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こんな異世界、お兄さんは認めません!  作者: アカポッポ
第二章 受難のBランク試験
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Part11 侮るなかれ

「〈エクスプロージョン〉!」


 頭上で発動した術式から光がほとばしり、地上を暴風と灼熱が襲う。

 エクスプロージョンは火属性・爆発系統の中級魔法だけど......まあ、相手が視認出来ず、かつ人の居ない方で発動させたし。

 ルールには抵触しない......と思う。多分。


 耳を抑えて姿勢を低くし、爆発の余波が収まるのを待つ。やはり、熱くない。

 土煙が晴れると、群立していた壁の数々は殆どが吹き飛び、フィールドの端に(わず)かに残る程度となっていた。

 更地にあるのは俺と、そしてヤイバの姿だけ。


「いきなりびっくりしたぁ。壁ごと吹き飛ばすなんて、ヤイバじゃなかったら失格になってたかもだよ?」

「相手がヤイバちゃんじゃなかったら、こんなコトしないって」

「どうしてこんなコトしたの?」

「不意打ち出来なくする為だよ。それとも、お兄ちゃんと正面から向き合うのは恥ずかしいってか?」


 見栄を張り、余裕そうに振る舞ってみる。ポカンと口を開けてこちらを見るヤイバ。

 ――そして、顔を両手で覆って笑いだした。


「ふ......クク、アハハハハハハ! ホント、ホントに愉快なニンゲン!」


 ケタケタと笑ってから、ヤイバは左手を口の横に当てて右手を頭上で振り回し、遠くにいる省吾さんに呼びかける。


「おじさーん、あのねあのね?」

「うん? どうかしたのかな」

「お兄ちゃんがヤイバに向かって魔法使うのをね、許して欲しいの!」

「うーん、悪いけどそれは......」

「大怪我しない為のルールなんでしょ? だったら、ヤイバがどんな攻撃を受けても大丈夫ならいいよね?」

「それならまあ......。でも、ハルト君に大怪我させないようにね?」

「はーい!」


 クルリ、と俺の方を向くヤイバ。


「さァお兄ちゃん、ちょっと遊んであげる!」


 その表情はこれまでとは違う、でもある意味子供らしいもので。


「殺す気でかかってきてねっ♪ じゃないと......つまらないかラッ!」


 まるで虫に洗剤をかけ、そのもがく様を愉しむ子供のような。

 純粋な好奇心が作る、歪で残酷な笑顔だった。


 あ~、これ変なスイッチ踏んだな、なんて


 ――迫


 [ギィン]

「ぁガッ!?」


 一瞬の出来事だった。

 数回、砲弾が地面を抉るような衝撃が走ったかと、そう思った時にはヤイバの姿が肉薄していた。


 俺が反射的にエルゲージを出したのは『殺す気でかかってこい』と言われたからか、それともあまりの速さに恐怖を感じたからか。

 しかし俺が出したエルゲージを、ヤイバは強い踏み込みと共に自らのエルゲージを薙ぎ払い強く弾いた。


 電流が走ったような強い振動が、手の平から右腕の付け根までを貫く。

 握力が抜け、エルゲージはそのまま明後日の方向に弾き飛ばされる――


「な、何これッ!?」


 かと思ったかいお嬢ちゃん!


 エルゲージは俺の手から離れていなかった。

 いや正確には、弾かれたエルゲージの付け根と手の平から出したマナを鎖のように繋げておき、手を離しても大丈夫なようにしていたのだ。

 そして紐のように軟化させたエルゲージは勢いよく伸びていき、ヤイバが振り払った右腕にグルグルと巻き付いた。


「このっ!」

「おおっと!」

「えっ......キャア!」


 右手を強く振り上げるヤイバ。

 きっと、俺ごと振り回そうとしたんだろう。結構恐ろしいコト考えよる。

 が、これは通常の紐とは違い、いくらでも伸びる紐だ。振り回した所で、俺自身は動かせない。


 そして一緒に俺の右腕を振り上げてやれば、紐はヤイバの身体の左側まで回り込む。

 右手を振り下ろせば紐が絡まりスッテンコロリ。

 モチロン長くは持たないだろうが、ここまで無防備な状態ならペイントボールを当てるのには充分。

 ボールを取り出して......あ、右手の握力がお亡くなりしてる。マジか......

 じゃあ左手で。


「ホイッ」


 俺が投げたペイントボールは、ヤイバの横腹に紅い華を咲かせる。

 プラス10点、総計でプラス5点だ。


「な、何で......」

「何でもなにも、流石の俺でも気付くよ。風属性での空中移動に、3メートルの高さからの飛び降り。どっちも、身体へ結構負担があるはずなんだ」


 風属性の魔術で宙を移動するのは、俺も以前森の中で経験したが、アレはかなり身体に来る。

 大の大人にタックルされたような、そんな衝撃が身体を走るのだ。

 そうやって飛んでいる中、更に空中で方向転換しようものなら、身体への負荷は相当なもの。

 にも関わらず、ヤイバは平然としていた。


 加えて、3メートルもある壁から平然と飛び降りられる身体の強さ。


「あと、男子高校生ぐらいの年齢と筋力が同じって、それ十分おかしいから」


 空中移動や壁からの飛び降りは、痛くても我慢しているだけの可能性が残る。

 しかし、初めてエルゲージを交えた時、力で押し返す事が出来なかった。

 筋力で均衡しているとなれば、もう他に選択肢は無い。


「無属性魔法の身体強化系統、<ブレイブ・マッスル>と<スピリット・アーマー>だろ?」

「!!」


 身体強化系統の魔法はいくつかあるが、その中で<ブレイブ・マッスル>は筋力増強、<スピリット・アーマー>は身体強靭化の魔法だ。

 マナの瞬間出力が大きい術者であれば、女性でも大柄な男性に腕相撲で勝てるほどの筋力や、ボクサーのパンチに耐えられるほどの頑強さを得られる。


「隠れる場所が無い状態でまだ短期決戦に持ち込むなら、身体強化のゴリ押しに切り替えてくるだろうな、って賭けてたんだ。あ~、やっとプラスだよ。ヤレヤレ」

「そ、そんな......」

「フッフッフッ、悔しいかね? 残念でした、お兄さんを舐めすぎたねぇ!」

「う......」


 う?


「うわあぁぁぁん!」

「イ゛ッ!?」

「ああぁぁん、お兄ちゃんが、おにいちゃんがいじめてくるぅ~~~!」

「チョ、殺す気で来いって言ったのは誰だ!?」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!」


 それこそ子供のように大声で泣き出すヤイバ。

 ヤバイ、なんか急に罪悪感が......


「何があったんです!?」


 と、そこに駆け足で省吾さんが近付いてくる。


「いや、ヤイバちゃんが泣き出しちゃって......」

「泣き出した、って――」


 スッ、と足元に視線を落とす省吾さん。

 そこに転がるは、脇腹にペイントボールを投げつけられ、簀巻(すま)きにされて泣きじゃくる幼女。

 そして俺に向き直った時の省吾さんの表情は......凄く冷めた目になっていた。


「ハルト君、キミってやつは......こんなに小さな子になんて仕打ちを......」

「いやっ、違わ......ないですけど!」

「何か言い訳でも?」

「ッ、それは......」


 [べチョリ]

 

 え、べチョリ?

 左足首を伝う、このほんのり冷たい感覚はもしや――


「あっ!?」

「フッフッフッ......」


 気付いた時にはもう遅かった。

 簀巻(すま)きのままヤイバは、左手首のスナップを効かせてペイントボールを俺に当てた。

 俺の視線が省吾さんに反れていた所を、ヤイバは見逃さなかったのだ。


「くっ、この――」

「ハイそこまで」

「い、イジメじゃないですよ! 今は試験中――」

「その試験時間が、たった今終わったんだ」

「ヘェッ!?」 


 え、じゃあ何? 泣き出したのは俺を油断させる為で、ペイントボールを投げつけたタイミングは試験時間終了ギリギリを狙って!?

 どこまで抜け目無いんだこの子!?


「お兄ちゃんったらお間抜けさん! ......グスッ」

「いやまだグズっとりますがな! 決まってないって!?」

「えへへ......」


 その後、ヤイバの拘束を解いてやる。

 立ち上がったヤイバは服に着いた土埃をパンパンと叩き落とし、涙を拭いて俺と向き合う。


「えーと、それじゃあ第二試験を終了させるけど......ヤイバちゃんから、何か伝える事はあるかな?」

「えっと......楽しかった!」


 いかにも小学生らしい感想を口にするヤイバちゃん。なお、目に光は無い模様。


「あ、そうだ! お兄ちゃん、おてて見せて!」

「ん? こう?」

「ぱーん!」

「痛って!」


 差し出された俺の手を、ヤイバは小さな手の平を被せるように叩く。

 小学生の時、『もみじまーんじゅう!』って言いつつ相手の手のひら叩く遊びあったじゃん?

 アレアレ。結構痛いんよな。


「なんだコレ?」


 と、ヤイバが手を離すと、バーコードを円形に幾層にも重ねたような、複雑怪奇な模様が手の甲に出来ていた。


「魔物がお兄さんを襲うようにする、コダ......じゃなくて、おまじない!」


 何その謎なおまじない。でもそうか、第三試験は魔物との遭遇戦があったっけ――


「ん?」


 などと考えながら叩かれた右手を押さえつつ、ヤイバの方へ向き直ったその時。


 目の前の光景に、何か違和感を感じた。

 ヤイバの顔が掠れて見える......?

 と言うよりもこれは......俺の目の前に立っているのは一体――


「ビターン!!!」

「グワーッ!?」


 等と考えながら眉間にシワを寄せ、ヤイバの顔を覗き込むように見ていると、今度はビンタが飛んできた。

 特に理由のない暴力が俺を襲う!


「痛ったたた......アレ?」

「どうしたのお兄ちゃん?」

「人にビンタしておいて『どうしたの』は、お兄ちゃん的にナイと思うんだけどな......」

「?」

「いや、何でもない。気のせいみたいだ」

 

 再びヤイバの顔を見てみると、今度は異常無し。

 何だったんだ、一体。

 そのヤイバは、いたずらが成功して喜んでいるのかニンマリと笑っている。

 

「じゃあ、またあそぼーねー!」

「もうコリゴリだっての!」


 そして上機嫌そうに身体を翻し、俺に向かってブンブンと手を振りながら去って行く。

 子供らしく元気いっぱいに坂を下るその姿は、直に見えなくなった。


 こうして、めちゃんこ強いロリっ子との二次試験は幕を閉じた。

 ......いや、結局マイナス5点だよ! 合格出来るのかコレ!?

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