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Part46 藍色の希望

 人通りの少ない、主代高校の隅にある散策路。

 そこで俺がぶつかったのは、尖った耳と紺色の髪を持つ、ローブ姿の女性だった。


「だっ、大丈夫ですか!?」


 尻もちをついて倒れた女性だったが、彼女は痛がる声も上げず、すぐに俺の元へと駆け寄って来る。


「え? あ、ああ......」


 曖昧あいまいな返事をしながら、差し出された手を取って立ち上がる俺。

 そのまま、目の前の女性の風貌を見る。


 紺色のセミロングと、そこから覗く尖った耳。

 顔立ちは少し幼さを残しているものの、とても整っていて美少女と言うに余りある容姿だ。

 高く、ややくぐもった声と垂れ下がった目も相まって、すごく落ち着いた印象を受ける。

 あと、そのバストは豊満であった。


 にしてもこの顔、どこかで見たような......?


「ええと、どうかされましたか......?」


 無言・無表情で見つめる俺に、女性は少し表情を曇らせながら尋ねて来る。

 が、その声も耳に入らない。

 代わりに俺の脳内を埋めていたのは、たった一つの考え。

 

 紺色の髪と尖った耳を持つ者、ニューター。

 レイヴンが言っていた、真耶を助ける鍵。

 殆ど文献に載っていない存在が、何故こんな所に? そんな疑問も脳裏をよぎったが、今の俺が掛けるべきは糾弾の言葉じゃない。


「来てくれないか、俺と!」

「ふぇっ!?」


 早く、早く真耶の所へ。

 その気持ちに突き動かされた俺は、女性の肩をガシリと掴むが——


「へ、変態さんっ!」

「ふべらっ!?」


 突然の水による腹パンに、俺は吹っ飛ばされてしまった。

 グシャリと地面に叩きつけられた後、ベシャリと顔面に水がかかる。


 あー、今ので頭の中が急に冷めて来た。

 確かに今のは良く無かったな、凄く。


「えっと、えっと、あの......」


 女性は少し離れた所で、慌てた声を出している。

 それに対して、俺はゆっくりと起き上がり、手を挙げた。


「いや、今のは俺が悪かった、ゴメン」

「え? あ、いえ......あの、私こそ急に殴ってしまって......」

「気にしなくて良い。けど、一つ教えて欲しい。君は、ニューターなんだよな?」


 冷静に、一つずつ話を進めて行こう。

 そう思って質問した俺だったが、


「ふえぇっ!?」


 その途端、女性は更に慌てた声を上げる。

 すぐに手を頭にやる女性だが、被っていたフードが脱げている事に気付いたらしい。


「あぁ、そんな......」


 女性はそう言いつつ、顔に手をやってヘナヘナとその場に崩れてしまった。

 なんだか、大変な事をしてしまった気分だ。

 確かにぶつかりはしたけど......なんだろう、それ以上にイケナイ事をしたような。

 妙に色気を感じるし、そのせいかなぁ......いやいや、今はそんな事を考えてる場合じゃないか。


「だ、大丈夫か......?」

「バレてしまいました......」

「え?」

「私がニューターな事、バレてしまいました......もうこの場所には居られない......」


 そう言って、さめざめと泣く女性。

 謎の罪悪感はドンドン膨らんで行く。

 どうすりゃ良いんだコレ。

 戸惑いつつも手を差し出してみるが


「あのっ!」

「うわっ!?」


 女性は突然立ち上がり、俺の右手を掴んで来た。


「この事、他の人に言わないで貰えますか!?」

「えっ!?」

「私、どうしてもここから離れる訳にはいかないんです! 何でもしますから、どうかこの事だけは言わないで......!」

「わ、分かった分かった! 約束するから!」

「ホントですか!? 良かった......」


 俺の右手を柔らかく包みながら、上目遣い&潤んだ瞳で訴えかけてくる女性。

 お嬢様お嬢様! あー! お嬢様困ります! そんな目で見られては! まるで俺がイケナイ事したみたいじゃないですか!


 ここが人通りの無い場所で良かったよ!

 ニーナや真耶に見られてたらどうなってたか、恐ろしくて想像もしたくねぇや!


「でも、君がニューターなのは間違い無いんだな?」

「は、はい。ただ、出来ればニューターとは言わないようにしていただけると......」

「あぁ、そっか」


 ニューターは殆ど見られた事が無いから、こんな所に居ると分かれば騒ぎになるのだろう。

 だとすれば、何でこんな場所に居るのか尚更気になって来るけど......


「今後は“モーゴッジ”でお願い出来ますか?」

「『モーゴッジ』......? まあでも分かった、そうする」


 女性はようやく安心出来たのか、安堵のため息をしながら、ゆっくりと手を離す。

 しかし、そのまま右手を頬に当て、また悩ましげな表情に変わってしまった。


「それにしても何故でしょう......」

「何故って?」

「このローブには、人を近づけない特殊な魔術が掛けてあるんです。それこそ、運命レベルで人を遠ざけるような......」

「ふーん......?」

「こんな事、運命レベルで人とぶつかってしまうような、そんな魔術がない限り......」

「あっ」


 気付いた俺は、思わず声を漏らしてしまった。

 これは間違いなく、レイヴンがかけた『ラッキースケベの呪い』のせいだ。

 て事は、アイツが俺に魔術をかけなかったら、俺はニューターとは会えなかったのか?

 アイツに礼するのは何だかしゃくだが......


「どうかしたんですか?」

「え? あ、いや。何でも無いんだ」

「そうですか。でも......どうしましょう。貴方とぶつかってから、魔術の効果も切れてしまったみたいですし......」

「あれ、てコトは......」


 もしかして、『ラッキースケベの呪い』も解けてるのか?

 考えてみれば、こんなに女性と近くに居て、しかもぶつかったり肩を掴んだり手を取られたりして、何にもないんだもんな......


「うん! ありがとう!」

「え? ど、どういたしまして......?」


 また手を掴むのも変なので、俺はグーサインを女性に向ける。

 やや困惑しながら、愛想笑いをする女性。

 んー、大したシチュエーションでもないのに、吸い込まれるような色気を感じる。

 なんか()()()()()()()()()()()()ような......変な気分だ。


「それで、あの、何でしょう? 私に用があるように見えたんですけど......」

「あ、そうだ! すっかり忘れてた!」


 こんな所で、いつまでも油を売ってる訳には行かないのだ。

 取り敢えず真耶の話をして......いや、本人が居ないのに勝手にするのはマズイか?

 じゃあ真耶の所へ......いや、さっき『魔術の効果が切れた』ってこの人も言ってたしな......


「あ、そう言えば名前をまだ聞いて無かったか。俺は北条 ハルト。君は?」

「ええと......」


 俺に名前を聞かれ、また戸惑う女性。

 が、少しの間俯いてから、小さく息を吐く。

 そしてしっかりと俺の顔を見据え、優しくも芯の通った声でこう告げた。


「ルゥエル・ルーママウエルです」

「る、ルゥエル......」

「はい。えと、普段はそのまま名前で呼んでいただければ」

「よし、ルゥエルだな。よろしく」


 ルゥエルなんて名前、聞いた事が無い。

 顔立ちも月生人とは違うし、何だか異世界っぽい感じがするぞ......!

 少しテンションが上がってしまったせいか、俺はつい手を差し出す。

 それを、ルゥエルは握って来た。


「はい、宜しくお願いしますね、ハルトさん!」


 あー......超柔らかい手だ。

 サラサラ? しっとり? 暖かい......?

 乳白色の肌が凄く、こう、凄く......やば、なんか語彙力まで溶かされる感じがする。


「あ、れ?」


 と、俺がホワ〜ンとした表情をしている中、ルゥエルが何かに気付いたように声を上げる。

 ってイカンイカン! こんな顔して、頼み事なんて出来るか!

 俺は慌てて表情を直す。


「ッどうかしたのか?」

「い、いえ! 何でもありません!」


 そう言って、ルゥエルはパッと手を離した。

 俺を気持ち悪がってるようには見えなかったけど......何だったんだろう?


「それで、あの、私にどんな用事でしょう?」

「それが......会って欲しい人が居るんだ。でも、ルゥエルは余り人前に出たくないんだよな?」

「そう、ですね。出来ればそうして欲しいです」

「じゃあ、これからその人に連絡を——」

「あの! ニューターって言わないようにだけお願いします!」

「あ、ああ......分かった」


 他人にやり取りを知られるかも、って事だろうか。物凄く警戒してるんだな......

 軽く驚きながらも、俺は真耶にメッセージを入れる。


(さっきはゴメン。こんなタイミングで言い辛いんだけど、ちょっと俺の所に来て欲しい)

(本当に、こんなタイミングで随分と急な話ですね。どう言う要件ですか)

(アイツが言ってた、真耶の“悩み事”を解決するかもしれないキーに出会ったんだ。今、その人と一緒に居る)


 俺がメッセージを送った所で、既読が付いたまま暫く間が開く。

 数十秒経った後だろうか、真耶からメッセージが送られて来た。


(なるほど。どこに行けば良いのですか)

(ちょっと待っててくれ......)


 ここ、何処だ? 逃げ回ってたから場所が良く分からない......スタホの地図でも送るか。


(下の地図の、現在地の場所だ)

(分かりました。今から向かいますので、10分ほどかかります)

(ありがとう。あと、その間に“悩み事”について軽く話しても良いか?)

(話さないと進まないでしょう)

(それもそうか。分かった)


 既読が付いて、新しいメッセージが送られた来ない事を確認してから、俺はスタホを仕舞う。


「ゴメン、待たせた。今からこっちに来るそうだ」

「あ、ありがとうございます」

「いや、良いんだ。それで、その人についてなんだけど——」


 そうして、俺は真耶の“悩み事”についてルゥエルに話した。

 真耶に<メタモルフォシス>の魔法が掛けられている事、レイヴンに貰った宝具のお陰で今は暮らせている事、その宝具の効果が残り一ヶ月で切れる事。

 そして、ニューターなら<メタモルフォシス>を何とか出来るかもしれない事。


 ルゥエルにとっても予想外の相談だったらしく、話の最中には何度も驚きの声を上げていた。


「——って事なんだけど......どうだ?」


 一通り話した所で、俺はルゥエルに尋ねる。

 暫く考え込んでいた彼女は、やがて眉をひそめたまま口を開いた。


「その、真耶さんを私が治せるか、ですけど。難しいですけど、多分出来るとは思います」

2023.2.20

中盤の描写を少し変更。

伏線をかなり露骨に見えるようにしました。

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