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こんな異世界、お兄さんは認めません!  作者: アカポッポ
第三章 『6.05 常明学園襲撃事件』
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Part21 意志という名の力


[ドンッ! ジュウゥゥゥ!!!]


「......!?」


 最悪の結末を想像して目を閉じた直後、地面が揺れるのを確かに感じた。

 まさか、これは――


「ソラッ!?」


 目を開けると、シュウを守るように地面が盛り上がり、壁を作っていた。

 そして少し離れた場所では、ソラが地面に手を付けている。間違いない、魔術を使ったのだ。

 直後、<オルティネート>で形成された両手の指がボロボロと崩れ落ちる。


「ァ、ア゛ア゛ア゛、ヴぅッ......!」

「馬鹿ッ、なんて無茶を!」


 耐え難い痛みに身をよじらせるソラ。

 よろめきながらも駆け寄り、背中をさする。

 治癒魔法に充てたマナをも消費したという事は、ソラのマナはほぼゼロだろう。

 そしてシュウは気絶。

 持ち込んだスクロールも、全て使い果たした。

 この状況、もう――


「万事休す、とはこの事だろうか」

「ッ!」


 脳内に浮上し、それでもどうにか否定したかった言葉をヒュウランが口にした。


「もう、諦めたまえ。君達に勝機はない」

「ふ、ふざけるな! お前達にソラは渡さない!」


 やっと再開出来たのに。

 やっと笑顔を見られたのに。

 それを失うなんて、絶対にしたくない。


「ふむ、大切な人を渡したくない気持ちなら、確かに分かる」


 ヒュウランはエンガにチラリと視線を向け、ウマウの頭をそっと撫でる。


「だが、失うのは? もっと辛い事じゃないか?」

「何が言いたいッ!?」

「いや、簡単な事だよ。君が大人しくその子を渡してくれたら、我々はその子を殺したりはしない」

「そうか、お前達の目的は、ソラの力......」

「その通り。君の感情とはベクトルが異なるが、我々にとってもその子に死なれるのは困る。ふむ、そういう意味では利害が一致している、と言えるだろう?」


 ふざけるな。何が利害の一致だ。

 こんなにソラを痛めつけて、人として見て無いのは明らかだ。


「はは、怒らせてしまったみたいだ。しかし、怒った所で何になる? 君の大切な人の命の灯は、今まさに消えようとしているんだよ?」

「ぐ......」


 ソラに目線を向ける。

 床に倒れ、苦し気に喘ぐ姿は見ていて辛い。


「......一つ、質問がある」

「ふむ、聞こう」

「俺が今、ソラを引き渡したとして......お前達には助ける手段があるのか?」

「ある」


 そう、ヒュウランはきっぱりと断言した。


「我々には他にも仲間が居る。連絡すれば、その子を治す補填材と共に五分で駆けつけよう。それまでの間もマナを供給し、彼女の苦しみを和らげる事が出来る」

「そう......か......」

「我々も人間だ。他人とは言え、苦しんでいる様を見るのは忍びない。その子の事を想うのなら、今すぐにでも引き渡すべきじゃないかな?」


 ギリ、と奥歯を噛みしめる。

 引き渡すべきじゃないのは分かっている。

 でも、俺がハイと言いさえすれば、ソラは苦しみから解放されるのだ。

 言い換えれば、今のソラを苦しめているのは俺......とも言える。


 自分でもおかしな理屈だとは思う。

 悪いのは襲撃してきた奴らで、でもソラを苦しみから解放する鍵は俺で。


 ............


 俺は一体、どうしたら――


「諦め、ちゃ! だめ、です!」


 頭の中がぐちゃぐちゃになり、助けを求めていたその時。

 右後方、第二特別棟入口の脇から、青年の声が聞こえた。

 その声は震えていて、息を切らしているせいで途切れ途切れで。

 それでも、鼓膜から入って俺の気持ちを揺さぶるには、十二分に強い声だった。

 振り返ると、眼鏡をかけたソラの友人――ヒカルが、頭髪を乱し両手を膝に突いて立っていた。


「テメーはあん時のッ!? 出てくんじゃねぇぞ、ア゛ァ゛ン゛!?」


 突然乱入してきたヒカルに対して、エンガが声を荒げながら火球を飛ばす。

 俺ですら対抗できない威力だ。このままではヒカルは――


「<オーシャン・ウェーブ>!」


 炎にやられてしまう、そう思った時。

 ヒカルの横から大波が押し寄せ、エンガの放った火球を揉み消した。

 その大波は、そのままエンガらに襲い掛かる。

 

 一体、何があったんだ......?


「ども、ソラのにーさん。援軍に来ました......つっても、俺達戦えないですけど」


 そう言って物陰から姿を現したのは、ソラのもう一人の友人のサキトだった。

 中級魔法をぶっ放したせいで、マナの欠乏で顔が青ざめている。


「ヒカルぅ、とりまシュウ先生治してやってくれ」

「分かった。......でも、サキト君は大丈夫?」

「俺はへーきだよ」


 ......強がってるけど、本当に大丈夫なのか?


「<我が身に宿る温もりよ その心 傷つきし身体に 癒しの力を与えたもう>、<ヒール>」


 ヒカルが魔法を唱えると、直にシュウは意識を取り戻した。

 脳震盪は脳の外傷だから、ヒールで治るのか。


「くっ、あなた達は――」

「渡しません!」


 シュウを治癒した後、ヒカルはヒュウランに声を大にして言う。


「僕達は貴方達には勝てないけど、ソラ君の横には立てないけど! でも、同級生として、友達として! 貴方達にソラ君は、渡しません!」

「な、何も出来ないのに――」

「違うッ!」


 ドン、と大きな音と共に、ヒカルはパンパンに膨らんだ二つのリュックを背中から降ろした。


「なっ......!?」


 その中からはボトル入りのポーションがゴロゴロと転がり出て、リュックの狭さに耐え兼ねたスクロールがボッと頭を出す。


 その物量に、目を丸くしたシュウが尋ねる。


「これは......?」

「公園から持ってきた、ありったけのポーションとスクロールです!」

「! それは君達の身の安全を守る為に、警官と教師の皆さんが持っていた物だろう!?」

「大丈夫です、もちろん許可貰ってますから!」

「そうじゃなくて、だね――」

「ハルトさんとシュウ先生が出て行った後、思ったんです。僕達は何も出来ないのかな、って......」

「ヒカル君......」


 ヒカルの表情には、並々ならぬ量の感情が詰め込まれていた。

 まるでそれは、自身の人生を回顧している様で。


「そうしたら、みんな同じ事考えてて。ソラさんやシュウ先生に助けて貰ったのに、何も出来ないのは嫌だって。だから、僕達に出来る事をやろう、って決めたんです。自分の身ぐらいは自分で守って、託せる力を託そう、って!」


 ヒカルはヒュウランらに向き直り、胸を張って高らかに宣言する。


「力の無い生徒だと思って、利用価値のあるコマだと思って......僕達を、見くびるんじゃない! これが僕達の、意志という名前の力です!!!」

「!!!」


 大量のスクロールにポーション。

 これは、明らかな形勢逆転材料だ。

 ヒュウランの表情が初めて歪んだ事が、何よりの証拠になる。


 ヒカルの姿を見て、シュウが微笑みながら耳打ちする。


「......よく来てくれた、二人とも。でも、もう一つ頼みたい事がある」

「......ソラ君の治療、ですね」

「そうだ。<ヒール>を掛けたところで、この重傷は治らない。だが、本校舎一階の保健室には補填材と骨形成材があるはずだ。それを取って来てほしいんだが......頼めるかな?」


 そのお願いに、ヒカルはコクリと頷く。

 そして大きな口を開き、こう言った。


「分かりました、保健室から補填材と骨形成材を取って来て、ソラ君を助けるんですね! サキト君、行こう!」

「? ...... ! おうよ、任せてくれよシュウ先生!」


 何か目で合図をしてから、二人は保健室へと向かって行く。

 だが、その直後――


「ッ......くそがぁ! 力のない雑魚が、イキるんじゃねぇぞ、コ゛ラ゛ァ゛!」


 突然、エンガがこちらに突っ込んで来た。


「ッ! 二人の邪魔をされる訳には――」

「テメーに構うつもりはねぇんだよ、ア゛ァ゛ン゛!?」


 怒鳴りながら、エンガは校舎の壁に向かって火球を放つ。

 その火力は今まで以上で、あっという間に壁を溶かし穴を開けてしまう。

 こうなったら、俺の炎で壁を作って......!


「邪魔すんじゃねぇぞ、コ゛ラ゛ァ゛!」

「グッ!」


 駄目だ、やはり火力の差が大きすぎる。

 行く手を阻もうにも、エンガが飛ばしてくる炎の対処で一杯一杯だ。

 そしてエンガの炎を振り切った時、彼はもう校舎の中へと入っていた。


「マズイ、これじゃ二人が――」

「......いや、これで良いんだ」


 狼狽える俺を、シュウは冷静に引き留める。


「『これで良い』って、どういう事だ!?」

「これは、俺達の負担を減らす為の策さ」

「『俺達の負担を減らす』?」

「恐らくだけど、二人は公園で俺達の話を聞いていて、俺達二人であの三人の相手をするのは難しい、と感じてたんだ」

「まさか、意図的にエンガを釣ったのか!?」

「ああ。見た所、エンガはヒカル君のイジメに関わっていたようだね。それを利用して、奴の気を引きつけたんだよ」


 そうか、通りで神経を逆なでするような言い方で、しかも大声で話してたのか。


「だから、これで二人の作戦通りなんだ。それに、ヒュウラン達が今俺達を攻撃しなかったのも、エンガに下手に構うと隙を作る事になるからさ」


 そう話すシュウに、ヒュウランは肩をすくめてヤレヤレと言った表情を見せる。


「ふむ、その通りだ。はあ、エンガはこういうのに弱いな。今度、またキツく言っておかねば」


 やっぱりそうだったのか。

 別に俺が立案した訳じゃないが、成功すると何だか俺までトクイな気分になるから不思議だ。


「ほーん。つまり、次があるってか?」

「ああ、エンガが帰ってくるまでにカタを付ける。私の提案を拒否した事、後悔してもらおうか!」

「こちらも、妹の事になれば世界一面倒な奴を敵にした事、後悔させてやるよ!」


 もう迷ったりはしない。

 この三人を撃退し、妹との日常を取り戻す!

 気合十分! 第二ラウンドの開始ぜよ! 

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