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Part59 力を合わせて

日付回ってるよ! アウトだよ!

 駐車場の四階にまで登ってくる途中で、何となくの戦況は掴んでいた。

 シュウの驚いた声に嫌な予感がして、全力で走った先に、俺は驚くべき光景を目にする。

 あのシュウが、血を吐いて倒れている!?


「ぅおあああ!」


 驚いて立ち尽くしそうになるが、今はそんな場合じゃない!

 シュウの傍でエルゲージを構えるレイドに向かって、俺は右手から炎を放つ。


「クッ!」


 不意打ちの形になったそれをレイドは飛び退いて回避し、俺は急いでシュウに駆け寄る。


「シュウ! 無事か!?」

「ハ、ルト......良かった、間に合った」

「間に合ったって言えるのか、コレ!?」


 取り敢えず息はしてるみたいだけど、モザイクが欲しくなるレベルなんだが!?


「早く<ヒール>を! 時間は俺が稼ぐ!」


 そう言ってから、俺はレイドの方を向く。

 シュウとの戦闘で消耗しているのか、脂汗を流すレイドは苦しそうだ。

 が、


「チッ!」


 大きく舌打ちしてから、レイドは後ろ向きに大きく飛ぶ。

 

「あっ、この......!」


 走って追いかけるも、身体強化をしているレイドとは距離を離されるばかりだ。

 レイドの口が動いている。

 この状況で口にする事と言えば、十中八九魔法の詠唱。

 マズイ、このままだとまた逃げられる......!


「く、そぉ!」


 レイド目掛けて火球を投げるも、そんな物が届くはずも無い。

 間もなくレイドの前に青白く光る珠が現れ、


「<サーフェス・クラック>!」


 魔法を発動させると同時に、レイドは手にしていたエルゲージを床に刺す


「グッ!?」


 ——が、そこで予想外の事が起こる。

 レイドが顔を歪め、エルゲージから手を離したのだ。

 引っ込めた手からは血が噴き出している。


「こ、これは......!?」


 突然の出来事に俺は驚きの声を出すが、ふとある事に気が付く。

 足の裏から、ピリピリとした感覚が伝わって来ている。

 これは、もしかして......


「チッ、やってくれるじゃねぇか......!」


 レイドは俺......ではなく、俺の後ろで倒れているシュウに向かって、忌々しげな言葉を吐く。

 間違いない、シュウが自身のマナを床に流して、テリトリーを展開したんだ。

 さっきレイドが出血したのは、床に流そうとした魔法の効果が手に逆流したからに違いない。


 俺が駆け付けた事で、シュウはテリトリーの展開に意識を回す事が出来るようになっている。

 今は倒れているお陰で床との接地面積も広く、マナの操作もしやすいのだろう。

 レイドも、普段なら足の裏の違和感で事前に気付けたかもしれない。

 が、<オルティネート>と身体強化魔法の重ね掛けによる痛みが、その感覚をもみ消してしまったのだ。

 

 例えシュウが負傷していようと、二対一。

 おまけに、レイドは手が使えない。

 今がチャンスだ!


「うおぉぉぉ!」


 俺は長く伸ばしたエルゲージを片手に、レイドに向かって突っ込む。

 身体を後ろに引くレイドだったが、何かに気付いたのか彼はその場で待ち構え、肘から伸ばすようにエルゲージを生成する。


[ガッ! キィン!]


 耳をつんざく、甲高い音が駐車場に響く。

 俺が距離を取った状態から繰り出す突きを・横払いを、レイドは避け・いなして防御する。


「シッ!」

「ゥオッ!?」


 隙を突いてレイドが繰り出した突きを、俺は身体をよじって回避する。

 普通なら、レイドはここから攻撃を繋げるかもしれない。

 だが彼はそうせず、すぐに俺からの反撃を警戒した構えに戻る。


 やっぱり、聞いた通りだ......!

 俺はギンジさんから聞いた話を思い出し、ついニヤリとした笑いを浮かべる。


 火属性は、四つの自然属性の中で最も攻撃的だと言って間違いない。

 触れなければ問題ないその他の属性と違い、火属性は近づいただけで火傷を負うのだ。

 一方で、火属性を使う俺自身に熱の影響は及ばない。


 これの意味する所は、レイドは強気に攻められなくなると言う事。

 避ける・いなすにしてもギリギリは狙えないし、距離を詰める事も出来ない。

 俺が身体から炎を放出したら、モロに被害を受けるからだ。


 レイドはこれを知っているからこそ、魔法やエルゲージの投擲で攻撃して来ていた。

 だが、今はそれが出来ない。

 手は傷付き、共鳴術は使えず、魔法は封じられ、距離を取ろうとしても後ろに引けないからだ。

 むしろ、この状況で俺の攻撃を防ぎきっている事の方が驚くべき事かもしれない。


「チッ!」


 だが、それもとうとう限界を迎える。

 少しずつ後退していたレイドが、大きく右に飛び退いた。

 <ヒール>を唱え、手の傷を治すレイド。

 が、俺はそれを阻止しようとはしない。

 レイドを警戒しつつも、俺が向かったのはレイドの後ろにあったもの......燃えた車だ。


 俺は炎に手を近づけ、意識を集中させる。

 すると、自分の手足のように炎が動いた。

 大きな炎を操ろうとしたのは今回が最初だったが......そこは火属性、扱いやすいらしい。


「っ!」


 手は動かさず、それでも腕を大きく振り回すかのような意識を右腕へ。

 そうする事で、炎は大きくうねる。

 その炎でレイドを牽制しつつ、俺は近くの車へと炎をぶつけた。

 車の中にある火属性の魔鉱石を飲み込み、炎はさらに大きくなる。

 こうなれば、もう勢いは止まらない。

 

「おぉらぁ!」


 巨大な火柱が、生き物のように駐車場の中を駆け抜ける。

 この火力があれば、どんな物だって焼き払える——


「ッ!?」


 そんな慢心が生まれた刹那。

 レイドが、炎の壁を破って突っ込んで来た。

 まさか火柱を、遮蔽物しゃへいぶつとして利用するなんて......!

 

 レイドにとって、俺を倒さなくては状況は好転しない。

 だからこその捨て身の特攻。

 その覚悟の強さに虚を突かれ、俺は完全に反応が遅れる。


 斬られる、やられる。

 予測可能、回避不可能。

 もう、その瞬間を受け入れるしかない——


[ヒュアッ!]


 俺が目を閉じかけた、その刹那。

 後ろから吹き抜けた烈風が、レイドの身体を弾き飛ばす。

 まさか、と期待を込めて後ろを振り返ると、安堵のため息を吐くシュウが立っていた。


「ハルト、共鳴術を使っている最中は近くへの注意が疎かになるんだ。ボンヤリしてると、あっという間にやられるんだよ?」

「わ、悪い......助かった」

「ああ、次から気を付けて」


 そう言って笑いながら近づいて来るシュウに、俺も笑い返す。

 顔色は良くなり、傷も回復したようだ。

 胸の内に安堵が広がりかけるが、シュウのさて、と言う声で気持ちを切り替える。


「じゃあ行くよ、ハルト」

「ああ、任せろ!」


 パァンと音を立て、右手同士を重ね合わせる。

 危機を察知したレイドが、猛烈な勢いで接近して来る。

 だが、もう遅い!


『「うぉあああああ!」』


 二人の叫びを乗せた風が、炎が、一瞬にしてレイドを飲み込む。

 その力の奔流は床を燃やし柱を削り、壁を壊してレイドを外まで押し出した。

 それでも勢いは止まらず、闇夜を照らす塊は轟音を立てて向かいのビルに激突する。


「な、何とか......勝ったな」


 その衝撃を肌で感じながら、俺はシュウに笑いかける。


「ああ、俺達の勝利だ。でも、運に助けられた部分も多かったね」

「ああ......」


 俺は上を仰いで、短くも濃密だった戦いを思い出す。

 レイドがこの建物にスポーンしていなければ、俺とシュウのスポーン地点が近くなければ。

 俺達はきっと、各個撃破されていただろう。

 あるいは、地殻変動の力を使った共鳴術で一網打尽にされていたかもしれない。

 二人では勝ちはしたものの、一対一なら俺もシュウも負けているのだ。


「でも、一週間の特訓が無かったら、この条件でも勝てなかっただろうな」

「ああ、その通りだよ」


 人にエルゲージを向ける覚悟も、土属性使いへの立ち回りも、スキルの精度や使い方も。

 特訓しなければ、決して出来ない事だった。

 運があったのも確かだ。けれど、それだけじゃないと胸を張って言える勝利だ。

 これで、ソラと一緒に居られる。

 表面的にも、気持ちの面でも。


 ......等と達成感を噛み締めてから、俺は疑問を口にする。


「にしても、この後ってどうするんだ?」

「どう、って?」

 

 目をパチパチさせるシュウ。

 いやさ、と前置きしてから、俺は続ける。


「戦闘は終わったんだろ? なら、この空間からはどうやって出るんだろうな、って」

「確かにその通りだね......もう暫く待てば、アナウンスでも流れるんじゃないかな」

「あー、だったらちょっと待ってみるか」


 そうして突っ立っていた俺達だったが、状況は何一つ変わらない。

 炎の熱なんて感じないのに、手のひらにジットリと汗がにじんで来る。


「なあ、まさかだと思うけど......まだ終わってないとか?」

「まさか。あんな攻撃を食らって、死なない人が居るわけないよ」

「だ、だよな。そんな事——」


 『ある訳が無い』。

 そう口にしようとした直後。


「ハルトッ!」


 シュウの慌てた声と同時に、脇腹に激痛が走った。


「ガッ、ハ......!?」


 ボーリング玉ほどの大きさはあろうと言う石の塊に、俺は身体ごと持って行かれる。


「大丈夫か!? 意識はあるか!?」


 そう言いながら慌てて駆け寄るシュウを横目に、俺は激痛に耐えながら首を持ち上げる。

 そして、驚きで目を大きく見開いた。


「ウソ、だろ......!? まだ生きてるってのか!?」


 下から姿を現したのは、太く大きな土の手。

 レイドとの戦いは、まだ終わっていなかったのだ。

次回更新は4/18(月)を予定しています

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