表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんな異世界、お兄さんは認めません!  作者: アカポッポ
第三章 『6.05 常明学園襲撃事件』
57/146

Part16 変わらない姿


 近づいて来る足音は早く、何処か余裕が無い。

 これはさっきの俺と一緒だ。

 って事は......!


「ヤバイ、誰か入って来るぞ!」

「はーい、お疲れ様......ってアレ!? ど、どうしよう!?」


 一瞬、俺をからかうように口角をあげたソラ。

 が、洗面器の上にチラリと見た途端、その表情から余裕が消える。

 一体どうした......いや、今聞いている余裕なんて無いッ! こうなったら――


「悪いっ」

「え!? な――」


 次の瞬間、俺はソラの右手首を急いで掴み、掃除用具入れのドアを開ける。


[バタンッ!!] [ガチャリ]


 掃除用具入れとトイレの出入口、二つのドアの開閉音はほぼ同時期だった。


「あれ、誰か居た感じか? まーいーや。ヤッベーよ、マジ漏れる寸前だったよ、やっべやっべ」


 如何にもチャラ男っぽい独り言をつぶやく男。

 雰囲気からして生徒っぽいが、どこかで聞いたような......思い出した、ソラと同じクラスの、確か旗立とか言う名前の生徒だ。

 

 旗立はそのままスリッパを履き、個室のドアを閉める。音がした位置からして、俺が入った方とは別の個室みたいだ。


 ふう、何とか助かっ――


「ぁ」


 頭を前に向けた瞬間、間抜けな声が漏れた。

 と言うよりかは、一度出しかけた間抜けな声を飲み込んだ、と言った方が正しいかもしれない。

 なせなら。

 俺の目と鼻の先には、ソラの顔があったのだ。


 掃除用具入れの中は殆ど真っ暗で、ソラの表情までは見えない。

 顔の輪郭が微かに見える程度だ。

 だが、それでも分かるものは分かる。

 うっかりともすれば互いの息がかかる近さ。

 息を殺しても伝わる、相手の体温・匂い。


 俺とソラの身長差から考えて、通常ならこんな状況は発生し得ない。

 が、ここは足場の悪い掃除用具入れ。

 何か踏んでいれば、10cm程度の差は埋まる。

 そして壁に触れる感覚からして、今の俺は肘を壁に付けて立っている状態だ。

 そして、ほんの数cm先にはソラの顔。


 つまり考えてみると、こう言う事だ。

 今の俺は、ソラに壁ドンに近い行為をしている。


 ぬあああああーーーーッ!?

 これ何て青春イベントだっ!?


 ヤバイッ、意識した途端に心拍数が跳ね上がって来たぞッ!

 落ち着け俺ッ、相手はソラだ、実の妹だっ!

 数か月間その顔を見ていなかったとは言え、それまで毎日互いの顔を見て来た関係っ!

 妹はッ! 『未ダ 女ニ アラズ』と書く! つまり少女だけどオンナじゃない! OK!?

 それに今はブレスレットをしている、だからオンナだと感じる事は絶対に――


「んあ? 何だこのブレスレット?」


 無い、と。そう考えようとしていた矢先に、旗立が声を上げる。

 

 え、そこにブレスレットがあるって事は?


 ソラはブレスレットをしてないのかッ!

 今の俺は、ソラがオンナに見えるのかッ!?

 道理でソラが焦ってた訳だ!

 道理で俺がドギマギする訳だ!


 これは本格的にマズイ!

 一旦目を閉じ......るのは駄目だ!

 視覚以外の刺激が強くなるし、目を閉じた瞬間にソラの姿が脳裏に浮かぶ!

 また首を逸らす…...のはアリだが、何分も持つ自信が無いぞ!?

 それにもし正面に向き直った時、今度こそソラの顔が触れる......考えるだけでもNOだ!


 耐えろっ! 今は耐えるしかないっ!

 またこんな展開かよ、勘弁してクレメンスゥゥゥゥゥゥー!!!


 等と、脳内で叫び声を上げながら。

 旗立がトイレから出て、直後にチャイムが鳴って別の生徒が入って来て。

 己との闘いは、15分ほど続いたのだった。


「な、長かった......ギリギリの戦いだった......」


 六時間目開始のチャイムが鳴ったのと同時に、俺は掃除用具入れから飛び出して膝に手を突く。

 大袈裟に息を吐いて、心の内に溜まっていた物を追い出す。


 が、他人から見れば大袈裟なリアクションをする俺とは対照的に、ソラはノーリアクションだ。

 と言うよりも、掃除用具入れから出て来ない。

 ん、やっと出て来た――


「ヘブホッ!?」

 

 直後、ソラの膝蹴りが俺の鳩尾にメリ込む。


「グエッ、オボッ、アグッ!?」


 そして胸を両手で抑え悶えていた所を、追撃のボディブローが計三発。

 ぐ、我が妹ながら気持ちの籠った拳を放つではないか。い、意識が遠のくぜよ......


 冗談では無く、その場で仰向けに倒れる俺。

 視界が暗くなる直前、ソラの顔が一瞬見えた。

 

 ......あれ、何だその表情は?

 顔を赤くして怒ってる?

 いや、怒った顔とはどこか違うような――


「ハッ!?」


 意識を取り戻した瞬間、俺は上半身を弾かれたように起き上がらせる。


「あ、起きたんだ」


 ソラは俺とは少し離れた位置で、壁にもたれて立っていた。

 チラチラと、俺の顔を見ている。


「......何分ぐらい気を失ってた?」

「三分、ぐらいかな」

「そう、か」


 たどたどしく声を交わす。


「そう言えば、ブレスレットはどうなったんだ?」

「え!? あ、ああ。アレ、ね。旗立君が持って行ったみたい。面倒な事にならなかったら良いんだけど......ハハハ」

「だよなー」


 わざとらしく声を上げるソラに、わざとらしく腕を組んで頷く俺。

 気を失う前の、ソラの行動。

 あれにについては触れない事にした。

 全くのノータッチで、ソラも結構驚いているみたいだ。


 正直言うと少しは謝って欲しいと思う。

 それぐらいに、あの蹴りと拳は痛かった。

 ただ、ソラに嫌悪感を抱かせたのは俺だから、それについては言い返せない。

 それに加えてソラの様子を見るに、ソラ自身も心の中ではやり過ぎたと反省してるみたいだ。

 そうで無かったら、気絶している俺を置いてトイレから出ていたハズ。

 さっきからソワソワしてるのも、俺をチラチラ見てたのも、俺が怒って無いか心配している為。


 ま、何よりこのパターンはこれまで何回と経験してるしな。ふふ、相も変わらず可愛い妹め。

 大人の対応など無い、矛盾を孕んだ有りのままの妹の心情の変化を楽しめるのも、兄の役得。

 いやぁ、最高ですなぁ。


 なんて、俺だけが満足していてはソラの心配は晴れない。

 ここは雑談でもして場を保とう。


「そう言えばソラ、昼間弁当を残したまま席外してたよな?」

「え? あ、そー言えば......」

「あの後、サキトがソラの弁当食っててさ。旨さにびっくりして『ソラみたいな彼女が欲しい』って言ってたぞ」

「エ!? バレるような事して無いのに......」

「別に気付いてる感じじゃ無かったけどな。でも、弁当にも気を付けた方が良いんじゃないか?」

「分かった、ありがと」

「お兄さん的には、妹の手作り弁当を食べられる権利を譲りたくない、ってのもある」

「......それがホンネ?」

「おうともよ!」

「そー言うと思ったよ......」


 なんて取るに足りないやり取りを、ぼんやりダラダラと続ける。

 中身があるのか無いのか、ハッキリしない内容。


 だが、今は無性に楽しく感じる。


 横に座るソラの顔を直接見る......のは少し恥ずかしいので、ガラスに映った顔を見る。

 大きく破顔させる訳でもない、ただ自然な表情。

 でも、それは再開してから一番自然な表情で。

 ああ見れて良かった――


「ン?」


 窓の外を見た瞬間、違和感を感じた。

 はたして、6月初旬の昼下がりはここまで暗かっただろうか、と。


 いくら梅雨の中曇りと言っても、日暮れみたいに暗くなるのは流石におかしい。

 トイレを出る。が、やっぱり暗い。

 廊下の窓から頭を覗かせ、空の様子を確認する。


 絶句した。


 学園の上空を、異常なまでに深い鈍色をした雲が支配していたのだ。

 だが、遠くには雲一つない青空が広がっている。

 誰がどう考えても、異常な光景だった。


「一体どうなって――痛っ!?」


 心の中を掻き回されるような不安を感じた、その直後。何かに頭頂部を強く殴られた。

 衝撃が走った箇所に手を当てると、そこには


「氷?」


 砕けて、細かくなった氷。

 これが空から? いや、待て。

 砕けてこの大きさなら、元々はゴルフボールぐらいの――


「兄さん下がって!」

「グェ......っ」


 雹の大きさを計ろうとしていた所を、ソラに襟元を掴まれて強く引き戻された。


「ちょ、何す――」

[ガシャァン!]


 直後、雹が窓ガラスを突き破って侵入する。

 そして雹が床に当たって砕ける直前、その大きさを一瞬目にしただけで、俺はソラの焦る理由を本能的に理解した。


 さっきの雹の大きさ、間違いなく俺のコブシ以上の大きさだ!


「ウ、ウソだろこれ!?」

「兄さんトイレに! 早く!」


 ドアを開け、トイレの中から手招きするソラ。


「くそっ!」


 トイレの中に転がり込む俺。

 勢いよくドアを閉めるソラ。

 そして、腕を掴んで俺を引き寄せる。

 ソラが二人を囲むように自身のマナを床に散らすと、あっという間に土のドームが形成され――


 その直後、氷の大砲が学園に降り注いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] いやいやいや、警官さん! これは生徒指導上の重大な場面ですよ!!(゜ロ゜ノ)ノ 男女が密室で大変なことになってるんですよ?! ちなみに、私がソラだったら絶交してます‥‥。 実は彼女の方が相当…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ