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Part56 時、来たれり

 迎えた土曜日の朝、俺は藤宮家の通用口で真耶とアリスに見送られていた。


「んじゃ、行って来る」

「ええ、悔いのないよう頑張ってください」

「良いニュースを期待してるわよ!」


 励ましの言葉を背に、俺は裏門を出る。


 二人には、時折特訓の相手をして貰っていた。

 特にアリスの、今回の件がソラに関する事だと分かった時の食いつきっぷりと言ったら。

 改めて、ソラに対する気持ちのブレなさを感じた一件だった......ソラにも後で話しておこう。


 ちなみに、『高校まで応援しに行く!』とまで言い出したアリスだったが、中間テストが迫っている事を理由に、真耶にすげなく却下された。

 ......そして後日、俺は真耶から『あの時のお嬢様の表情は素晴らしかった』などと言う話を延々と聞かされたのだ。

 なんかこう、うん。真耶さん流石です。

 

 などと考えながらバスに乗り、電車に乗り換え。

 オモシロ高校のある島へと向かうべく電車を降りた所で、シュウと合流する。


「おはよう、ハルト。バスの時間通りだね」

「遅れる訳ないだろ。じゃ、乗るか」


 コクリと頷きあい、俺達はまたバスに乗る。

 周りの利用客が他愛ない雑談に花を咲かせている中、俺とシュウの顔は締まっていた。


「あっという間だったな、一週間の準備期間」

「ああ。ハルトは準備万端かい?」

「そりゃまあ短い期間だったから、パーフェクトって訳にはいかないけど......でも、出来る事はやれたかな。シュウこそ、学校の授業もあるのに大変だったんじゃないか?」

「いや、俺は魔術部門の研修生だからさ、授業自体もトレーニングになるんだよ」

「そっか、なるほど」

「ただ......」


 そう言った所で、シュウは言葉を詰まらせる。

 アゴを触って少し迷うような仕草を見せた後、また口を開いた。


「ソラちゃんの様子が、少し気になってね」

「それって、どう言う......?」

「実は彼女、水曜まで学校を休んでたんだ」

「無断で、か? ソラがそんな事を......」

「いや、それは無いよ。体調が優れないから休むって連絡は、あった」

「そ、そっか」


 俺は胸の内に立ち込めかけたモヤを、息を吐いて追い出す。


「でも、木曜から来たんだろ?」

「ああ。でも妙だったのは......休み明け、俺と初めて顔を合わせた時にソラちゃんはこう言ったんだよ、『顔付きとか見た目に違和感ないですか』、って。俺が『何ともないよ』って言ったら、彼女は安心した表情を見せてね」

「それは......妙だな」


 どう考えても日常的な質問じゃない。

 休んでいる間に何かあったのか......?


「特訓してる途中で顔に大怪我して、その跡が残ってないか不安だった、とか?」

「それなんだけど......もう一つ気になる事があって。彼女、休んでた間に強くなってるんだ」

「んー......ん?」


 俺達も特訓してた訳だし、ソラも少しぐらい強くなってても普通じゃないか?

 などと一瞬思った俺だったが、シュウの表情から察するに、そのレベルでは無いらしい。


「何でそう思ったんだ?」

「木曜日のうちに、ソラちゃんのクラスの魔術演習があってね。その日はスクロールの使い方を教えてたんだけど......生徒の一人が、風属性の魔法のスクロールを暴発させてしまったんだ」

「うわー、危なっかしいな」

「で、他にも何人かの生徒がスクロールを発動させていて、それが風で飛んでしまって」

「おいおい......大丈夫なのか、それ?」

「校舎の方に飛んで行ったのが数枚あって、俺も焦ったんだけど......ソラちゃんが、瞬時に土を隆起させて防いだんだ。手を地面につけず、ね」

「『手を地面につけず』......!?」


 シュウの言葉に、俺は驚く。

 地面を隆起させる手段は二つ。共鳴術で地殻変動の力を操るか、魔法の効果を操作するかだ。

 正直、共鳴術で一気に大きな力を得るのは難しいから、その線は考えにくいんだが......


「ソラの足元に、魔法陣は見えたか?」

「いや......俺は見ていない」

「そっか、()()()か......」


 足の裏から魔法陣を展開したなら、それはそれで驚きだが......エルゲージに魔法陣を刻んでいたソラだ、それぐらいの事は出来そうな気がする。

 魔法無しに地面を大きく隆起させたのは、それ以上に俺を驚かせた。


 地面に手をつけずに共鳴術を使う事自体は、ソラが以前からしていた事だ。

 だが、一気に起こせる変化量としては、俺の身体を地面に引きずり込む程度だったはず。

 となると......

 

「それだけ、強い力で手繰り寄せた、って事だよな......」

「ああ、そうなるね」


 共鳴術は、自分自身のマナと自然のマナを同調させて発動させる。

 この時、無理矢理大きな力を得ようとすると自分のマナが引っ張られてしまい、逆にマナを失ってしまうのだ。

 自分自身との繋がりを確保しつつ、その上で自然のマナに手を伸ばした時、一度に手繰り寄せられるマナの量は意外と少ない。

 だから、多くのマナを操りたい時は、少しずつ取り込むのがセオリー......とされている。


 なのに、ソラは一気に大量のマナを操った。

 これの意味する所は、ソラのマナの出力がそれだけ大きかったと言う事。


「前々からマナの操作力は凄かったけど......そこに、出力量まで強化されてる感じか」

「ただの訓練のお陰で、短期間でここまで強くなれるとは思えない。やっぱり、ソラちゃんには何かあるんだよ」

「何か......ねぇ。じゃあ、休んでる間にソレの効果を引き出して来たって事か?」

「恐らくは」


 シュウの言葉を聞いた後、俺は座席に背中を付けて首を上に上げる。

 ソラは、高校生活を嫌っていないはずだ。

 それでも休んだのは、今回の試合に対して本気で挑んでいると言う事だろう。

 でも俺としては、『また無理させてるんじゃないか』と気になってしまう。

 せめて、普段通りで居てくれたら良いんだが......


◇◇◇◇◇


「よ、ソラ。一週間ぶり。元気だったか?」

「ああ、兄さん。大丈夫だよ」


 その不安は募る結果となってしまった。

 

 オモシロ高校に着いた俺は、ソラを見つけるとすぐに声を掛ける。

 だが、その返事は随分とドライだった。

 その態度に一瞬やりづらさを感じるも、俺は再び話しかける。


「いやー、水曜まで学校休んでた、ってシュウから聞いてさ。お兄さんとしては心配だった訳ですよ、お兄さんとしては」

「ありがとう。もう大丈夫だから」

「えーっと......」

「まだ何かあるの?」

「や、無いけど......」


 俺が返事をする前に、ソラはフイと身体を背けてしまった。

 後ろから、シュウが俺の肩に手を乗せる。


「取り付く島もない、とはこの事だね......」

「俺、何か悪い事したのか!?」

「ハ、ハルト。ちょっと落ち着こうよ......」


 これまでにないソラの反応に、俺の精神はガッタガタである。

 普段のソラなら『兄って変に強調しないでよ......』ってツッコンで来るはずなのに。

 機嫌が悪いのとも違う。もしそうなら、『ウザ』とかのトゲのある言葉がお尻に着くはず。

 今のはそう言うのではなく、単純に俺に対する関心が無いような......いや、だからこそ傷付いてるんだけどさ......


「きっと、試合前だからソラちゃんも集中しているんだよ。終わったら、きっと元通りさ」

「......だと良いんだけどな......」


 俺には、ソラの後ろ姿を眺める事しか出来なかった。


 ——そして。


「よぉ、来たな。楽しみに待ってたぞ」

「そりゃどーも」


 一週間前に訪れた仮想空間の施設の前で、俺とシュウはレイドと向かい合う。

 不敵に笑うレイドからは、確かな自信を感じられた。

 

「アンタ達はここを使うの初めてだろ。俺が軽く教えるから、安心しな」

「ああ、助かる」


 口は悪いのに親切な所は相変わらずだな。

 そう思いながら、俺はレイドの後ろを歩く。


「改めてルールを説明する必要はあるか?」

「いや、無い。ソラがミツキと戦って、俺とシュウでレイドと戦う。ステージはランダム、持ち込めるのは魔術的付与の無い杖のみ。時間は無制限、先に一勝した陣営の勝利。そして......勝利条件は相手を戦闘不能にさせる事。痛覚や部位欠損は、有り」

「ああ、その通りだ」


 改めて口にした事で、俺の中にこれまでにない緊張感が芽生える。

 仮想空間とは言え、これから始まるのは本気の殺し合い。

 目を背けて来た物と、向き合う事になる。

 ......罪悪感はあって良い。ただ、()に手を染める勇気を俺に。

 大丈夫、特訓はしたんだ。


 扉が開き、施設の中へ。

 レイドが受付で短いやり取りをした後、俺達三人は柱状の空間では無く、半円の向こうに繋がる場所へと通される。

 そこには空港を思わせるゲートと、レールが五基並んでいた。


「荷物はここで預からせて貰う。スタホも含めて、全部な。レールの上に荷物を置いて、それが終わったらゲートをくぐってくれ」


 丁度一人の生徒がその作業をしていたので、俺は見よう見まねで同じ動作をする。

 ゲートをくぐった先には三基のエレベーター。

 その内一つに乗り込み、レイドが“4”と書かれたボタンを押す。

 階層を示しているんだろう。1と2は赤色、3は黄色、4から50は緑色に灯っていた。


「おお......!」


 エレベーターが開くと同時に、俺は感嘆の声を漏らす。

 青色の光に薄暗く照らされた、円形の空間。

 時折光の筋が走る、中央の黒い柱。

 その柱を取り囲むように、ひと一人が入る大きさの、白を基調としたカプセルが並んでいる。

 まるでSFの世界みたいだ。


「開いてるカプセルをテキトーに選んで、その中に入ってくれ」

「分かった」


 周囲をキョロキョロと見渡していると、カプセルの中に入ったソラとミツキの姿を見つけた。

 二人は既に()()()へと旅立っているらしい。


 開いてるカプセルを見つけた俺は、その中で仰向けになる。


「先にカプセルを閉めろ。開閉ボタンはココだ。あとはソコのリストバンドとヘッドギアを装着して、少し待てば音声が聞こえる。後はソレに従うだけだ」

「分かった、ありがとう」


 俺はレイドの指示通りに動作を行う。

 すると——


≪ようこそ、サンドボックス(箱庭)へ。希望する内容にカーソルを合わせて、『Yes』とコールしてください≫


 機械的な音声が脳裏に木霊こだます。

 直後、暗くなっていた視界にメニュー画面が表示された。

 模擬戦闘(対人)は右下......と、意識を向けた瞬間、カーソルがそこへ移動する。

 眼球の動きでも感知しているんだろうか。

 

「Yes」

≪カーソルを合わせて、ルームを選んでください。または、作成してください≫


 そう案内され、表示されたのは五つのルーム。

 レイドは何も言ってなかったが......いや、『北条 ハルト&高山 シュウ vs 天龍砕 レイド』と言う名前のルームがあるから、これで間違いないだろう。

 

「Yes」

≪こちらの内容で宜しいですか?≫

「......Yes」

≪入力を完了しました。もう一度『Yes』とコールしてから、三秒後に仮想空間へ意識を転送します。キャンセルしたい場合は、カーソルでキャンセルを選択してください≫


 案内を聞いてから、俺は軽く息を吐く。


 とうとうここまでやって来た。

 ソラの編入をかけた、大事な大事な大勝負。

 ソラとの日常を失わない為、兄としてのプライドを保つ為。


「Yes!」


 本気の戦いを、始めよう!

次回投稿は3/21(月)を予定しています。


次回より、第四章の〆となる戦いへ。

バトル回を書くのは大変だけど、今週末は三連休だし間に合うはず。。。

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