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こんな異世界、お兄さんは認めません!  作者: アカポッポ
第二章 受難のBランク試験
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Part9 第二試験、開始

「......ハッ!」


 気が付くと、俺は椅子の上に座っていた。

 周囲に目を向けると、いくつかのテントと長机、パイプ椅子が目に入る。

 ここが第二試験の待機場所だろうか。だとすれば、かなり簡素な作りだ。

 さっきのリーシャの話からして、しっかりした建物を建てても魔物に壊されるからだろうか。


 さっき......? 何だろう、頭の中がモヤモヤしていて、直前の出来事が思い出せない。


「あ、お兄さん気付きました? 良かったです」

「ああ、リーシャか。なんかボンヤリしてたみたいでさ」

「凄く疲れたお顔をしてたので......。あの、コレ食べますか? 身体動かすからお腹減るかと思って、持って来たんですけど」


 リーシャが差し出したのはクッキーだ。

 小さな包みにラッピングされて、可愛らしい見た目をしている。

 それにしても、相変わらず気の利く子だなぁ。

 

「ありがと。......うん、サクサクしててウマい」

「えへへ、ありがとうございます」

「これもリーシャの手作りなのか?」

「はい。昨日の夜作ったんです」

「この前作って来てたマカロンも美味しかったな。アリスの家でシェフやってる人も、小さな子供がこの出来の物を作るのか、って褒めてたよ」

「そんなに()められても......」

「リーシャって、お菓子作るのが好きなのか?」


 ピクリと動くリーシャの身体。あれ、ちょっと真面目モード?


「好きなんですけど、ポーション精製の練習でもあるんです」

「練習? お菓子作りが?」

「はい。ポーション精製は魔鉱石を粉にして、魔草の汁を使ってマナを抜き出して作るんですけど、量や混ぜ具合をしっかり観ておかないと良い物はできないんです。粘り気とか色とか匂いとか、色々気にする事があって大変で。混ぜ方にもコツがあるらしくて、お父さんは手首を回すように、って言うんですけど、私は力が弱いからそれは出来なくて......」


 ゆっくりとした口調ではあるが、ポーションの作り方を延々と話すリーシャ。

 こんな一面もあるのか。


「え、えっと......」

「あ、ごめんなさい!」

「いや、凄く頑張ってるのが分かるよ。つまり、ポーションの精製は分量や加減が重要だから、その眼を鍛える為にお菓子作りしてる、って事か?」

「はい、そうなんです......」


 少し恥ずかしそうに(うつむ)くリーシャ。可愛い。

 しかし、なるほどねぇ。

 そう言えば、以前ミヨが『お菓子作りは化学実験だよ』って言ってたな。


「次、受験番号26番、北条ハルト。C会場が用意できたので入るように」


 と、一区切りついた所で俺の順番が回ってきた。


「えっ、さっきまでお疲れだったのに......」

「ま、いいよ。ずっと緊張しながら待ってるのも、それはそれで疲れるだろうし。物は捉えよう、切り替えるしかないさ!」

「お兄さん、頑張って!」

「おう!」


 手を振るリーシャに、親指を突き立てて返す。

 まずは第二試験。ここで一定のラインを超えないと、第三試験を受ける事すら出来ない。

 ――つまり、リーシャを合格へと連れて行く事は出来なくなる。


「まずは小手調べ、ってコトか。いいさ、やってやんよ!」


 (ほお)をペシペシと叩き、俺は気合を入れて会場へ続く坂を登って行った。


 坂を登り切ると、見えてきたのは地面から無造作に伸びた壁の数々だった。

 幅は色々、高さも俺の身長の半分ぐらいの物から、見上げるほどの物もある。

 あと土壁だったり石壁だったり、所々穴が空いていたり。ちょっとした遺跡っぽい雰囲気だ。


 そんな群立するオブジェの数々を背に、一人の男性が立っていた。


「こんにちは。君が受験者の北条ハルト君で間違い無いね?」

「あ、はい。合ってます」

「初めまして。私はここで試験官を務めている木崎 省吾だ」


 そう言って、にこやかな笑顔で手を差し出す省吾さん。

 ちょいとヒゲを伸ばしたハンサムな顔立ちで、人当たりの良さそうな方だ。

 こちらも手を差し出し、握手をする。


「試験のルールは応募資料の通りだけど、目は通してくれているかな?」

「確か、制限時間内でのペイントボールの投げ合い......でしたっけ?」

「簡単に言うとその通りだね。制限時間は五分、ペイントボールの数はお互い三個。制限時間が過ぎるか、両者がペイントボールを使い切った時点で試験終了になる」

「そのペイントボールの実物は――」

「ああ、コレだよ」


 そう言って省吾さんが見せたのは、ガチャガチャのカプセル程度の大きさをしたボールだ。


「あ、今は渡せないからね」

「はい。マナを込めると色が変わるんでしたよね」


 このボールには、マナに反応する特殊なインクが使われている。

 マナを全く込めていないと緑色、少し込めると青色、多く込めると赤色に変色する、とのこと。


「緑色が1点、青色が5点、赤色が10点。で、自分の点から相手の点を差し引いた数字が試験の点数になる、と」

「その通り」


 例えば、俺が試験官に20点分のボールを当て、試験官が俺に5点分のボールを当てていたとすると、試験の点数は20-5=15点、となる。

 相手から一切ボールを喰らわず、こちらが全て赤色で当てると30点。


 ......もしマイナスになると、試験の点数からそのまま引かれる。

 また-11点以上になると、他の項目で満点だったとしても試験の合格ラインである60点には届かなくなるので、その時点で不合格確定となる。

 ここが第三試験を受けるためのラインだ。


「基本的なルールは理解してくれているようだね。あと禁則事項だけど、相手を視認出来る状態で相手に向けて殺傷力が高い魔法を使用しない事。その場で失格になるから気を付けて。それと、あそこの壁の向こうには壁を作る土属性使いさんが待機しているから、そっちは狙わないように」

「了解です」

「それじゃあ、そろそろ試験を始めたいんだけど......まだ来てないみたいだね」


 時計を見ながらキョロキョロと周囲を見渡す省吾さん。


「『来てない』って、誰がです?」

「いや、君の相手だよ」

「えっ」


 安心感持てるお兄さんで安堵してたんだけど、俺の相手はこの人じゃないのか。

 じゃあ一体誰が――


「アナタがハルトお兄ちゃん?」


 不意に、頭上から甲高い声が聞こえてきた。

 首を上に反らすと壁の上に幼女が一人、両手を横につけ足を組んで座っている。

 黒っぽい修道服のような変わった服を着ており、胸元には赤いペンダント。

 太陽を背に回し、地上まで伸びた陰が俺の顔を黒く塗っていた。


「い、いつの間に――って、おわっ!?」

「どうしたの、お兄ちゃん?」

「............」


 いやそりゃビックリするよ。

 三メートルぐらいの高さの壁から、ヒョイと飛び降りるんだから。 


「えっ、と言うかこの子が俺の相手なんですか?」

「ああ、特例措置でね。上層部が君に興味を持ったらしくって、『ただの試験は面白くない、是非そのパフォーマンスを存分に発揮して欲しい』と」

「はぁ......」


 あっけらかんと笑う省吾さんに、俺困惑。 

 この娘の襟元に小型カメラが付いてるのは、映像まで残して欲しいという事か。

 それにしてもこんなちっこい娘を寄越すとは、上層部も相当変わってるな。


「えっと、キミ名前は?」

「ワタシ、風霧(かざきり) (やいば)! えっーと、8才~!」


 うわぁ、リーシャより年下。ペドの一歩手前じゃないか。

 というかヤイバて。物騒な名前しよる。


「あの......ホントに大丈夫なんですか?」

「ああ。聞いた所によると、私より実力は上だそうだよ」

「マジですか......」


 省吾さんの話し方からして、マジだろうなぁ。

 まあ特別措置だの、パフォーマンスを発揮だのって事は、それだけの強者なんだろうけど。

 しかしこんな小さい娘がねぇ。リーシャといい、この世界のロリ強すぎません?


「でも、試験の公平性に問題あるんじゃ......」

「ああ、それについてはハルト君に10点加算された状態で始める、という事で折り合いが付いているよ」

「それなら、まあ......」


 一応ハンデもあるみたいだ。ちょいと気乗りしないけど、仕方ないか。


「ヨロシクね、お兄ちゃん!」


 そう言って、やたらに黒い瞳をこちらに向けて来る刄ちゃん。

 お日様の光を受けても髪が反射してないのは、気のせいだろうか。 

 無邪気な笑顔とのミスマッチ感が半端じゃなく、結構怖い。


「あ、それと! センジツはママがお世話になりました!」

「ママ......?」

「ううん、なんでもないの! じゃあオジサン、始めましょ!」

「分かった。それじゃ着替えてもらうから、脱衣ボックスの中に入って」


 そう言って、(そで)の長い簡素な白い服を渡される。

 これはペイントボールの色素に反応する服らしく、この服を着た状態で試験を受ける。

 よほどの高温でなければ燃えず、防水仕様で、汚れも洗い落とせばペイントボールの色だけが残る、との事。

 何で出来ているんだろうか。


 着替え終わると、C会場の地図とペイントボールを一個ずつ渡された。


「これが地図とボール。残りのペイントボールの位置は、地図にある通りだ」


 ちなみにこのペイントボールの位置、相手の分も書いてあるらしい。

 ......つまり、そう言うことだ。


「では、地図に示された定位置に移動するように」

「精一杯手加減するね、お兄ちゃん!」

「お、おう......」


 背丈と不釣り合いな発言に虚を突かれ、曖昧(あいまい)な返事を返す。

 

 自分が定位置に着いてから、相手の準備が終わるのを待つ。

 空を見上げてぼんやり待っていると、ここ二週間ほどの事が脳裏をよぎった。


 結構大変だったよなぁ。

 座学もしたけど、ちょっとした立ち回りとかも教えられてさ。

 あと、火属性の魔法を暗唱出来るようにした。 

 お陰で、中級魔法までならスラリと唱えられる程度にはなった。

 陣術までは手が回らなかったが、まあ出来る限りの事はしたつもりだ。

 その成果を、今、試す時。


 「それでは、始め!」


 この試験の本番――実戦試験が幕を開ける。

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