表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんな異世界、お兄さんは認めません!  作者: アカポッポ
第二章 受難のBランク試験
36/146

Part13 『ゴメン』『ありがとう』

前半、残酷な表現があります。

苦手な方はご注意ください。

 不意に俺の足首を掴んだ魔物はゆっくりと起き上がり、俺を持ち上げる。

 宙釣りになりながらも、俺はその姿を視認した。


「ゴ、ゴーレム!?」


 石で出来た頑強な身体を持つ魔物の体長は、ゆうに3メートルを超す。

 自らの領域を侵犯した者を破壊する、山の番人。

 だが本によれば、その出現域は亜人が住まう山奥。こんな所に出れば大騒ぎになるほどの魔物だ。


 何でこんな魔物がこんな所に……そうか、『魔物の増加』! 

 でも今はそんな事を考えてる場合じゃない!


「くっ、このっ!」


 両手から炎を出して抵抗するも、効いている様子はない。なら――


「<膨張し爆ぜさせる熱の作用よ その理 この身に集い 我が標的を破壊せよ>ッ、<バースト>!」


 運が良かった。

 俺の放ったバーストはゴーレムの手首に命中し、一部を破壊する。

 離された俺は、ドシャリと音を立てて2メートルほどの高さから地面に叩きつけられた。

 咄嗟(とっさ)に身体を丸めたため頭は大丈夫だったが、代わりに落下の衝撃が肩の一点に襲いかかる。


「ツッ、ア゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛!!!」


 肩に加わった衝撃なのに、痛みが脳を揺さぶる。

 痛い、痛い、痛いッッッ!!!

 でも今は我慢して――


 立ち上がろうと。そう思って前を見た時。

 目の前のヒュージ・スライムが、将に今覆いかぶさらんと――


 その時、後ろから光が差した。


「<水面(みなも)を揺らす波の力よ その理 この身に集い 我が障壁を押し倒せ>、<ビロー・プッシュ>!」


 酸で溶かそうとしてきたスライムとゴーレムを、突如出現した波が押し込む。


「リーシャ!」

「お兄さん、早く!」

「あ、ああ、~~~ッッツ!」


 駆け寄ったリーシャの手を取ろうと肩を上げた瞬間、針が突き刺さったような痛みが襲う。

 気付けば、脂汗が吹き出ていた。


「! 骨が......!? <我が身に宿る温もりよ その心 傷付きし身体に 癒やしの力を与え給う>、<ヒール>!」

「ッ!?」


 リーシャが魔法を発動した一瞬鋭い痛みが走るが、直後に鈍痛がピタリと止んだ。


「痛みが......消えた!」

「ボッとしてちゃダメです、早く立って下さい!」

「ああ、分かった――」


 差し伸べられたリーシャの手を掴もうとした、その直後。

 投槍の一撃が俺のこめかみを(かす)め、リーシャのか細い右腕を(えぐ)り・断ち切った。

 天井からぶら下がるハングド・ストーンを、ゴーレムが投げ飛ばしたのだ。


 俺が掴んだ手は胴体と切り離されてダラリと垂れ、千切れた腕の先端と肩口から鮮血が噴き出す。


「リーシャぁッ!」


 崩れ落ちるリーシャの身体を抱きかかえる。

 噴き出す血は、一向に止まる気配を見せない。

 ヤバイ、ドウスレバ イインダ、ナンデ コウナッタンダ、チガ トマラナイ、ハヤク トメナイト、ドウヤッテ トメルンダ、ナニシテルンダ オレハ、ハヤク シナイト、シンデ シマウ、チガ チガ チガ、ドンドン ドンドンドンドンドン


「うでを......も、って、ここから......離れて」


 ゴーレムが、起き上がる。


「ぅあ、あああ......っ、あ」


 地鳴りを上げ、こちらに近付いて来る。


「お兄、さん! はやッ......クっ!」

「!」


 弱い音を立て、リーシャが左手で俺の(ほお)を叩いた。

 その気力に、力強い眼差しに、混乱しかけていた思考がやや冷静さを取り戻す。


「ッ~~~!」


 傷に(さわ)るやも、などと言う考えは浮かばない。

 掴みかかろうとしたゴーレムの手をかわし、一目散に逃走する。


「も、う、大丈夫です。降ろして......」


 気付けば、リーシャを抱えたまま数十メートルを走っていた。

 眼差しこそ力強いが、顔は蒼白になっている。


「ポーぉチ......の中に、補填(ほてん)材があります。それ、を......」

「! わ、分かった! すぐに取り出す!」


 リーシャのポーチの中から、生分解性のバリアフィルムに包まれた赤黒い塊を取り出す。

 これが補填(ほてん)材と呼ばれるものだ。

 如何に治癒魔法でも、質量を増やせはしない。

 だから、肉が削げたり大量出血するほどの怪我をした場合、擬似的な血肉を使って不足を補う。


「腕を、当て、てください」

「こ、こうか!?」

「ゥッ......ちょっ、とだけミギに回して......ァ゛ァ、ウッ」


 千切れた腕を傷口に押し付け、回す度にリーシャがうめき声を上げる。

 自分はリーシャを助けようとしているのか、痛めつけているのか。それすら分からない。

 目の前の光景から目を背けない事で一杯だった。


「それ......で大丈夫で、す」

「分かっ、た」

「......<我が身に宿る......温もりよ......

 その心 傷付きし、身体に...... 癒や、しのチヵラを与え、給う>......<ヒール>......」


 断たれた骨が結合し、血肉で埋められていく。


「ウッ、クッ......」


 骨や神経、筋肉が再度繋がる痛み。それに、細い砂利が体内を突き破りながらヒリ出される。

 骨折の時のものとは比べ物にならないはずだ。


「ァ、......はぁ......」


 治った。


 穴が空き、血で汚れた服以外は全て元通りだ。

 良かった、良かった、なんとか間に合った。

 悪夢のような時間から開放され、全身が弛緩(しかん)していくのを感じる。


 立ち上がったリーシャはと言えば、身体に異常が無いかを確認している。

 と。


「お兄さん?」

「あ、れ......?」


 安堵で気が緩むのと同時に緩みだす、別の所。

 俺の目から、大粒の涙が溢れ出した。


「もう私は大丈夫なんです。 早くしないと――」

「ゴメン............」


 何故涙が出て来るのか。

 それを理解する前に、謝罪の言葉が漏れていた。


「ゴメンッ、ゴメンッ、ゴメン ゴメン ゴメンッッッ......! 俺の、せいで......!」

「お兄さん......」

「ゴメン............」


 論理的な説明なんか押し退けて、ひたすらに謝罪の、後悔の、懺悔(ざんげ)の念が湧き出してくる。

 (ゆる)してくれ、という言葉が浮かんでは、それに自責の念を感じてまた涙を流す。


「お、俺がッ、俺が一人で突っ込んだばかりにッ......! 約束を守らなかったばっかり、にッ! こんな、こんなァ!」


 一人で格好良く終わらそうなんて、考えなければ良かった。

 リーシャが担当したルートに入って出迎えて、二人で向かえば良かった。

 急いでいるならちゃんと事前に話して、その上で攻略に挑めば良かった。


「全部、全部、全部ッ! 俺の、せいだ......!」


 こうしている間に時間は経っている。新しく魔物が湧いて、攻略し辛くなっているかもしれない。


 それでも、謝罪し続ける事しか出来なかった。

 嗚咽(おえつ)を漏らして涙を流し、自分より一回り、二回りも小さな子供に泣き付く事しか出来なかった。

 

 それ以外に、何もしたく無かった。


「お兄さん、こっちを見てください」


 どんな顔をしているのだろう。

 きっと、情けない俺に対して失望の表情を浮かべているに違いない、そう思った。


 だが、頭を上げてリーシャを見た時。

 その顔に浮かんでいるのは、笑顔だった。


 偽りの無い、一片の曇りも無い笑顔。


「私、怒ってなんか無いですよ? それとも、涙で見えないですか?」

「でもッ、俺のせいでリーシャは......酷い、目に......!」


 変わらず嗚咽(おえつ)を漏らす俺に、リーシャはふふ、と声をこぼす。


「嬉しかったんです、あの時。もう諦めるしかないのかな、って思ってたBランクの試験に、お兄さんが一緒に出る、って言ってくれて。それだけで、私はお兄さんにありがとう、って思うんです」

「リー、シャ......」


 心の底から溢れ出るような笑顔に、心の()もった感謝の言葉。

 (ゆる)してくれる(はず)が無い、そう思っていたのに、俺の方まで笑顔になる。


「......そう、いえば......あの時のリーシャ泣いてたっけなッ……は、はは……」

「! い、今そんな事言わないでくださいっ......」


 そう言って赤面し、顔を反らすリーシャはとても愛らしく見えて。

 コホン、とわざとらしく咳払いしてから、再び柔らかな笑みを浮かべる。


「あと、私こそお兄さんに謝らないと」

「?」

「初めてお兄さんに出会った時、道に迷ってなかったんです」

「どう言う……事だ?」

「地図見て町の中歩いてるのを見て、あの人冒険家とか目指してるのかなー、もしかしたらBランクの試験を受けに行くのかなー、もしそうだったら一緒に受けてくれるといいなー、って。自分でも、都合の良すぎる流れだと思いましたけど。それで迷子の真似をして近づいて。ね? 私、悪い子なんですよ?」

「............」


 えへへ、と照れ臭そうに笑うリーシャ。


「だから、そんなに泣かないで? お兄さんの格好いい顔が、涙でしわくちゃですよ?」


 絹のように滑らかな手が、涙を優しく拭う。

 目の下に溜まっていた涙を拭い去れば、もう涙は出て来ない。


「ああ......そうだな」


 顔に残った温もりを感じつつ、俺は立ち上がる。


「悪いな、格好悪い所見せてさ」

「そんな気合入れなくて大丈夫なんですよ?」

「え? あ、ああ――」

「ふ、ふふふ......」

「あっ、笑ったな!?」

「はい、笑ってます。ふふふ......!」

「ははは......!」


 二人揃って、大きな声で笑う。 

 しんみりした空気を取っ払おうと、時々むせつつ。大きな口を開けつつ。


 きっと、試験中にこんなに笑ってる奴なんて、他に居ないんだろうなぁ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ