の笑みでカメラを握っていた。
「ほー、これは興味深いですねぇ! 藤宮家に使える鉄仮面給仕の知られざる一面! そして……ハルトさん、今GSXと言いましたか?」
「あ、ああ。そうだけど?」
「是非とも見せていただきたいっ!」
「申し訳ありませんが、それはお嬢様を撮る為のものでして……」
「まあマアまあそう仰らずに!」
目をキラキラと輝かせ、真耶に近寄るニーナ。
ここまで露骨に興味を示すなんて珍しいな。
真耶もその気迫に押されたのか、少々お待ちいただけますか、と言って自室に戻る。
そして真耶がカメラを持って来ると、ニーナは益々声を大きくして喜びを露わにした。
「ふおぉっ……コレがGSX、しかも100のMkII……! 噂には聞いていましたが、デカイっ、オモイっ、ひゃー!」
「なんだ、このカメラそんなに凄いのか?」
「凄いも何も! これはサクラフィルムが誇る中判カメラのフラッグシップモデル。このボディと今付いているレンズだけで、合わせて150万はする代物ですよ!」
「なんぞその高さ!?」
150万って、それ車一台買えるじゃねーか!
どんだけアリス撮る為の熱が強いんだ、一周回って尊敬するぞ!
「え、マジでよくこんなの買えたな!?」
「……この屋敷で働いている以上、給料も出ますからね。それを溜めて購入しました」
「いやいやいや、年頃の女の子なんだから他に使い道ないのか?」
「ありません」
「マジかー……」
いつも通りの涼やかな表情で語っているから、マジなんだろう。
飾りっ気ないしなぁ、真耶。
確かアリス曰く、メイクもしてないとか。
「あのあのっ! このカメラ、少~しばかりお借りしても良いですかねっ!? そうしたらソラさんに関する情報お教えしようかなー、って」
「結局はお前の趣味が決定打かよ! まあいいや、許可できるかい真耶さん?」
「そ、それは……」
珍しく表情を曇らせる真耶。やはり、私物を触られるのは嫌なんだろう。
とは言え、これは事態を前進させるチャンス。
さっき真耶にやられた分、少々やり返しても文句は言うまい?
「ほぉ~いいのか? 俺がずっと悩んでたら、アリスも悩んだままだぞ?」
「それは……。……はぁ、分かりましたよ。ただし、許可できるのは三日間です。それ以上お貸しするのは許可できません」
「分っかりましたー、取引成立ですねー!」
よっしゃあミッションコンプリート!
何か大切な物を失った気はするが、それでもソラの連絡先が得られたならオールオッケーだ!
「で、ニーナさん? 約束のブツは……」
「まあまあそう急かさずに。今お送りしますんで」
そう言ってニーナはスマホを取り出し、メッセージを送って来た。
それに書かれていたのは――
「何だこれ? 住所?」
どう言う事だ? ソラが住んでる所の住所なのか? いやでも、ソラは寮に下宿してる、って話だったような……え、まさか。
「おいニーナ。これって誰の住所だ?」
「誰も何も、下に書いてるじゃないですかー。一番上がシュウさん、その下二つはご学友のサキトさんとヒカルさんの自宅の住所です」
「なっ!? ソラの連絡先を教えてくれるんじゃなかったのか!?」
「いつからそんな誤解してたんです? 私が言ったのは『ソラさんに関する情報を教える』ですよ? 大体、対象の電話番号を知ってるんなら、取材も苦労しませんって」
「なん……だと……」
いや確かにニーナの言う通りかもしれないが。
え、何? じゃあ俺のシスコンならぬブラコン暴露は無駄だったってのか?
「だぁーもう! 騙されたっ!」
「騙されたとは人聞き悪いですね、怒りますよ?」
「俺が怒りたい気分だよ、チクショウ!」
悲痛な叫び声を上げる俺を、ニーナはからかうように笑うのだった。




