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こんな異世界、お兄さんは認めません!  作者: アカポッポ
第一章 いざ異世界へ!
14/146

幕間3 お嬢様のお屋敷案内!

 マヤと入れ替わりにアリスが入ってきて少し経った時、俺は不意にある事を思い出した。


「そう言えば、杖借りたままだったな」


 フィッシング・ツリーと戦った時に使った杖。

 このこげ茶色の棒があったお陰で、集中しなくても炎が出た訳で。


「そう言えばそうね。でもいいわよ、代わりはあるし、ハルトには助けられたから貰っておいて」

「いいのか?」

「どうせ持ってないんでしょ?」


 そう言って、ちょっと意地悪そうに笑うアリス。

 杖を持っていないのはその通りなんだが......いや、ここは素直に貰っておこう。

 

「じゃ、お言葉に甘えて。ありがとな」

「ふふん」


 取り出した杖をポケットにしまうと、アリスは嬉しそうに微笑んだ。俺も釣られて笑う。

 うん、これで良いんだろう。


「ね、ハルト。お屋敷の中案内しよっか?」


 と、杖の話に区切りがついたところでアリスが提案してきた。

 変にメタっぽい話をすれば、このお屋敷は異世界転移あるあるの一つ『主人公の活動拠点』になる可能性が高い。

 なら、説明を受けておいて損はないだろう。

 お嬢様との親睦にも繋がるし、一石二鳥だ。


「だったらお願いしようかな」

「任せておいて! ......あっ」

「どうした?」

「さっきマヤが自分の部屋に入っていって......多分疲れて寝てると思うから、声小さくしてね?」

「あいよ、了解」


 大切にされてんなぁ、マヤ。


 俺に注意を伝えてから、アリスは板張りの床に足音を響かせてドアに向かう。

 ドアを開けた先は廊下だった。人が二人並んで歩けるかどうかぐらいの狭い廊下で、それが左に続いている。俺の部屋は一番右だったようだ。

 窓の外に見える景色は少し高めで、数メートル下に路地が見える。という事は、ここは二階か。

 そして、少し上を見上げると左右に延々と広がっている山が見えた。

 

「今ハルトが見てるのは八伏山。ここからずっと北まで続いてて、八伏山系って言うらしいわ」

「ほーん......もしかして、昨日俺が居たのもここだったのか?」

「そ。詳しく言うと、山の向こう側にある谷だったけど」

「え、そんなに遠かったのか? というかアリス、そんな山中に入ってたのか......」

「そうよ! 凄いでしょ!」

「いや、褒めとらん褒めとらん」

「えー......」


 俺がもし親で、子供があんな所まで入っていったとか聞かされたら心臓バックバクだわ。

 ブー垂れるアリスだが、スッと表情を変えて横を向く。切り替え早いなこの子。


「じゃあ次ね。横に並んでるのが、使用人室よ。書いてある名前が、その部屋を使ってる人だから」


 廊下に突き出る形で、人の名前が書かれたプレートが付いている。

 学校の教室についているアレを、一回り豪華にした感じだ。

 廊下を歩き、刻まれた名前を見て行く。

 俺の部屋に近い順で、佐伯・立松・真耶と書かれている。あれ、マヤ以外は苗字だな。

 ......そして、当然のようにみんな日本人名なんだな......


「佐伯は近くの大学に行ってる大学生なの。下宿も兼ねてここで働いてる。ボーっとした感じもするけど、良い人よ」


 大学とかいう聞き慣れたワードが出てきたが、俺はもう突っ込まんからな。


「立松さんはお料理担当。元は一人でお店を開いてたんだけど、それが潰れちゃって。困ってた所にお母様が声を掛けて、雇って貰ったんですって」

「へえ、良い話じゃないか」

「それと……立松さんは普段喋らないんだけど、料理の話をするとずっと聞くことになるから、注意した方がいいわよ」

「へ、へえ......」


 ヤケに実感の籠った話し方をするアリス。

 あ、これ経験あるんだな。


 と、ここでアリスの足音が小さくなる。マヤの部屋の前だから、特に気を使っているようだ。

 ここがあの女の部屋ね、と叫ぶのは脳内で留めておく。


「で、ここがマヤの部屋。私のお世話や、お父様やお母さまのお手伝いをしてくれてるの」

「なんでマヤだけ名前なんだ?」

「マヤの苗字は藤宮。私と同じなの」

「なんですとぅ!?」

 

 今明かされる衝撃の真実。


「姉妹......ってのは流石にないか」

 

 姉妹と言うほど似ている訳じゃないから、その線はないだろう。

 と言うか、もし姉を使役する妹がいるとしたらヤバイぞ。

 マヤの歪んだ所と合わせて、藤宮家の闇が深すぎる事に。


「マヤは藤宮家の養子なの。私も全部は知らないんだけど......色々あって、お父様が引き取る事になって。それから、このお屋敷でずっと働いてる」

「それからって、何歳ぐらいからだ?」

「確か私が四歳の頃からだから......七歳かしら」

「な、七歳!? それって大丈夫なのか!?」


 児童労働ってレベルじゃねぇぞコレ。

 大学があるぐらいの文明レベルだし、道徳観からして相当ヤバイんじゃないか。


「お父様も『そんな事しなくていい、家族として接してくれたら良い』って言ったらしいんだけど、マヤが聞かなかったらしくって。でも私もお世話になりっぱなしだし、強くは言えないのよね......」

 

 そう言って、少し声を小さくするアリス。

 アリスは知らないが、マヤには耳と尾の問題もある。

 結構デリケートな話題だし、これ以上触れるのは止めておこう。


「じゃ、次行こうか」

「そうね。次はこっちよ」


 と、再び歩き始めたところで、一人の女性と鉢合わせした。

 モブキャップ――つまりドアノブカバーみたいなアノ帽子に、長袖の黒のインナー。

 その上から申し訳程度にフリルが付いた、丈の長いエプロンを付けている。

 露出や派手さの無い、模範的なメイド服だ。


「おや、お嬢様。その後ろの方がもしかして――」

「ええ、ハルトよ」

「そうですか。初めましてハルトさん。自分、佐伯って言います」


 モップを横に立て、ペコリとお辞儀する佐伯。

 メイドと言うにはややサバサバした感じだが、この方がこっちもラフに出来て親しみやすい。


「ああ、よろしく」

「お嬢様、ハルトさんに屋敷の案内ですか?」

「ええ、そうよ!」

「また屋敷から出ちゃ駄目ですからね?」

「わ、分かってるわよ! ハルト、早く!」


 佐伯に茶化されて頬を赤くしたアリスが、速足で廊下を抜けていく。


 その後も屋内を歩き、色々な所を案内して貰う。

 何が良かったか、と言われると......正直、選ぶのも迷うぐらいに住み心地の良さそうな家だ。

 一階にある浴場が俺の部屋より広かったのはもちろん、大きなガラスの向こうに見える景色が和風になっており、池と灯篭に風情を感じた。


 書庫にはそこらの小学校の図書室に引けを取らないほどの書物があったし、家を挟んで反対側には植物園もある。

 庭は西洋庭園と日本庭園の二つがあった。......どっちも俺の家より広かった。

 二階にあるバルコニーから見下ろすと、広い西洋庭園が視界にすっぽりと収まる。

 その外には、ゆったりと続く下り道と、その先に並ぶ建物の数々が見える。

 さらに先には日の光を反射して光る海があった。中々の壮観だ。


 そして、屋敷を出て左側に進むと――


「車、か......」

「ええ! ここにある車だけで家が一軒建つだろうって、庭師の人が前に言ってたの」

「そう、だな」


 あまり驚いた反応を見せない俺を見て、アリスが首をかしげていた。

 いや、驚いてはいるさ。ただ、やっぱりか、と言うべきか、どうしてなんだ、と言うべきか。

 

 屋敷を見ていて、豪華だなーと思いはしたが、それ以上に感じたのは『地球と似すぎているな』という感想。

 車や意匠を凝らしたシャンデリアがあったのもそうだが、何より言語だ。

 書庫の本の背表紙をチラチラと見ていると、日本語以外に中国語やロシア語まであった。

 もしかして、俺が知らないだけで二つの世界は交流があるのか?

 そう思ったが――


「なあアリス。魔術のない世界はあると思うか?」

「魔術の無い世界? ちょっと想像できないかも」


 ――そう言われ、その可能性はすぐに消えた。

 何でなんだ。オラすっげえモヤモヤするぞ。


 そうしてモヤモヤしていると、一人の女性と出くわした。

 女性は紺のロングスカートで落ち着いた服装をしており、余裕のある動作は高貴さを感じさせる。

 茶色い髪色に、目つきがちょっとキリっとしていて、西洋人っぽさがある。

 ハーフかクォーターなのかもしれない。


「あ、お母様!」

「あら、アリス。と、貴方がハルト君ね?」

「初めまして、北条 ハルトと言います」

「初めまして。アリスの母のアイラです。昨日は娘を助けていただきまして、ありがとうございました。不在の主人に代わりましてお礼しますわ」


 スッと頭を下げるアイラさん。優雅だ。


「アリス、お屋敷を案内するのは良いけど、はしゃぎすぎて怪我しないようにね」

「ちょっとお母様......」

「では、私はお花のお手入れがありますので、これにて」


 ふふ、と笑いながら、胸元で手を振って立ち去るアイラさん。

 あの植物園はアイラさんが管理してたのか。


「どう? お母様キレイでしょ?」

「ああ。目元がキリっとしてて......イギリスかどこかのハーフ?」

「イギリス? ナニソレ?」

「あーいや、何でもない」


 流石に国名は違うっぽいな。


「でもそうね、アングラニアのハーフだって昔お爺様が言ってたかも」

「ほうほう」


 アングラニア......うーん、どこだ。さっぱり分からん。

 娘にアリスって名前を付けるから……イギリスかどこかか?

 

 ちなみに、アリスの部屋はT字の階段を使用人室とは逆方向に曲がってすぐ左手の所にあるのだが、そこには『有栖』と書かれた名前の札があった。

 和と洋の両方でも通るように、と言う事なのかもしれない。

 そのせいで、俺はこの世界で日本語が使われている事に気付くのが遅れたんだが。


 その後も使用人用の裏門などを紹介して貰う。

 が、厨房と配膳室を紹介して貰っている時にハプニング発生。

 厨房で料理している立松さんとは普通に挨拶出来たんだが、問題はその後だ。


「そう言えば、ハルトはお昼どうするの?」

「え?」

 

 そうか、アリスは俺が普通に間借りして暮らしてると思ってるから......

 しかしどうする? 両方の飯食えるほど、大食いじゃないんだが。


「あ~......っと、、、」

「?」


「――おや、食事まで頂くのは悪いから、自分で済ませるのでは無かったのですか」


 と、俺が回答に困っていた時、不意に後ろから声を掛けられた。

 そこに立っていたのは、もちろんマヤだ。


「マヤ、起きてたのね。具合はどう?」

「具合も何も、私はいつも通りですよ、お嬢様。さて、一緒に母上様を呼んで来ましょうか」

「そうね。じゃあハルト、またお昼の後で! 部屋どこにあるか覚えてる?」

「ああ、お陰様でばっちりだよ」


 グッと親指を突き立てる俺を背中に、アリスとマヤは植物園へと向かって行った。

 さて、俺も一旦帰りますか。


◇◇◇◇◇


「マジ助かった、サンキューな」


 自宅に一旦行ってから再びこちらに戻ってきた俺は、マヤの部屋に来ていた。

 マヤは持っていたスプーンを手から離す。どうやら食事は藤宮一家の後で取っているらしい。


「それで、どうでしたか? この世界は」

「そうだな......というか、喋って大丈夫か?」

「ここまで話しておいて何もないなら、大丈夫では? 私は責任を負いませんが」

「お、おう。そうか」


 なんだその大阪人みたいなノリ。

 まあでも、ふざけて言っているようには見えないし、大丈夫か。


「なんて言うか、似てるを通り越してる感じだな」

「つまり、お屋敷の中にあった物の全てを、ハルトは向こうの世界で見た、と」

「そうだな。車もあったし、庭もどこかで見た事ある感じだった」

「そうですか......」


 一体何故ここまで似ているのか、謎は深まるばかりだ。

 とは言え、俺をこっちの世界に連れてきたアイツら以外には聞けないしな。

 はてさて、どうしたものか。


「............」

「どうした?」

「いえ。それより、ハルトには目的が――」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁあ!?」

「!!」


 ヤバイ、やっちまったよ!

 異世界の空気に吞まれて妹の事が頭から抜けてたなんて、兄として最大の不覚!

 ......と勢い良く立ち上がったので、マヤが身体をのけ反らして驚いていた。


「わ、悪い。そうだな、どう妹を探せば......」

 

 ここまで似ている世界だ、戸籍は絶対にあるだろう。警察組織だってあるはずだ。

 ただ、俺と美夜子の血縁関係を繋げるものが無い以上、役所に行っても意味は無いしな……

 いや、いっその事俺の世界だと考えて……


「なあマヤ、この国に顔写真の載った身分証明書ってあるよな?」

「ありますが」

「じゃあそれを管理してる機関にクラッキングかけて情報盗んで、後で俺の記憶と照合させる、とか?」

「......それにハイと言うとでも?」


 マヤが少し表情を歪ませる。

 俺だって違法なのは分かっているが、それ以外に思い付かない。

 迷子の捜索みたく街中に張り紙するのも、警察組織の許可が居るだろうしな。


「警備会社の方に頼めば可能かもしれませんが、大っぴらには言えない事ですからね」

「まあ、そうだよなぁ……」


 当然と言われればその通りの返事をされ、俺は閉口してしまう。

 妹の発見と言うゴールは、まだまだ遠いらしい。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました!


これにて、第一章終了です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1章完結、お疲れさまでした(*^^*) 日本と似すぎている文化、パースやレイブン‥‥謎が謎を呼ぶ感じですね♪(/ω\*) 個人的には、双子ちゃんがかわいかった(*≧∀≦*) 妹を探す協力…
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