Part2 ぼく わるいおにいさんじゃないよ
「誠に申し訳ございませんでした」
弾かれたが如き速度で金髪の子から離れた俺は、レンガ造りのオシャンティーな歩道に額を擦り付けていた。
異世界よ、これが日本の謝罪スタイルだ。
「そ、そんな事すると人が見てて......」
好奇の視線が集まり、両手をフルフルと振って慌てふためく女の子。
あー、この世界にTwitterがあったとしたら、俺は晒されてるかもしれんな。
だが、そうなっても仕方がない。NOタッチの誓いを破った者の罪は重いのだ。
「あ、頭を上げてください!」
「ははっ」
上様の許可を得た俺は、顔をゆっくりと上げてその姿を見た。
フリルがあしらわれた白のワンピースに身を包み、そこから華奢で白い手足が伸びている。
あどけない表情には、一片の邪念もない。
綺麗な金髪が日光を反射している事も相まって、少女自身が輝いているような錯覚を憶えた。
差し伸べられた手を俺はゆっくりと取る。
小さなその手は、暖かかい。
「天使様......」
「て、テンシ?」
「いや、こっちの話だ、何でもない」
まだどこかふわふわした感覚がするが、頬をパンパンと叩いて切り替える。
「それで、俺に話しかけてきた理由って......?」
「えっと、栄町駅まで行きたいんですけど、道が分からなくて。お兄さん地図持ってたから、それで道を知ってるかなって」
「あー、なるほど。というか、俺もそこに向かってたんだ。良かったら一緒に行こうか?」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
満面の笑みを俺に向けてくる金髪の女の子。
......冷静に考えれば、事案一歩手前かもしれん。
でもなんと言うか、この笑顔を見てると変な考えも抜けて来るから不思議だなあ。
「それにしてもキミ、にほ......じゃなかった、月生語上手だね?」
歩き出した俺は、時間潰しにちょっと気になっていた事を聞いてみた。
年齢は10歳ぐらい。金髪や白い肌から見ても日本人――いや、ここでは月生人か――とは違うのだが、それにしては月生語が達者だ。
「えっと、昔から月生で暮らしてて」
「なるほど、それでか」
在日外国人みたいなものか。それにしたって、さっきからの受け答えもしっかりしてるなぁ。
「小学生......なんだよね?」
「はい、そうですけど......?」
うーん、やっぱりしっかりしてる。
純粋に返事として浮かばなかっただけの可能性もあるけど、ここで学年や学校名を言わない辺り、親の躾もしっかりしてるっぽいな。
「あ、ここを右に入った方が良くないですか?」
「え? あ、ああ、そうだな」
無難に行こうとする俺を制止して、ショートカットを提案する金髪幼女。
ちょっと不安だけど、待ち合わせ時間にはそこそこ余裕あるし大丈夫か。
「ここを右に」
............
「ここは真っすぐです」
なんか立場逆転してないか!?
「――あ」
幼女にホイホイついて行っていた俺の口から、間の抜けた声が出る。
見えてきたのはズラリと並ぶ高層ビル。遠くには、待ち合わせ場所の目印にしていた何か現代アートっぽいオブジェが見える。
着いちゃったよ! 20数分の道のりが15分ほどで着いちゃったよ!
ナビゲーション能力高いなこの子、ホントに迷子だったのか!?
「あれ、ハルトもう着いたの?」
「おう、アリ――ス?」
横から聞き慣れた声がしたので、それに反応する。が、アリスの姿はいつもと雰囲気が違った。
何と言うか、俗っぽいのだ。無地の黒シャツの上からカーキ色のパーカーを羽織り、下はショートのジーンズを履いている。
「おや、もう少し時間が掛かるかと思っていたのですが、残念です」
「そこ、残念とか言うな! ってかその肩から下げてる物騒な物はなんだ!?」
真耶も俗っぽい恰好をしていたのだが、それより気になったのは肩から下がるゴツイカメラ。
グリップが横と底の両方についていて、角ばった、武骨な見た目をしている。
真耶の身体がスマートなのも相まって、かなりの威圧感だ。
「これですか? サクラフィルム製、GSX100 MarkⅡと GS 105mm F2 R APDですが」
「いやそうじゃなくて......なんでカメラ首から下げてるんだ?」
「街に出掛けるにしても、何をしたのか記録してお義父様に報告する必要がありますからね。そのための記録用です」
「そう......か......」
だからと言ってこのサイズ感はどうなのよ。
ストラップがピーンと張ってるし、2kgぐらいはありそうだぞ。
携帯性は悪そうだし、記録用のカメラだったらスマホで十分なハズ。
記録目的だけじゃないのは確定だな、コレ。
さっきからカメラの背面液晶を見て、満足げにシッポくねらせてるし。
誰かに見られた経験が無いからか、真耶本人は無意識で動いている事に気付いていないようだ。
くっ、変化の少ない表情とのギャップがっ!
「それよりハルト、貴方こそどうしたんです? ついに稚児趣味にでも目覚めましたか」
「違うっての! 迷子になってたらしいから、一緒に来てただけなんだよ!」
「女児誘拐ですね」
「ハルト、そういうのは良くないわよ?」
「ダァ~ッ! ダメだこの二人、聞いてねぇ!」
アリスと真耶のジトーっとした目線が刺さり、頭を抱える。と
「あの、お兄さん達はどう言う......?」
置いてけぼりを喰らっていた金髪の子が、おずおずと尋ねてくる。
そう言えばそうだった。どう説明しようか。
「この野郎は私達の友人でして。訳あって魔力測定を受けた事がないので、それの付き添いです」
「野郎って言うなし。だがフォローサンクス」
「え、試験を受けに行くんじゃ――」
「試験?」
「あっ、いえ......」
不意に、金髪の子が俯いた。うん、俺何か変な事言ったかな......?
「ハルト。一本早いですが、そろそろ電車が到着しますので」
「ああ、そうだな。じゃ、行こっか」
真耶が電車の到着が近い事を告げたので、そのまま話を切り上げて駅の構内に入っていく。
その間、女の子は不安や焦りが混じった表情をしていた。




