Part3 俺とレベルとランクと
合流した俺達は、そのまま電車に乗り込んだ。
目的地の技能センターは駅から出てすぐ、子供やお年寄りでも立ち寄り易い場所にある。
「へー、じゃあリーシャはBランク試験の受付に行くのね?」
「はいっ、初めての挑戦です!」
「凄いなぁー、私より年下なのに」
電車の中では、アリスとその横に座るリーシャ――俺と一緒に居た金髪の女の子の名前だ――が話している。
リーシャの名前を聞いたのはアリスだ。
アリスの年齢は13歳、リーシャの年齢は10歳と比較的近いのもあるが、アリスの明るい性格は人の警戒心を解きやすいらしい。
「というか、ランクって何だ?」
「ランクというのは、個人がどれだけの実戦能力を擁するかを示す資格ですよ」
俺の素朴な疑問に、隣に座る真耶が答える。
「え、もしかして俺もそれ受けるのか? 実戦訓練とかしてないんだが......」
「いえ、今日ハルトが受ける魔力測定はレベルと属性傾向を測定するものなので、別物ですが」
つまりはレベルとランク、この二つが別々に存在する、ってコトか。
ん、とすると――
「じゃあレベルとランクが分かれてる理由って?」
「それは......。例えば、マナを生み出す能力やマナを操る能力が高くても目が不自由な方が居たとしたら、その人は実戦能力が高いと言えますか?」
「いや、目が見えないんだったら戦いには向かないと思うけど」
「では逆に、その方の評価はオドが未発達な子供と一緒で良いと思いますか?」
「いやそれも......ううん?」
実戦能力は低いかもしれないけど、子供と一緒っていうのも変な気がする。
......あ、そういう事か。
「つまり、この二つみたいな場合を分ける為に、レベルとランクがあるって事か」
「ええ。それに、実戦能力を観たいなら試験は必須ですからね。それをお年寄りに強要するのは酷ですが、かと言って未管理という訳にも行かない」
「で、簡単に測れるレベルがある、って事か。なるほどな」
と、俺が納得している様子を見て、真耶はリーシャの方に視線を向けた。
「それにしても、その年齢でBランクに挑戦ですか。立派ですね」
「えへへ......」
「Bランクって、大体何歳ぐらいで取る物なんだ?」
「ハルトと同じぐらいの年で一部の人が取ってるか、ってぐらいよ? 持ってなくても別に普通なんだから」
ほー、じゃあ結構凄いのか。
ランクなんて聞き慣れない物で考えるとピンと来ないが、さっきのアリスの反応からすると、英検二級と一緒ぐらいなのかもしれない。
10歳の小学生が英検二級取得......これって新聞の地方欄に乗るぐらいの事では?
「そっか、頑張れよ!」
「はい! ただ......」
あれ、また表情が暗くなったぞ?
「どうかしたのか?」
「――! いえ、何でもありません! ところで......ハルトさんのレベルって、どれぐらいになるんでしょう?」
何か詮索されたくない事があるのか、リーシャはサッと表情を明るくして話題を変えてきた。
俺のレベルか、確かに興味あるな。
「どうかしら? でも、ハルトってスキルだけでシャドーウルフ倒してたわよね?」
「ん? ああ、そうだったな」
「え、そうなんですか!? 凄い!」
驚いた様子で声を大きくするリーシャ。
個人的にはその反応にビックリなんだけど。
「え、それってそんなに凄いのか?」
「うん、レベルはオドのマナ生成力・マナの最大瞬間出力・マナの操作能力の三つがあって、それぞれ1~500で判断するんだけど......あの感じだと、最大瞬間出力は300超えてるんじゃないかしら?」
「すごーい......」
「中の上ってぐらいか。ちなみに、大体何ランクの人間と同じ水準なんだ?」
「――300はBランクか、もしくはAランク相当ですね。ただ、私はもう少し高いように思いますが」
三人で話していた所に、口を挟んで来る真耶。
その声は場の雰囲気に似合わず、少し重い。
まあ、うん。この前色々あったし。ハハ、ハ。
「じゃあ、Sランクは400ぐらいって感じか」
「ええ。とは言っても、Sランク試験の挑戦条件の一つに、最低一つのレベルが500に達している事、がありますが」
「え、マジか!?」
「Sランクなんて気にしたらダメよ。だってレベル測定不可な人も要るんだから」
「20億人の内、たった38人ですもんね~......」
この世界に20億人も居るのは一旦置いといて。
Sランカーはおよそ5000万人に一人、レベルカンスト or 限界突破あり、か。
............化け物かな?
「しかし38人だけか......やっぱりトクベツ感のある存在だったり?」
「確かに、過去には英雄視された者も居ましたが」
「おお、じゃあ魔物に襲われてる人々の所に颯爽と登場! みたいな」
「いえ、『颯爽と』と言うよりかは『早急に』ですね。魔物が襲来した際の防衛の要とする国家も多いですから」
「思ってたよりマジだなぁ......」
フラリと現れるヒーロー的なものだと思ってたら、ガッツリお国が抱え込んでたでござる。
「でもSランカーは38人だけなんだろ? たったそれだけの人間に頼るのも、変な話じゃないか?」
「弱い魔物の対処ならともかく、強い魔物が突如現れた場合は迅速な対応が難しいですからね。強力な兵器はどうしてもかさばりますし、それに何十年に一度しか発生しない強い魔物の襲撃対策に、あまり予算を回せないようで」
「う、うーん?」
別に、普段の国防で用いる軍備で対応すれば良いんじゃないのか?
と思いはしたが、ミリタリーにはあんまり深く突っ込めないからなんとも。
俺の世界とは事情が異なるのかもしれない。
「でも、そんな事は殆ど無いわよね。大体はAランカーの仕事の延長かしら?」
「というと......」
「要人警護に効能の高いポーションの材料集め、魔鉱石の採集ってトコロ?」
「何か地味だなー......」
「そうかもですけど、大切なんですよ? お金もたくさん貰えるって聞きますし」
............
「リーシャさんのおっしゃる通りですね。魔鉱石は、私達の生活にも深く関わっていますから」
俺以外の三人は、意見が一致している様子。
でもなぁ。大切だとか手取りが良いとか言われると、夢が無くなる感じがするのは俺だけだろうか。
現実に引き戻される感じ、と言った方が良いか。まあ、現実なんだけど......
「とうかしましたか、ハルト」
「いやー、ランカーは皆の憧れ、って訳じゃないのかなー、と」
「そうですね、漫画で出て来るヒーローとは別と考えるべきです」
「だよなぁ......」
誤解が無いように言えば、別にヒーローになりたい訳じゃない。
でも、漫画やアニメで見るランカーのような存在と違っているから、どうも腑に落ちないのだ。
だからこそ、気になる事がある訳で。
「なあ、リーシャ」
「はい?」
「リーシャがBランク試験を受ける理由って、何なんだ?」
「それは......」
「もちろん、言いにくい理由があるんだったら言わなくて良いんだけど」
これは深い意味なんてない、ただの興味だ。
俺にはピンと来ないものであっても、高みを目指そうとする女の子がいるのなら、その子にはどんな理由があるのだろう。
高みを目指すモチベーションは何なのだろう。
「いえ、大丈夫です。その、私のお父さんとお母さんはポーションの調合をお仕事にしてて、それの素材集めのお手伝いをしたいんです」
「それでBランクの肩書きが要るのか」
「はい! 今まで、『危険だからお家で待ってなさい』って言われてて。でも、Bランクを取れたら一緒に来ていいよ、って約束してくれたんです!」
目を輝かせながら話すリーシャ。
気持ちの昂りかその声は上ずっていて、年相応の子供らしい感じがした。
「お仕事を手伝うかぁ。私、したことないなぁ」
驚きつつも優しげに笑うのは、リーシャの隣に座るアリスだ。
以前小耳に挟んだ事だが、アリスの父親の藤宮我道が経営する会社は、様々な物品を扱う歴史ある商社らしい。
親の仕事を手伝う、というのはアリスにとって遠い話に感じるのかもしれない。
「まあ、別にした事がなくともおかしくはないさ」
俺も、親の仕事を手伝った事なんてない。
だからこそ、目を輝かせながら『仕事の手伝いをしたい』と言うリーシャは立派だと思う。
......いや、違うか。
羨ましいと言った方がしっくり来る。
あれ、じゃあ俺は親の手伝いをしたいのか? いや、そうでもないな
............
――ああ、そうか。やりたい事、叶えたい事があるのを、羨ましいと思っているんだ。
俺にはそういう強い思いが無い。
確かに、周りが大学に行くから俺も大学に行こうとはしてる。
でも、大学に入って何かしたい事があるか、と言われると大して無いのが現実だ。
就職で有利になるとか、その程度。
リーシャは親御さんのお手伝いがしたいからBランクを取ろうとしてる。
あれ、じゃあ俺は何の為に――いや、浪人生がこれ以上考えるのはダメだな。
もう、辞めよう。
「ハルト、どうかした?」
「え、何が?」
「なんか、珍しく悩んでるような感じがしたから」
「『珍しく』って何だよ! 俺も人並みに悩むことぐらいあるよ!」
「そっか。うん、ごめんね?」
からかうように笑うアリスにツッコミを入れる。
「うん? 真耶もどうしたよ?」
と、俺の横に座る真耶が真剣な顔つきでスタホの画面を覗いている。
俺が尋ねると、真耶はスタホを仕舞った。
「いえ、何でもありません。それと、そろそろ着きますよ」
「お、そっか」
短いやり取りをしていると、電車が目的地の技能センター前駅に着いた。
椅子から立ち、電車から降りて改札へ向かう。
その中、リーシャの後ろ姿を真耶はじっと見つめていた。




