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こんな異世界、お兄さんは認めません!  作者: アカポッポ
第三章 『6.05 常明学園襲撃事件』
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Part19 襲撃者の狙い


「最初に聞きたい......んだけど、ソラは今何処に居るんだ?」

「悪いけど、ハッキリとした所は俺にも分からない。何が起こったか全部知ってる訳じゃないからね。ただ、敵の目的によっては......」

「敵の目的?」


 目的、か。あの時は必至で、そんな事考えて無かったな......


「......ふむ。ハルト、雹が降った後、君には何があった?」

「最初はソラと一緒に居たんだ。でも、その後学園の色んな所から悲鳴が聞こえて来て。それで皆を助ける為だ、ってソラは何処か行っちゃってさ。その直後に襲撃者のエンガと遭遇して......理科室でやられたんだ」

「! つまり、一緒に居た所を分断された、と」

「あ、ああ......。というか、実際のところ何の悲鳴だったんだ?」

「教室の至る所で、突然下水が逆流して来たんだ。トイレや洗面台の排水溝を経由してね」


 下水が逆流......?

 ! そうか、理科室に入った時のあの臭う水は、下水だったのか。

 じゃあ俺の手にも下水がベットリと......。

 マジか、嫌だなぁ......。


「でもどうしてそんな事が......」

「恐らく、それも敵の攻撃だよ」

「攻撃って、下水を操る事がか? そんなピンポイントな―― ! いや、共鳴術か」

「良く知ってるね。でも、多分それだけじゃない」

「それだけじゃ無い、ってのは?」


 共鳴術の更に上があるのか? 一体どんな......

 固唾を飲む俺に、シュウはゆっくりと答える。


「転化術。第Ⅲ類禁術ながら最も難しいと呼ばれる魔術の一つで、正式には<フォーミュレーション>という名前の魔法だね」

「ど、どんな魔法なんだ?」

「魔法としては、自らの身体の組成式を概念化するものだね。物質の身体を乗り捨てて、オドとマナで出来た存在になる魔法なんだ」

「だから、転化術......」

「そう。術者が持つ自然属性によって、どんな身体になるか変わる。火属性なら炎の身体、といった具合だね」

「なるほど......ん?」


 もしかして、この世界で初めて会ったヤツ、デービスの身体が炎で出来てたのって、この魔法を使っていたからなのか?

 逆に言えば、アイツも元人間......

 いや、そんな事より、それってつまり――


「賢者クラスの実力者が相手って事か!?」

「! そんな事良く知ってたね......」


 ヤベ、ついうっかり。シュウがこの事知らなかったら、ペナルティ喰らってたかもしれん。

 この状況でまた数時間気絶するとか、勘弁だぞ。


「まあ、流石にソレは無いと思うよ。ずっと転化した身体で居られるほどの強力なオドを持つ者なら、わざわざ三人組になる必要性は無いだろうし」

「そ、そうか......」

「とは言え、相当厄介な相手なのは変わり無いね。さっきも言ったけど、これは第Ⅲ類の禁術。普通の人間なら発動した所でマナ化した身体をコントロールできず、死んでしまうんだ」

「死......!?」

「安定して発動するには、よっぽどの操作力が必要。それこそ、Sランカーでも数人ぐらいしか使わない。そんな術なんだ」

「............」


 つまり、三人の中にはSランカー並のマナ操作力を持った奴が居る、って事か。

 確かに、とんでもない強敵だ。


「そして、さっきも言ったけど転化術の使い手は水属性だ。転化術と共鳴術を組み合わせる事で下水と一体化し、教室を襲った。ヤツにとって排水溝から汚水を出すのは、服の袖から手足を出すようなものだから、同時に複数の教室を攻撃する事も出来る」

「......ん? 一つ聞きたいんだけどさ」

「何だい?」

「いや、下水管から俺達の存在を感知する事って出来るのかな、って。襲撃者の一人と戦ってた時、見られてもいないのに俺の位置がバレたんだ」


 気になっていた二つの事象――濡れた理科室と潜伏場所の特定。

 どちらも聞いただけなら意味不明だが、今ならその意味が分かる。


「確かにそう言われてみれば......転化術を使えるぐらいなら、テリトリーを張って感知する事ぐらい容易いはずだ」

「ソラと一緒に居たトイレにも理科室にも、どちらも水場がある。それに学校には家庭科室や手洗い場......水場が多いから、下水管も全体に張り巡らされている」


 やはり。エンガが俺の位置を一発で特定出来たのには、カラクリがあったのだ。

 エンガは俺を見失った後、トイレ等の排水溝から転化術の使い手に連絡。

 そして正確な場所を聞いて、俺に攻撃を仕掛けたに違いない。

 でも、そうだとすると......


「ソラと分かれた直後にエンガが来たのも、偶然じゃなくて仕組まれてたのか」

「............」

「それにしても、どうして水属性の転化術使いが居るって分かったんだ?」

「実は、俺も襲撃者と対峙してね。その時の相手が、水の転化術の使い手と風属性の男の二人組だったんだよ」


 またしても、やはりと言った感じか。

 3人も居てエンガ以外は何をしていたのか。

 それはさっきから気になっている所だった。


「良く相手出来たな」

「いや、悔しいけれど全く歯が立たなかった。今、この公園に居るのがその証拠さ。ソラちゃんが助けてくれなかったら、間違いなく死んでいたよ」

「! ソラに会ったのか!?」

「俺自身は気を失ってたから、これは人から聞いた話なんだけどね。でも……俺はまだ、その後にソラちゃんの姿を一度も見てない」

「!?」


 何てことだ。それはつまり――


「ソラがまだ、学園の中に居る可能性が!?」

「いいや、確実に居る。襲撃者の狙いはソラちゃんだ。ハルトの話を聞いてハッキリしたよ」

「! ど、どうして――」

「後は向かいながら話そう! ハルト、すぐにここを出るよ!」

「分かった!」


 トイレの裏から姿を出し、公園の出口へと向かう俺とシュウ。

 だが、それを教師が引き留めようとする。


「君、それにシュウ君! ここを出ては駄目だと言っただろう!?」

「香月先生、分かったんです! 生徒がまだ一人、学園の中に残っている!」

「何!?」

「私と彼はその子を助けに行く! 邪魔しないでいただきたい!」

「くっ、この――」

「失礼!」


 そう一言言って、シュウは風のスキルで教師を押し倒した。

 わぁお大胆。と言うか、以前も似たような事を耳にしたような......?


「ハルト、机の上のスクロールを取ってくれ!」

「あいよ!」


 倒れた教師の傍を走り抜けながら、俺達はスクロールを拝借していく。

 これで戦備増強だ。


「ま、待ちたまえ! ちょっと!」


 なんて制止の言葉には、傾けてやる耳など無い。


 一度殺されかけた相手と再び会うのは怖い。

 でも、妹の命がかかってるなら些細な事だ!

 迷う余地なんて、どこにもない!


「待ってろ! 今兄さんが助けに行ってやる!」


 心の底から叫び声を上げ、俺は学園へと向かう。


「サキト君、今のって......」

「間違いねぇよ、ソラを助けに行ったんだ」

「僕達は、また無力なのかな......」

「............」


 そしてその後ろ姿を、サキトとヒカルが見つめているのだった。


◇◇◇◇◇


 公園から出た俺とシュウは、学園に向かって走っていた。

 途中、公園で手に入れたスクロールを整理する。

 内容も見ずに取ったせいか、水属性の魔法のスクロールもあった。

 そして、やはりと言うべきか土属性のスクロールはゼロ。ソラへ渡せる物はなさそうだ。


 結局、使える物としては<エクスプロージョン>と<ソーラー・ビーム>、それに<エアロ・ブラスト>が各一本ずつという内容だった。

 

「――それで、さっきの『襲撃者の狙いがソラだ』って言うのは本当なのか?」

「間違い無い。それも、一般生徒は眼中に無いと言って良いぐらいだね」


 そんなに極端な手に打って出たのか。

 でも、それだと引っ掛かる事がある。


「最初の砲弾みたいな雹は? 下水を逆流させたのも、一般生徒を襲う為だろ?」

「これらは全部、学園を混乱させるのが目的だよ。それと、狙いがソラちゃんにある事を分かりにくくする為だね」

「ど、どうしてそこまで――」

「雹の降る時間が短かったのが何よりの証拠さ。もっと長い間降らしたなら、学園をもっと破壊できたし、一般の生徒を殺す事もできた。でも、雹ではソラちゃんを倒せるとは限らない」

「......そうか」


 言われてみれば、大きな雹が降り終わった後も空は暗いままだった。

 その後も細かい霰は降っていたし、雹を降らせるのは可能だったはずだ。

 でも、ソラは土の壁で雹をガード出来る。完璧なまでに筋が通る。


「頭から話して行こうか。第一に、雹を降らせて学園を混乱させる。続いて下水を逆流させる事で、生徒は脱走。警察や教師をその対応に充てさせる」

「下水だけじゃダメだったのか?」

「降雹による怪我人の発生が重要なんだよ。下水は精神的に嫌だけど、傷口への雑菌の侵入は衛生的にも良くない。退避せざるを得なくなるんだ。それと、最初に降雹で学園全体への攻撃を仕掛ける事で、襲撃者が潜入しやすくもなる。その後の霰は、潜入した人の足音を誤魔化す為だね」

「なるほど」

「それと、下水の逆流はハルトとソラちゃんを分離させる手段でもあったね。お人好しな彼女なら、悲鳴が聞こえたら絶対に助けに行く」

「確かに......」


 警察や教師、そして俺。一度に多くの戦力を分散させる、巧妙な手だ。


「そして分断された戦力の内、最も厄介な俺とハルトを襲撃し、各個撃破。その間も下水によるかく乱を続けて、ソラちゃんを遊軍化。加勢させないようにする」

「............」

「で、俺達二人を排除したら――」

「ソラを三人がかりで叩く、か」

「その通りだよ」


 緻密に計画されているな。襲撃者の中には、かなり頭の良い人物が居るらしい。


「手が込んでるな......。俺が戦ったエンガは、馬鹿っぽかったんだけど」

「三人の中に頭の切れる男が居てね。確か、飍鸞ヒュウランと言う名前だったかな。俺が戦った風属性使いだよ。で、残りが雨舞ウマウ。水の転化術使いだね」


 エンガにヒュウランにウマウ、か。

 馴染みのない名前の響きだが、コードネーム的な何かなんだろうか。


「それにしても、随分詳しいな?」

「ああ、目指している仕事の勉強をしている時に目にしたんだけどね。彼らはOwl’s Heritageの回収班の一員で、その中でも指折りの実力者なんだ」

「オウルズ・ヘリテージ?」

「直訳すると『フクロウの遺産』、と言った所かな。国際的にも危険視されている裏社会の勢力で、世界中の宝具を強奪して回ってるんだ」


 フクロウか......。

 そう言えば、ファンタジーでのフクロウは賢者っぽいイメージがあったっけか。

 宝具の事を、賢者の遺産と言い換えてるのか?


「でも、ソラがどうしてそんな奴らに?」

「......多分だけど、一週間前のあの出来事が引き金になってるのかもしれない」


 一週間前? となると、最近あった事だよな?

 一週間前、一週間前......。......!


「半グレ集団を返り討ちにしたって言ってた、あの出来事か!?」

「聞いてたのかい?」

「その時は既に終わった事だと思って、笑い話として聞いてたんだ。でも......それだとヤンキーの喧嘩じゃないか?」

「いや、恐らくその中に三人の内の誰かが居たんだよ。その時点でなのか、それとも敗走した後かは分からないけれど、ヤツらはソラちゃんの強さに目をつけた」


 言われてみれば、エンガ辺りならそういう集団に居てもおかしくなさそうだ。

 

「でも、ソラが強いのと奴らの宝具収集、二つに関係はあるのか?」

「恐らくだけど、彼らはソラちゃんをレリカントだと思ってるんじゃないかな」

「レリカント?」

「簡単に言えば、体内に宝具を宿した人間の事さ。月生でも数えるぐらいしか居ない。宝具として見るなら、とても希少価値の高い存在だね」

「まさか、ソラがそんな――」


 特殊な人間な訳ない、そう言おうとした時、不意にある言葉が脳裏をよぎった。


 ――『私は、魔法の才能がある子を引き取りに来たのだ』。


 そう、妹が連れさられたあの夜、ウォリッジが言っていた事だ。

 まさか、こういう意味だったのか......!?


「俺から見ても、ソラちゃんの成長速度は異常だ。宝具に準ずる何かが、あの身体の中にあったとしてもおかしくない」

「そんな......」


 振っている拳を、強く握りしめる。


 元の世界では、恵まれた容姿のせいでやり辛い想いをして。

 それでも楽しく過ごして、友達も居て、なのに突然その生活を奪われて。

 それでも平穏に暮らそうとしてるのに、今度はその平穏を奪うのか......!


「ふざ......けるな!」

「ハルト?」

「ふざけるなぁぁぁ!」

「お、おい! 一人で突っ込むんじゃない!」


 制止を振り切り、大地を踏み鳴らし、俺は目前に迫った学園へと殴り込む。

 

 何が魔術だ、何が異世界だ!

 いじめられている人を助けたい、その善意に付け込んで、助けた美談を曲解して、この世界はソラを貶めようとするのか!


 こんな異世界(りふじん)、俺は絶対認めない!

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