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こんな異世界、お兄さんは認めません!  作者: アカポッポ
第三章 『6.05 常明学園襲撃事件』
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Part22 鈍色の空を変えてくれた人

前半、陰湿なイジメの描写があります。

苦手な方はご注意ください。


 僕の名前は、桐島 ヒカル。


 僕の半生は鈍色......ずっと、曇り空だった。


「おう桐島、おはよう!」

「はい、おはようございます、先生」


 これが、小学校から始まってずっと変わらない、僕の学校生活の始まり方。

 一緒に登校してくれる友達は居なかったから、最初に挨拶するのは先生だった。


「おはよー、桐島クン」

「おはよう、上野さん」


 クラスに入ると、時々優しい女の子が声をかけてくれる。

 あ、今日は髪留め変わってる。

 でも、僕がそれ言うと嫌な思いするよね......


 皆の楽しそうな顔を見て、僕の心も温かくなる。

 それでも、僕の心が晴れる事はない。

 なぜなら――


「よォー、桐島ぁ! アレ買ってきたかぁ?」

「う、うん」

「お、気が利くじゃねーか! やっぱお前ってイイヤツだよなぁ!」

「あ、ありがと、横屋君......」


 ......こういう、ちょっと嫌な事があるから。


 最初はすごく嫌だったけど、その内慣れた。

 慣れてしまうと、そんなに辛くない。きっと、こんな僕でも成長してるんだ。

 こうやって、ちょっと良い事とちょっと嫌な事を繰り返して来たのが僕の半生。

 凄く楽しい事がある訳でもなくて、凄く哀しい事がある訳でもない。

 ずっと一緒、ずっと曇り。だから、鈍色。


 それに、楽しくないのは僕の心が悪いから。

 だって、修学旅行とかスキー実習とか林間学校とか、みんな楽しそうなのに僕だけ楽しいと思わないのだから。

 きっと、普通の人だったらもっと楽しいはずなんだ。だから、僕が悪いだけ。


「じゃあヒカル、高校生活頑張るのよ」

「うん。行ってきます、お母さん」


 そんな僕も、高校生になった。

 すると、ちょっと変な事が起こる。

 こんな僕によく話しかけてくれる、そんな同級生が現れたのだ。


「よっす、ヒカル! お前、また新しい本読んでるのなー。どんな本なんだ?」

「おはよう、サキト君。これ、僕が好きな小説家さんの新しい本なんだ。読んでると、心が温かくなるんだよ」

「ほーん。どんな内容なんだ?」

「それは――」


 視線を合わせて、その男の子と話をする。

 名前は竜胆 咲人君。確か、6月20日生まれ。

 見た目と声はちょっと怖いけど、とっても優しい人で。

 正直、余り本を読む人じゃないと思う。

 それでも、サキト君は本の話を聞いてくれた。

 ここはテーマパークでも旅館でもない、何の変哲もない教室の一角。

 だけど、僕にとっては一番楽しく感じた。


 でも。

 良い事があったら、やっぱり悪い事もある。


「キ~リ~シ~マ~クーン? 昨日ヤクソクしたアレ、買って来たか?」


 意地悪してきたのは中学までとは別の子だ。

 理由は......僕には分からない。

 多分、自分では気付かない何かが悪いんだ。


「う、うん。これ......だよね」

「ギャハハハ! こいつマジで()()買ってきやがった! おもしれェー!」


 そして、意地悪は中学よりも嫌な内容だった。

 でも、変な話なんかじゃない。

 『人生良い事もあれば悪い事もある』、よく聞くじゃないか。だから、これも普通の事。


「え、えっと、コレって......」

「あ? 桐島の癖に勝手に喋んじゃねーぞ!」


 机の本を取り上げられ、床に叩きつけられる。


「ご、ごめんなさいっ!」

「チッ......あ~、気分サイアクだわ。な、お前の顔殴ってもいいか?」

「ッ! や、やめ――」

「アそーだ! 今から言う事やってくれたら許してやるよ!」

「そ、それって?」

「お前、次の授業コレ指にハメて受けろ」

「えっ......」


 言う通りにせざるを得なかった。

 指に嵌めてるコレがどんな物なのか、詳しくは知らない。 

 でも、今やってる事が凄く異常な行為なのは、皆の目線が教えてくれた。

 男の子からも、女の子からも、皆の冷たい目線が突き刺さって、僕の心に穴を開けていく。

 中に詰まってた暖かいものも、全部逃げていく。


「桐島お前ッ!? 誰だ、こんな事をさせた奴は!?」


 幸いにも、これを見つけた先生が言ってくれたから、その時は助かった。


 その放課後。


「――桐島、一体誰がやったか教えてくれ。大丈夫だ、桐島が嫌なら家族の人には言わない。やった奴に知られるのが嫌だったら、辛かった気持ちを話すだけでいい。だから、な?」

「......分かりました」


 先生に、僕はその生徒の名前を言った。

 その時に僕の両親と、それに意地悪した子には伝えないようにお願いした。

 『下手に声を上げると酷くなる』。

 僕が受けてるのはただの意地悪だけど、イジメでは良く聞く話だ。


 それでも、もしかしたら先生が解決してくれるのかもしれない、そう思った事もあった。

 あの先生は、とても心強そうな人だったから。

 

 でも、そうじゃなかった。


 ある日の放課後、()()()()()()()()で帰り遅れた僕が職員室の前を歩いていると、先生達の声が聞こえてきた。


「桐島君に手を出してた、あの生徒だが......鳥井先生、諦めてください」

「なっ、どういう事です!?」

「アイツは暴力組織とツルんでる。二年前、隣の学校が動いて大事になったのはご存知でしょう?」

「だ、だからと言って......」

「それに、その組織はあのOwl’s Heritageとも繋がってるという噂があるんだ」

「ッ......!?」

「先生の気持ちは痛いほどに分かる。だが下手に手を出すと、他の生徒まで被害に遭うんだ。悪いが、諦めなさい」

「......はい」


 僕の心にある何かが、スッと消えるのを感じた。


 ――そうだ、これは罰だ。

 変に周りの人に期待しちゃったから、神様が罰を下したんだ。

 僕を助けた所で、誰も得なんてしないのに。


「ヒカル、学校は楽しいか?」

「うん、楽しいよお父さん」


 意地悪をする男の子達は、お腹を殴ったり肩にカッターを突き立てる事はあっても、顔を殴る事は無かった。

 両親に心配されないためのキヅカイかな? 

 ダッタラ、トテモ ウレシイ。


「サキト君、おはよう」

「......ああ」


 その内、サキト君も僕と話さなくなってきた。

 でも、これでいいんだ。

 だって、僕に味方するとサキト君まで嫌な目に遭うから。僕だって、そんな所見たくない。

 

 僕が耐えれば、全部上手く行くんだ。

 幸いにも、僕はこういうのに慣れてる。

 僕はまだまだ耐えられる。

 ボクノ ココロハ ツヨインダ。


 そんなある日。


「初めまして、九条 ソラです」


 ()()()()()学校生活を過ごしていると、転校生がやってきた。

 その人は、一言だけ話して席に向かって行く。


「......おい、九条! それだけか!? 自己紹介とかは――」

「結構です」


 凛とした顔つきに、突き放すような言葉。

 良かった、僕に話しかけて来る事はなさそう。そう思った。


 それでも、運悪く声を掛けられる事があって。


「君、桐島君だよね。消しゴム落ちてたよ」

「え?」


 ある日の放課後、一人で教室から出ようとしてた僕にソラ君が話しかけてきた。


「............」

「どうしたの?」


 涼やかな顔に見詰められ、一瞬ドキリとしたけれど、ソラ君はそれ以上何もして来ない。

 何か要求されたりは、しないのかな......?

 おずおずとした動きで落とした消しゴムを受け取った、その直後。


「あ、ありが......イタタ」

「!」


 いけない、やってしまった。

 ()|あって痛めていた足首を、こんなタイミングで捻ってしまうなんて。

 近づいてくるソラ君。な、何を......

 

「ちょっと貸して」

「え?」


 僕の右足首に、ソラ君はそっと手を当てる。


「......治った?」

「え、あれ......? ホントだ治ってる!」

「そう、良かった」


 そう口にして、ソラ君は足早に去って行った。


 今になれば、あれは手の平の上で<ヒール>の魔法陣を展開して、それで僕の足首を治癒したのだと分かるけど、この時の僕は分からなくて。

 ただ、そんな状況でも感じ取った事がある。

 この人は、とても優しい人なのだと。


 ソラ君は凄い人だった。


「九条君。君、とても器用なんだね」

「へッ!? ――......ありがとうございます」


 魔術演習で、エルゲージを出す練習をしていた時、彼はシュウ先生がやったようにスッとエルゲージを出してみせた。


 ステッキ無しでエルゲージを出したり、更には共鳴術さえ使っていた。

 僕に意地悪をする生徒は土属性使いだと聞いて馬鹿にしていたけど、ソラ君の技量を見せられて口を閉じていた。


 他にも、教科書に載っていない事も知っていたりして、先生を驚かせていた。

 それを見て、僕もただ驚く事しか出来なかった。

 そして、僕なんかとは縁の遠い存在なんだろうなあ、とも思った。

 

 あの放課後の出来事は、たまたまそこに居たのが僕だったから。

 実際、ずっと後でソラ君に聞いてみたら、「誰でも良かったから手の平での魔法発動を試してみたかっただけ」と言っていたし。

 とにかく、当時の僕はもう話す事さえ出来ないと、そう思っていた。


 でも、それは違った。


 ある日の夕方。

 第二特別棟の裏、意地悪している生徒にオネガイされている時に、ソラ君はふと現れた。

 最初は誰も見ていなかった。でも、僕に気付いたソラ君は一直線にこちらに向かって来る。

 クラスの皆が避けようとする僕に、クラスの皆から遠ざかろうとする僕に、ソラ君は自分から近づいてきたのだ!


「君達、こんな所で何してるのさ?」

「あ? お前にはカンケーないだろ」

「あ、俺知ってんぜ。最近転校してきて、ちょっと魔術が得意だからってイキってるやつだ」

「ほーん......なあ、お前さ。この学園、魔術が全部って訳じゃないワケ。分かる?」

「そんなの誰が見ても分かるよ」

「そっかそっか......じゃあすっこんでろやぁ!」


 生徒の一人が、ソラ君にズカズカと近づく。

 ソラ君の身体の線は僕ぐらい細い。

 大変だ、このままじゃ......!


「ヘブホッ!?」


 直後、その生徒が下から伸びてきた瓦礫の拳に殴られた。

 ソラ君が地面にエルゲージを刺し、それを通して共鳴術を使ったのだ。


 その後も、ソラ君は襲い掛かる生徒達を次々とノしていく。

 足元の地面をまるで自分の手足のように使い、僕の周りを囲っていた生徒達をものの数分で返り討ちにして見せた。


「あ、ありがとう」

「どうも」

「あの......何で助けてくれたの?」

「そ、そこの自販機にしか売ってないジュースがあったから! それで来ただけ!」

「な、何その理由」


 しまった、緊張が抜けてつい口に――


「ホントだってば、もう!」


 僕のつぶやきに、顔を赤くして否定するソラ君。

 普段の顔立ちは、高山の氷河を想起させるほどに近寄り難く清廉で。

 でも、今僕の目の前にある真っ赤な顔は、艷やかで美味しいリンゴ飴のよう。

 急に身近な人に感じられて、僕はうっかり笑ってしまった。


 それ以降も、ソラ君は意地悪されている僕を何度も助けてくれた。

 嬉しかった。でも、同時にとても怖かった。

 こんな事をしていたら、絶対に仕返しされる。

 学園内ではソラ君の方が強いけど、先生が以前話していた暴力組織まで出てきたらどうなるか分からない。


 言いたい。でもそんな事を言ったら、ソラ君が離れてしまうかもしれない。

 結局自分の事しか考えられない自分を、僕はとても恥ずかしく思った。それでも言えなかった。


 だから。


 ある休日の昼下がり、人気のない海岸に呼び出された時は罰が下ったと思った。


「テメーらはゴミで、俺らもゴミだ。てなワケでよぉ......ゴミはゴミ同士で仲良くしようぜ、ア゛ァ゛ン゛!?」


 真っ赤な頭をした人の、そのギラつく瞳がとても怖かった。

 その時はサキト君に連れてこられたから、彼もも一緒で。でも、エンガと名乗った人はサキト君さえ許してくれなくて。


 袋叩きに合うサキト君を、抑えつけられた僕はただ見る事しか出来なかった。


 ああ、やっぱりこうなるんだ。

 地味で根暗で情けなくて女々しくて得意な事が無くて力もなくて。

 そんな僕が、友達を作ろうとか学校生活を楽しもうとか誰かに助けてもらおうとか、そんな事を考えちゃ駄目なんだ。

 考えたら考えただけ、甘えたら甘えただけ、それが全部跳ね返ってくるんだ。


 ......何を今更こんな事を考えてるんだ、僕は。

 そうだ、当たり前じゃないか。

 コンナボクガ タスケテ モラエル ハズ――

 

「な、何だおめぇ――ア゛ダダダダ!」


 全てを諦めかけた、その時。

 僕達から少し離れた所、見張りをしていた人が突如悲鳴を上げる。

 ドサリ、と見張り番の倒れる音と共に、曲がり角から姿を現したのは――


 ソラ君だった。


「んだぁ、テメーはよぉ、ン゛ン゛!?」

「僕は九条 ソラ。たまたま通りかかったから......いや、その二人を助けるために、ここに来た!」

「ソラ君!?」


 信じられなかった。

 ソラ君は、一人で僕達二人を助けに来たのだ。


「そうか、テメーが九条 ソラか......殺してみたかったぜ、オ゛ォ゛イ゛!」


 それから始まった戦闘は、まるで映画を見ているかのように凄まじい物だった。

 結局、戦闘は十分以上も続き、ソラ君は勝利して僕達は助かった。


 数分後、事態に気付いた警察の部隊が到着。

 その場に残っていた人達は暴行罪で逮捕され、僕に意地悪......いや、いじめていた生徒達は退学処分になった。

 僕を無視していた事を、サキト君は涙をボロボロ流して謝っていた。


 そんな騒動が終わって、数日経ったある日。

 校庭にあるベンチに座って本を読む僕の横で、ソラ君は上を見上げていた。


「何見てるの?」

「何って、空」

「空は見てて、面白い?」

「面白いと言うか、スッキリする」

「スッキリ?」

「だって、空は青くて心が洗われるから」

「......曇ってる日や、雨の日だってあると思うんだけど......?」


 僕がそう言うと、ソラ君はキョトンとする。


「変な事言うね。空色は青い色。青いのが、空なんだよ」


 ソラ君の顔は、晴れ晴れとしていて。

 その言葉と表情を見て、心の中にあった雲が消えて無くなって行くのを感じた。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 桐島くん、けっこう重要キャラだったんですね。 魔術が関係ない普通(?)の学校シーンが出てくると、なんだか親近感(^^) ソラとの関係性がいい感じですね(*´ω`*) それが発展して今回のこ…
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