Part12 魔術演習
昼休みが終わり、生徒達は五時間目に向けて準備を始める。
次の時間の魔術演習は体操服に着替える科目のようで、男子はそのまま教室、女子は更衣室でのお着換えのようだ。
正直、女子が更衣室で良かった。
もし教室で着替えるとかだったら、童貞には刺激が強すぎるッピ!
そう言えば、ソラはどうするんだろうか?
男子として生活しているにしても、身体は女の子な訳だし。かと言って、別の部屋で着替えるのも変だよなぁ。
などと考えながら見ていると、ソラはそのまま学ランを脱ぐ。
制服の下に体操服を着こんでいたようだ。
それにしても、周りは大体半袖なのにソラだけ長袖か。この先の季節、熱中症が心配だな。
ソラの衣服事情を観察している内に着替えは終わり、生徒達は教室を出た。
それから数分ほど経ってから、俺はようやくロッカーという狭い空間から解放される。
あ゛~結構長かった、辛かった。
正直、妹の情報を得る為じゃなかったら金を払われても断るレベルだな。
「そう言えば、ニーナはどうしてるんだ?」
ぐー、っと身体を伸ばしていると、ふとそんな事が脳裏をよぎった。ちょっと電話してみるか。
スタホをポケットから取り出し、ニーナに電話をかけてみる。電話が繋がったのは10コールぐらい後だった。
「笑って過ごすには辛い日々、そんな日常に涼風を! ニーナさんですっ!」
「......セルフ留守番みたいな事言わんでいい。電話に出るまで結構かかったな?」
「現在絶賛追いかけっこ中でして。今丁度、良い場所に隠れられたトコロです」
まだやってたのか......
「で、連絡して来たと言う事は収穫があったと言う事ですね!?」
「ん、まあ――」
「素晴らしいっ! 是非とも、今すぐに、貴方の口から! 内容をお聞きしたいのですがっ!」
電話越しに荒い鼻息を鳴らすニーナ。
その興奮具合にやや気圧されながら、俺は授業中や昼休みに目撃した事、その所感を話した。
「――と言った感じだな」
「なるほどナルホド。フリーハンドで魔法陣を描き切る作図能力に、他の生徒とは違った魔術の視点ですか。放課後籠っている理由も、恐らくコレでしょうねぇ」
「何だ、知ってたのか?」
「やー、巷で噂を聞いた事はありましたけど、どこからどこまで本当なのか区別がつかない情報も多いですし。いやはやしかし、ここまでの物を見せつけてくれるとは。記事にした時の反響が今から楽しみになって来ましたよ!」
声を上擦らせながら、ニーナはクックックと笑いを漏らす。
改めて悪事に加担している感覚がして、ちょい居心地が悪いなぁ……
「記事にするって、『盗聴した』って書くのか?」
「まっさかぁ、そんな正直に書く訳ないじゃないですか! 『匿名を条件に学園関係者から情報提供を得た』って書くんですよ、ヌフフ」
それも大概な気がするんだが。
「頼むから、ウソは書くなよ......?」
「そこはご心配なく! 記事に書くのは全て事実に基づいた内容ですから。でもそのまま書いてもつまらないですし? 私のセンスで面白おかしくチョ〜ット弄って、かつ分かりやすくする為に情報を整理するかもしれませんが、まあそこはご愛嬌という事で!」
はい、一番安心できないご回答ありがとうございます。
「じゃあ電話切るぞ。俺は学園を出るから」
「はい、ご協力ありがとうございました。でも出る際には気を付けてくださいよ?」
「? それはどういう――」
電話しつつ教室の外に出ようと廊下側に向かって歩いていた、その時だった。
すりガラス越しに、廊下を歩く二人の男性が目に付いたのだ。
急いで身をかがみ、潜伏する。
教室を通り過ぎてから後ろ姿を確認すると、その恰好は間違いなく警官だった。
「おい、何で警察が居るんだよ!?」
「いやー、看守さんをおちょくり過ぎたせいで、どうも増援で警官の方々が来てるんですよー」
「はぁ!?」
「まあまあ、そんなカッカなさらずに。警官の方々とたわむれるのも、結構楽しいですよ?」
「普通の人間は楽しくねーよ! 何してくれてるんだよマッタク!」
いや、ホント洒落にならない。妹とも再開した今、逮捕はただのリスクにしかならない訳で。
「んまあマジメな話として、今出ようとするのは結構リスク高いですよー。このまま五・六時間目が終わるのを待って、他の生徒に紛れて帰るのがベストじゃないですかね? 顔も割れてませんし、そこまで難しくないと思いますよ?」
誰のせいでそうなったと......いや、今突っ込んでも意味ないのか。はぁ。
「......そうだな、そうするよ。それまではソラの様子を......って、今どこに居るんだ?」
「今の授業、魔術演習で使うのは運動場ですね。私も絶賛覗き見中であります!」
「堂々と言うなし! 罪悪感無いのか!?」
ホントコイツは......と内心呆れつつ、ニーナから貰った地図をポケットから取り出す。
今居るのは教室棟、運動場があるのは中庭を挟んだ北側だ。
「なるほど、ここか」
「今居る四階から三階に降りて、渡り廊下で第二演習棟に移動。その屋上で観察するのが良いと思いますけど?」
「分かった」
「それと、仕掛けた盗聴器はちゃんと回収しておいてくださいね~?」
「大丈夫だっての。じゃあ、今度こそ切るから」
「了解であります! また報告があれば――」
[ピッ]
まだニーナが話している途中だったが、気にせず電話を切った。ふぅ、何かスッキリ。
それにしても、結局学校が終わるまで居る事になるのか。もし最初からそう言われていたら、断ってたかもしれないな......
小さく溜息をつき、窓の外に見える学校の景色を眺めつつ、俺は第二演習棟の屋上に到着する。
小型の単眼鏡で運動場の様子を見ると、いくつかのグループに分かれて何かしているようだ。
人数が四時間目と比べて倍になってるから、きっと二クラスでの合同授業だな。
見たところ、授業内容は魔法陣関係のようだ。
あるグループは白線のようなもので魔法陣を描いているが、あるグループは隅っこで何かを囲むように集まって......何をしているんだ?
詳しく把握するには限界があるので、またニーナに電話をかける。今度はすぐに出た。
「ああ、ニーナか? 運動場に着いたんだが......隅っこで集まってる生徒達は何してるんだ?」
「アレですか? スクロール作ってるっぽいですよ?」
スクロール。マナを吸収しやすい紙に、マナの伝導率が良い合成塗料で魔法陣を描いた物だ。
マナを流しさえすれば、詠唱術より早く魔法を使う事が出来る。
また、通常の陣術のように地面に設置して使う事も出来るが、手に持ったままでも使える。
その場合は使う上での自由度が高まるが、代わりに自分のマナだけで魔法陣を発動する事になり、マナの消費量が詠唱術よりも多いそうだ。
魔法陣にしてもスクロールにしても、知識としては何となくあったけど実際に見る機会は余り無かったなぁ、なんてボンヤリ考えつつ。
ソラの姿を探してみると、周りのグループに足を運んで回っていた。どうやら、コーチのような役回りをしているらしい。
「教師とやってる事がまんま一緒だな......。ってアレ、教師以外にもう一人、ソラと同じ事をしてる人が居るぞ? ニーナ、アレ誰か分かるか?」
「あー、高山 秀ですね」
「タカヤマ シュウ?」
気怠そうな声で俺の質問に答えるニーナ。
「常明学園に来ている、専門学校上がりの研修生ですね。キリッとした目つきに端正な顔つきで、魔術だけで無く様々な特技があるとか。生徒からの人気も高いっぽいです」
「ほーん。と言うか、興味無さそうだな?」
「だってただのイケメンなんて詰まらないですし。いやー、どっかの適当な生徒に手出してくれませんかね〜、そうしたら面白そうなんですけど」
「人の事をネタとしか見てないのな、お前......」
それにしても、全てを持った人間か。
時々居るんだよな、こういうヤツ。
......別に妬んだりしてないし。ホントだし。
「何でしたか......確か、高校生の頃にAランクを取得し、その実力を専門学校でも如何なく発揮。んで、その勢いのまま常明学園でもヨロシクやってたそうなんですけど、ソラさんに一騎打ちで負けて人気を持って行かれたとか」
フッフゥー、イケメンざまぁー!
ねえ今どんな気持ち? ずっと勝ち続けてきた人生で、初めて敗北したのってどんな気持ち?
やー、中々良い情報を持って来るじゃないですかニーナさん!
あれ、でも待てよ――
「ん? 興味無いにしては結構詳しいな?」
「ま、ソラさんの周辺人物ですからね。一通り調べたんですよ。最近はソラさんとも上手くやってて、今みたいに一緒に生徒のサポートする事も多いそうですよ」
「なん......だと......」
なんて羨ましいポジに居るんだシュウとやら。
その場所、すぐにお兄さんと変わりなさい。
「ちなみに、シュウの使う自然属性は?」
「風ですね、属性傾向は60%。あと、共鳴術やテリトリーも使えるとか」
「ぐ、ぐぬぬ......」
Aランクを持ってる上に、マナの操作力も高いのか。
ソラと近い位置に居るようで、凄く悔しい。
とは言え、そんなシュウ&ソラペアの手助けもあってか、魔法陣の演習は躓く事なくスイスイ進んで行った。
魔法陣を発動させては、俺の所まで聞こえるほど大きな歓声が運動場から聞こえて来る。
そんな様子が楽しそうで、ちょっと混ざってみたい気分に浸っていた頃。
「......ん?」
魔法陣の発動が一段落つき、次はどうするのかと思っていたら、運動場に運ばれて来たのは帽子を沢山入れた段ボール。
そして幾人かの生徒達が帽子を手に取り、集まって話をしている。
何が始まるんです?
「ほうほうほう、これはこれは......これは楽しくなりそうですよ?」
「? 俺にも分かるように言ってくれよ」
「ふふ、直ぐに分かりますって」
もったいつけた言い方にやや不満を抱きつつも、再び運動場の方に目を移す。
帽子を被った生徒達は二つに分かれた。
が、その別れ方は片方が十数人なのに対し、もう片方は一人だけだ。
そして、一人だけの方は誰なのかすぐ分かった。
何故なら、その者は一人だけ長袖長ズボンを着ているからだ。
「......まさか」
「ええ。今から始まるのは、『ソラさん vs 常明学園生徒』なんですよ」




