Part4 お手並み拝見
「へぇ~、流石お屋敷って感じだね」
「ホントにな。俺も最初来た時は驚いたよ」
俺とソラは、藤宮家の和式庭園にいた。
ずっと屋内で話しているのも息が詰まるから、という理由で外に出ていたのだ。
「で、教えてくれるんだよな? ソラの属性」
「まあまあ、そう慌てないでよ」
俺の使う属性が火だと言う事は、俺のこれまでを話す中で既に言っている。
じゃあソラの属性は? という話を切り出すと、外で見せてあげると言われた。
横並びの状態からトントンと二歩前に出て、ソラはその場でピタリと止まる。
「私の属性は......」
「属性は? ――ッ!?」
もったいぶらずに早く答えて欲しいと、そう思っていた矢先、急に視界がガクンと揺れた。
突然の出来事に驚き、思わず尻もちを付く。
そして足元を見ると――右足が地面に食い込んでいた。
「!? まさかソラの属性って......」
「その通り、土でございます!」
クルリと振り返って意地悪そうに笑うソラが、自信たっぷりに回答した。
「外で見せるって、こういう事だったのか」
「そうそう。ちょっとビックリさせようと思って」
「ああ、マジでビックリもんだ。まさか土属性だなんてさ」
「何その含みのある言い方」
「いや、俺でも知ってるよ。土属性が不遇扱いされてる事ぐらい」
土属性は、不遇属性。
その理由は地味だからと言う事では無く、単純に活用しづらい属性だからだ。
土属性には、相手に向けて何かを飛ばす魔法は無い。攻撃に使える魔法には落石系統・地震系統があるが、いずれも相手の足元で発動しないといけない......つまり、一言で言うとトロいのだ。
スキルで土や石を生み出しても結局は自力で投げる必要があり、イマイチ威力に欠けてしまう。
だから良い属性とは言われないし、自ら土属性使いだと名乗り出る者も少ない。
「でも、土属性が不遇じゃ無くなるケースがある。それが――」
「実力者が使う場合、だろ?」
「その通り、兄さん」
魔法は足元で発動させないと駄目、スキルで土を生み出しても駄目。
そんな土属性だが、共鳴術を会得すると一気に状況が変わってくる。
風や火、水はその場に常にあるとは限らない。
だが、俺達が陸地で暮らしている以上、土はどこにでもあるのだ。
土属性の共鳴術は地殻変動の力を利用したもので、さっきソラがして見せた地面の隆起は元より、極めると地割れさえ起こせるのだとか。
戦いの場所が陸地で共鳴術を自在に操る事が出来れば、相手に逃れる術はない。
建物に逃げても地盤ごと崩されたら終わりだし、空に逃げるのも簡単ではない。
一般的に不遇扱いされるが実力者が使うと大化けする、それが土属性なのだ。
「『土属性を自称する奴は実力者、間違っても喧嘩を売るな』。ホントに、ビックリもんだよ」
「まーね。兄さんには負けないんじゃない?」
「ほっほーお?」
言ってくれよったな、我が妹よ。
ずっと尻もちついてるなんて、情けない姿晒してられませんなぁっ!
「お兄ちゃんをッ! 舐めてもらったら――ってアラァ!?」
足を引き抜き食って掛かろうとしたが、今度は全身が首までズッポリ陥没する。
やべぇ、ここまで出来るのか。
「ほらね」
「ぐぬぬ......」
「ホレホレ~、抜け出せますかなぁ~?」
「クッ、このッ!」
頭を振り、せめて腕だけでも出そうと必死にもがく。
だが土は重く、簡単には這い出られそうに無い。
それにソラのニタリとした顔よ。腹立つのり~。
と、気張っている俺の声を聞いて一つの足音が近づいて来た。
「さっきから何の声......あ、ソラ様! と、ハル......ト」
「おう、アリス」
「何それ、どうなってるの?」
「ちょいと土の中に埋められてさ。今抜け出そうとしてる」
「そ、そう。ちなみにそれは、ソラ様が?」
「あ、ああ。話も終わってね、ハルトと腕試ししてたんだよ」
「ハルトも弱くはないんですが......お強いのですね!」
「はは......」
アリスが来た事で、ソラは低めの作り声で対応している。アリスのソラへの態度は相変わらずだ。
と言うか腕試しじゃないし。ただ不意打ち食らっただけだし。訂正頂きたい。
アリスが弱くはないって言ってくれたのは嬉しいけど。
「ソラの属性は土だ。で、共鳴術も使えるんだと」
「へぇ~......。他にも見せていただけますか?」
「うーん、そうだなぁ」
そう言ってソラは手から直接エルゲージを出すと、それを地面に突き刺した。
すると、淡い水色の波紋のようなものが広がっていく。
「これは......テリトリーか!?」
テリトリーは、自分のマナを地面などに流し込むスキルだ。
範囲内にあるマナ的な反応を感知し、見えないように細工されている魔法陣も探知できる。
また、マナの流れを妨害して魔法陣を崩壊させる事も可能だ。
とは言え、テリトリーを安定して展開するのは難しいと言われている。
マナを流したままだとすぐに発散してしまう為、流したマナと体内のマナを常に対流させる必要があるのだ。
「その通り。でも驚くのは早いよ? よっ、と」
『「!!!」』
俺とアリスは驚嘆の声を上げる。
ソラは展開したテリトリーの中に、マナで模様を描いたのだ。
属性の紋が無いから発動はしないが、その見た目は魔法陣そのものである。
「す、凄い......」
「ソラ、これは?」
「見てのまんま。テリトリーの中に魔法陣を作る、“マーキング”っていうスキル。この前出来るようになったばかりだけど、これで相手の足元に魔法陣を描けるようになる」
「土属性の欠点が消える、って事か。ハー......」
驚きで、開いた口が塞がらない。
そもそも、テリトリーの展開だけでもマナの操作力のレベルは300以上が要求される。
その発展形となれば、一体どれだけのレベルになっているのか......。
それにこの光景を見ていて、何故妹の事を考えると向上するのがマナの操作力なのか、分かった気がする。
そもそも能力が向上する理由については、まだチンプンカンプンだが。
「まあこんな所かな。......ところでハルト、君はいつまで埋まってるの......?」
「何か脱出するのが面倒になって。土の中・・すごくあったかいナリ・・・」
「なんて言うか、ブレないわね、ハルト」
「この人は昔からこんなんだから」
溜息を付くソラとアリス。
「でもそろそろ抜いて欲しいなー、って」
「はいはい。僕は抜く作業するから、アリスちゃんは先に入っておいて」
「はい。夜半については、また後程」
「う、うん」
あ、やっぱりまだその話続くんだな。
いやー、修羅場 修羅場。
埋まっていた身体自体は、地面ごと隆起させるとスッポリ出てきた。
表面の土で包むように地面に埋まっていたから、案外服も汚れて無いみたいだ。
シャツを脱いでバッサバッサとはためかせ、ズボンを叩けば大体の土は取れた。
「ふぅ。それにしても、こんなに器用だとは」
「私だって、結構やるんだよ?」
「ああ。ホントにビックリした。チンピラ撃退した、ってもの納得だわ」
なんて言ったらドヤ顔するんだろうな、と思ってソラの横顔をチラリと確認すると、それはドヤ顔と言うより安心したような顔だった。
「? どうした、そんな顔して?」
「え? な、何でもないよ。ささ、もう遅いし入ろー入ろー」
「ちょちょ、そんな押すなって!」
グイグイと背中を押され、俺とソラは藤宮家の中に入っていく。
ちなみに。
「あ、遅くにすみません。九条 ソラです。はい、まだ外に出てて。それで、言いにくいんですけど、外泊の方をしたいな、と......え? OK? あ、分かりました......」
「どうだったよ」
「何か凄い上機嫌でOKされた。ウチの寮長さん、ホント甘いんだから......」
などと言うやり取りがあって、今晩のソラは結局藤宮家に泊まる事になった。
アリスは大喜びしていたが、流石に女子中学生と男子(?)高校生が一緒に寝るのはマズイだろうと我道さんからNGを喰らってしまい、結局添い寝は叶わなかったそうだ。
真耶が廊下で人知れずガッツポーズしていたのは、ここだけの話。
そして場所は変わり、再び藤宮家の使用人部屋。
その内の俺の部屋に入るなり、溜息をつくソラ。
「どうしたんだ?」
「兄さんの部屋で寝るとか、凄く不安なんだけど」
「ダイジョーブ、ソノベッド ツカッテナイヨ」
「......やっぱなんか野郎臭い。真耶さんにシーツ変えて貰おうっと」
「チェッ、バレたか」
「ホント度し難いよね、兄さんは」
この後は風呂に入ってすぐ寝るらしく、俺は元の世界に帰るよう強く言われる。
明日は七時ぐらいにここを出るらしい。
「じゃ、お休みなミヨ」
「はいはい、お休み兄さん」
互いに手を振り、就寝の挨拶をする。
そうして鏡をくぐり、元の世界に帰って来てから俺は深く息を吐いた。
沢山話して疲れたし、今日はもう寝る――
「――と思っていたのか?」
なんて、お行儀の良い事する訳ないだろ!
いやだって久々の再開だし?
『七時までここに居る』ってんだから、それを無駄にする訳には行くまいよ。
「さーて、風呂入って歯磨いて、妹の寝顔堪能しますか! ぬっふっふ」
などと一人テンションを上げながら、嬉々として寝支度を整えていく。
――が、しかし。
「やばい、超眠い。風呂に長時間入りすぎたか......?」
風呂から上がった後、強烈な眠気に襲われた。
時刻は10時過ぎ。元の世界と同じなら、ソラの就寝時間は11時頃のはず。
「まあ、11時半にお邪魔するとして、あと1時間半あるしな。今夜は眠れないし、少しばかり仮眠でもするか......」
目覚ましをセットし、布団に倒れ込む。
今夜はどうしようか。
寝顔観察して、寝言聞いて、ああ、蹴られるのも悪くない。その、後は......――
「――澄ました顔で一旦帰って、翌朝私の見送りをしよう、何て考えてるだろうなあ、兄さんは」
兄の行動を予想し、独り息を吐くソラ。
もちろん、他の人の姿は無い。
「背中に仕組んだ<スリープ>の魔法陣も効いてくる頃......そろそろお暇しようかな。もし明日まで居たら、兄さん絶対連絡先聞いて来るし。アリスちゃんには申し訳ないけど......」
部屋を後にするソラ。
明かりを消し、暗くなった室内を見てポツリと漏らす。
「じゃあね兄さん。この世界、いろんな事があるから......兄さんには、そのままでいて欲しい」
翌朝、俺は八時過ぎに目を覚ます。
警備員さんによると、ソラは前日の夜10時半に屋敷を出て行った、との事だった。




