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こんな異世界、お兄さんは認めません!  作者: アカポッポ
第二章 受難のBランク試験
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Part6 ちょい変化アリな今日この頃

「ン、ンンン~.....、と」


 俺は窓から差し込む朝の日差しを受け、俺は伸びをしながら自然な目覚めを迎える。

 6月も近づき、夜明けが早くなってきた今日この頃は、確かに早起きになり易い。

 それでも、以前までの俺なら6時に目が覚める事なんで無かったはずだ。

 留年してからと言うもの、深夜までスマホで動画見て朝八時まで爆睡、なんてのが習慣になってたからなぁ。

 こんな早起きになってしまったのにはもちろん理由があるのだが、ま、それはさておき。


「朝飯までは時間あるし、ちょいと勉強しますか」


 そう言って勉強机に向かい、単語帳を広げる。

 だがその内容は大学受験に向けた物では無く、Bランク試験に出題される用語をまとめた物だ。

 リーシャと一緒にBランク試験を受ける事になってから、もう一週間経つ。

 試験まで、残り一週間に入ったところだ。


「自分のマナを流した場の事を“テリトリー”と呼び、その一般的な運用方法は......魔術的仕掛けの探知・索敵、と」


 試験項目は三つ。

 最初は筆記試験だが、ここ数日の感覚からするとこっちは問題無さそうだ。

 座学は慣れているから、特に抵抗もない。

 いや、内容が新鮮だから普段の勉強より抵抗無いかもな。

 適度に大学受験に向けた勉強と切り替えることで、結構集中力が続いてくれる。


 大変調子が宜しいようで? はは、その通り。

 ここまでは、な......


「だからこう、ね? 手に意識を集中させて、そのまま心臓からグ~ッと押してく感じに......」

「ん~、むむむ......」


 時計の針は進み、時刻は16時過ぎ。

 鏡を(くぐ)って異世界に来ている俺は、藤宮家の洋風庭園でスキルの練習をしていた。

 少し離れた所から、練習に付き合うアリスの声が飛んで来る。

 

「ぬぬぬ......っととと!」

「ひゃあ!」


 杖の先から噴き出た炎が、アリスの頭を掠めた。


「あー、今のは危なかったな、悪い」

「もう、気を付けなさいよね!」

「善処してるつもりだけど、どうも難しくてさ......」


 今やろうとしているのは、以前真耶が俺に突き付けた剣――マナで編んだ剣、通称“エルゲージ”の生成だ。

 基本中の基本となるこのスキル、無属性のマナが主体だった真耶のものは青白い色をしていたが、俺の場合はもろ炎の剣になるらしい。

 上手く出来れば、結構格好良いと思うんだが......


「んー、なかなか上手く行きませんなぁ」

「ハルトは最大瞬間出力のレベルが高いのに操作力のレベルが低いから、細かい操作は難しいのかも」

「それ真耶にも言われたわ。ホースから出る水の勢いが強いと、それだけコントロールしにくいようなもんだ、って」


 力が強ければそれでOKなら、こんな苦労はしなくて良いんだろう。その方がスカッとするし。

 にも関わらずエルゲージの練習をしているのは、二つ目と三つ目の試験が実戦形式だからだ。


 どこから・いつ敵が襲い掛かってくるか分からない状況で、以前の森の時のように豪快に炎をばらまいてガス欠を起こすのは非常に危険だ。

 かと言って魔法は詠唱に時間がかかるから、咄嗟の反応ができない。

 結果、スキルを効率よく運用する技術が必要になるのである。


「しっかしどうしたものか......」

「一度に出すマナの量は調節できるようになってきたのよね?」

「ゆっくりと、ならな。ただ、ニュッと出すのがどうもムズい」

「うーん、そこまで来てるんならもう少しだと思うんだけど。......うん?」


 不意に、アリスのブラウスのポケットから音楽が流れる。着信音だ。


「もしもし、私だけど? あ、リーシャが来たの? 了解、入れてあげて。あと、真耶に連絡を」


 [ピッ]


「来たのか」

「そうみたい」


 夕方、リーシャと会う約束をしていたのだ。

 その目的は、試験まで残り一週間となったタイミングでお互いの状況報告をしよう、という物。


「アリスさんにお兄さん、すみません。家のお手伝いをしてて......」

「いいのいいの、気にしないで。そしてようこそ、藤宮邸へ」

「わあ......!」


 生垣に遮られているせいで、門の外からではよく見えなかった敷地内。

 一般家庭とは比較にならない広さの庭や屋敷の大きさに、リーシャは目を輝かせている。


 アリス達が藤宮家の者だと明かしたのは、俺とリーシャが組むと決まってすぐ後の事だ。

 いつまでも他人同士ではいられないし、リーシャなら警戒する必要もないだろう、という訳で話すことになった。

 もちろん、俺は書生という事になっている。


 あと、軽く流されたがリーシャの俺の呼び方が『お兄さん』に変わっている。

 いやまあ、この方が何か良いんですけどね。説明する必要はあるまい?


「最初、アリスさんが藤宮家の人だって聞いた時は驚きましたけど、ホントだったんですね!」

「ふふ、まあね」 

 

 誇っていいのか、それ。

 確かにお嬢様っぽさは隠せてたけど、リーシャの口ぶりからして必要以上に子供っぽく見えてた可能性があるぞ。


「ホントに、こんなお庭を練習に使っても良いんですか?」

「ええ、いいわよ。でもその前にお茶でもしない? 折角来ていただいたお客様に何のおもてなしもないようじゃ、申し訳ないもの」


 おっと、何だかエレガントですねお嬢様。

 この前は見せられなかった威厳を、ここで発揮されるおつもりで。


「あ、でしたら! この前のお礼にと思って、お菓子を持ってきたんです。お口に合えば良いんですけど――」

「あっ、マカロン!」

 

 リーシャが持つバスケットから色とりどりのマカロンが覗いた瞬間、アリスが飛びつくような勢いで身体を突き出した。

 あまりの勢いに俺もリーシャもビックリ。


 【悲報】お嬢様の威厳、秒でご臨終


 あーあー、ヨダレ垂れてますよ。

 甘い物が好きなおこちゃまには破壊力抜群ですね。


「......ハッ!?」


 暫くして我に返るアリスだが、時すでに遅し。

 年下の子に引かれとりますがな......


「い、いい茶葉が入ったそうなの。さ、あそこにあるあジュ真耶に......」


 ビデオを一時停止したかのようにピタッと止まる空気。もうグッダグダだぁ。


「ハイハイ、東屋でお茶しましょうねぇ~」

「何よもー! カッコ良い所見せたかったのにー!」


 茶化すように横から口を挟んだ俺に対して、頬を膨らませるアリス。

 というか、意識して振舞ってたのか......


◇◇◇◇◇


 数分ほど後、ポットとカップを乗せたティーカートを押して真耶がやって来た。

 服装はいつもの燕尾服だが、表情がオフの時より凛々(りり)しく見える。

 仕事モードというヤツらしい。


「あの、真耶さんはお茶されないんですか?」


 と、淡々と用意をしている真耶に声を掛けたのはリーシャだ。

 テーブルの上に並べられたカップは三つ。

 おめぇのコップねぇから! なんてノリで無ければ、とどのつまりこれは――


「......お心遣い痛み入りますが、今の私は給仕ですので、ご一緒する訳には参りません」

「......」


 やっぱり、そういう事である。

 口には出さないが、リーシャの残念そうな表情がチラリと覗いた。

 上品な模様があしらわれたカップが、カチャリカチャリと冷たい音を響かせている。

 

 お、重い。重すぎるぞこの空気。


 お茶しようなんて言ったのは、こんな雰囲気にさせる為じゃないだろう?

 と抗議の目線をアリスに向けるが、当の本人は黙ったまま。

 いや、あくまで真耶は給仕としての仕事を全うしているだけだから、それをお嬢様自らが止めるのは良くないって考えなのか?

 

 後で雰囲気が切り替わればいいが……いや、それどうなんだ。特に真耶としては。

 そう思って、今度は真耶に視線を向ける。

 表情はさっきから変わっていない。

 が、視線を下に向けると、そこに写るのは落ち込むように垂れ下がった尻尾。


 ああもう、素直なんだか素直じゃ無いんだか。


「では、ごゆっくり――」

「なあ、いいんじゃないか? お客さんのリーシャが一緒に居て欲しいって言ってるんだし」


 居ても立ってもおられず、声をあげてみる。

 状況が読めてないとか思われるかもしれないが、このままじゃマカロンまで持って来てくれたリーシャが可哀想だ。

 

「しかしそういう訳には......」


 やっぱり駄目なのか――


「そうね、ハルトの言う通りかも」


 と思いかけた時、口を開いたのはアリスだった。


「お嬢様......」

「ねえリーシャ。このマカロン、誰に食べて貰おうって思ってたの?」

「それは、この前お世話になったみなさんに......」

「そうよね。じゃあ真耶も一緒に食べましょうよ? ここで一緒しても、私は良いと思うわ」


 見つめ合うアリスと真耶。

 戸惑いの色を浮かべる真耶に対して、アリスは微笑みを崩さない。

 暫く沈黙が続いた後、真耶が小さく口を開く。


「......分かりました。私も同席しましょう」


 その瞬間、リーシャの顔がパッと明るくなった。

 アリスの表情も、少し崩れたように感じる。


「となると、カップが一つ足りない......ん? リーシャ、そのカバンに入った紙コップは?」

「これは家から持ってきたコップで、麦茶を入れようと思って......」

「いいじゃない、それで。数も足りてるし」

「え、良いんですか!?」

「真耶、一旦これを戻してきて頂戴」

「分かりました」


 アリスと短く言葉を交わした後、真耶はテーブルに並びかけたカップを下げ始める。

 と、その途中。


「――ッ、痛っ!? 何するんだ、真耶!?」


 真耶に背中をツネられた。


「……全く、ハルトはずるい人です」

「ん? ズルい?」

「何でもありません」


 そう言ってフイと顔を逸らし、真耶は屋敷に戻って行った。


 な、何だったんだ、一体?

 真耶の謎行動に。困惑する俺。

 と、アリスが静かに耳打ちしてきた。


「ハルトが言ってくれたから、私も話を切り出せた。感謝するわ」

「いや、真耶がちょっと辛そうだったからさ」

「辛そう……やっぱりそうだったのね。これまでこんな状況も何回かあったけど、私も真耶の気持ちを量りかねてて。ハルト、よく真耶の気持ちが分かったわね?」

「え? あマア、たまたまじゃないか?」


 いや、別に俺だって気持ちを読んだ訳じゃ……

 とは言っても、尻尾が下がってたのを見ただけ、なんて答えられないんだが。


 そして数分後。

 真耶が戻って来た所で、お茶会を始める。

 無機質な固い音を立てるティーカップの代わりに置かれるのは、薄くて柔らかい紙コップ。

 その中に、適度に冷やされた紅茶が注がれる。

 お上品な香り。だが、雰囲気はティーカップに入れるのとは結構違う。


「なんというか、ピクニックみたいな感じだな」

「すみません、安っぽくなっちゃって......」

「ううん、今はこれでいいのよ。ハルトもそう思わない?」

「ああ。こういうラフな感じだって、似合う時があるもんさ」


 ティーンの少女達が肩の力を抜いてお(しゃべ)りするには、これぐらいがピッタリだ。


「それじゃマカロン、いただいちゃおうかしら」

「おいおい、そんなヒョイパクして良いのか? なんかお茶会の作法的なサムシングは――」

「うーん、おいしい!」


 て、聞いとらんし......


「これは......素晴らしい出来ですね。以前、重松さんが試作されていた物以上では」

「ビスケットみたいな見た目になる、って悩んでたのよね、確か。これは膨らみ方も綺麗だし、......うん、サクトロ食感も良い感じ」

「えへへ、ありがとうございます」

「え、これリーシャの手作り!?」

「はい、自信作なんです!」


 ファミレスではしゃぐ女子のように、俺そっちのけで談笑する三人。

 というかアリスのお嬢様ムーブが完全に消滅してるんだが、本人は気付いているんだろうか。

 まあでも、こっちの方が年相応っぽくて良いかな。なんか見ていて和むわ。


「? 私の顔に何か付いてるの?」

「いやそうじゃなくて。なんかマジで尊いなー、って思ってさ」

「尊い......?」


 頭の上に?を浮かべるアリスに、俺はニッと笑った。


「仲良しが一番ってことさ」

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