Part13 ソラ vs 学園生徒
「『ソラ vs 学園生徒』!? 何でそんな話になったんだ?」
「どうにも、元々缶蹴りをする予定だったそうですよ? それが出来なくて――」
「待て待て、少し待て」
どこからどうツッコミを入れていいやら。
仕方がないから、順序良く聞く事にする。
「まず、何で缶蹴りする予定だったんだ?」
「おや、ご存じない? 缶蹴りというのは――」
「いや、ルールは知ってる。缶を蹴るか守るかで二チームに分かれて、缶を蹴り倒せば攻撃チームの勝ち、蹴る前に攻撃チーム全員が捕まれば防衛チームが勝ちになる遊びだよな?」
異世界人に缶蹴りのルールを説明されかけるとは、何か変な気分だなぁ。
今更驚くつもりも無いけど。
「クラシックスタイルですね、それは。授業でやろうとしてたのは、“両方の陣地に缶を置き、先に相手の陣地の缶を蹴った方が勝ち“という攻守入り乱れたスタイルなんですよ。場合によっては三, 四チームに分かれる場合もありますけど」
「お、おう......」
流石に細かい所は違うのか。
それにしても、攻守兼任とか三チーム以上とか、結構カオスになりそうだ。
「で、そもそも缶蹴りをする理由って何だ? まさか、ただの遊びって事はないよな?」
「当たり前じゃないですかー。魔法陣を実戦で活かす感覚を身に着ける、実戦練習の一つですよ。設置型の魔法陣は自陣に侵入した敵のトラップとして、スクロールは敵陣に特攻する際の武器として。これらを如何に上手く使うかが、勝敗を決めるんです」
「へ、へぇ......」
結構しっかりとした目的があるらしい。
Bランク試験でやったペイントボールの投げ合いと言い、この世界の住人は遊びを本格的にする義務感にでも目覚めてるのか?
「理由あるんだったら、何で中止になったんだ?」
「それはだって......缶蹴りって、周囲の建物に隠れながらする物じゃないですか」
うん。
「そして、校内に不審者がうろつき回っている現状、生徒と不審者が鉢合わせするリスクを避ける為に缶蹴りをするのは不可能、と言う事では?」
「なるほど......って、冷静に分析するなし! つまり俺らが原因じゃねーか!」
「ムム、確かに! 慧眼、お見事です!」
「お見事です、じゃねーよ!」
何て事だ、遂に授業内容にまで影響与えてしまってるのか。
罪悪感がうなぎ登りMAXである。
「......まあでも逆に、今日の授業自体が中止にならないのも少し不思議だな」
「それはアレですよ、侵入してるのは私だけだと思われてますし、その私のしている事がお遊びみたいなもんですからね」
『お遊び』って。何だろう、嫌な予感が......
「なあ、その内容って......」
「テニスコートを一輪車で爆走したり、校長先生の像の口の中にマシュマロを入れたり?」
「何がしたいんだお前......」
「ポリ公と看コロをおちょくりたい、その一心で励んでおります! ビシッ!」
駄目だコイツ… 早くなんとかしないと…
と言うか、マジで何がしたいのかチンプンカンプンだ。ソラの今を知るため、という本来のミッションが息をしていない気がする。
「おっと、そろそろ始まりそうですよ?」
運動場の真ん中にソラが立ち、対峙するように十数人の生徒が立ちはだかる。
他の生徒は離れた位置におり、恐らく不参加組なのだろう。
「マジでするのか......」
「そんなに心配しなくても大丈夫じゃないです? 授業の一環ですし、怪我をしても軽いものですよ」
「............」
怪我とか、そう言う話じゃない。
そんなに運動が得意という訳でも無かったソラが、たった一ヶ月見ない間に数十人を相手取るほどの存在となった。
そんな事が、未だに信じられないのだ。
「あ、そう言えばハルトさんにルール話しましたっけ? 今ソラさんが運動場の中心に立ってますけど、あそこから運動場の端まで行けたらソラさんの勝ち、それまでに被っている帽子を取られたら、生徒側の勝ち。生徒側の方も、帽子を取られた者はリタイアになるそうです。制限時間は10分、それまでに勝負がつかなければ生徒側の勝利となります」
「分かった、ありがとう」
それにしても、ニーナは一体どこに居るんだ?
生徒同士の声が聞こえる場所なら、相当近い場所に居そうなもんだが......?
などと、緊張した場面でこそ無関係な事を考えてしまうもので。
固唾を飲んで見守っていると、遠くに立った教師が口を手で囲む。
「よーい、スタート!」
開始の合図がされた瞬間、10人ぐらいの生徒が間隔を空けて走り込んで来る。
が、ソラは動かない。その場に佇み、じっと前を見ている。
......? やる気がないのか?
一人目が手の届く位置まで来てもソラが動かない事に疑問に思った、その直後。
目の前の生徒の姿勢が揺らいだ。
合わせて、ソラが身体を左に揺らす。
生徒がうつ伏せに転倒する直前、身体を半分ズラしたソラは流れるような動作でその生徒の帽子を掠め取った。
「? なんでいきなり......?」
「ハルトさんには見えませんでしたか? ソラさんは走ってくる生徒の足元の位置に合わせて、ピンポイントで土の共鳴術を発動。地面を隆起させたんです」
「! そうか、アレか!」
「止まっている相手なら簡単なんですが......おっと、次が来ますね」
二人の生徒が左右から突っ込んで来る。
正反対の位置から迫る二人に対して、タイミング良くピンポイントで地面を隆起させるのは困難。
どうする......?
するとソラは、やにわに両腕を左右に広げる。
直後、両手からエルゲージが出現。
Y字の形状のソレは矢のような速度で伸び、生徒達の腹を直撃した。
呻く生徒、生まれた隙。
ソラはエルゲージ先端のY字を閉じ、生徒を拘束。
更にエルゲージを上方向に枝分かれさせ、二人の生徒の帽子を弾き飛ばした。
生徒達の襲撃は止まらない、今度は五人だ。
が、対するソラも表情一つ変えない。
左端の生徒の土手っ腹を、瞬時に伸ばしたエルゲージで刺突。
数歩下がって残りの四人を誘引。
突っ込んでくる生徒との距離は、伸ばしたエルゲージを振り回してコントロールする。
と、ここで二人の生徒が帽子を狙ってステッキを構えた。
だが、ソラは手持ちのエルゲージで対処する。
風のスキルを、扁平なエルゲージで受け流す。
そのまま反対側の端でステッキを弾く。
水のスキルを、棒状のエルゲージで打ち払う。
反対側の端で、またステッキを弾く。
武器を奪われ、隙が生じた二人の生徒。
そこにソラは、すかさず金的を狙う。
急に伸びるエモノ相手では、それを防ぐのは困難というもの。
エルゲージが睾丸を直撃し、生徒達は悶絶する。
これを見て狼狽えない男子は居ない。
だが、そうして止まった足をソラも見逃さない。
エルゲージを地面に刺し、共鳴術で地面を陥没。
生徒を地面に飲み込み、動けなくする。
倒れ込む三人と地面に埋まった二人の帽子を、ソラはゆっくりと歩きながら取って行った。
「おほぉ~! 流石ですねぇ!」
「............」
テンション上げ上げのニーナに対して、俺は若干の戦慄を感じていた。
ものの30秒ほどの間で、ソラは八人の生徒を制したのだ。
迷い無く、冷静に相手の攻撃に対処する姿は、一ヶ月前までの妹とはかけ離れていた。
ただ器用なだけじゃない。明らかに、何かしらの訓練を受けている動き。
そう感じるには十分な光景だった。




