Part14 感動無き無双
一人対多数という不利な状況の中、ソラは難なく突破していく。
まさか、本当に勝ってしまうのか?
「<ビロー・プッシュ>!」
そう思ったが、ここで生徒側の反撃が始まる。
発射された水の塊を、ソラはエルゲージを盾のように構えて受け流した。
「<インフレイム>!」
更に火属性の魔法が放たれる。
土を隆起させて壁を作り、身を守るソラ。
だが、本当の狙いは足元の水だったようだ。
ソラの姿は水蒸気に包まれる。
「<ウインド・エッジ>!」
「<サンライト・アロー>!」
「<アクア・カッター>!」
そして土壁を破壊するべく、次々と魔法が打ち込まれる。
「なるほど、先ほどまでソラさんに飛び掛かっていた生徒達は、後ろに控える生徒達が詠唱を終え、この状況を作る為の時間稼ぎだったんですねぇ」
「というか、切断・貫通系の魔法をソラに向かって撃ってる件なんだが......」
「ん~? 大丈夫じゃないですか? もし大丈夫じゃなかったら『大丈夫じゃないですー』って言うでしょう」
「............」
えらく楽観的なニーナに、軽く怒りを感じる。
いやいや、もしマジでやばかったら返事すら出来ないと思うんだが。
というか、クラスメイトに向けて魔法放つのってどうなんだ。それとも、ソラならこの程度は大丈夫という共通認識でもあるのか?
どっちにしろ、兄としては心配になる。
勝負としても、このまま押し負けてしまうんじゃないか、という――
[ドゴォ!!!]
――心配は不要だったかもしれない。
地の底から響く、大地を打ち鳴らすような音。
それと共に、生徒の頭を超える高さの土壁が水蒸気を突き破って姿を現した。
水蒸気の発生した範囲をぐるりと取り囲むように形成された壁は、外部からの攻撃を全てシャットアウトする。
「ほっほ~、まさかここまでとは......」
「! ニーナ、これは......?」
「知りませんか、なら教えて差し上げましょう! 土属性使いの一つの到達点、『共鳴術による魔法の自由操作』ですよ!」
......相変わらず癪に障る言い方だが、今はスルーしておこう。
「共鳴術による操作? 被害を逸らすならともかく、魔法の結果は共鳴術で操作出来ないだろ?」
「はいモチロン、その通りですよ? でも、土属性の魔法はちょっと事情が違うんです」
「ど、どう言う事だ......?」
ちょっと頭の中で整理してみよう。
共鳴術は、元々存在するモノを操るスキル。
そして土属性魔法、その中でも隆起・陥没系統と地割れ系統は、元々存在するモノに変化をもたらす魔法らしい。
つまり――
「そうか、変化に使われるエネルギーをそのまま共鳴術で操れる、って事か!」
「......それ私が――おっと!」
「!」
ニーナの声に釣られて目線を運動場の方に戻すと、ソラが土壁の内から姿を現していた。
「おっ、無事突破か!」
しかしその直後、ソラの歩みが何かに押されたように、不自然に早くなる。
!? どうした――
そして倒れまいと足を踏み入れた瞬間、地面が光り輝き魔法陣が出現した。
! コンビネーションだッ!
俺の位置では見えていたが、ソラがそこまで到達するまでの間、複数人がかりで陣術の準備がされていた。
確か魔法陣を消すコードもあった気がするが、今回は砂で物理的に隠す方を選んだみたいだ。
そして、魔法陣に描かれたのは風属性の下級魔法<ウインド・スラスト>。
発動すれば地面から吹き上がる風に晒され、ソラの帽子はあえなく飛んでいく。
――そう。発動すれば、の話である。
手に持つエルゲージをソラが地面に刺した瞬間、魔法陣が輝きを失ったのだ。
「魔法陣の起動が止まった!?」
「マナを急速に、掻きむしるように流して魔法陣を破壊したんです。相当な速度で反応しないと駄目なんですけど、良く対応出来ましたねぇ......」
「さっき授業中に似たようなもの見てたからな、それで直ぐ分かったんだ」
まあ、それは相手も同じだから、こんなに早く魔法陣を作れたんだろう。
物理的・間接的な一斉攻撃を乗り越え、更にトラップまでも力技で突破して見せるその姿は、間違いなく向かう所敵無しの様相。
が、ここでソラが急に足を止める。
そして帽子を手で抑えた直後、風がソラの身体を激しく揺さぶった。
「ここで真打登場、か」
ソラの向かう先に立ち塞がっていたのは、あのシュウだった。
「それにしても、何も予備動作をしてないように見えたんだが......どういう事だ?」
さっきの風がソラを襲った時、シュウはソラに向けて何かを構えたりはしていなかった。
それに、魔法陣が発動する前の風も気になる。
「......そうか、風の共鳴術か!」
「おや、ハルトさんもやっと気付きましたか?」
「悪かったな、遅くて」
しかし、そうだとすると結構厄介だ。
風の共鳴術は他属性と異なり、目には見えない。
つまり、いつ・どこから襲って来るか分からないのだ。
勝負が始まってから数分経ち、その間に十二分な量の風を集められたハズ。
さっき魔法を打ってきた生徒達も、まだマナは残ってるだろう。
早く状況を打開しないと、もっと面倒な事になるぞ......
「さっきと同じように、魔法と共鳴術の組み合わせで――」
「んー、それは出来ないですよ? シュウさんが左手に握ってるアレ、ワンドですよね?」
「ん? 言われてみればそうだな......」
ワンドというのは杖の一種だ。
棒状の杖のステッキと違いその柄は長く、先端には魔鉱石が嵌め込まれている場合が多い。
魔法使いっぽい見た目の杖、と言うとイメージしやすいだろう。
役割としても、前衛向きのステッキと違ってワンドは後衛・サポート向き。
予め魔鉱石に自分のマナをストックして、後方から強力な魔法を飛ばすのが主な使い方だ。
「でも、ワンドがどうしたんだ?」
「鈍いですねぇ、ソラさんへのけん制ですよ。土属性の共鳴術は地面にマナを流す必要がありますから、テリトリー張られると使えないんです」
「じゃあソラの方からテリトリー張って......そうか、張り合いになったらマナに余裕のあるワンド持ちが有利になるのか」
「そーゆー事です。ま、ソラさんがやる気になれば、何とかなりそうな感じもしますけど......」
俺とニーナが話している間にも、風の共鳴術は四方八方からソラを襲い、他の生徒達もシュウに合流しつつある。
「ここに来て、かなり厳しい感じだな......」
「......勝負アリ、ですね」
「おいおい、まだソラが勝つ可能性だって無い事は無い――」
「違いますよ、ソラさんの勝ちです」
? 何を言ってるんだ――
「目を凝らしてください。風、見えませんか?」
「!!!」
ニーナの言う通りだった。
いつの間にか、シュウが操る風は茶色く着色されてしまっていたのだ。
これの意味する所とは、言うまでもなく奇襲としての機能の喪失である。
「接触する度に、スキルで土を混ぜて着色したんですよ。ま、この攻略法自体は珍しくないですけど。トラップの魔法陣を発動させた一回目と、甘めに見積もっても二回目の攻撃。これまでに勝負を付けておくべきだったでしょうねー」
もう決着が着いたと言わんばかりに、どこか残念そうな声を出すニーナ。
「流石にそこまで言い切れるとは――」
「いんやぁ、この状況まで持って来る実力があるんです。何か手がありますよ」
「そんな…… ! 手袋を脱いだ!?」
直後、ソラの手から何かが離れた。
円盤のような外観だ。
それが、弧を描きながらシュウの頭上へと吸い寄せられる。
風で絡め取ろうとするシュウ。
否、円盤の到達が先だった。
刹那、円盤が光る。
その直後、数多の岩石が降り注いだ。
一瞬の間もなく、シュウはポケットからスクロールを取り出し、天に構えた。
刃が空を裂き、岩を砕く。
が、倒す相手は岩ではない。
それは彼も分かっていただろう。
分かっているが、対処せざるを得ない。
そして、この隙をソラが突いてくる事も。
宙の土が落ちる。風の共鳴術解除。
ワンドに意識を込め、テリトリーを――
[メリメリッ バキン!]
――展開するより先に、地が割れた。
その亀裂は地を駆ける猛獣のような速さでシュウへと襲い掛かり、その身体を裂け目という名の大きな口で飲み込む。
無力化を確認し、ゴールへ駆け込むソラ。
後ろからいくつかの魔法が放たれるが、新たに隆起した土壁にあっけなく阻まれてしまう。
そして、ソラは運動場の端――ゴールラインへと到達した。
ソラの勝利だ。
「ふむふむ。マナで作った円盤に<ロック・フォール>の魔法陣を刻んでそれを投げる、ですか。短時間で魔法陣を刻むのと言い、円盤の軌道計算やシュウさんの頭上に達するまでの時間計算......全てを完璧にこなすのは至難の業ですねぇ」
「ウソだろ、全部計算してやったって言うのか?」
信じられないと言うか、それが出来たら人間業じゃない。
「流石にムリでしょう、上手く行くかは賭けだったのでは? しかし、その後の<グランド・ブレイク>の速さ。恐らく、直接手の平に魔法陣を描いて発動したんでしょう。いや~何とも何とも、驚くばかりです。ねぇ、ハルトさん?」
「......ああ、凄い光景だよ」
ペラペラと口を滑らせるニーナを他所に、俺の脳内では別の感情が廻っていた。
ひと月前まで俺と一緒に暮らしていた妹が。
ちょっとドジで明るく、お人好しな妹が。
今、たった一人で同級生十数人をなぎ倒し、運動場を割り、勝利した。
誰がどう見ても凄い事だし、俺がソラなら飛び跳ねて喜ぶぐらいだ。
でも。
「何で、そんな表情をしているんだ......?」
チラリと後ろを振り返ってから表情を曇らせるソラを見て、俺は笑う気になれなかった。




