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こんな異世界、お兄さんは認めません!  作者: アカポッポ
第三章 『6.05 常明学園襲撃事件』
42/146

Part1 その瞬間は突然に


 ――嘘だ。こんな事、あるはずがない。


 焦りを隠せない俺の額を、大粒の汗が流れる。

 時刻を確認するのは一分に一度、いや、もっと頻繁にしているだろうか。

 ただ(いたずら)に過ぎ行く時間が、己の希望的観測を無慈悲に否定して来る。


 嫌だ、受け入れたくない。


 環境は整っている。状況が開始するサインもあった。ここまで来れば間違いないはずなのに。

 なのにどうして、どうして......


「どうして誰も取材に来ないんだァーッ!?」

「現実はこんな物ですよ、諦めてください」

「ヤダヤダヤダ諦めたくないー!」

よわい18にもなる男が、何を情けない声出してるんですか......」


 場所は藤宮家 使用人用の裏口を出た坂道。

 六月に入って日差しも強まるお昼過ぎ、そこには暑さで汗を垂らして駄々っ子の如くゴネる俺と、その様子に呆れる真耶の姿があった。


 昨日あったBランク試験、そこで俺とリーシャは第三試験でゴーレムを倒した上で30点をマークし、見事合格を果たした。

 その功績に技能センターの受付さんは仰天し、当日の内にテレビ局から取材も受けた。

 

 遂に訪れたテレビデビュー、きっと他にも取材が来て、もしかしたら記者に囲まれるかも......などと期待していたのだが。


「もう六時間以上粘ってるけど、まさか数人しか来ないなんてなぁ」

「気持ち悪いキメ顔で六時間も突っ立っている男を見たら、話しかけようとは思いませんよ」


 うーん、やっぱり駄目なんだろうか。

 さっきから腰痛めてるポーズとか首痛めてるポーズとかしてるんだけど、全然反応無いな? 


「これか? これか? こっちの方がいいかな」

「......もう勝手にしてください」


 心底うんざりしたような顔をする真耶。

 耳は頭髪に埋まり、尻尾はしなびたように垂れ下がっている。

 屋敷に戻ろうとする真耶。そこに、アリスがやって来た。


「ん、アリスどうした?」

「う~ん、二階から見てて気付いたんだけど......リーシャの方、凄い事になってるみたい」

「えっ?」


 リーシャが居る山瀬調薬本舗に向かうと――そこには、大きな人だかりが出来ていた。

 輪の中心では、リーシャが困惑と含羞(がんしゅう)が入り混じった表情で記者とやり取りしている。

 何だコレ、どうなってるんだ。

 

「じゃあBランク試験を受けたのも、ご夫妻のお手伝いをする為なんだね?」

「毎日お仕事が忙しそうだから、ちょっとでも楽させてあげたいな、って」

「お勉強は一人でしてたの?」

「時々お父さんに教えて貰いながら、お家で頑張りました!」

「リーシャちゃん、カメラに笑顔お願い~」

「は、はいっ! えへへ......」


 むぅ、中々しっかりとした受け答えしてるじゃないか。お兄さん嬉しいですよ。


「腕組んで見守ってる雰囲気出してるけど......ハルト、負けてるからね?」

「パッとしない男と可愛らしい少女、世間の注目を集るのは後者でしょうね」

「グッ......で、でもアレだぞ、それはつまりリーシャの容姿に集まって来てるだけであって、この際お店の宣伝しようとか、流石にそこまでは頭が回らない――」


「山瀬調薬本舗をお願いします!」


「言ってるわよ」

「アグッ」

「笑顔も仕草も行動も、全て完璧ですね」

「グハァ!」


 やめてください しんでしまいます。

 と言うか、リーシャのあざとさ成分も普段の三割増しされてる感じがする。

 子供にのみ許されるカードを積極的に生かしていく、その姿勢にびっくりだ。

 リーシャさんマジパネェっす。


「て言うか、いつまで立ってるの?」

「いや、ここに居たら幾らかの記者はこっちに来るかな、って」

「凄くみっともなく見えるんだけど」

「一周回って清々しいですね」

「う、うるせーやい!」


 諦めついたら帰って来なさいよ、と言い残してアリスとお付きの真耶は屋敷に戻って行った。

 一応、こうして粘る事で数人の記者はこちらに来た。と言っても、内容はリーシャへの取材の補足みたいなものだったが。


 中には『実際の試験で活躍したのは貴方の方で、リーシャは余り活躍していなかったのでは』という嬉しいような悲しいような質問もされたが、そこは紳士的に『そんな事無いですよ』と説明した。

 塩送ってるような感じもするが、まあリーシャは敵じゃないし。

 記事になりたいという願望はあるが、リーシャを応援してあげたいと思うのも事実だ。


「............?」


 と、取材が落ち着いて来た頃に、不意に俺のスタホが鳴った。


「もしもし、真耶か?」

「ハルト、今何処に居ますか」

「山瀬調薬本舗の前」

「まだ居たのですか......」

「いや、効果はあったから! で、何か用か?」

「ハルトに会って、話をしたいと仰る方が来られています。戻って来てください」

「俺に? 分かったけど......」


 誰だろうか。順当に考えるなら記者だけど。


 などと考えつつ藤宮家の門をくぐったところで、アリスが走り寄って来た。


「ハ、ハルト!? あの爽やかイケメン誰!?」

「え、爽やかイケメン?」

「真耶から電話無かった? お客さん!」


 アリスに手を引かれて屋敷の外から応接室の中を覗くと、そこにはソファに座る一人の人物が居た。


 おおよそ、記者とは異なる風貌の人物だ。

 服装は男物で、長袖長ズボンに手袋と、この時期にしては随分着込んでいる印象がある。

 帽子を深々と被っているせいで、目元まではよく見えない。

 身体の線は細く、爽やかというか、やや気品を感じる佇まいだ。


 と、窓の外からの視線に気づいたその人物は、こちらを見て微笑みかけた。


「~~~ッ!!!」


 その瞬間、大袈裟に後ろを向くアリス。

 顔は隠しているが、隠しきれていない耳はまっかっかだ。あ、そういう事ね。

 とは言え俺も顔を見られている以上、きちんと挨拶をしないと失礼だ。

 急いで屋内に上がり、応接室に入る。

 アリスは二階の自室へ駆け込んで行った。


「こんばんは、北条 ハルトです」

「初めまして、九条 ソラと言います」


 ん? 男にしてはやや声が高いか?


「さっきは見苦しい所を見せてしまったみたいでスミマセン。それで、どういったご用件で?」

「給仕の方から聞いていませんか? 貴方に会いに来たのですよ」

「エ゛っ」


 妖艶な笑みを浮かべ、ソラは俺を見つめる。

 え、俺もしかしてホモに狙われてんの?

 ニュース見てここまで来たとか、何処まで気持ち強いんだ。やべーよ こえーよ。


「え、ええっと。それはどう言った......」

「クスッ」

「!?」


 急に笑ったソラの声を聞いて、俺は驚く。

 その声は、まるで女性のようだったのだ。

 おまけに、笑いを堪える時の手を口に当てる角度に、肩の動き方。

 この特徴に、俺は見覚えがあった。


「まさか、お前は――」

「あれ、気付くの案外早かったね? まあアノ兄さんだし、当然かもだけど」


 ゆっくりと帽子を脱ぐソラ。

 そして髪留めを外し、頭を揺らして髪を降ろす。

 一ヶ月の期間を経てはいるものの、その面影は記憶の中の()()()()と一致する。


「久しぶり、兄さん」


 ――間違いなく、妹の美夜子だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 第3章開幕おめでとうございます(*≧∀≦*) どんな展開になるのかな~と思いきや‥‥あれ?いきなり妹ちゃん登場してる?? しかも、自分から会いに来てる?! 序盤から予想外の展開でした(笑)…
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