Part4 オイラったら最強ね
目的地である技能センターは、駅から出て数分歩いた所にあった。
さも当然のように自動で開くドアの先は、待合室となっている。
広い空間に並ぶ長椅子、そこに座る多くの人。
突き当りには札が下げられた受付が並び、その奥では忙しそうに歩き回る事務員の姿があった。
一言で言うと総合病院の待合室に近い。と言うかそのまんまか。
「私は試験の受付に行ってきますので!」
「ああ、また後で」
ペコリと頭を下げてから、リーシャは迷わずに受付に向かって行った。
「さて、と。測定の受付は......ああ、アレか」
視線を左右に動かすまでもなく、カウンターと天井から吊り下げられたプレートが目に入る。
俺は初めてだから、新規かな?
「すみません、えっと――」
アレ、ちょいと待てよ。
何て話を切り出せば良いんだっ!?
自分で連絡してたのなら良いけど、今回はどっかの誰かさんが勝手に場を整えた訳だし、名前を言っても通じるのか......?
やべぇ、話しかける前に気付けば良かった!
「はい、如何されましたか?」
「あの......」
「あ、北条ハルト様ですね。お話は事前に伺っております」
「あ、ああ......っと」
「精密測定を受けていただきますので、近くの席にお掛けしてお待ちください」
「は、はい」
............
なんかドモってる間に終わってもうたよ。
受付さんの事務能力たっかいなぁ。
「女児誘拐の次は幼児退行ですか」
「う、うるせーやい!」
気もそぞろに受付から帰ってきた俺を、背中を向ける真耶の言葉がチクリと刺す。
いやまあ確かに、自分でも格好良いとは思わないけど。
「というか、さっきからどこ見てるん......だ......」
俺には目も合わせない真耶。その視線の先には
――ちびっ子達と共に遊具で遊ぶアリスお嬢様の姿があった。
お姉さんとして居ると言うより、文字通り一緒に遊んでいるといった感じだ。
いや、何やってんすかホントに。
一応アリスの立場を擁護するなら、遊具という物の珍しさに純粋に興味を持っている感じか。
......アレ、これ擁護になってないな。これじゃただの子供だ。
いやまあ俺達に絡んでこないから、自分の行動がどう見えているのか分かってる......とは思う。
というかそうであって欲しい。
にしても、よくそんな事ができるなあ。
藤宮家のお嬢様だってバレない自信があるんだろうけど、それでもある意味尊敬しますよ。
で、周りに目を向けると案の定、大人の生温い視線が漂っている。
うん、取り敢えず関わらないようにしよう。
ほら、一般市民としてこの場に居る真耶も、早く視線を戻した方が――
「ん?」
真耶がお嬢様を凝視したまま、黙っている。
「どうしたんだ?」
「いえ、この様子を写真に残せないのが残念で」
まあそりゃあな。
古今東西、例え異世界であっても他人様の子供の顔が写るのはタブーだろう。
まあ従者だし、これぐらいのマナーは持ち合わせてて安心し――
「もし残せるのなら、いっそ黄色い帽子とスモックをお着せして......その不釣り合いなようで精神の純粋さを体現したお姿を......」
全然安心できない......
お耳パタパタ、尻尾プルプル。
鼻息を少し荒くし、表情を歪ませる真耶。おまわりさんこいつです。
ヤバイよ、タッチするタイプのロリコン臭がするよ このバトラー少女......
「というか、人の事を幼児趣味とか言っておきながらソレはどうなんだ......」
「私は幼児に興味がある訳ではありません。お嬢様に興味があるだけですので」
「アッハイ」
『僕はロリコンじゃないよ、〇〇ちゃんが好きなだけだよ』とか、ロリコンの常套句なんだが。
どっちにしても、これを見てアブナイと思うのは俺だけではないはず。
「それにしても、精密測定、ですか」
「何だ聞こえてたのか。と言うか、そんなに珍しいのか?」
「ええまあ、多少は。測定を受ける人は多いですから、特に事情が無ければ簡易測定になるのですが......ハルトの場合が特殊だからでしょうか」
「あー、属性傾向の件か......」
体内で生成されるマナの自然属性――火・水・風・土のどれか――の割合を0~100%で示す数値、それが属性傾向。
多くが30~70%で収まるが、俺はほぼ100%だろうと真耶は推測している。
そして、そのせいで真耶に一度殺されかけた。
「簡易測定ではレベルと全体で見た時の属性傾向が分かるだけですから、詳細な結果は分かりません。そうなると――」
「この前みたいに疑われると。ん、じゃあ......」
「どうかしましたか?」
「いや、測定の予約を取った人間は俺の事情を知ってるのかと思ってさ」
「そう......ですね」
「? 難しい顔して、どうしたよ?」
「いえ、何も......」
何なんだろうと少し気になったが、このタイミングで受付に名前を呼ばれた。
「じゃあ俺、行って来るから」
検査室に案内される俺。
チラリとリーシャの方に目を向けると、そこには受付さんと何やら話し込んでいる姿があった。
◇◇◇◇◇
測定は結構退屈なものだった。
どっかのファンタジーのような実戦テストがある訳でもない。
MRIみたいな装置に入って、基本はひたすらボンヤリするだけだ。
機械の中から出現した突起に意識を集中させろ――要するに、そこにマナを流し込めと言う事だろう――と何度か言われることがあったが、その程度。
まあ、小さな子供やお年寄りも受けるだろうし、考えてみればそうか。
時々身体が圧迫されるのを感じながら、常に鳴り続ける妙な音がひらすら耳に入ってくる。
眠い、怠い、暇だ。
ただ、一度だけ機械の外から騒めきが聞こえた事があった。
一体なんだろうと一瞬不安になったが......多分、俺の属性傾向の件だ。
結局、小一時間ほど経ってようやくその機械から身体を出す事が出来た。
待合室に戻ると、真耶に膝枕されてスヤスヤ眠るアリスの姿が。
遊具で遊ぶのに飽き、ハルトを待つ内に寝てしまった、との事。
いや、だから子供か。
そして、その頭を撫でる真耶の満たされた顔よ。
話によれば、事務員さんに無理言ってこの様子の写真を撮ってもらったらしい。
ホント筋金入りだな。
そして――
「ハルトさんのオド及びマナについてですが......」
来ました、ちょっぴりドキドキの測定結果。
診察室じみた部屋には、真耶とアリスも同席している。
「まず、オドのマナ生成レベルは384、マナの最大瞬間出力レベルは372でした。これは初期測定値の中では最高値です」
『「ほほう!」「400に近い数字なんだけど!?」「............」』
テンションが上がって声出ちゃったよ。アリスもビックリしているな。
真耶はまあ、半分予想してましたよ、みたいな表情しているけど。
強力なオドを与えたデービスに感謝感謝。
でもコレ、貰ったの『一部のオド』だよな。
アイツのレベルどうなってるんだ。
「次にマナの操作レベルですが......こちらは120でした。正直、かなり偏っている感じがします」
「やっぱり低かったか......」
「この前の森での様子からして、そんな気はしてたけど......」
まあ、何となく分からないまでも無い。
この前貰ったばかりの力を完全に操作できるなんて、逆に気持ち悪いと思う。
「そして、最後に属性傾向ですが――これが大変奇妙な結果になりまして」
「100%に近い値だった、とか?」
「え、それってどういう事?」
あ、そう言えばアリスには話して無かったか。
ペナルティもあるし、話しにくい内容なのだ。
「この前フィッシング・ツリーに襲われたろ? あの時、俺も触手に狙われはしたんだけど、寸での所で捕まらなかったんだ。で、その時に真耶が『俺の属性傾向が100%だからじゃないか』って」
「え、でもそれじゃ――」
「大丈夫だ、俺は亜人じゃない。......って、測定結果でも出たんですかね?」
「ハイ、確かに亜人ではありませんでした。無属性も検出はされましたから」
良かった。これで安心してこの世界を歩ける。
「ただ、検出のされ方が変わっていまして......」
「と、言うと?」
「無属性のマナを発する非常に弱いオドと、火属性のみのマナを発する強いオドの二つがあるようでして。あの、大変失礼ですが二重人格などは......?」
「二重人格? どう言う事なんです?」
妹が大好きな俺以外に、もう一つ人格があるとでも言うのだろうか。それは許容し難いですな。
「オドは私達の精神と一心同体。オドを二つ持つ者を我々は”キメラ”と呼んでおりますが、多くの場合は意識が二つある――簡単に言うと、二重人格なのです」
「そういう事なんですか......でも、俺には特にそういうのが無くて」
きっとこれも、デービスからオドを貰ったことが関係しているんだろう。
そう考えると、そんなに驚きはない。
少し話は逸れるが、この世界には動物も当然居る。が、基本的に魔術は使わないらしい。
じゃあマナとかオドとか組成式とか、あの辺りはどうなってるのか。
そんな事を以前真耶に聞いてみたが、曰く『動物には自分自身の組成式を維持する為の弱い無属性のオドがあるだけで、魔術を使う余力はない』だそうだ。
で。仮にコレが俺にも適用されるとすると......俺の身体そのものを維持しているのが弱い無属性のオド、魔術を使う時に利用しているのが強い火属性のオド、という事になる。
無属性もあるけど、通常それらは組成式の維持に回されるから、外に出るのは火属性だけ。
簡単測定だと分からなかったかもしれない。
「いずれにしましても、大変な逸材であるのは確かです。他には無い特徴のオドをお持ちですから、是非ともそれを生かされては」
「あ、ありがとうございます。それと......」
気になる事が一つある。うん、言ってしまおう。
「ランクだと、俺はどこまで行けそうですかね?」
その質問の答えに、施設員は少しの間唸る。
そして、口を開いた。
「その事に関しましてはハルト様の今後次第ですし、当施設の職員でしかない私の言葉なので保証は出来ませんが......
――Aランク......いえ、その若さですからSランクも目指せるかと」
ドクン、と心臓が跳ねるのを感じた。
Sランク。それは異世界20億人の内、40人足らずしか居ない圧倒的強者の称号。
俺が与えられた力は、それに手が届くほどの物だったのだ。




