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Part48 進むべき道は

「妹が、刑務所に居るって!?」


 驚く俺に対して、ルゥエルは俯いたまま小さくうなずく。


「そもそも、何で刑務所に......?」

「他の方から聞いた話なのですが、ウルルゥはある組織に拾われていて......それの指示で、社会を混乱させるような事をした、と」

「『ある組織』?」

「名前は確か......オウルズ・ヘリテージ」

「ッ!?」


 名前を聞いた瞬間、俺の脳に衝撃が走る。


「そうか、そう言う事か......!」

「ハルト、何か思い出したのですか」

「ウマウだよ! ルゥエルの妹は、一ヶ月前に常明学園を襲撃した三人組の一人だ!」


 ずっと引っかかっていた。

 図書館でニューターについて調べていた際に既視感を覚えたのも、ルゥエルの顔に何故か見覚えがあったのも、ウマウがニューターでルゥエルの妹だからだ。

 ウマウという名前も、本名の『ウルルゥ・ルーママウエル』から取ったのだろう。


 と、ルゥエルが俺の方にパッと顔を向ける。


「もしかして、妹に会った事が......!?」

「ああ。エンガとヒュウランって奴らと一緒に、俺の妹に眠る力を狙って来たんだ。それで闘いになって......なんとか退けた」

「そんな......!」


 驚きの余り、ルゥエルは口を手で隠す。


「随分と、ややこしい話になって来ましたね」

「全くだよ。クソ、こんな事あるか......!?」


 深刻な声色で話す真耶に対して、俺は頭をガシガシとく。


 一度矛を交えただけに、ウマウの能力の高さは身をもって理解している。

 最大の特徴は、転化術の使い手である事。

 世界でも10人程度しか扱えない魔術を、子供ながらに使いこなすのだ。

 まさしく天賦の才。その器用さがあれば、複雑な組成式も解除できるかもしれない。


 だが。


「助けてくれるのか? 俺達を......」


 かつて妹を苦しめた相手に頭を下げるのは、抵抗を感じるが出来ない訳じゃない。

 が、そもそもウマウが居るのは刑務所。

 さらに、ウマウが刑務所に入る原因を作ったのは俺達なのだ。


「どう会って、相談するかだよな......」

「ルゥエルさん、貴方から話を取り付ける事はできませんか」

「それが......一度だけ面会したんですが、その雰囲気からするとかなり厳しそうなんです」

「厳しそう、とは」

「心身喪失状態......と言う感じでしょうか。ハルトさんがさっき話していた、エンガさんとヒュウランさんを亡くした事をずっと引きずっていて......」

「話すこともままならないってか......」


 知れば知るほど、光は遠ざかって行く。

 見えてはいる。が、果たしてそこまで1ヶ月で届くのか。

 何か別の方法を探すべきか。だが、それが見つかってくれる保証も無い。


「くそっ......」


 一体どうすれば良いのか。

 そう思った矢先、


[ヴー、ヴー、ヴー]


 ズボンのポケットから、スタホの振動音。

 確認すると、それはシュウからの電話だった。


「シュウから? 何だ一体......?」


 まさか、また何かあったのだろうか。

 いやいや、トラブルが一日に二度も三度も起こるなんて、そんな事がある訳無い。

 ある訳が無いと、信じたいのだが。


[ヴー、ヴー、ヴー]


 5秒、10秒。スタホは鳴り続けている。

 

「ハルト、早く出た方が......」

「分かってる。今、出るから」


 ここまで経っても切れない以上、急ぎの用事なのだろう。

 息を吐いて覚悟を決めた俺は、電話を取る。

 スタホを耳にあてた瞬間、聞こえて来たのは


「大変だハルト! 今度は......ソラちゃんが、この高校に転校させられるかもしれない!」


 またしても、ソラに関する事だった。

 

◇◇◇◇◇


「失礼します!」


 場所は変わって、主代学園の学長室。

 軽くノックした後、俺は返事を待たずにドアを開ける。


「おお、意外と早かったじゃねぇか」

「レイド......!」


 窓から差し込む斜陽の光が、5つの影法師を作っていた。

 応接用のソファーに座るソラ、シュウ、レイド、ミツキ。そして学長の椅子に鎮座する金髪・琥珀眼妙齢の女——レイヴン。

 だが俺の目に写る人間は、一人だけだった。


 ソファーに座るレイドの前に立ち、俺は鋭い目線で見下ろす。


「来る途中、シュウから簡単なあらましは聞いた。どう言う事だよ、ソラをこの高校に編入させるって......」

「どうも何も、そのままの意味だ。俺の考えで、九条 ソラを編入させるべきだと判断した」

「だから、それが何でだって聞いてるんだ!」


 気を立てた俺は、レイドに向かって怒鳴る。


 『生徒会長の判断で、外部の人間を無理矢理編入させる』。

 滅茶苦茶な話だが、これは主代高校の校則にも書かれている特権だそうだ。もちろん、学長の許可が居るが。


 今日俺が見て来たように、主代高校は普通の高校じゃない。

 レイヴンやエーギルと言った圧倒的強者を有し、数々の禁書を保有する特殊な施設だ。

 その特長を生かし、この高校には特殊な能力を持つ物や人物を保護・有効利用する権利が与えられている。

 幼い頃からミツキをこの高校で預かっているのも、その権利によるものらしい。


 圧倒的強者が保護してくれる以上、命の危険は皆無と言って良い。

 だが編入させられたが最後、その人物は高校の中で軟禁される。

 自由に外に出て、友人に会ったり街で遊んだりする事は出来なくなるのだ。


「はっきり言おう。今のままだと、九条 ソラは命の危険に晒され続ける事になる。今後一生な」

「命の危険だって!?」

ソラの希望で、俺の口からは話せねぇ。が、これはソラを戦いから解放する為の措置だ」

「戦いから、解放する......!?」


 言っている意味がまるで理解出来ない。

 ソラの方に目を向けると、彼女は気まずそうに俯く。


「ソラ......戦いって何だよ?」

「............」


 沈黙。だが、それもすぐに途切れる。


「......兄さんや皆を、守る為だよ」

「俺達を?」

「オウルズ・ヘリテージのボス、カイン・フランベルクは僕を諦めてない。そして、奴は殆ど力を取り戻していた。奴らはまた襲撃して来る。兄さんや高校の人達も巻き込まれる。それは......避けないと」

「だから......戦うって言うのか?」

「これは僕が起こした問題だから、僕が解決しないと......」

「ソラ......」


 俯いたまま握り締められるソラの拳を見て、俺は胸が締め付けられるような感覚に囚われる。

 ソラの横に居るシュウも、心苦しそうに目を伏せていた。


 戦いたくない。

 けれど、戦わなくてはならない。

 ソラが行き場の無い苦しみに苛まれている事は、誰が見ても明らかだった。


「別に、ソラが抱える必要なんて——」

「無い。だからこそ、我が校で請け負う」


 ソラを励まそうとした所で、レイドが口を挟んで来る。

 しまったと思った。


「九条 ソラ。オウルズ・ヘリテージをアンタ一人で相手するなんて、到底無理な話だ。アンタをこの高校に編入させ、外部の情報から遮断すれば、アンタの知人らが脅しに利用される事も無い」

「......」

「なあレイド、常明学園の友人も一緒に編入させられないのか? そうすれば——」

「駄目だ。こんな高校でも、唯一無二の魅力を感じた奴らが世界中から入学して来る。競争倍率は相当なモンだ。『知人だから』と言う理由だけで受け入れてみろ、不合格者にどう説明する?」

「それは......」


 レイドの言う通りだ。

 それにソラの安全を考えるのであれば、編入するのが最良の選択だ。

 ただそうなれば、ソラは俺や友達と会えず、一生の大半をこの高校で暮らす事になる。


 自由と安全、どっちを取るか。

 妹の為になるのはどっちか。

 今の俺には、答えられない。


「ソラは......どう思ってるんだ?」

「......」


 俺の問いに対して、ソラは黙ったままだ。

 やはり、すぐには選べないのだろう。


「一応、編入しない選択肢も与えている。とは言っても、条件があるがな」

「条件だって?」

「ミツキと戦って勝利する事。それが条件だ」

「なっ......!?」

「力の無い人間があがいた所で、結果は見えているからな」


 反射的に、俺はミツキへと顔を向ける。

 『なになにー?』と言いたげな笑みを浮かべる姿からは想像出来ないが、ミツキはSランカー。

 ソラにはクラーケンを討伐した実力があると言えど、そう簡単に勝てる相手じゃない。


 ミツキのアホ毛がピコピコと動く事を除いては、全く動きの無い空間。

 聞こえる音が時計の針のみとなった所で、レイドが大きめのため息を付く。


「まあ、話としてはそんな所だ。期限は一週間。それまでに答えてもらうぞ、九条 ソラ」

「......分かった」

「他の二人にも、これ以上話す事は無い。解散してくれ」

『「ああ」「分かった。忙しい所邪魔したね、レイド君」』


 俺達は各々あいさつをして、バラバラと立ち上がる。

 まるで何かに後ろ髪を引かれるが如く、学長室の入り口へと向かう動きは緩慢で。

 バタンとドアを閉めた俺達は、校舎の入り口に向かって無言で歩き始める。


 その沈黙が、重苦しかった。

レイドがソラの事を『彼』と呼んでいますが、それはソラが本当は女性である事を知らないからです。


次回更新は1/17(月)を予定しています。

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