Part10 ぅゎょぅι゛ょっょぃ
第二試験が、いよいよ始まった。
まずは残りのペイントボールの回収だ。
ボールが無ければ折角のチャンスも意味が無いし、ヤイバとはまだまだ離れているから直ぐには遭遇しないはず。
「急がず焦らず~♪ 参ろうか~♪」
やや速足ぐらいの速度で歩く。
二か所の内、近い方の設置箇所は歩いて10秒ほどの距離だ。
全力では向かわない、他の事に気を逸らせるよう――例の妹パワーを発動出来るぐらいで歩く。
存在が判明した後も、何十回と発動させた妹パワー。その中で分かったのは、発動にかかる時間がおおよそ20秒と言う事だ。
これは結構長く、本を見ながら中級魔法を発動できるほどの時間。
敵に接触してから発動するようでは遅いのだ。
逆に言えば、余裕のある内に発動しておくのが吉って訳で。
試験だとスタート時お互いの距離も離れているから、これほど使いやすい環境も――
「みーつけた♪」
声だけが降って来た。何の前触れも無く、突然。
振り返る俺の視線と、宙を舞うヤイバの視線が合い――
次の瞬間、ヤイバが空中で軌道を変え、俺の胴めがけて突っ込んで来た。
「ッッッ!?」
重心を変え、間一髪でペイントボールを握った右手をかわした。
ヤイバはやや離れた位置に、身体を回転させて受け身を取りながら着地する。
ちなみに、ボールを投げずに身体ごと突っ込んで来たのは、ボールを無駄にするのを避けるため。
投げると相手に弾かれるからだが、その辺りはこの子も理解しているようだ。
「アハハ、避けられちゃった!」
立ち上がり、俺の方に向き直るヤイバ。
「でも、今度は逃がさないっ!」
走って向かって来るヤイバの手には、エルゲージが握られている。
相手に魔法向けるのがNGなだけで、スキル向けるのは禁止されてないもんなっ!
ならこっちも――
「わあ、凄い炎!」
手から盛大に炎を出して緊急回避。
燃費がちょいと悪いが、20秒経つまで今は全力で足止めだ。
「じゃあこっちも!」
風で吹き消すつもりだろうか? でも一点に穴を空けたところですぐ埋まる――
「やあ!」
そうしてヤイバの手から放たれるのは水の塊。って、水だと!?
俺の炎が一瞬にして飲み込まれ、地面が水で濡れ、大量の水蒸気が周囲を包む。
視界が白く塗り潰され、ヤイバの姿を隠す。
次は、どこから......?
[ピチャピチャッ]
右前方から水のはねる音。サッと杖を右手に構え、突進に備え――
た所で、蒸気を押し退けながらヤイバが突っ込んで来た方向は真左だった。
しまった、さっきの音は右に意識を逸らす為のフェイクか!
[キィン!!!]
「!!」
と言うとでも? その手には乗らんっ!
驚きを露わにするヤイバ。突進してきたヤイバのエルゲージを、瞬時に俺の左手から直接出したエルゲージが受け止めていた。
そう、もう20秒経っている。
妹パワー、発動!
「熱っ!」
ふはは、灼熱の刀身は熱かろう。
炎を前に、ペイントボールを投げる余裕はないだろうて。
一度後ろに下がってから地面に風を放ち、飛び退くヤイバ。そこに炎の玉を飛ばして追撃する。
ちなみにこの試験、周りに治癒魔法使いが待機している。なので多少の火傷は許容内だろう。
でもまあ実際は――
「えいっ!」
近づいた火の玉を、ヤイバが水属性のスキルで打ち消した。うんまあそうなるわな。
再び発生する水蒸気。が、ここで俺はペイントボールを持つ右手を振り上げる。
水蒸気で視界が奪われているこの状況、突然ペイントボールが現れたなら流石に――
「うわっと!」
投げようと左脚を踏み出した瞬間、ズルリと足裏が滑る。
焦って左脚を上げると今度は右脚が滑り、そのまま重心が崩れて転倒した。
「イッツツツ...... !? 冷たっ!?」
氷!? いつの間に――
[ヒュン ベチッ]
「!!」
気が動転して生まれた隙。
そこを的確に狙われ、気付いた時には脇腹に赤い跡が付いていた。
赤のペイント。マイナス10点だ。
「クソッ!」
悪態をつきながら周囲を見渡すも、その頃にはヤイバの姿は消えていた。
完全に当て逃げされてしまったようだ。
少し経つと、足元の氷が塵のように消えた。
俺の炎を掻き消す時に出した大量の水。
それを、接触した時か、あるいは飛び退いた時に冷気を出して、それで凍らせたんだろう。
「してやられた、ってコトか」
瞬時にあの量の水を出せるとは、中々の出力レベル。それに加え、常に相手の隙を突こうとする抜け目の無さ。
......やっべぇ、勝てるのかコレ。
点がマイナスにならないようにするだけで一杯一杯だな、こりゃ。
「って、考えてる場合じゃねぇ! 急いで残りのボール回収しないと!」
一個はここのカドを曲がってすぐの所だ。
急がないと――
「焦りは禁物だよっ、お兄ちゃん♪」
死角に隠れていたヤイバ、その囁き声がすれ違いざまに耳を擽った。
マズ――
背中を冷や汗が伝うよりも早く、別の冷たい感触が押し付けられた。
青のペイントが、背中のど真ん中に跡を残す。......マイナス5点。
「クッ!」
踵を返して逃げるヤイバにボールを当てようとするが、流石に正面からでは当たってくれない。
「今はボールないから、また後でねっ!」
そう言って、文字通り風のように去っていくヤイバ。
嵐が過ぎ去った跡には......
「踏んだり蹴ったりだな、ハハ」
自分用のペイントボールが、割れて落ちていた。
「ダァーもうクソッ! なんだあのロリっ子は!」
ムシャクシャして叫んでみるも、壁に当たった声が虚しく響くだけ。
一度大声を出すと、沸々と湧き上がった感情も収まる。
「......次行こう、次。『ボールが無い』ってさっき言ってたし、すぐには襲ってこないだろ」
それも嘘って可能性もあるけど、もしそうなら......うん、その時は諦めよう。
自分よりずっと年下の子供にコテンパンにやられると、結構凹むなぁ。
トボトボと歩いて次の点に向かうと、ペイントボールが地面の上に置いてあった。
今度は無事みたいだ、良かった良かった。
「さて、こっからどうしますかねぇ」
ちょいと作戦を練る......その前に、相手の特徴を整理しておこう。
使ってくる属性は水と風。そして、複合属性の氷も当然のように使ってくる、所謂“キメラ”の子だ。
複合属性は両属性のマナをバランス良く混ぜる必要があると聞くから、操作力のレベルは高いハズ。
そして、空中を飛び回れるほどの風を起こし、俺が出した炎をいとも簡単に揉み消したから、瞬間出力のレベルも相当高いだろう。
「マナ生成力のレベルも......高いよなぁ」
一般的に、瞬間出力のレベルと生成力のレベルは比例する、らしい。
例えば、体内にあるマナが50だとすると、100のマナを一度には出せない。
逆に体内のマナが多ければ、それだけ一度に体外に押し出せる量も多くなる、という話だ。
俺のように二つのレベルがほぼ近い場合もあれば、瞬間出力のレベルが低い場合もある。が、その逆はない。
「つまり、全部のレベルが400以上ってコトか? ハハ、何その無理ゲー」
まあ試験官だから、受験者より実力が上なのも変じゃないんだろうけどさ。
だからと言って、このままコソコソ隠れてやり過ごすのはナシだ。
現状、ハンデも加味してマイナス5点。
筆記試験の出来には自信があるが、満点は期待しない方が良い。
仮に35点だったとすると、ここでマイナス5点されて、次の試験では30点満点を取らないと合格できない計算に......それは余りにもキツイ。
なんとかして挽回しないと、ここで不合格になったらリーシャに顔向け出来ない。
真耶にまたイジられるのもゴメンだしな。
「何処に居るか知らんけど、取り敢えず動くか」
足音を立てないよう、ソローリ、ソローリ。
無策で動くのは危険だが、試験時間が残り半分を切っている今、タイムアップも気になるところ。
しない後悔よりする後悔、だ。
そろそろ、ヤイバのペイントボールが設置された場所――つまり、相手の陣地に差し掛かる。
また物陰から現れるかもしれんしなぁ、まず顔だけ出して――
刹那、突風に背中を押された。
「ッ!?」
揺れる意識、崩れる姿勢。
踏ん張ろうと足を踏み出すと、足元から眩い光が溢れ出た。
光が形作るは魔法陣。中央には水と風の紋があるから、これは――
「足がッ、動かないッ!!」
範囲内の地面を瞬時に凍結させる、水・風属性の複合魔法<コールド・ロック>。
まるで鉄板に引っ付いたネオジム磁石の如く、俺の足裏はピクリとも動かない。
「かかったねッ、お兄ちゃん!」
獲物を刈り取ろうと、捕食者が現れる。
こう来る事は容易に想像が付いたが、もし顔から突っ込んでいたら対応出来なかっただろう。
「<糧を喰らいて広がる炎よ その理 この身に集い 地上を灼熱で覆い給う>、<インフレイム>!」
物陰から現れたヤイバの姿は、接触するまで五秒ほどの距離だった。
心積もりが出来ていたお陰もあり、素早く反応した俺は詠唱を完了させる。
足元に向かって放った炎は瞬く間に燃え広がり、氷を溶かし尽くした。
俺の体については......やっぱりアタリだ、妹パワーのお陰で熱くすら思わない。
そして間一髪の所で体を捩り、ペイントボールを握るヤイバの手を避ける。
「ッ! このッ!」
お返しとばかりに振り向き様にペイントボールを握った腕を伸ばすが、ヒラリとかわされてしまう。
「あははっ! 楽しいねっ!」
「こちとら必死なんだっての!」
「あははははは!」
笑い声を上げながら離脱するヤイバの行く手を、ステッキの先から伸ばした炎で遮ろうとする。
が、風で飛んで行く方が早く、またもみすみす逃がしてしまった。
「あー、また逃げられた」
ホント逃げ足早いなぁ。
襲撃から逃走まで30秒足らず。
これじゃあじっくり戦闘することなんで出来そうにない。
「にしても、なんで奇襲ばっかりなんだ?」
おちょくってるだけ、という可能性もある。
でも、仮に全てのレベルが俺より高く、なおかつ戦闘センスも優れているのだとしたら?
奇襲も良いが、正面から一方的に叩きのめすのも快感なんじゃないか?
「それをしないってコトは......持久戦が苦手ってコトか?」
理由は分からない。でも、今はその可能性に賭けるしか活路はなさそうだ。
残り時間は二分ほど。幸い、二分程度なら持つ持久力はある。
相手の土俵で戦うんじゃない、自分の土俵に引きずり込むんだ。
コソコソ隠れて奇襲をされれば、持久戦に持ち込む事はできない。
逆に、隠れる場所を無くしてしまえば、正面からの殴り合いに持ち込める。
周りを見れば壁、壁、壁。
フィールド全体がこうという訳じゃないが、一部でも隠れる場所があればそこで待機されてしまう。
――よし、決めた。
「<火の力よ その熱の作用の源よ 我に力を貸したもう」
口を開き、静かに・それでも確かに詠唱を始める。
「我が求めるは爆発なり 全てを破壊する爆裂なり」
フィールドが障害物だらけ? なら障害物を吹っ飛ばせば良いじゃない。
「炎の脅威を体現し 地上の象を爆破せよ>」
壁なんか怖かねぇ! 野郎ぶっ壊してやらあ!
「<エクスプロージョン>!」




