Part9 魔術講習 〜陣術とは〜
掃除用具を入れるロッカーの中に数分間潜伏していると、教室のドアを開ける音がした。
「あー、次の時間魔術講習とかマジだりぃわー。つか雨下の顔とか見たくねぇんだけど」
「まあそう言うなって、旗立。雨下はまだマシって話だろ? 川上とかもっとワケ分からん授業するって話だし」
「いや、雨下って授業来る度に自作の首振り人形机の上に置くだろ? あれすっげぇ気が散るんだが」
「あー、それ分かるわ」
「だろー? 誰か爆破してくんねーかなー」
「おいおい、そんな話ある訳ないだろ」
ロッカー近くの席に座る二人の生徒の会話を聞き流しながら、ソラの姿を探す。
が、先に教室に入って来たのは教師――さっきの生徒が言っていた雨下という先生だ。
話をしていた通り、持っている手帳の上には抽象画的な顔つきをした首振り人形を乗せている。
あれが授業中に目に付いたら、確かに気になるかもしれない。
で、ソラは? そろそろチャイム鳴るぞ......?
内心ソワソワしていると、やっとソラが教室に入って来た。ふぅ、良かった。
ソラの横にはボサボサ頭の男子が歩き、そのすぐ後ろに大人しそうな眼鏡男子が付いている。
三人はソラを含めた二人と一人に分かれる。
メガネ男子は、窓際から三列目の一番後ろ。
ソラとボサ男は席が近いらしく、何か言葉を交わしながら席の間を歩いていく。
二人が足を止めた位置は俺が目星を付けた辺り。今の立ってる場所からして、盗聴器を取り付けた位置に問題は――
その時、ボサ男......いやファッ○ン頭ボサボサ野郎が、ヘラヘラ笑いながらソラの御髪をポンと叩いた。
「!!!」
妹を溺愛する兄として、その軽率な行動は見逃せない......と言うか、身体が勝手に反応する。
その結果、ロッカーの中の物が動いてドンと大きな音を立ててしまった。
あ、やべ。
「何、今の音?」
「どこからしたんだ?」
ざわめく教室。
しまった、このままだと音の発生源がロッカーの中だと特定され、隠れている事がバレてしまう。
もしそうなれば、おぞましい結果になるのは明らかだ。
何とかせねば......ハッ、そうだアレがあった!
俺がポケットから取り出したのは、薄いリモコンのような装置。
この装置の正体については、少し前まで話を遡るのだが......
「――で、何かマズイ事があったらコレ使ってください」
常明学園に侵入する前、今回の作戦の内容を話していたニーナが俺に例の装置を手渡した。
「なんぞコレ?」
「ちょっとしたハプニングを起こす装置です! 注意を逸らしたい時に、ポチッとどうぞ!」
「ボタンが二つあるんだが?」
「あー、ソレなんですけどね。赤のボタンは四時間目の授業しか使えません。緑のボタンを押した時は、私が何やかんや起こします」
赤のボタン、エラく使える場面が限られてるんだな。それだけこの機会を狙っていたという事なんだろうけど。
「というか、何やかんや起こすって......何するつもりなんだ?」
「何やかんやは何やかんやです! ま、押してからのお楽しみですねー」
「......なんかロクでもない雰囲気がプンプンするんだが」
「いやぁ、そんなに期待されましても!」
「うん、褒めてないからな?」
――という事で、四時間目のこのタイミング、せっかくだから俺はこの赤のボタンを選ぶぜ!
ポチっとな。
直後、教卓の上にあった首振り人形の首がパァンという音と共に弾け飛んだ。
生首は天井に一度当たり、跳ね返ってから雨下先生の頭頂部にスコンと当たる。
しん、と静まりかえる教室。
「わ、私の首振り人形がぁあああ~~!?」
と、崩れ落ちる雨下先生がそう叫んだのを皮切りに、教室は戸惑いの声と爆笑で包まれた。
南無三、雨下先生。
特に恨みとかは無いけど、貴方には犠牲になってもらったよ。
「こらぁ、旗立! ゲラゲラ笑いよって、お前がやったんだろ!?」
「うえぇ、俺じゃないですって!」
「嘘を言うな! 放課後職員室に来い!」
「はぁ!?」
南無三、旗立君。君の犠牲は無駄にはしない。
などと言う茶番劇のお陰もあって、教室の中の意識は弾け飛んだ首振り人形の方に向いた。
と言うか、いつどうやってこんなの仕込んだんだ、ニーナのヤツ。
[キーンコーンカーンコーン]
と、ここでチャイムが鳴った。
ブツクサ漏らしつつも、気持ちを切り替えて雨下先生は授業を始める。
ふう、どうやら難は去ったみたいだ。
にしても、ロッカーの中からとは言え妹の授業風景を観れる日が来ようとは。
まるで授業参観に来ているみたいだぁ。
「えー、じゃあ授業始めるぞ。前回から魔法陣を使った魔術、いわゆる陣術の話に入ったな。まずは前の授業のおさらいだが、今日は五日だから......一番左の前から五番目、武井」
「はい」
「魔法陣を構成する四つの要素、言ってみろ」
「五芒星・属性紋・円・魔法記号です」
「その通りだ。では今から、中心から順に魔法陣を書いていく。まず最初に書くのは何だ?」
「円と、その中に五芒星を書きます」
「OK、座りなさい」
そう言ってから、雨下先生は黒板にチョークで円と五芒星を書き始める。
円こそ黒板用のコンパスで描いたが、五芒星は目星で点を打ちフリーハンドで描いている。
「次、香谷。この次に書くものはなんだ?」
「五芒星の中心に出来た五角形に接するように円を描いて、その円に接するように魔法文字でMと書きます」
「ふむ、そうだな。香谷、座れ」
生徒の言っていた通りに、円と魔法文字を書く雨下先生。
「なあ、ソラ?」
「どうしたのサキト」
と、このタイミングでボサ男がソラにコソコソと話しかけた。
ふむ、このボサ男はサキトと言うのか。
君、またの機会にお兄さんとじっくり話そうか。
「前から思ってたんだけどさ、なんで中心に書くのがAとかBじゃなくてMを示す魔法文字なんだ?」
「mainの頭文字から取って、Mらしいよ」
「んー......そう言う事じゃないっつーか......」
「?」
「おいそこ、何話してる?」
サキトが腕組みして悩んでいたところで、雨下先生の注意が入った。
二人は再び黒板の方を向く。
「ここまでが、全ての魔法陣で共通の部分だ。次からは場合によって変化する内容だが......仮に、火属性の魔法を使うとしようか。相沢、その場合はまず何をする?」
「えっと、火属性の紋を描きます」
「よし、ならその場所は?」
「五芒星にある三角形の内、右下のスペースです」
「よろしい、座りなさい」
ほうほう、やるではないか高校生ズ。まあここまでならそんなに難しくないか。
ちなみに、属性紋を描く位置は無属性を上として、そこから時計回りに水・火・土・風だったと記憶してる。
この並びは、地球での五芒星が示す属性の方向と一緒なんだよな......。
「では今から内容、いわゆるコードを書いていく。が、その前にする事は......三上、分かるか?」
「はい、コードを開始する位置の五芒星の角を四分の一以上塗りつぶします」
「その通り。まあ慣例的には、無属性の紋を描く位置だな。で、円を重ねてその内側に魔法文字でコードを書いていくが......この時の注意点は?」
「円の中心から見て垂直になるように、時計回りに文字を書く事。単語の間は一文字分程度の空白を開ける事。魔法文字の端が外側と内側の円に接するようにして書く事。一つのコードが同じ層の中に書けない場合は△を描き、続きは次の層の△の真上の部分から書く事、です」
「おお、そこまで答えたか。了解、座りなさい」
そう言って、雨下先生は黒板に書き込んでいく。
このコードは......多分、〈トーチ〉だ。
流石先生らしく、魔法陣を手慣れた動きで描いていく。
「で、最後は空白の円で囲んで完成だ」
おお、きっちり二層で抑えた。
大体は円の大きさの調節を失敗して、少しはみ出たりスペースが余ったりする。
俺も試しに描いた事があるから分かるけど、綺麗に収めるのは難しいのだ。
「魔法文字とアルファベットの対応については別段言わないが、しっかりと覚えておくように」
アルファベットというのは想像通り、あのアルファベットの事だ。
魔法文字とアルファベットは一対一で対応している。にしては、結構違った形してるが。
あと、四則演算に使う記号と数字も独特の形をしていたと記憶してる。
魔法文字に対して、こっちは角張った形だったっけか。
「さて、ここまでが昨日の内容、基礎の基礎だ。と言っても、正直これだけ知っていてもあまり役には立たない」
そうなんだなぁ......
これだけで使えるなら、Bランク試験の勉強時に俺も覚える気にはなった。
筆記試験の問題にも、基礎だけじゃなくて本格的な陣術の問題が出ただろう。
「今日話す内容は、機能群とそれを合わせて使う制御文だ。段々難しい内容に入るから、寝るんじゃないぞ」
魔法陣は、ここからが面倒臭いのだ。
本文中に登場した〈トーチ〉のコードですが、呪文の翻訳にはGoogle翻訳を使っています。
正確な翻訳では無い可能性がある旨、ご了承ください。




