Part15 ANSWER TO MYSTERY
「やはり、君も憶えていないんだね」
数時間前に会った人物を、俺達は思い出せない。
夢だった? いや、そんなはずはない、と思う。
「......自分でもビックリしてます。これは一体?」
「分からない。何せ、記録がどこにも無いんだ。君の戦闘の様子を撮っている映像はある。その中には遠巻きに映る僕の姿もある。誰かが居たのは間違いないんだ。でも、誰かは分からない」
「実は人じゃなくて、リモートで位置を変えられる機材で取ってたとか?」
「それも考えた。でも......君も僕も、カメラに話しかけてる。機材じゃないよ」
............
「目線の高さや話方からして子供ぐらいかと思うんだけど......でも、子供の試験官なんてそんな事あり得ないしね......」
「そりゃそうでしょう。子供なんて他の試験官との公平性に欠ける」
わざわざそんな事言われなくても。
常識的に考えて、それは無いだろう。
「うん、僕もそう思う。そう思うんだけど、そのまま試験は続いたんだろう? 何故疑問に感じなかったんだ、ってね。それがどうも気になって......」
「確かに......」
「それと。残ってた映像を見た感じ、身体強化がされてたんだけど......」
「はい、それがどうかしたんです?」
「<ブレイブ・マッスル>と<スピリット・アーマー>は、禁術・第Ⅲ類指定なんだ」
「! そう言われてみれば......」
禁術。それは高い危険性ゆえ、発動や習得が規制されている魔術。
術者自身に大きなリスクがある魔術や、迂闊に発動すれば甚大な被害が発生する魔術が指定される。
危険性の高い魔術から、第Ⅰ類・Ⅱ類・Ⅲ類へ分類される。
ちなみにこの二つの魔法が禁術なのは、術者がみだりに使って大怪我する事を防ぐだめだ。
筋力を増強させただけの状態だと、反作用の力に身体が耐えられない可能性がある。
また、身体を強靭化させていると言って、100メートルのビルから飛び降りるのは自殺行為だ。
継続して発動するこれらの魔法は、自分が今からする行為にどれだけの筋力が要るか、負担が掛かるかを計算し、マナの出力量を操作する必要がある。
故に、かなり扱いの難しい魔法なのだ。
「あれ、でも禁術を使えるのは事前に登録した人だけなんですよね? だったら――」
「僕もそう思ってデータべースを見た。でも、身体強化系統の魔法の使用許可が下りている人間に、小さな子は居ない。過去には居たけど、その子も今は高校生だしね」
「............。 ?」
と、二人して悩んでいると、ふと腕に何かが当たる感覚がした。
顔を向ければ、リーシャが俺の身体にもたれかかり、寝息を立てている。
「お疲れみたいだね、君のペアは」
「まあ、苦労かけちゃいましたから」
愛想笑いを浮かべる俺と寝ているリーシャを、省吾さんはじっと見つめる。
「この子、かなりの怪我をしたみたいだね。もう治ってるみたいだけど」
「あれ、分かるんですか?」
「まだ顔色が少し悪いよ。それに君は気付いてないかもしれないけど、血の臭いが残ってる」
「あー、分かっちゃいますか。まあ、はい。腕を持ってかれて。その時は、頭がパンクするかと思いましたよ」
ハハと笑うが、あの場では笑えない状況だった。
今度からは絶対に無くさないといけない。
「でも、その痛みに耐えて合格を掴み取った訳だ」
「ホント、年下なのに頭が下がる思いですよ」
「これからが楽しみな子だね」
「はい......」
穏やかな表情で、スヤスヤと寝息を立てるリーシャ。その寝顔にほっこりする。
「さて。起こすと悪いし、僕は失礼するよ。遅くなったけど、Bランク合格おめでとう。これからの活躍を期待してるからね」
「はい、省吾さんも頑張って」
俺の言葉をきちんと受け止めてから、省吾さんは去って行った。
「さて、どうしますかね」
傍らには、眠りに着く天使の横顔。
苦労を掛けっぱなしだったし、ちょっとぐらいは休ませてあげないとな。
「ま、そうは言っても日はまだ高いし、まだまだ時間は......いや、俺は大丈夫でも、リーシャの親御さんが心配してるか」
ここは家まで送ってあげて......あれ、リーシャの家ってどこだ?
「うーん、どうしよう。真耶なら知ってるか?」
困った時のマヤエモン。
ちなみに、スタホはこの二週間の間に購入しておいた。お金は藤宮家持ちだ。
「真耶の携帯番号は、っと。............あ、真耶? ハルトだけど」
「ハルトですか。試験はどうなりましたか」
「ああ、二人とも合格だ!」
「ふふ」
「あれ? 真耶今笑ったか?」
「笑っていません」
ホントかねぇ?
と、一度真耶が咳払いをする。
「おめでとうございます。と、お疲れ様でした」
「ありがと。で、リーシャが疲れて寝ちゃっててさ。家まで送ろうと思ってるんだけど、リーシャの家知ってたりするか?」
「それでしたら。今朝の待ち合わせ場所の公園の、向かいにある店舗ですが」
「あれ? そうだったのか?」
「要件は以上ですか?」
「ああ、これで大丈夫だ。じゃあ切るよ」
さてと、目的地は分かったし、ここを出ますか。
と、技能センターを出た所でカメラを担いだ男性とマイクを持った女性が寄ってくる。
うん、これはもしかして......
「あの、本日のBランク試験で合格した北条 ハルトさんでしょうか」
「はい、そうですけど?」
「私達、太陽テレビの者なんですけども。少し取材の方を......」
「!!」
うおおおおお、マジか!? ついに俺デビューしちゃうのかっ!?
「試験中にあった、まさかのゴーレム発生。それを倒した上で30点をマークした、との事ですが、その時の様子をお答えいただけますか」
「それなら――」
そうして、女性とやり取りしながらゴーレムと戦った時の様子を伝える。
......ちなみに、俺が泣いた事は伏せた。
「今おぶっていらっしゃるのが、ペアを組んだリーシャさんですか」
「あ、はい」
「まるで兄妹みたいですね。微笑ましいです」
「ははは......」
俺の背中に居るリーシャは、まだスヤスヤと息を立てて寝ている。
そう言えば、ミヨにもこんな時期があったなあ。
......あ! ミヨと言えば!
「ちょっといいですか?」
「はい?」
「お~いミヨー! お兄ちゃん来たぞー! 俺は藤宮家んとこに間借りしてるから、もしコレ見てたら会いに来てくれー! ......あ、大丈夫です」
「............はい、ありがとうございました」
あれ、何か引かれてないか?
「ではこれにて取材を終了いたしますので。ご協力ありがとうございました」
そう言って、二人組は帰って行った。
「ふふ、我ながら中々の機転。これで結構前進したんじゃないか?」
歌でもひとつ歌いたくなるような良い気分、とはこの事か。
って、今はリーシャが寝てるから駄目か。ゆっくり、静かに歩いて帰ろう。
――そして、取材の様子はニュースで流れ。
≪お~いミヨー! お兄ちゃん来たぞー!≫
「に、にーさん!?」
『ソラどうした? 何かあったか?」
「......いや。何でもないよ、サキト」
「顔真っ赤だけど」
「何でもないったら何でもないよ、もう!」
大声を出し、赤面して立ち上がった青年(?)が居たのだが、それは次の話。
◇◇◇◇◇
所変わり、とある一軒家の小庭にて。
一人の女性と幼い少年が、パラソルの陰の中で各々の時間を過ごしていた。
金髪・琥珀眼の簡素な服を着た女性は、机の上のフローチャートのようなものとにらめっこ。
黒い修道服のような衣服を身に纏う少年は、分厚い本を読み耽っている。
と、突然庭の角に風が吹きすさぶ。
その風はより集まり、空気を歪ませて陰を作り、一人の幼女の形を成した。
「ただいまー!」
「おかえりなさい。お出かけは楽しかった?」
「うん、楽しかった! でも――」
クルリと首を回し、少年に視線を投げる幼女。
わざとらしく肩を広げて腕を振り、ズカズカと少年の元へ歩み寄る。
そして、少年が持つ分厚い本を取り上げた。
何するのさ、と言いたげな少年の視線を無視し、幼女は流れるような手つきで取り外したペンダントをテーブルに叩きつける。
「フギンが作ったコレ、ダメだったんだけど!」
「何が駄目なのか説明してよ。じゃないと分からない。でも一つ言っておくと――」
「マナ使う量が多すぎ! もう少しでムニンの事バレるかもだったんだよ!?」
「それはマナの使い方が荒いからさ。どうせ興奮してバカスカ使ったんでしょ」
「~~~ッ!」
プゥー、と頬をふくらませるムニン。
「図星か......」
「でもでも! ママが作ったいつものヤツだったら、もっと使えるもん!」
「あれは簡単に壊れないようになってるから、マナを中で循環させられる。でも今回、キミは『簡単に壊れるものを作ってくれ』ってお願いしたよね。それだと周りに発散するマナも増えるんだよ。それぐらい知ってるでしょ」
「もー、フギンったら偉そうにして!」
本を投げ捨てるムニン。
だがその本は数回宙で回ったかと思うと、歪んだ空に受け止められる。
その歪みは手の形をしていて、フギンの近くまで真っ直ぐ来ると本を手渡した。
それを他所にギャイギャイと騒ぐムニンを見て、フギンは呆れ顔を作る。
「ママ、何か言ってよ。ボクの正論が届いてない」
「うーん、まあ......。でも、フギンもムニンも頑張ったんでしょ? ママはそれで嬉しいから。ね、怒らないで?」
「む~」
レイヴンが良い子良い子とムニンの髪を優しく撫でると、ムニンの表情にも笑顔が戻って来る。
「それで、見て来てどうだった?」
「うん、あのニンゲン面白い! ムニンがイタズラするとね、ビックリするの!」
「そうなの。何か気になる事は無かった?」
「うーんとね……あ! 紙に書いてあった感じより、マナを使うのが上手だったかも? ねえねえ、何で?」
「――あの娘を通じて組成式に干渉してるから、じゃないの」
本を閉じ、フギンが会話に割り込んだ。
確信を持っているようなその表情を、レイヴンはじっと見つめる。
「そうかもしれない。元々、あの子にはオドが変質しないよう、兄妹を繋げる楔が打ち込んであった。けれど、今はその楔が逆向きに作用して、兄があの子に眠る力に働きかけ、間接的に組成式に干渉......マナの操作力を上げているのかも」
「可能性として無くはない、と思うよ」
「その通り。フギンは賢いのね~」
「やめてよママ。これじゃムニンみたいだ」
頭を撫でられ剥れた声を出すフギンだが、その表情はまんざらでも無い様子。
「何その言い方! ムニンの事バカにしてるの!?」
「今更気付いたの? バカは風邪に気付かないって言うけど、バカだって事にも気付かないんだなー」
「何よぉ、もおお!!!」
「こらこら、二人とも! ちょっと!」
取っ組み合いの喧嘩を始めるムニンとフギン。それを止めようとするレイヴン。
一方は知識を運び、またある一方は知識の泉水をその身に取り込む。
それを手掛かりに、世界を識る者は今を捉える。
――全ての答えは、ここで導き出される。




