Part7 これぞ妹愛の成せる技!
「それで、ハルトはどこまで進歩したんですか」
「ウグッ」
ジョシカーイな雰囲気がひと段落した頃、真耶が爆弾を投下してきた。
くっそう、このままあやふやに流れてくれたら、リーシャにカッコ悪い所は見られずに済むと思ってたんだが......。
「だ、大丈夫。知識もしっかり身についてきたし」
「そうですか。で、実戦は」
「............」
「じ っ せ ん は」
「進捗駄目です申し訳ございません」
なんかイタズラがバレた子供みたくなってるんだけど。ツラタン。
「お兄さんはどこかで詰まってるんですか?」
「詰まっているっていうか......。マナのコントロールが上手くいかなくて、エルゲージが出せないんだよ。何かゴメン」
「そ、そんな。私だって苦手な事はありますし」
わぁい、10歳児にフォローされるとか新鮮~。
「あの、私がカバーするというのは......?」
「一人だとそうも行かないだろ? それに、自分より小さな女の子を前に立たせるとか、罪悪感がハンパナイ」
エルゲージは燃費の良い近接戦闘スキル。
だから二人組の場合、エルゲージが得意な方が前、魔法が得意な方が後ろというのが一般的だ。
ソースは参考書。
「う~ん......」
「いいよいいよ、そんなに考えなくても」
「でも......」
「リーシャさんのお気持ちは有難いですが、これは簡単には解決しない問題ですから」
「バッサリ言ってくれるなぁ、ホント」
言い返せないのは、真耶の言う通りだからだ。
一般的なテクニックは試したが、ある程度参考になっても劇的な改善は無かった。
近道なんてない、と言えばそれだけだが、試験まで残り一週間ほど。
実戦練習もしておきたいし、時間がないのだ。
「そう言えば、この前はどうしていたのですか」
「この前?」
「私達とハルトが最初に出会った日、強くなりすぎたトーチの明るさを調節して見せたでしょう。あの時はどうしていたのです」
「あー、あれは......」
さて、言っていいもんかね。
『妹の事を考えたら収まりました』なんて言えば、一般ピーポーはドン引きするんだろうなぁ。
「どうしました? 何か言っていただければ、ヒントになるかもしれませんが」
「いやー......どうしても言わないと駄目かね?」
「............」
ん、何だか恐い目つき。何をするつもりで?
ポケットに手を入れて? スタホを取り出し
――ってアレを再生するつもりかっ!?
「分かった分かった、言うから! それの再生はハズイから勘弁!」
「では、早く言ってください」
ぐうぅ、何かいつもに増して辛辣ですね。何かあったんですかい?
アレの事をちらつかされては、カミングアウトも止む無しだ。
ちなみに、アレとは技能センターで俺と受付さんがやり取りしたいた際の音声。
先日、エルゲージを出せずに気持ちがダレていた所を見た真耶が、スタホに録音しておいたその音声を再生したのだ。
屋敷中に響く音量で、『俺があの子を、リーシャを合格まで連れて行ってやんよ』と流された時は、穴に入りたいぐらい恥ずかしかった。
後でアイラさんにその事を聞かれて、ダブルで恥ずかしかった。
それを、もう一度リーシャの目の前でやろうとしたのだ。
やめてくれ真耶、その音声は俺に効く。
ま、それはさておき。
「じゃあ言うけど......笑ったりするなよ?」
「はい」
「その......妹の事を考えてたんだ」
「はい?」
「いやだから、妹の可愛い姿とか、戯れている様子とか、そういう」
「............」
マジ引くわー、みたいな顔をする真耶、とアリス。リーシャは困ったような顔をしている。
この反応、ドMなら喜んでるかもな。ハハ。
「つまり、妹の事を考えたらコントロール出来た、ってコト?」
「幼児趣味に加えてシスコンとは......」
「シスコンなのは認めるけど、ロリコン認定は取り下げて貰いたいんだが!? それに、コントロール出来たって言うのとは――?」
別物だと言いかけたが、実際どうなんだろう。
コントロールする力がない、と考えるのは時期尚早かもしれない。
うん、試してみるか。
東屋から出て、立ったまま目を閉じる。
想像しろ......
風呂上がり姿のまま、からかってくる妹の姿を。
起きたばかりでウトウトしていて、甘えん坊になっている妹の姿を。
親が出掛けて自分達でご飯を作らなければならない時、仕方ないなあと愚痴を溢しつつもエプロン姿で頑張る姿を。
そして出来た料理を褒めた時の、ニヤけと照れ臭さを隠そうとしている表情を。
イメージするのは、常に最高の妹だ。
「ん?」
暫くすると変化があった。
なんだろう、身体がふわふわするような感じか?
軽い、と言うほどでもないが、ちょっと不思議な気分。取り敢えず試してみよう。
「フッ――と、お?」
「あ、出来てる!」
さっきまでの苦労はなんとやら。
出ろー、みたいなアバウトな感じに意識を向けただけで、思った長さのエルゲージが杖の先から伸びていた。
火の粉を散らしながら輝く刀身。
元々物体では無いからか、重さは杖を握った時とほぼ変わらない。
木の棒を振り回す感覚で、振り下ろしてみたり、裏手で胸元に引き寄せたり、振り上げたり。
「火属性100%なんて見るのは初めてだけど、思った以上にこう、綺麗ね......」
「うん、何かサイリウム振ってるみたいだ」
「それにしてもハルト、熱くないのですか」
「えっ?」
言われてみれば、熱くない。
不完全なエルゲージなら練習途中に出来た事はあったが、その時は数秒ほど経つと熱を感じていた。でも、今は何ともない。
汗......もかいてない。刀身に左手を近づける。熱くない。
――もしかすると。
『「ちょっと!?」「!?」「お兄さん、大丈夫なんですか!?」』
「あ、ああ。大丈夫、みたいだ」
思い切って、燃え滾る刀身を握る。
が、全然熱くないのだ。手の平を確認しても、火傷している様子はない。
握る瞬間は結構冷や汗をかいたけど、まあそれぐらいだ。
「やべえなコレ、どうなってるんだ?」
「術者から出たマナが元になってる炎でも、握ったら火傷するはずなんだけど......」
「お父さんから聞いた事があります、『亜人や共鳴術師は自然の中にある風や炎を操り、水や土を動かす』って」
「え、じゃあ今のハルトは共鳴術師並のマナの操作力がある、ってコト?」
「火属性はより自然に近しい属性ですから、共鳴術も使いやすい。それに、ハルトは火属性100%ですし。それらの影響も大きいとは思いますが」
「お、おう......」
うっかりしてると会話に取り残されそうだな、ヤバイヤバイ。
共鳴術師というのは亜人と同様の魔術の運用方法が出来る者――つまり、実際に存在するモノを操る事が可能な者達のことだ。
原理としては自分自身のマナと自然のモノが発するマナを同調させ、操るらしい。
言うまでも無く、繊細なコントロール力が求められる。
自分の属性と合ったものがその場に無いと発動出来ないが、その条件さえ満たせば低コストで高い威力を得られるのがメリットだ。
ちなみに、真耶が言っていたように火・風属性は水・土属性と比べて共鳴術が使いやすい。
これは、それぞれの属性の元になっているものがエネルギーか物体か、という違いによるものだ。
マナだけで生じた水や土は時間経過と共に消えてしまう、言わば偽物だ。故に、自然からは遠い。
それに対して、火や風はマナで生み出したものも自然に発生したものも、いずれ目に見えなくなるという形では共通しており、そのせいか火・風属性は自然に近い。
複合魔法の少ないのがデメリットだが、共鳴術が使いやすいメリットがあるのが火属性だ。
あと、サバイバル力が高いというメリットもあったり。だって何も無くても火や明かりが確保できるからな。
さて、参考書の知識をそのまんま羅列してみたが、今はそんなコトどうでも良かったりする。
肝心なのは、今の俺のコントロール力が上がっているという事だ。
となれば――
「おお、できるできる!」
「すごい、伸びた! あ、形も!」
「変幻自在ですね......」
今やってみたのは、エルゲージの形状変化だ。もちろん、高いマナの操作能力が求められる。
読んで字の如く、伸ばしたり形を変えたり。
それだけと言えばそうなるが、エモノの長さや形状を変えられるのはとても便利な事だ。
「お兄さんすごい! びっくりしました!」
「ヌハハハ、これぞ妹への愛が成せる技よ! うぉい、そこのバトラー少女よ! シスコンはただの変人じゃないのだよ、使える変人なのだよっ!」
「............」
呆れたような表情で口を開ける真耶。だが、今はその反応すら心地よい。
「ウッホホホホーイ!」
「キャアー! 凄いすごーい!」
やっべ、楽しいぞこれ、やっべ。
これで試験は貰ったようなもんよ! 待ってろよBランク!
――はしゃぎまわるハルトの様子を見ている真耶。俄然、彼女の表情が変わる。
「まさか、妹に何か秘密が......?」
そう漏らす彼女の背中には、昨日の事のように思えるあの感覚が伝っていた。




