Part45 よくもこんなキ〇ガイ魔術を!
お待たせしました! 結局22日になってしまいましたが……
こんなフザケた回が難産だなんてっ。。。(泣
『ラッキースケベをラッキーだと思えるのは、視聴者だけだ。』
以前、そんな話を友人とした事がある。
確か......高校二年の頃だったか。
被害に遭った子にとってラッキーじゃないのは言わずもがな。
やった男はイイ思い出来るんじゃねぇのかよ! って思うかもしれないが......いやだって考えてみなよ?
トラブルですっ転んで女の子にタッチ出来てもさ、トラブルによる混乱の方が勝っちゃうと思うんだよ。
あと知らない子相手だったら単純に申し訳ないし、知ってる子なら関係の悪化は不可避な訳だ。
いや、関係の悪化って言うのもあるけど......社会的に抹殺されかねんな。
つまり、何を言いたいかと言うと。
俺は今、社会的にオワル危機に立たされていると言う事だ......!
「『社会的にオワル』など、随分とおおげさに考えとるようじゃのー」
「いやいや! どう転んでも人間関係にヒビ入るから、常識的に考えて! てかサラッと心の声を読むなし!」
「そうかー? のう真耶、お主なら身体を触られたぐらいで、こやつを嫌いになったりせんじゃろ?」
宙に浮いてケラケラと笑いながら、チラリと真耶を見やるレイヴン。
が、当の本人は俺に目線を向けている。
あ......あの真耶の目......養豚場のブタでも見るかのような冷たい目だ。残酷な目だ......!
「ホレ、嫌とは言わなんだろ?」
「声に出してないだけだろ、いい加減にしろ!」
コイツ、ホントに目ん玉付いてるのか!?
俺としては怒り心頭なのだが、レイヴンはまともに取り合おうとしない。
「ま、そう言う訳じゃ。頑張ってワシの期待に応えるんじゃの~」
「『そう言う訳』ってどういうワケだよ——っておい!?」
『頑張って』=楽しい事じゃないし、別にお前の期待に応えようと思ってねぇよ!
なんかもうツッコミどころ満載なのだが、俺の声がレイヴンに届く事は無かった。
俺に向かってヒラヒラと手を振った後、その身体は瞬く間に小さくなり、ただのステッキへと変貌したのだ。
「うぉっとっと!」
頭上に現れたステッキを手掴みしようとする俺。だが、
「あっ」
ステッキは伸ばした手によって弾かれ。
クルクルと回転し、向かった先は——
「ヒァ」
「あっ......」
な ん と い う こ と で し ょ う。
奇跡的な角度と速度で、襟口から真耶の服の中へと潜り込んで行ったではありませんか。
いや、どんな奇跡だよ! 強引過ぎないか、ラッキースケベ! いやこれはスケベなのか!?
「あー、真耶......その、これはわざとじゃ無くてだな......」
すかさずフォローを入れる俺。
だが、真耶はムスッとした表情をしている。
「ハルト、ステッキを取り出すので目を閉じていてください」
「あー、悪い......」
目を閉じている俺の耳に、ゴソゴソという衣擦れの音が響く。
案の定、気まずい雰囲気。
ほーれ見た事か。当事者にとって、ラッキースケベは害悪でしかないのだ。
「ハルト、手を伸ばしてください」
「ん」
ステッキを取り出せたか? 多分そうだな。
マッタク、初っ端からこんな目に会うとは。
ま、身体を触るとかのハプニングにならなかったのが——
[ドンッ]
不幸中の幸いだったな。
そう思いながら俺が手を伸ばした直後、俺の背中に人がぶつかったような衝撃が伝わる。
「うわっ!」
バランスを崩した俺は、思わず両腕をグルグルと回す。
指先に何かが引っかかるのを感じながら、俺の身体はゆっくりと前方に倒れて行き——
[フニリ]
顔に、柔らかくて暖かい感触が広がった。
嗚呼、この感覚を俺は知っている。
例え経験した事がなくとも、男なら誰しも分かる感覚なのだ。
そして、この後どんな言葉を吐き捨てられるかも——
「こ、この変態ッ!」
「ぶべらっ」
側頭部を掴まれて離された俺の顔面に、真耶の渾身の力を込めた右ストレートがめり込む。
FATALK.O.。WIN、MAYA。
まるでひと昔前の映画のワイヤーアクションみたく、俺の身体はすっ飛んで行く。
いやいや、飛びすぎだろ! どうなってるんだ!?
てか体感時間が妙にスローになってるし!?
(ハルト、ハルトよ......聞こえておるか......? 今、お主の心に直接語り掛けておるぞ......)
!? この声は......レイヴン!?
(あとついでに、お主の脳を魔術でイジって体感時間を延ばしておる......)
(ちょっ、人の脳を勝手に触るなし!? 後で変な影響とか出ないだろうな!?)
(大丈夫じゃ......ただちに人体に影響を与えるような魔術ではない......)
(それメッチャ不安になるヤツー!)
にしても、かなりコアなネタを知ってるな。
......まさか、日本に住んでた事があるとか言わない、よな......?
(良いかハルトよ......今のお主には、ラッキースケベの呪いと一緒にギャグ補正をかけてある......)
(えぇ......)
なんかすげーメタな話だ。
こんな会話をする日が訪れるとは誰が思っただろうか、いや誰も思っていない(反語)。
(専門的な事はともかく......真耶のパンチの威力が上がっているのも、そんなパンチを喰らって死なないのも、全てギャグ補正のお陰......だから安心して身を委ねるのじゃ......)
(いやいや、色々と安心できないからな!?)
(激流を制するは清水......激流に身を任せ同化する…..)
(そんなモンに同化してたら、ドウカしちまうっつーの!)
俺のツッコミにケタケタと笑うレイヴンだが、その声も図書館を出る頃には遠ざかって行った。
そう、俺は真耶にグーパンを喰らって、図書館の外まで吹っ飛ばされたのだ。
「ぐぇ」
後頭部から地面に当たり、そのまま仰向けに倒れる俺。
結構な勢いで当たったハズなのに、そこまで痛くない。ギャグ補正マジパネ——
「ちょっ、いきなり図書館から吹っ飛んできて、どーしたんですハルトさん!?」
「......ェ」
ニーナの声が、俺のすぐ上から降って来た。
このシチュエーションは、間違いなく......
「と言うか、うーわ。ヤラシイですねぇ、ハルトさん。ドサクサに紛れて、私の下着を覗くだなんて。そんなにネタにされたいんです?」
そう、『仰向けに倒れてたら女の子のパンツ覗いちゃうパターン』のラッキースケベである。
が。
「いいや、大丈夫だ。見てない」
「え?」
素っ頓狂な声を上げるニーナ。
そう、俺はこうなる事を予想して、最初から目を閉じていたのだッ!
「と言うか、お前の下着を覗いた所で何の価値も無い」
「んなっ!?」
「お前のせいで、俺がこれまでどんな目に会って来たと思う? もう女子として見れないレベルなんだわ」
「んななっ......」
目を閉じながら、ヤレヤレと息を吐く俺。
ここまで露骨な反応見せたら、誰もパンツを覗かれたとは思わないだろう。
ふっ、我ながら完璧なプラン——
「なんて詰まらない反応するんですかぁー!」
「ナニユエッ!?」
くっそ、煽りすぎたのが良く無かったか!?
ニーナの声と共に、俺は烈風によって宙に放り出される。
「あああああああ!」
視界がグルグルと回り、空が下に見えたり海が上に見えたりする感覚は結構怖い。
喉が潰れそうなぐらいに大きな叫び声を上げる俺だったが、
「あー、こんな所に居た! レイドと一緒に心配してたんだよー?」
「ッ!?」
底抜けに明るい声を聞いたかと思うと、次の瞬間、俺の身体は空中で受け止められる。
「ミ、ミツキ!」
そう、背中から翼を生やしたミツキが、俺の身体をしっかりと抱きかかえていたのである。
「まさかお空に居るなんて、ミツキも思わなかったかも! ねぇねぇ、空に浮くのは楽しかった?」
「はは......こんな経験、二度としたくねぇよ」
冷や汗を流しながら、俺は何とか笑い返す。
遊園地のフリーフォール以上の絶叫アトラクションを体験して、心臓はバクバクだ。
が、ミツキに抱えられてゆっくりと降下して行く中で、かなり気持ちも落ち着いて来る。
「......あれ?」
しかし、それと同時に不安が沸き起こる。
ミツキも少女なんだし......これ、ラッキースケベが起きたりしないよな?
「......」
「どうしたの、ハルト君?」
「いや、何でも......」
暫く身構えるものの、何かハプニングが起こりそうな予兆は感じられない。
いや、考えてみれば。
そもそも、ここまでガッシリ身体を掴まえられてる状態じゃ、ラッキースケベは起こらないのではないだろうか。
ラッキースケベは、殆どが接触した直後に発生する。
ミツキとの接触は既に完了している訳だから......そうか、既に発生しえないのか。
なんだ、良かった良かった。
「レイドー、ハルト君見つけたよー!」
そうこう考えている内に、ミツキはレイドの近くへと降り立つ。
「ハルト、アンタなんで空を舞ってたんだ?」
「んー、何と言うか......レイヴンのせいだ」
「またアイツか......それは災難だったな」
「ああ、ホントに大変だったよ」
何はともあれ、地上に戻る事が出来た。
いやー、良かった。地面に立てるって、こんなにも安心感がある——
[ビリッ]
「え?」
迂闊だった。
ミツキから降りようと、右手のミツキの右肩に乗せた瞬間、まるで紙が破れたような音が聞こえたのだ。
恐る恐る振り返ると、そこには――
「あれれー? 何でー?」
素っ裸のミツキが立っていた。
そうそう、これもラッキースケベのパターンの一つ......って、いくら何でも唐突すぎる!
なんでこのタイミングで服が破れるんだ!?
「わ、悪いっ! ......?」
とっさに顔を隠す俺。
だが、一瞬目に入った光景に違和感を感じ、もう一度目を開ける。
「!? ミツキ、その身体......!?」
そう、ミツキの身体はツルツルだった。
何かの隠喩では無い。胸部にあるはずの突起も、下腹部にあるはずのスジも、文字通り何も無かったのだ。
「な、どうして——」
驚きで声を詰まらせる俺だが、
「ミツキのこの身体はな」
そこに、レイドが話しかけて来る。
......えっと、レイドさん。掴んだ肩痛いです。
あと顔が笑ってないです。
「昔見ていた、絵本の女の子の姿を模したものだ。だから、絵本で見た所は再現出来ても、見えていない部分は再現出来ない」
「え、ええっと。つまり、服の下は再現できない、って事を言いたいのか?」
「そうだ。だから、ミツキは男でも無ければ女でも無い」
「へ、へー」
そ、そっかー。
そんな衝撃的な事実を今話されても、あんまり頭に入って来ないんだけどナー......
「あとアンタが右手で触った瞬間、ミツキの服が弾け飛んだ理由だけどな。あの服は、宝具によって編まれた物なんだ。普通の服を着てたら、翼生やしたりした時点で破れるからな。だから組成式を胸のネックレスに仕込んで、服を取り出したり収納したりしてる」
「ふ、ふーん?」
「その宝具を作ったのはレイヴンだ。アンタの様子から察するに、どうせレイヴンが魔術を掛けてたようだが…..その魔術と宝具の組成式が干渉して、服が破けたんだろうよ」
そんな理由が......っていやいや!
どんな原理のラッキースケベだよ、ソレ! ピタゴラスも苦笑いだっての!
「な、なるほどー。流石レイド、頭が——」
「聞きたい事は済んだか? じゃあ罰を受けて貰うからな」
「不可抗力だァーッ!」
俺が走って逃げだした後、隆起した地面が後ろを追って来る。
ぬおおぉぉぉ! コレ、例の『ギャグ補正』効くんだろうな!? もし効かなかったらミンチ確定だぞ、アレ!
絶対に嫌だと思って必死に逃げる俺だが、ジワリジワリと地面の隆起は迫って来る。
そしてカカトのすぐ後ろまで迫った時——
「兄さん大丈夫!?」
ソラが俺の前に現れ、迫り来る土の隆起を魔術で打ち消す。
そうか。俺が図書館に行く前、ソラとレイドは一緒に居たから、それで今もすぐ近くに居たんだ。
「た、助かった......」
思わず地面にへたり込む俺。
慌てて、ソラが俺の元へ駆け寄って来る。
......いや、ちょっと待て!
「来るなッ!」
「えっ!?」
忘れてはいけない。今の俺に、ラッキースケベの呪いが掛けられている事を。
真耶やミツキが巻き込まれるぐらいなら、まだ良い。でも、ソラが女の子だってバレるのは絶対に避けないといけない。
兄として、妹の秘密は守り通さねばっ!
「に、兄さんどうしたの!?」
「......近寄るな」
「えっ?」
ラッキースケベは予測不可能。
どこから・いつ襲い掛かって来るか分からないッ......!
だからッ......!
「オレのそばに近寄るなああーーーーーーーーーッ」
「ちょっ、兄さん!?」
戸惑うソラを置いて、俺は再び走り出す。
こうなったら、殆ど人が来ないような場所に逃げ込むしかない。
そこで時間の許す限りまで粘って、レイヴンが根負けするのを待つのだ。
「なるべく......なるべく人の居なさそうな場所......!」
息を切らしながら、俺は走る。
人の少ない所、人気のない所。
そういった場所は、往々にして見渡しが悪い。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
だからこそ、俺は物陰から現れた人と正面衝突してしまう。
ぶつかった瞬間、相手が女性だと分かった。
ああ、これはラッキースケベ確定か。そう思った俺だったが......
「あれ......何にも起こらないぞ......?」
おかしい。このパターンなら、きっとぶつかった女性を押し倒す展開になるハズだ。
もしかして、倒れたせいで下着が見えてるとか、そう言う感じなのか?
見てはいけない。だが、どうしても事の顛末が気になる俺は、女性の方を見る。
「!? その格好って......!」
女性の姿を見た瞬間、俺は目を見開く。
見えたのは下着じゃない。いや、それ以上に驚くべきもの。
エルフのように尖った耳に、紺色の頭髪。
その姿は、本に載っていたニューターそのものだったのだ。
次回更新は12/27(月)を予定しています