Part5 俺が共闘してやんよ!
測定結果を聞いた俺達は、待合室に戻る。
「さて、やる事終わったし帰るか!」
「会計を済ませてませんから、そっちが先ですよ」
「あー、そうか。悪いけど、お金出せるか?」
「分かっています。これで払ってください」
「ああ、サンキュ」
真耶が財布から紙幣を抜き取り、俺に手渡す。
と、その横ではアリスが周囲をキョロキョロと見回していた。
「どうしたんだ?」
「リーシャの姿が見えないんだけど......」
「そう言えば......。先に帰ったのでしょうか」
「いや、『また後で』って言ってたし、建物のどこかに居るんじゃないか?」
「私、ちょっと探してくる」
「ん、頼んだ」
速足で歩き、建物の中を見て回るアリス。
角を曲がりその姿が見えなくなってから、俺と真耶は近くの席に腰を降ろした。
「しかし、火属性100%、ですか......」
座ってすぐに、真耶が呟くように声を上げる。
「お、羨ましいか?」
「いえ、どちらかと言えばデメリットの方が多いかと思いまして――」
「へいへい、嫉妬かい? ――アイッター!?」
思いっきり足を踏まれた。そこそこ痛い。
「な、何すんだよっ!?」
「真面目に聞いてください。ふざけてばかりも居られない事なんですよ、コレは」
「お、おう......」
ちょっとやりすぎな気もするが、真耶の声色は本気だ。俺は姿勢を正して椅子に座り直す。
「で、どう言うだよ?」
「火属性100%という事が意味しているもう一つのこと、何だかわかりますね?」
「無属性0%って事になるけど......あ、そう言う事か。治癒の魔術が使えない、と」
「ええ。ハルトも分かっているでしょうが、魔術はかなり殺傷能力の高いものです。それに、魔物は我々に手加減などしてくれない」
「一人だけじゃ命を失う危険がある、か」
こうやって言われてみると、確かにデメリットは大きそうだ。
うーん、でも自分で自分自身の能力を残念だとか決めつけたくない......
「でも、施設の人はさっき『大変な逸材』って言ってくれたぞ?」
「もちろん、活かしようはあります。感覚を磨けばお嬢様のように魔物の気配を感知できるようになるでしょうし、火力だけで言えば他の人より強い。単純計算で、属性傾向50%の人の二倍ですからね」
ふむふむ......
「要は、自らの運用方法を考えるべきだ、という事です。他の人と同じようにしようとするとデメリットが目立ちますから、メリットを活かすようにしてください」
「お、おう......」
年下の女の子に難しい事を言い聞かされるとは。何だかフクザツな気分。
いやでも、これは――
「なんか、新鮮だな」
「何がでしょう?」
「いや、友達同士でツルんでた時に、真面目な感じに物を言われた事なんて無かったからさ」
「ハルト......」
そう声を漏らして、少し黙り込む真耶。
彼女なりに、思う事があるんだろうか。
「ハルトには友達が居たんですね。驚きました」
「そんな風に考えてた時期が俺にもありました!」
変に期待した俺がバカだったよ、チクショー!
「ハルト、真耶~?」
と、少し離れた所からアリスの声が聞こえた。
少しばかり息を荒くしている。
「お、帰ってきたキタ。それで、リーシャは見つかったのか?」
「居たんだけど、それが......」
「何かあったのですか」
「椅子に座って、泣いちゃってて......」
◇◇◇◇◇
アリスに付いて行くと、そこには一人長椅子に座り込むリーシャの姿があった。
『調合材料全集』と書かれた分厚い本で顔を隠し、嗚咽を漏らしている。
受付に立っているやや若い男性の職員の申し訳なさそうな目線が、あまり良い状況で無い事を物語っていた。
「で、リーシャが泣いてる理由って......?」
「うん、Bランクの試験には二人で受ける実戦試験があるんだけど、ペアになってくれる人が居ないんですって。これまでネットでも呼びかけたそうなんだけど、それも......。で、直接技能センターに来たんだけど、こう、なっちゃって......」
「オイオイ、なんだそりゃあ......」
何かアレに似た感覚がする。
体育あるあるの一つ、『二人組を作れ』と言われて自分だけが余る現象。
俺も数回経験したけど、すっげぇ辛かったゾ。
なんてふざけてる場合じゃないな。
「一緒に受けてあげよう、って奴はいないのか? マッタク......」
「その気持ちも分かりますが、他の受験者を責めるのも酷ですよ。受験にはそれなりのお金がかかりますし、職業選択や社会的ステータスも関係している以上、遊びで受ける者はそう居ません。誰もが受かりたいと真剣なんです」
「............」
そう説明されれば、真耶の言う通りだ。
リーシャが居る前で口には出せないが、しっかりとした身体付きの人間と背の小さい少女、安心してペアを組めるのは前者だろう。
リーシャが真剣であると同様に、他の人だって真剣なのだ。
『この子と組んで上げろ』なんて要求して、本来合格できる実力を持つ人が不合格になったとしたら、これほど後味の悪い事はない。
「でも、ランクの試験に年齢制限は無いんだろ? だったらまた今度の機会に受けたら良いんじゃないのか?」
「それが、今回の試験を最後にしばらくは見送る、って。最近魔物が活発化してるから、その影響よ」
「魔物が活発化?」
「時折あるんですよ。先日入った森も、普段は魔物なんて殆ど湧かない所だったんですが......」
へぇ、この前の出来事にそんな裏が。
「しかし、それなら他の地域で受ける手もあるのでは。リーシャさんにとっては少し辛いですが」
「普通ならそれも出来るんだけど、魔物の活発化に関する報告が世界中から届いてるのよ」
「世界中で!? 真耶、それって――」
「いえ、そんなのは前代未聞です。普通は各地域ごとばらばらに、数百年周期で起こる事ですから」
「マジか、ツイてないな......」
「今回が最後ってなると、余計に組んでくれる人は居ないわよね......」
ペアを組んでくれる人は居ない、次の機会は当面ない、他の場所でも受けられない。
これじゃ完全に八方塞がりだ。
「やっと……やっとお手伝い、出来る、って……」
嗚咽を交えながら、悲痛な想いを声に出すリーシャ。
なだめようと、アリスが背中を優しく撫でる。
重苦しい雰囲気が、俺達の間に漂う。
目を伏せる真耶にアリス、いたたまれなさそうな表情でこちらを見る受付の職員さん。
周りからも、同情の視線を感じる気がする。
「何とか、ならないもんかな......」
試験を受ける人にはそれぞれ事情がある訳だし、それを責める気はない。
かと言って、小さな女の子が泣いてる姿を見て見ぬふりだなんて、あんまりだ。
それに、あんな笑顔で自分の目標について話してたんだ。
人生全てが思い通りに行く訳じゃない、そんなの経験してない俺でも知ってる。
でも、これを......羨ましいと思った子が沈んでいる所を、見過ごせだなんて。
そんな事、絶対に嫌だ。何の拷問だ。
――何とか、ならないか
「いや待てよ......」
――違う、そうじゃない。
他人がどうにも出来ないなら、俺の手で何とかするんだ。
今しがた脳裏に浮かんだ考えに、俺はニヤリと口角を上げる。
ポン、とリーシャの頭の上に手を置く。そして、優しく撫でた。
「ハルト、さん......?」
泣きはらしてシワくちゃになった顔が、本の隙間から覗く。
「大丈夫だ、お兄ちゃんに任せとけ」
そう言って、静かに受付に向かう。
いいねぇ、この感じ。小さい頃はミヨにもこんな事言ってたな。
ま、今はもう立派になってしまわれたが。
久しぶりだよ、この兄貴面する感覚はッ!
そして、俺は受付の前に立つ。
「――今からBランクの試験に応募する事、出来ますか?」
「はい、出来ますが......お名前は?」
「北条 悠翔だ」
「少々お待ちを......いやいや、今日登録されたばかりの方ですよね? 流石にそれは......」
「ふふ、甘いよ兄さん? レベル見てみなって」
「!!? マナ生成レベル 384・最大瞬間出力レベル 372......!?」
受付が仰天して出したその声に反応し、周囲からも騒めきが起こる。
「ああそうだ! Bランクなんて朝飯前さ!」
「いやでも、操作レベルは......確かに規定には入っていますが――」
「なら大丈夫だ! そして実戦試験、俺はあの子とペアを組む!」
「へっ、ヘェエェエエ!?」
「俺があの子を......リーシャを合格まで連れてってやんよ!」
真剣にBランクを取りたい人間なら、小さい女の子と組むだなんてしないのかもしれない。
それに普通なら、小さな女の子をカバーできるほどの実力者がBランクを持っていない、という事は無いのかもしれない。
だがもし試験で滑っても問題のない、かつ突破もできる人物が居たとしたら?
そして俺が、そんな立場にあるとしたら?
言うまでも無いだろ! 喜んで受けてやる!
「わ、分かりました。試験は2週間後です。本日が受付最終日ですので、空いている机で書類に記入を......」
「どうもありがとうございます、っと!」
呆気にとられる受付さんが取り出した書類を、軽やかな手つきで受け取る俺。
後ろを振り返ると、本を椅子の上に置いたリーシャがこちらを向いて呆然と立っていた。
さっきよりぐちゃぐちゃになった顔。
でも、瞳だけは煌々と輝いていて。
そしてタックルするような勢いで、俺の身体に飛び込んできた。
「チョチョチョ、書類が濡れるって!」
「ありがとうございます、ありがとうございますウゥ~!!」
やれやれ、当分泣き止みそうにないな、これは。
頭の後ろに手を回して撫でていると、アリスと真耶がこちらに歩いてきた。
アリスの目は少しだけ潤んでいる。
「ホントに、無茶苦茶な事を言ってくれますね」
「でも、凄くカッコ良いと思う! 見直したわ、ハルト!」
「そりゃどーも!」
思いっきりドヤ顔してみる。こんな時ぐらいは許されよう?
「正直言って、その操作力レベルと知識量では厳しいものがあります。試験まで二週間、しっかり鍛える必要がありますが......ここまで啖呵を切ったんです、落ちるなんて許されませんよ」
「ああ、やってやるさ!」
「良い返事です、期待してますよ」
ニコリと笑う真耶の笑顔は、とても柔らかいものだった。
――ちなみに、その夜。
「流石にあのセリフは臭かったか......? ア゛ア゛ー゛ッ゛! やっちまったよ、どうすんだべ!」
俺は布団の中で悶えていた。
まあ、いっか。




