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Part18 光明の先にある朧

「......宝具って、ロクでも無い物が結構多いんですね......」

「ああ。強い気持ちとして残りやすいのは、恨み辛みと言った負の感情だ。だから、役に立つ宝具は少数と言って良い」

「なるほど......」


 主代高校の図書館、その奥にある読書コーナー。

 俺と金髪の男――カイン・フランベルクさんは丸机を挟んで向かい合い、言葉を交わしていた。


 図書館で、俺と同じ本を探していたカインさん。

 彼は俺の服装を見て、自分自身と同様、俺がこの高校の人間ではない事にすぐに気付いた。

 そして、テストが再開すれば図書館を離れる事を俺が話すと、彼は快く本を譲ってくれたのだ。

 今俺の前に座っているのは、俺がテストで図書館を離れるまでの時間つぶしと言ったところ。


 ちなみに月生語が堪能なのは、仕事の関係で月生の人と話す事があるから、だそうだ。

 何の仕事かは教えて貰えなかったが。


「で、目当ての宝具は......?」

「それが......駄目そうで......」

「ふむ、そうか......」


 俺に合わせて、カインさんも声を沈ませる。

 世界中で発見される宝具、その中で有効に活用できそうな物は一握り。

 が、そんな一握りの宝具でも “身に着けていると傷が癒える十字架”や“周囲200メートルで草が生えなくなる鎌“など、工夫次第で人力で得られそうな効果が殆どだ。

 “魔物を操れる笛”なんて物もあったが、真耶の役に立ちそうな宝具は載っていなかった。


 『役に立ちそうな宝具は載っていない』。

 それはつまり、今後世界中を探し回ってもそんな宝具が見つかる可能性は低いと言う事。

 無い、と言う情報を得て、湧いて来るのは失望ばかり。


「<メタモルフォシス>について調べてみても、結局収穫はゼロ......いや、マイナスか......」


 魔法の効果については、本が収蔵されている場所を教えてくれた男の言う通りだった。

 <メタモルフォシス>は、自分の身体を根本的に作り変える魔法。身体の大きさから質量まで、何から何まで変化する。

 なら元の身体や質量・記憶はどうなるのかと言う話になるが、研究によるとそれらは組成式として保持されているらしい。

 言い換えれば、その組成式を破損・流出させてしまうと、もう元に戻る方法は無い。

 

 知能を失った生物になり果てるか、人とも生物ともつかない中途半端な生命体になるか。

 それほどまでにリスクの高い禁術で、だからこそ失敗した者は蔑まれる。


 と言っても、ここまでの事は何となく予想がついていた。

 では何が『マイナス』だったのかと言うと、それは習得に要する期間の情報だ。


 <メタモルフォシス>の習得には、何があっても元の組成式を保持する精神力の強さとマナの操作力が求められる。

 その習得期間、操作力のレベルが400の者でも三ヶ月。レベル200付近では不可能。

 俺や真耶がどう頑張っても、一ヶ月――タイムリミットには間に合いそうにない。


「ハルト君、どうかしたのか?」

「いや、ちょっと参ったなぁ、って」

「......」


 上を見て、ふうと息を吐く。

 前に進もうとするほど、厳しい現実を突きつけられる。


 こんな事って、あるんだな。


 異世界に来てから色んな事があって、これまで体当たりで解決して来た。

 Bランクを取るにしても、ソラを守るにしても楽な事じゃ無かった。でも、進もうとして見えて来るのは希望だった。

 だからこそ今回もと思ったものの、良い手がかりは中々見つからない。


 でも。


「もう一回、探し直してみるか」


 視線を本に戻し、改めて索引に目を通す。


 諦めるのなんて、御免だ。

 周りの手を借りながらだったけど、これまで自分の力で解決して来たんだ。

 なのに今回は駄目だった、なんて納得行く訳が無いじゃないか。


「......流石だな」

「え?」


 と、本に目を通す俺の姿を見たカインさんが、ふと声を漏らした。


「平時は覇気の無い目付きだが、何か成し得たい物に取り組んでいる時、それがキリリと強くなる。私と同じく、志が強い者の目だ。実に立派だよ」

「あ、はは......どうも」


 顔が緩み、ついうなじの辺りを軽く掻く。

 真面目そうな顔でそんな事言われると、何だか照れ臭くなって来るな。


「失礼だが、君が成し得たい事は何だ? どうしてそこまで必死になれる?」

「悪いんですけど、それは言えなくて......と言うか、そんなに必死って程でも」

「そうだろうか? 私には気を抜いているようには見えない。自分にとって、とても大切なものの為に動いているように見えるが」

「大切な......もの......」


 カインさんの言葉は俺の意識に引っかかって、簡単には受け入れられない。

 なら、脇に置いたり捨ててしまったりして良いのか、と言われるとそうでも無くて。

 大切、大切......そうなんだろうか。


 ............


「ああ、済まないね、手を止めてしまった。私の事は気にせず、調べ事に集中してくれ給え」

「ど、どうも」


 カインさんに促され、俺はまた本に目を落とす。

 何か、何か情報は無いか。

 少しでも現状を変えるものが。真耶が今身に着けている物の、代わりになるような――


「って......ちょっと待てよ......」


 ページをめくろうとしていた手がピタリと止まる。


 ......そうだ。

 そうだ、そうだ、そうだ!

 俺は馬鹿か、何で頭が回らなかった!?

 今真耶が持っている、あの宝具の事に!

 

 もう一度索引を見直す。やはり、耳や尾を隠す宝具の類はない。と言う事は――


「もしかして、本には載ってない――世間には知られてない宝具があるのか?」


 そう俺が口にすると、


「つまり君は......そんな宝具を見た事がある、と」


 さっきの雰囲気とは一点、カインさんが鋭い剣幕で俺を見ていた。


「えっ、あっ、いや......」

「何も否定する事は無い。そう言った物が存在するのも事実だ。だが、君がそれを知っているとは思わなかった」

「......」

「驚かして済まない。つい、この手の話になると熱くなってしまうのだ。が、それは脇に置いて......今の引っかかりを辿り給えよ。私が思うに、まだ気付きの()はあるはずだ」

「あ、ああ」


 カインさんが見せた一瞬の豹変に戸惑いながらも、俺は目の前の索引と自分の記憶を照らし合わせる。


 真耶の宝具に関する記述は無かった。

 ならもう一つ――ソラが身に着けている、性別の認識を誤魔化す宝具はどうだろうか。

 ページをめくる。


 一枚、

 二枚、

 あった。


 第二界、アルフヘイムにあるペコリア共和国の博物館で保管されている宝具、『ガブリエーレのネクタイ』。

 身に着けた人物を男らしく感じさせる効果を持ち、男装した女性が身に着けると性別を錯覚させる場合も確認された。

 価値を月生(かん)換算にすると、5000万甲。


 ......あるにはあるが、そんな物をソラが借りたりしているとは思えない。

 それに、最初ブレスレットとして身に着けていたアレは紛失して、今は足首のミサンガがその役割を果たしていたはず。


 本に載っていない真耶の宝具。

 違う形で二つあるソラの宝具。

 つまり、これは――


「宝具を造る存在が居る......!?」


 絶対にそうだとは言い切れない。

 でも、その存在に会う事が出来れば......

 

「もしかしたら、これが活路かもしれない」


 やっと見つけた手がかり。

 嬉しくなって、つい頬が緩む。


「ふむ、やはりそこに辿り着いたか」


 そこに、カインさんが話しかける。


「カインさん、ありがとう。恥ずかしいけど、自分だけじゃその考えは思い付かなかった」

「そうか。何よりだ」

「でも......その様子だとカインさんは知ってたって感じだけど......」

「ああ、その通りだ」


 そう言って、カインさんは口角を少し上げる。

 声を上げるでも無く、破顔させる訳でも無く。

 ただ静かに、何処か満足げに。


「......カインさん、あなたは一体――」

[ヴー、ヴー、ヴー]


 出自を問おうとした、その直後。

 ズボンのポケットにあるスタホが震え出した。

 電話だ。発信元は、レイド。

 俺は直ぐに電話に出る。


「もしもし、レイドか」

「ハルトだな。今、藤宮 真耶が目を覚ました。意識も問題無さそうだ。テストを続行するから戻って来い」

「そうか、分かった。ありがとう」


 図書館の中と言う事もあって、やり取りを短めに済ませて電話を切る。


「テストがあるのだろう? 早く向かい給え」

「いや、ええと......」

「大丈夫だ、私も暫くは校内に居る。話したい事があるなら、また後でも大丈夫だろう」

「そう、ですか。分かりました。ありがとうございます」


 俺は立ち上がり、本をカインさんに渡してから図書館を後にした。

 彼は何者なのかと言う疑問を、心の片隅に残して。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 個性的なキャラクターが次々出てきますね。 変態(失礼)さんに、図書館の司書らしくない人に、ハルトくんに助言してくれる人……これがどう繋がってくるのか^^♪ カインさん、既出のキャラかと思っ…
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